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第九話 二人の距離

すみません、寝落ちしてました。話を続けますね・・・

 茜が倒れてから三日目の朝、そこにはすっかり元気になった茜の姿があった。

 会社を休んで家で寝込んでいる間、ヒロヤとのお喋りで退屈する事はなかった。食事も、会社帰りの一平がいろんな物を買ってきてくれて不自由する事は無かった。


 食事を持って訪ねて来る一平の事を観察していたヒロヤは、現時点では食料を運んでくる会社の同僚と認識して危険視していなかった。あくまで現時点での話ではあるが・・・・・・



 食事を済ませ、身支度を整えた茜は、


「ヒロヤ、行ってくるね。遅くならないと思うから、お風呂の準備よろしくね~」

「気を付けて行っておいで」


 ヒロヤとの会話を終えて部屋を出る。

 エレベーターに乗り一階で降り、商店街を抜けてバス停へ向かう。


 茜は知らない、全ての行動をヒロヤが見ている事を・・・


 エレベーターの防犯カメラをハックして、エレベーター内の茜の状況を見守るヒロヤ。商店街に設置されているカメラも茜が写るであろうカメラを悉くハックする、至近距離にカメラが無い場合はビルの屋上にあるカメラをハックして追い続ける。

 職場までの道のりのカメラを悉くハックする事に成功したヒロヤだが、茜の会社内のカメラだけは攻略出来ないでいた。

 それもそのはずで、セクションセブンが開発したセキュリティソフト『オリオン』の前に侵入出来ないのである。




 会社に着いてセクションセブン分室のドアを開けて茜は、


「おはようございます。

 ご迷惑をおかけしました」


 深々と頭を下げる。


「先輩! もう大丈夫なんですかー

 無理しないでくださいよー」


 駆け寄って来て心配するハルカに向かい、

「ごめんねー心配かけちゃって、ホントにもう大丈夫だから」

「よかったー」


 ホクロ田のデスクの前までいって、

「今日からまたバリバリ仕事します。

 ホントにご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 深々と頭を下げた。

「元気になって何よりだ、まだ無理はするなよ」

「はい」


 そして一平の元に行って、

「一平君ホントにありがとね!」

「どういたしまして」


 照れくさそうに頭をかく一平・・・


 こうしてセクションセブン分室の日常が戻って来たのであった・・・・・・




 仕事を終えて帰宅の為、会社の駐車場車から車を発進させようとしていた一平の車の助手席の窓を、誰かがノックした。

(コンコン)

 窓を開けると、茜である・・・


「一平君! 今日空いてる? こんな事で埋め合わせ出来ないかもだけど、食事おごらせて。

 お願い!」


 手をあわせる茜の姿を見て一平は笑顔で、

「乗って」

「ありがとう」


 茜は一平の車の助手席に乗り込み二人は駐車場を後にした。

 車内では、


「今日は何をご馳走してもらえるんでしょうか?」

「一平君が食べたい物選んで、私は何でも良いから」

「何でも? それじゃあ最高級フレンチなんてどうかな?」

「え~・・・給料日前だから、もうちょっと控えめでお願いします・・・」

「あはは、うそうそ。茜さんを困らせるつもりはないよ」

「も~、一平君の意地悪」


 そんな会話を楽しみつつ車は大きな商業施設に着いた。


「へー、こんな所にこんな施設あったんだ」

「僕もここに来るのは初めてだけど、テレビで紹介されてて一回行きたいなって思ってたんだ。

 ここの二階フロア全てグルメ街になってて、世界中の料理が楽しめる食のアミューズメントパークになってるんだよ」

「すごーい、なんか面白そう。一平君、早く行こうよ!」

「う、うん・・・」


 一平は予想外に茜が喜んでくれているのがうれしかった。

 二人は二階のグルメ街の入り口に立った。

 入り口の脇には、スフィンクスやマーライオン、凱旋門やビックベンなど世界中の有名なモニュメントが立ち並び訪れる人々の目を楽しませていた。

 入り口には、食のテーマパーク『ワールドイ-ト』のネオンが輝いていた。


「なんか、遊園地みたい!」

「うん、派手だね・・・」


 二人はいろんな店を見て回った。

「どこにしようか迷うな~」

「どの店も美味しそうだな~」

「あ~この匂い、焼き鳥ね!」


 その時、


『ぐ~う』


 茜のお腹が鳴った。

 茜はお腹を押さえながら上目づかいで恥ずかしそうに一平の方を見た。

 一平は笑顔で、


「ここにしようか。僕も歩き回ってお腹ペコペコだよ!」


 結局二人は世界の食のテーマパークに来て焼き鳥屋を選んだ。もちろん一平が茜の財布を心配しての決定であったのだが、茜はそんな一平の気遣いなど知らなかった・・・

 焼き鳥屋にて、


「一平君、ほんっとにごめんね、私が休んでる間、食事の心配やら仕事の穴埋めまでやらせちゃって。

 ご迷惑おかけしました・・・」


 深々と頭を下げる茜に対し一平は、


「迷惑だなんて思ってないよ。僕がそうしたいからしただけだから」


 二人のテーブルに飲み物が届けられた。

 茜はビールジョッキを手に、一平はウーロン茶を手に、

「茜さんの職場復帰を祝しまして」

「一平君の介護に感謝を込めて」


「「カンパ~イ!!!」」


 茜はビールを一息に飲み干した。

 そんな様子を意外そうに見つめる一平は、


「茜さんって、お酒強いんだ?」


 空になったビールジョッキを見て茜は、


「あ・あははは。私、お酒そんなに強くないんだけどね・・・

 それより一平君なんでウーロン茶? もしかしてお酒飲めないとか?」

「僕は運転しないといけないから・・・」

「あっ、そうよね。ごめんなさい、私だけ・・・」


 無神経な茜であった。

 二人は仕事の事やホクロ田の生態について話が盛り上がり時間を忘れて時を過ごした。


 何時も男性の前では緊張してまともにしゃべれない茜なのだが、今日の茜は思う存分自分の言葉で気楽に一平に対して接する事が出来ていた。

 茜自身も古くからの友達に接してるみたいにすらすら言葉が出て来る事を不思議に思ったが会社の同僚、もしくは年下の弟みたいに思い男性と意識していないんだろうと解釈していた。


「一平君、飲んでる~?」

「う、うん。飲んでるよ。ウーロン茶だけど・・・」


 ほろ酔い気分で上機嫌な茜に対し一平は、


「この後うちに来ませんか? 茜さんに見てもらいたい物があるんだ」

「見てもらいたい物?」


 暫し考える茜。


「一平君のお宅訪問か~」

「僕の家、親と同居してるから・・・」

「迷惑じゃない?」

「大丈夫だよ、会社の上司が遊びに来てくれるって知ったら喜んで迎えてくれるよ」

「ホント? じゃ~、一平君ち家庭訪問決定~」


 茜の支払いで店を出る二人、


「どうも美味しい料理、ご馳走様でした」

「何の何の! 満足してもらえたなら世は満足じゃ」

「もったいないお言葉・・・」

「「あははははは」」


 ご機嫌な茜を気遣いながら駐車場に向かう一平、足元が千鳥足で躓きそうになる茜。

「大丈夫?」

「私は大丈夫~」


 二人は車に乗り込み一平の自宅に向かう車内では、

「もう飲めない、これで最後だからね。ホントに一杯だけだからね。むにゃむにゃ」


 助手席で丸くなって寝言を言ってる茜を笑顔で見守る一平。

 暫く車を走らせた後、


「茜さん、着きましたよ。起きてください」

「あ、うん。ごめん、寝てた」


 二人は一平の家の玄関を開ける、

「ただいま~」


 一平の母親が出迎える、


「あらあら、一平がお客さんを連れて来るなんて何年ぶりかしら?

 まして女性のお客さんなんて、小学校以来かしら!」

「あのう、初めまして。一平・・・いや、野村君の同僚の水沢茜と申します」


 緊張しつつも名刺を渡し自己紹介する茜。


「これはこれはご丁寧に、狭苦しい所ですがどうぞお上がりください。

 今お茶を用意しますからね」

「あっ、すぐお邪魔しますのでお気を使わないでください」

「遠慮なさらずにゆっくりして行ってくださいね」


 茜は一平の部屋に通される。


「今、お茶持ってくるから寛いでてください」

「ありがとう」


 一平は台所に向かい部屋を出て行く。

 茜は想像していた感じとあまりに違う一平の部屋を興味津々で見まわす。

 茜の想像ではPCお宅のゴミゴミした部屋を想像していたが、すみずみまで整理整頓されており、三台あるPCモニターも綺麗にレイアウトされており、会社のデスクより機能的になっていた。


 本棚には難しいPC関連の学術書などが並んでいた。

 こんな難しい本読んだ事ないな・・・

 普通に天才かと思っていたけど、独学でちゃんと勉強してるんだな。

 一平の知られざる一面を見つけて感心する茜であった。


 本棚を物色していると、一冊のアルバムを発見した。

 何の気なしに手に取り開いてみると、一平の子供の頃の写真が閉じられていた。

「ぷぷぷ」

 写真には今とまるで別人の短髪で真っ黒に日焼けしたガキ大将のような一平が写っていた。

 にやにやしてページをめくっていると、


「あっ、勝手に見ないでください」


 お茶を持って一平が戻ってきた。


「なんで? 可愛いじゃん、一平君てヒッキーかと思ってたけど、実はアウトドア派?」

「からかわないでください!」


 茜の手からアルバムを取り上げお茶を出す一平。

 二人はお茶を飲みながら寛いでいた。


「そう言えば一平君、私に見せたい物って?」

「あ、そうそう。ちょっと待ってて」


 一平は部屋を出て行きしばらくして戻って来た、その手には大きな透明な瓶の中に精巧に造られた帆船が入っていた。


「何それ、綺麗・・・でも、どうやって瓶の中に入れたの?」


 茜が気に入ってくれたのを確認して満足げに一平は、


「これは”ボトルシップ”。完成まで半年かかったんだ」


 何時も眠そうにやる気の感じられない一平が、まるで少年の様に目を輝かせて帆船の素晴らしさを熱く語る様に茜は意外さを感じながらもこんな一面もあるんだ、と。笑顔で一平の話に耳を傾けていた。


 時が立つのも忘れていた二人だが、時計が目に入った茜は、


「あっ、もうこんな時間。明日の仕事のきついな~。もう帰って寝なきゃ」

「そうだね、こんな時間まで付き合わせてすみません」

「そんな事ないよ、誘ったの私だし」


 茜は丁寧に一平の母親に挨拶をすまして家まで車で送り届けてもらった。


「一平君、今日は楽しかった、ありがとう」

「こちらこそ。では、おやすみなさい」

「気をつけて帰ってね。おやすみ」


 一平の車を見送り部屋に戻る茜。


今日起きた出来事は全てヒロヤに監視されていた。

会社の駐車場から出る二人の車のナンバーからNシステムをハックしたヒロヤは所有者を特定、車を止めた商業施設の店内カメラにも侵入、又自宅住所を割り出し、一平の自宅のPCをハックしてウエブカメラを通して二人の行動を監視していたのであった。















































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