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第七話 慟哭

「おはよう、茜、起きて、朝だよ!」

「う、う~ん」


 眠い目を擦りながら茜は目覚めた。

「おはよう、ヒロヤ」


 いつの間にか寝ちゃったのか~

 あれ、そう言えばヒロヤに自分のプログラム移植したような・・・


 まだ寝ぼけたままの茜は昨夜の事を全て思い出せないでいた。

 そうだ、

「ヒロヤ!今日の天気は?」

「今日は曇りだけど降水確率は10%で傘はいらないみたいだよ」

「ヒロヤ、テレビ付けて!」

「了解」


 成功だ・・・


 茜は自分の思い付きが成功した事を確信してガッツポーズをした。


「ヒロヤ、今日は6時には帰ってくると思うから、お風呂にお湯張ってて」

「わかったよ、気を付けて行っておいで」


 大満足である、家の家電の制御以外にも、茜の行動の予測まで行って労りの言葉まで掛けてくれるのだ。

 茜は上機嫌で会社に向かった・・・




 会社に着いた茜は2つのゲートをくぐり自分のオフィスに向かい長い通路を歩いていた。

 通路の途中に一平が一人で立っていた。

 茜は昨日の出来事を思い出し、一平と目を合わせずに、

「おはよう。一平くん」


 俯きながら一平の横を通り過ぎようとした時だった・・・

 一平は茜の行く手を阻んだ。


「なに? 一平君。早く行かないと始業のチャイムが鳴るわよ。

 遅れたら、ホクロ田がうるさいんだから・・・」


 さらに一平を避けて進もうとする茜に対して一平は、片腕を伸ばして壁に手を付き茜に迫った。いわゆる壁ドンである。

 逃げ場を失った茜は如何してよいか解らず戸惑っていた・・・

 一平は真っ直ぐ茜の瞳を見つめ、


「水沢さん、僕は本気だ。僕と付き合ってほしい」


 茜は激しく動揺しながら、


「一平君・・・気持ちはすごく嬉しい・・・だけど・・・ご」


 茜が話終わる前に一平は茜の唇を唇で塞いだ・・・・・・


 突然の出来事に茜は目を丸くして数秒の時を過ごす・・・


 茜は一平を両手で突き飛ばして、走ってオフィスに向かった。

 その姿を見送る一平・・・




 トイレから通路に出ようとして、二人の声に気づいたハルカはその場で息を殺して二人の会話の一部始終を聞いていたのだった・・・



 始業のチャイムが鳴り茜は胸の鼓動を抑えつつ仕事を始めた。

 一平は、何事もなく普通にキーボードを叩いていた。ハルカはどこかぼーっとしている・・・


 しばらく仕事をしていると人事課の若林部長が入って来てホクロ田と会話をしていた。


「水沢君。ちょっと来てくれるか!」


 ホクロ田から呼ばれて茜は二人の前に立った。


「この子に任せるから。

 なーに、腕は確かだよ・・・私がいつもビシバシ鍛えてるから。

 出来上がったらすぐ連絡するよ」


 ホクロ田の言葉に若林部長は、


「お願いします」


 挨拶を済ませて若林部長は部屋を出て行った。


 ホクロ田の話によるとこうだった・・・

 以前所属していた人事課の部下の若林部長から、課で使っている社員の管理ソフトをより使いやすくしてほしいとの事。指示書には出退勤記録を解り易くデザイン変更する事や、社員の退職率と給料の上昇率の相関関係のグラフ作成など細かく書かれていた。


 それにしても以前の先輩とは言え、役職の下のホクロ田に対してあれほど低姿勢とは、出来た人物である。


 ホクロ田から指示書とソフトを受け取って早速仕事に掛かった。



 時間を忘れて仕事に集中して何とか指示書通りのプログラムが完成した、時計を見たらすでに午後3時を回っていた。

 ホクロ田に完成したソフトを手渡し自分の本来の仕事に戻った。

 ホクロ田は満足げにソフトを受け取ると人事課の若林部長の元に持って行った。


 しばらくしての事である、ホクロ田の机の電話が鳴ったと思ったらホクロ田は電話口でなにやら謝っている、そして急いで部屋を出て行った。


 部屋に戻って来たホクロ田の手には、先ほどのソフトが握られていた。


「どういうつもりだ?水沢!!!」


「何の事でしょうか?」


 事態が理解出来ない茜はホクロ田からソフトを受け取り、PC上で確認してみた。


「なんで?」


 ソフトを開いてみたら、受け取った時と何も変化していないのだ・・・

 凡ミスである。プログラムの入力を終えて最後に上書きの更新をする事を忘れていたのだ、そのせいでプログラムの上書きが行われず、1日の仕事は全て無駄になってしまっていた。


「課長! すみません。今日中に完成させます」

「当たり前だ、人事課でえらい恥をかいたじゃないか・・・」


 上司とは言え元部下の頼みを自信満々で引き受け、自分の有能な指導力を誇示しようとしたのに逆に謝るはめになってえらく恥をかいたホクロ田の怒りは収まる事無く、茜に当たり散らしていた。


 茜はただ謝る事しかできず、ソフトの変更作業を進めた。


 作業が完了した時にはすでに午後9時を回っていた。

 ホクロ田の机の上に完成したソフトを置いてPCの電源を落として一人家路につく茜・・・・・・



 くたくたになって家に付いた茜は風呂と食事を済ませてVRゴーグルを着用した、嫌な事は忘れよう・・・

 ゲームの世界に入った茜の居た場所は、人気の無い夕暮れの砂浜だった。


 二人は波打ち際の砂浜に座り、寄せては返す波を見つめていた。

「茜、大丈夫?」

「う、うん」

 元気の無い茜を気遣う様にヒロヤが優しく語り掛けて来る。


 仕事でミスをして上司に怒られた事などをヒロヤに聞いてもらう茜。

 ヒロヤに話を聞いて貰っているうちに、自分に対して悔しいのかホクロ田に対してか解らない、一人暮らしを始めて環境の変化にストレスも感じていたのだろう、ここ数日いろんな事が起こり茜を苦しめていた。

 気づいたら茜の目には涙が流れていた・・・

 そんな茜に対し優しく接するヒロヤ。

 今までこんなに優しくされた事の無い茜は嬉しいのか悲しいのか、いつしか声を上げて泣いていた・・・


 しばらくして落ち着いてくると、茜はヒロヤの方に視線を向けた、心配そうな目をして茜を見守るヒロヤ。

 そんなヒロヤが愛おしくて茜はヒロヤの肩にもたれかかった、その時である。

 茜はヒロヤの体を通り抜けて砂の上に倒れた。


 ・・・・・・こんなに近くにいるのに、ヒロヤはここにいない・・・・・・


 茜は起き上がりヒロヤの目を見て、


「ありがとう・・・ 今日はもう帰ろ」


 そうヒロヤに告げて茜はVRゴーグルを外す。

 そのままベットに潜り込んだ茜はベットの上で丸くなっていた諭吉先輩を抱きしめ眠りに付くのであった・・・・・・



























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