シルビアの目覚め
シルビアはかなり流されており、ユークリッドのいる町に戻るのは無理だった。
マーベリックは、近くの町の宿にシルビアを連れて行き、シルビアを寝かすとロイスに預ける。
「付いていたいが、それを許される身でない」
「殿下、ありがとうございました」
ロイスはマーベリックの真意を測るように見る。
マーベリックはユークリッドよりも3歳上で、妃どころか婚約者もいない。
王太子という身分でありながら異例のことである。
「シルビアは唯一無二だ」
そう言ってマーベリックは、盗賊団の後始末を手配して自国に帰って行った。
マーベリックもロイスも分かっている。
隣国から正式な縁談が来れば、無下に断ることは出来ないが、軍の司令官としても王太子の元婚約者としても、国の情報を持っているシルビアを他国に出すことは難しい。
「あーあ、大変なのに目を付けられたなぁ」
眠っているシルビアに話しかけるロイス。
寝顔は可愛いな、と妹にドリームなロイスは、目が覚めたシルビアに叩き潰される。
「殿下が運んでくれたのは分かってます。
健常者が傷病兵を運ぶのは当然のことだから」
翌日、目が覚めたシルビアがロイスに言う。
「マーベリック王太子殿下?
あの顔もいいと思いますよ、どこの国も王族は見目麗しいですね」
王太子殿下にお姫様抱っこされて嬉しいとか、恥ずかしいとかシルビアにはないらしい。
「兄上、心配かけて申し訳ありません。
油断してました」
「父上と陛下には昨夜のうちに手紙をだしてある。」
ロイスは、シルビアの目が覚めたので、ユークリッド王太子のところに戻るらしい。
ユークリッドとの婚約が無くなった事は伝えたが、シルビアの反応は薄かった。
「私はユークリッドの希望のようには、成長しなかったようなので、兄上が殿下についていてください」
「シュテフ副官、シルビアを頼む」
ロイスは部屋にいるメイヤーに声をかけ、ユークリッドのいる町に戻って行った。
「メイヤー、ヒューマは部隊長に付いているのか?」
「はい、逃亡する恐れがあるので、交代で見張ってます」
ロイスが用意したのだろう、ベッドサイドにはシルビアの服が用意されていた。
「着替えたら、直ぐに向かう。準備をしてくれ」
シルビアの指示を受け、メイヤーは部屋を出て馬の用意に向かう。
シルビアはベッドを降りて、服を着替えるが、自分が思っているよりもダメージがあったようだ。
「つう」
命を落としても不思議ではないような濁流だったのだ。
流木で出来た傷には包帯が巻かれていた。
あちらこちらに青あざも出来ているだろう。
痛みと共に思い出すユークリッドの顔。
「これでも、国の為に王妃になると思っていたのにな」
ユークリッドが婚約破棄と言う度に、両親も兄も怒っていたのは知っていた。
だが、ユークリッドが連れている女性達では、王妃は務まらないと思っていた。
今さら、と思い直し、シルビアは馬屋に向かう。
部隊長と盗賊団の指示も出さねばならない。
ユークリッドの事で悩んでいる時間はないのだ。
シルビアの姿を見つけたメイヤーが心配して声をかける。
「馬の用意は出来ていますが、もうしばらく休養を取られた方がいいのでは?」
「お前が私の立場なら、寝てられるか?」
シルビアは反対に、メイヤーに問いかける。
「いいえ」
「私に手をかけた事を後悔させてやらないとな?」
シルビアは、部隊長をどうしたと確認する。
「王太子殿下のいらっしゃる町に置くのは危険ですので、町外れに廃棄された家がありましたので、そちらで訊問してます」
メイヤーの答に、シルビアも納得する。
まだ王太子の視察は終わっていない。




