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第五話 ファーストキス

 午後の仕事が始まる・・・


 一平の方に目をやると、机に寝そべり、やる気なくキーボードを「ぽちっ・ぽちっ」と叩いている。

 かなりの重症だ。いつもの神がかったタイピングとは程遠い。

 良く考えると、最終的にトドメを刺したの牧村さんじゃないだろうか?

 いや・・・部下思いの牧村さんに限って部下のやる気を削ぐような事するわけない・・・

 でも、あの勝ち誇った様な満面の笑顔はどうなんだろう?

 たぶん親指立ててのあの笑顔は一平君に対して、よくやった。上出来だ。って彼女なりの労いだったんだろうな。たぶんそうだ、そうに違いない・・・


 こんな時上司がフォローするべきなんだよなー。

 ホクロ田の方に目をやると、丁度立ち上がった。一平君を励ましに行くのか?

 ホクロ田はその場でゴルフのスイングの練習を始めた・・・

 使えねー。ろくに仕事もしないんだから部下の管理ぐらいしろっつーの。


 ハルカが給湯室から出て来てみんなにコーヒーを配る。

 ホクロ田に配り、私に配り、一平の席の後ろに立つと、気まずそうに私の方を見て来る。

 私は目で、(行け、何か励ましの言葉を掛けてやれ)合図を送る。

 ハルカは一平の重症な様子を見て、無理です。と首を振って合図を送り返してくる・・・

 そのまま無言で野村君の机にコーヒーを置いて戻ってきてしまった。一平はその事にも気づかない様子。




 仕事がはかどらない、どうしてもプログラムにバグが発生する。どこに問題が有るのだろうか・・・

 ボールペンを唇の上に挟んでタコ顔で考え込んでいたら、


「先輩、ちょっといいですか?」


 ハルカが仕事の事で相談してきた。

 ハルカの説明を聞きながら、閃いた。


「これ、ちょっと難しいわねー。一平君の方が詳しいんじゃないかな~ 一平君に聞いてみてよ!」


 ちとわざとらしいが、一平に聞こえる様にハルカに答える。

 私に促されてハルカは一平に相談に向かう。


「いっ、一平君・・・ここが解らないんだけど教えて貰っていいかなー?」


 一平は無言でハルカの方へゆっくり振り向き、ハルカから見せられた数字がぎっしり書かれた分厚い資料を、パラパラめくり問題点をすぐに見つけだして、赤鉛筆で丸を付けてハルカに手渡し自分のPCへと向かう。


 流石は天才、目はまだ死んでいるが、腐っても鯛である。


「あっ、ありがとう」


 ハルカは一平にお礼を言って自分の席に戻る。座る際にこちらにお辞儀をしてきた。


 たいした事では無いが、可愛い後輩のお役に立てたかな!? エッヘン。



 終業のチャイムが鳴り、足早に職場を後にして帰宅する茜・・・



 帰宅した茜は諭吉先輩に食事を与え、シャワーと食事を済ましてPCの前に座り、VRゴーグルを掛けて今日もバーチャル彼氏の元へ向かうのであった・・・



 VRの世界に入ると、以前ヒロヤと初めて会った公園の入り口、周りは真っ暗で夜の様だ・・・

 暫くすると茜の前に、白いオープンカーが止まった。


「ごめん。待った?」


 ヒロヤである。


「いっ、今着いた所」


 茜はヒロヤの車に乗り込む・・・


 白いオープンカーは嫌味の無いハイセンスな大人の男性が好むような絶妙な車で、知的なヒロヤにマッチしていた。

 やべー、設定でベンチャー企業の社長選んで正解だったわ。

 こんな体験初めてだ・・・

 もしかして、大富豪設定だったら、なが~いリムジンで、執事付きの車が来たりしたんだろうか・・・

 でも現実離れしてるよりこっちの方が正解だったな。


 車は郊外を抜け、夜のハイウェイを疾走する。流れる街並みを茜は嬉しそうに眺めていた。

 しばらく走っていると・・・(何?)

 膝の上に何かが乗って来た感覚がした。

 助手席の茜は膝の上を見たが何もない。VRゴーグルを外すと、膝の上にはデブ猫の諭吉先輩が乗っかり丸くなって眠そうにしていた。

「おーい、諭吉先輩。こんな所で寝ちゃダメだよー」

 ドライブが台無しである。茜はデブ猫を重たそうに抱きかかえて、ゲージに入れて戻って来て再びVRゴーグルを付ける。ドライブの再開である。


「どこに向かっているの?」

「茜はどこに行きたい?」


 ノープランなんかい・・・

 車酔いしやすい茜は、バーチャルとは言え少し不安を覚えた。ヒロヤの隣でマーライオンを披露するわけにはいかないのである・・・

「海が見たいな!」

「りょーかい!」


 車は見知らぬ港街でハイウェイを降り、海沿いの大きな橋の下の公園に止まった。

 車を降りて、二人は海が一望出来る海にせり出した展望広場に来た。

 頭上にはライトアップされた橋が大迫力で迫っており、橋の先に有る街は夜の明かりでとても綺麗である。

 二人は手すりに両腕を置いて目の前を行き来する船を眺めていた。


 う~ん。ロマンチック。これが大人のデートってやつなのね。く~っ・・・


 黙って遠くを眺めるヒロヤの横顔をチラチラと盗み見る茜。

 かっ、かっこいい。


 不審な動きをする茜に気づいたのか、ヒロヤは茜の方を向き目を見つめて、

「茜の夢って何?」


 真顔で突然聞いてくるヒロヤに少し戸惑ったが、

「ゆっ、夢? 夢か~・・・」


 茜は本気で考え込む・・・


 小学校以来だな、夢なんて。確か小学校の卒業アルバムには将来、獣医師になりたいとかなんとか書いた記憶が有る・・・

 家で飼ってた猫のニャン吉が病気になって、自分ではどうしようもなくて、苦しんでるニャン吉の力に成ってあげたくて。その後ニャン吉は動物病院でもらった薬のおかげで元気になったが。

 気づけば動物とは全く関係ない職業になっていたな~・・・

 そんな昔の事を振り返っていた。


「茜?」

「あっ、ごめん」


 過去から帰って来た茜は答えが見つからず適当に、


「お嫁さんかな?」


 我ながら恥ずかしい答えだ、幼稚園児が答えそうな夢だな・・・顔が赤くなる。

 そんな恥ずかしい茜の答えにヒロヤは真顔で、


「どんな家庭を築きたい?子供は何人がいい?」


 真剣に返して来たので、少し考え込んで、


「そうね~、笑顔の絶えない明るい家庭がいいな~

 私が一人っ子だったから思うんだけど、寂しく無い様に子供は二人以上かな・・・」


 そんな茜の答えに、


「茜となら、きっと大丈夫だよ」

「・・・・・・?」

 えっ、何?これってもしかしてプロポーズ? 私今プロポーズされてる?

 そんな訳無いわよね、落ち着け私。深呼吸よ・・・

 深呼吸をして冷静さを取り戻した茜は、

「ヒロヤの夢は?」

「僕の夢は、今の会社を軌道に乗せて、将来はロスにオフィスを構えて全世界に・・・・・・」


 遠くを見つめ、将来の夢を熱く語るヒロヤの横顔を見つめながら茜は、本気でヒロヤの事が好きになって行く。

 そんな二人だけの時間を過ごしていると、


「はっくしょん!?」


 茜は大きなくしゃみをした。リアルでシャワーを浴びた後薄着でいたため、湯冷めしたのだった。


「大丈夫?」


 ヒロヤは自分の上着を脱いで茜に優しくかけてくる。

 二人の距離は一気に近づく・・・ヒロヤの顔は目の前だ。


「あっ、ありが・・・」


 お礼を言い終わる前にヒロヤは茜の唇にキスをした。

 茜は突然の事に目を丸くして戸惑う・・・

 状況を理解して茜は目を閉じる。


「もう遅い・・・送って行くよ!」


 二人は車に乗り込み、来た道を戻って行く。

 茜は車の中で、頭が真っ白な状態で外の景色を眺めていた。


 出発地点の公園に着く。車を降りる茜に向かってヒロヤは、

「今日は楽しかった。又ドライブ行こう!」

「うっ、うん」

「それじゃあ、お休み!」

「おやすみなさい・・・」


 ヒロヤは車を走らせ暗闇に消えて行く。

 一人残った茜はボーっとその場に立ち尽くし片手で唇を触っていた・・・



 暫くすると冷静さを取り戻して茜は思う。

 なぜ公園?

 私の住まいは公園なの?

 何処かで設定ミスったかな・・・・・・

 まっ、いっか。


 VRゴーグルを外しベットに潜り込んだ茜は先ほどの出来事が頭から離れず、心臓の鼓動を抑えるのに必死だった・・・・・・
























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