ゆびきりげんまん
ハルベルトの希望もあり同じく離れの庭で過ごすことに。
特に変わったことをする訳でもなく、ハルベルトは庭で魔導書を読んでいた。
最初はハルベルトの隣で落ち着きがなかったシルティアもだんだん慣れて簡単な魔導書を読んだり、質問したりと穏やかな時間を過ごしていた。
「ルティア姫。」
「なに?ハルベルト」
「‥庭で魔導書を読むだけなんて退屈だろう。」
ぽつり、とハルベルトの口から溢れた言葉
「そんなことない。
私魔法が好きだから、魔導書を読んだり、ハルベルトに魔法を教えてもらう時間は楽しいよ」
ここ数日ハルベルトから教わったおかげで魔法がかなり上達した。
婚約者候補と出かけず魔法を習ってばかりというのはあまりよろしくないとはわかっているが、楽しすぎるのがいけない。
魔法なんて存在しない日本で生きていたから、水球をだしたり小さな竜巻を起こすだけでもテンションが上がって仕方がないのだ。
「‥昔から魔導書ばかり読んでいたから、他の遊びなんて知らない。女は買い物に出かけるのが好きだろう?」
魔導書から目を離さず、淡々と喋るハルベルトに少し悲しくなった
「ハルベルト‥」
サーラとセバスからもらった身辺調査内容ではハルベルトの家は代々魔導師の家系だ
しかし男女比や出生率の問題もあり、なかなか魔力に恵まれた子が生まれず衰退していくばかり。
そんな時に生まれたのがハルベルトだったらしい。
没落寸前の家とは言え、魔導師の一族
城に保管されている魔導書と劣らない蔵書量があるのだろう。
私が悠々自適な王宮ライフを送っている間、ハルベルトは魔導書を読んでは訓練を繰り返してきたのかもしれない。
本当は、年頃の子供のように市場に行ったり友達を作って遊びたかった筈。
「来週からは、アイオリア王子との面会だから…再来週市場に行きましょう!
それから買い物もして、近くの森へ行きましょう!今の時期ならラズの実がたくさんなってる筈だから、取りにいきましょう!」
シルティアの勢いに驚きながらも、少し頬を赤く染めたハルベルトは嬉しそうだった
「じゃあ、約束」
「ええ、約束よ。
はい、小指だして」
「小指?」
「ええ、小指同士を絡めて約束するの。
ほら、小指!」
「わ、わかった」
「指切りげんまん、嘘ついたらおやつぬーき!
ゆびきった!」
「‥おやつ抜き」
ぽかん、としてるハルベルトについつい笑ってしまう。
「そ、破ったら罰も決めとかないと!
再来週、晴れるといいね」
「‥ああ、そうだな」
さっきまで繋がっていた小指を見つめた後、今まで過ごした中で1番の笑顔で頷いてくれた
くっそ、きゅんとしただろうが。と心で突っ込んだ私は間違ってないはず。