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第二話 出会い

 茜は会社から自宅に帰って来た。

 玄関の扉にスマホを翳すとロックが解除され自動でドアが横にスライドする。

 部屋に入ると、


「ニャー」


 同居人というか同居猫のデブ猫が出迎える。


「ただいま~、諭吉先輩。

 すぐにご飯にするからねー」


 デブ猫はお腹が空いてるのであろう、茜の足に纏わりついておねだりしていた。

 すぐに猫用缶づめを開けて食事用の皿にのせてあげると、一目散に食事にありつく。

 この部屋に引っ越してきて一月、何時もの光景である。


 一月前まで茜は両親の実家から一時間半かけて会社に通勤していたが、二カ月前会社の食堂で一緒になった総務課の同期の子から、条件付きだが社宅が空くと言う情報を耳にしてすぐに応募したのだった。

 情報が早かったおかげか、普通ならかなりの倍率で何年待ちなんてザラなのだが、運が良かった。

 ただ、一つだけ条件として前の住人が寿退社で部屋を出る際、嫁ぎ先が猫アレルギーということで猫を連れていけないという事で、猫を引き取る条件が付いていたのだ。

 茜の実家でも猫を飼っていたので何も問題なく承諾して入居が決まったのだった。


 1LDK・バス・トイレ分離、猫付きの優良物件である・・・?


 部屋の引き渡しの際紹介されたデブ猫は、前の飼い主が諭吉ゆきちと名付けて居たとの事。

 名前を変えるのは可哀想なので引き継いで、前からの住人という事もあり、今では敬意を込めて諭吉先輩と呼んでいるのだ。しかしこのデブ猫、可愛いというか、ふてぶてしいというか・・・

 そこも含めて気の合う相棒になっていた。


 この部屋に引っ越してからは、通勤時間が以前より一時間短縮出来た。

 引っ越しを決めた最大の理由は茜の両親が人一倍厳しく、25歳になってまで門限を設けて監視されていたのだ。

 愛情の裏返しなのは理解していたが、長年溜まった不満が彼女の一人暮らしへの欲求を膨らませていた矢先に舞い込んだチャンスだったのである。

 日頃両親に歯向かう事の無かった茜が全力で両親を説得したのだ。大人しいと思われていた茜の真剣な訴えに、時間はかかったが、ついに両親も根負けした格好だ。



 茜は猫にご飯をあげてシャワーを浴び、一息付いたのち後、夕食のナポリタンを冷蔵庫から取り出し、レンジで温めて食べる。

 彼女は料理が苦手で基本はコンビニ弁当だった。


 食事を済ませPCの前でネットを楽しんでいると、


(ピンポ~ン)


 誰かが訪ねて来た様で、チャイムが鳴る。

 茜はPC上で訪ねて来た人物を確認する。

 この部屋は、さすが四つ葉グループ所有の社宅だけあって、全てがPCで制御可能になっている。

 ドアの前にいる人物の確認から、ドアの開け閉め。風呂にお湯を張る事から、冷蔵庫の中身確認まで全ての電気製品がネットワークで繋がっているのだ。


 訪問者を確認して茜は玄関に向かう。すでに扉はPC上から開けられており、訪問者は荷物を片手に立っていた。


「お届け物です」

「ご苦労様です」


 それほど大きくない封筒を受け取る。


「6980円になります」

「はい」


 財布から7000円を出して20円のお釣りを受け取る。


「ありがとうございました」


 男は頭をさげた後立ち去る。


 封筒を受け取った茜はPCの前に座り封筒の中身を取り出す。


 封筒の中には1枚のCDが入っていた。表紙には『スイートタイム・星の王子様』と書かれていた。


 数日前の事、茜はネット上でこのCDゲームが巷でかなり流行っている事を知る。

 内容は、彼氏育成シュミレーションで、理想の彼氏を制作してVR上で疑似恋愛を楽しむ物のようだ。

 始めはしょうもないゲームだろうと記事を何の気無に読み進めていたが、利用者の声で口を揃えて、(こんなの初めて・半端ない・最高~)などの利用者感想が述べられており、だんだん興味が沸いてきて、思い切って、ネット上で注文したのだった。


 茜はCDをケースから取り出しPCに挿入する。

 暫くダウンロード中の文字が点滅していたが、ゲームが始まった。


 軽快な音楽と同時に5人のイケメン男性キャラが手を伸ばし、


「ようこそ、スイートタイムへ。君は誰を選ぶ?」


 重なる声で質問してきた。


 ん~どれにしようかな? みんなそれぞれカッコ良くて迷うな~


 五人のイケメン男子はそれぞれ特徴的で甲乙つけ難い。

 スポーツマンタイプからインテリタイプまで揃っていた。

 迷っていると、下の方に、(オリジナル)の文字を発見した。

 ふ~ん、自分でいろいろカスタマイズ出来る機能があるんだ~

 せっかくだから、自分の理想の彼氏をつくっちゃおっと・・・


 オリジナルのボタンをクリックすると、ページが進む。

 20歳位の普通の男性が画面上に現れた。


 下に様々なステータス変更バーが有り、全て中間の状態になっていた。

 先ずは年齢っと。

 年齢のステータスバーを動かす。

 下の方に動かすと画面上の青年キャラがどんどん若返って行く。

 さらに下に動かしMAXまで下にすると、青年キャラが赤ちゃんになってしまった・・・

 いやいや、ないわー。これじゃあ、子育てシュミレーションだっつーの!

 逆に今度は上にバーを上げて行くと、赤ちゃんからだんだん歳をとっていき、青年からだんだん素敵なおじさまに変化した。さらに上げると、しわが増えて行き、髪もだんだん白く成って行く。

 最大まで上げてみると、予想はしていたが80歳位の老人の姿になっていた・・・

 う~ん。老人介護シュミレーション? 

 解ってはいるものの、ついやってみたくなるのである。

 ステータスを調整して年齢は26歳に決定した。やっぱ我儘を聞いてくれて、甘える事が出来る年上でしょ。


 次わっと、身長ね!

 カーソルを最大まで下げると、小人になった。手乗りサイズで持ち運びにはむいてるかもね~っと。逆に最大まで上げると画面からはみ出すギリギリまで巨大化した。

 んーデカい、どこかの兵団に駆逐されちゃいそうね・・・

 取り合えず身長は180cmでっと。


 お次は体重か。

 カーソルを下げて行くと、みるみる画面上の青年が痩せて行く。

 最大まで下げると、立ってるのも辛そうなガリガリの青年がそこにいた・・・

 この子には、愛より栄養が必要ではないか? 点滴装備したら似合いそうでは有るが。

 逆にカーソルを上げて行くと、ガリガリの青年はみるみる健康体になって行く。

 最大まで上げると、まるで肉ダルマである。

 これは・・・ 、一人で歩行困難なレベルなんですけど・・・。

 鍛えれば横綱目指せるかもしれないな!

 あれ? 格闘家育成ゲームじゃないよね、これ。

 カーソルを下げて理想の体型で止める。

 やや細めで。


 次は顔の形か~。

 カーソルを下げると顔の輪郭がどんどん鋭くなっていく。

 最大まで下げた・・・

 ゴボウかよ。一人で突っ込みを入れてみる。

 今度は最大まで上げる。

 顔の輪郭は、ほぼ真ん丸になっていた。

 どこかで見覚えがあるような・・・。そうだ! 誰かが空腹で倒れそうな時、自分の顔をちぎって与えて救うヒーローだ。

 彼氏がヒーロってのは自慢できるかもしれないけれど、空腹を満たすならコンビニでもっと良いもの買って与えるほうが喜ばれるだろうし、顔をちぎって、ほら食えって・・・、ホラーよね。

 取り合えずカーソルを中間よりやや下にして気持ちシャープでっと。


 細かいな~、次は鼻の高さかー

 取り合えず”だんごっぱな”を見た後ピノキオ状態を確認して普通よりやや高めを設定した。


 次は目ね。

 カーソルを最大まで下げて糸目を見てから、真ん丸目玉を確認してやや鋭い感じの目を選ぶ。


 次は眉、眉無をみてからスーパーゲジゲジ眉を確認して、細目の眉を選ぶ。


 お次は口元か~、これはちょっと拘らせてもらうわ!(フッフッフ)

 おちょぼ口を見てからタラコ唇を確認した後、細かくカーソルを動かし理想の唇を決める。

 もう少し・・・、この辺かな・・・、よしこれに決めた。

 気が付くと全てのカーソル設定が終わっていた。


 うん。かなりいいよ、これ。


 次へ進むボタンをクリックすると画面が切り替わりファッション選択になった。


 先ずは髪型からね!!

 いろいろ有るが、気になるのを幾つかチョイスしてみた。

 まずは『スキンヘッド』をチョイスしてみた。

 悪くはないけど、ちょっとな~ 。なんか彼氏と言うより修行僧みたいだし、なんかふざけた事言ったら精神注入棒で肩とか叩かれそうで怖いな・・・


 次に『モヒカン』をチョイスしてみる。

 これはないわ~。一緒にいたら、なんだか悪人に絡まれてるみたいな絵づらになるな・・・・・・

 こいつに火炎放射器装備させたら、屹度、(汚物は消毒だ~)とか言い出しそうだな・・・。


 次は『ロング』を選んでみた。

 う~ん。悪くは無いんだけど、ちょっとな~。


 次に『スーパーロング』をチョイス。

 此処までくると逆にかっこいいかも・・・

 怒りが頂点に達した時、髪は金色に輝き、最強の戦闘民族の血が目覚めたりするんではないか? などと、訳の分からない妄想をしてみる。

 結局、やや長めのおしゃれな髪型に落ち着いた。


 小物チョイスでは知的な淵無メガネを選択。服装は胸元の大きく空いたシャツに黒い革のズボンを選択した。


 性格選択では、明るめ・知的・やや束縛する。を、選択した。


 外見の設定はこれで終了の様だ。決定ボタンを押すと社会的地位の設定が現れた。


 極貧から大富豪まで設定幅が有る。

 せっかくの理想の彼氏が極貧って、ないわ~。

 大富豪か~・・・・・・ 

 ちょっと現実離れしすぎてリアリティーに欠けるわね・・・

 いろいろ考えて、年収1200万、ベンチャー企業の社長という設定で落ち着いた。


「名前を決めてください?」


 彼氏の名前を聞いて来た。

 名前か~、いつの間にか手元のボールペンを唇の上に乗せてタコの様な唇をして考え込む茜・・・


 いろいろ考えて入力した名前は『三上博也みかみひろや』だった。

 この名前は、茜が中二の時、初めて好きになった上級生の名前であった。

 もちろん、遠くから眺めるだけの片思いで終わった、儚い初恋である。


 最後に自分の名前を求められた。

 水沢茜みずさわあかね25歳っと。


 設定完了でよろしいですか?


 OKボタンをクリックする。


 画面が変わり、


「初めまして、僕の名前は三上博也みかみひろや

 君と出会えた事は、神様が僕にくれたプレゼント、さあ、二人で物語を始めよう」


 画面上で、設定を終えた理想の男性が手を伸ばし茜を物語へと誘っているのであった。


 こうして、彼氏いない歴25年の茜に、イケメン、金持ちの理想の彼氏が誕生したのだった。

 この彼氏が後に大変な事態を引き起こす事など知る由もない茜であった・・・・・・
















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