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第十八話 ヒロヤ

 エレベータに乗り込んだ二人。牧村は首から下げてたIDを操作パネルの下の入り口に差し込む。

 操作パネルの表示は変化して地下三階までしかなかった表示から地下十階まで増えていた。

 地下十階のボタンを押すと、エレベータは動き出す。


「牧村さん、これは一体?」


「茜は知らないでしょうが、この会社の地下には世間にしられていない軍事用のスーパーコンピューターが隠されているの。スパイ天国の日本においてもこの秘密を知る人物は、防衛省の一部と、この会社では私と会社の幹部数人よ! 軍事用だけあって、そこらの大学なんかにあるスパコンとはダンチなんだから!!」


「そうなんですか・・・・・・私なんかが知ってはいけない秘密なのでは?」


「そうね! 知ったからには今後二十四時間三百六十五日監視が付くわ!!」


「そんな~・・・」


「うそうそ! そんな事無いわよ」


「も~やめてくださいよ!心臓に悪いです!」


「でも、約束して。これは二人だけの秘密。

 一般社員を機密室に通した事が知れたらクビだけじゃすまないもの」


「はい、約束します」


「いい子」



 エレベータ内で茜はある不安を口にした。


「既にセキュリティーを突破したヒロヤにこのエレベータを占拠される事は無いのでしょうか?

 今朝、うちのマンションのエレベータでヒロヤに閉じ込められんですが・・・」


「それは無いわね。このエレベータは機密上カメラも付いていないし、外部との接続もされていない完全独立型よ」


「何かあった時はエレベータ会社の人は来てくれないんですか?」


「なにをおっしゃるウサギさん。ここの会社にどれだけの技術者が働いてると思っているの?

 外部の人間の何倍も腕の良い連中が揃ってるんだから、心配ご無用よ!」


 牧村の答えに不安が一つ消えた茜。

 エレベータは地下十階に到着して扉が開く。そこには巨大なフロアに巨大な機器が並んでいた。


「地下にこんな施設があるなんて・・・」


 開いた扉から茜がフロアに足を踏み入れようとした時。


「グエッ。ケホケホ!」


 突然牧村に後ろ襟を掴まれエレベータに引き戻され咳き込む茜。


「なんなんですか、一体?」


「茜、あなた言ったわよね。ヒロヤがカメラを使って追跡して来てるって!

 今あのストーカー野郎に見つかるわけには行かないの!

 これから私の言う事をよく聞いて!」


 牧村の説明を真剣に聞く茜。


「いい。分かった? 行って!」


 牧村の説明に従い行動を起こす茜。

 扉から顔を覗かせ左右を確認して、そろりと壁に沿って壁際にあるPCを目指す。

 PCに近づきPCの上にある天井監視カメラに気を配る。

 PCの真横まで来ると牧村に渡されたカラーテープを引き出した。

(びりびりびり)

 適当な長さで引きちぎり、PCのウェブカメラに写り込まない様に貼り付ける。

 今度はPCの前に立ち椅子を使って天井のカメラにもカラーテープを貼り付け視界を奪う。


「牧村さん、オッケーです!」


 茜の反対側で作業している牧村は、


「こっちももうじき準備出来るから!」


 牧村は壁に設置されてるスロットルにIDカードを差し込んで暗証番号を入力した。

(カチッ)

 小さな扉が開き中からメモリーカードを取り出して茜の元へ向かう。


「なんですか、それ?」


「フッフッフ。これこそが『サジタリウス』計画の肝なのよ!」


「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど・・・」


「よく聞きなさい茜ちゃん。

『サジタリウス』計画って言うのは、防衛省から極秘裏に発注のあった【新世代戦術コンピュータウイルス兵器】なの。

 専守防衛の日本だけどサイバー攻撃を受けた際、このプログラムで相手方の拠点プログラムを破壊する事が出来るの。

 防衛主体で先制攻撃を禁じてる憲法下で、使い方次第では圧倒的有利に先制攻撃が出来る可能性を持っているからこそ極秘扱いにされてる訳。

 このプログラムとこの超大出力スパコンが合わさってこそ出来る芸当なのよ」


「はっ、はあ・・・」


「さーこれから釣りを始めるわよ~」


「釣り? ですか!」


「そう、一平君のパターンプログラムが針で、『サジタリウス』が最高強度を誇る糸。

 そして最上の餌が茜、あなたよ! 一度食いついたら最後、二度と離さないんだから!!」


「私、餌なんですか~」


「飛び切り上等のね!大丈夫、私が餌の鮮度は保証するって!」


「そんな保証いらないんですけど・・・」


「「あはははは」」


「茜、準備に取り掛かるわよ!」


「まずはPCの前に立って。

 そうして私の合図でPCに貼り付けたカラーテープを剥がしてヒロヤをおびき寄せてほしいの!

 ヒロヤが姿を現したら出来るだけ時間を稼いで!」


「やってみます!」


「この作戦は茜、あなたにすべて掛かっている事を忘れないで!」


「はい! やって見せます!!」


「よろしい!」


 牧村はスパコンを立ち上げ一平のパターンプログラムとウイルスプログラムのメモリーカードをスパコンに読み込ませる。

 読み込み完了の表示を確認して茜に合図を送る。


「茜、始めて頂戴」


 茜はウェブカメラに貼ったカラーテープを剥がしてヒロヤの出現を待つ。

 PCモニターに変化は起きない。

 広いフロアにスパコンの冷却用のファンの音だけが空しく響き渡る・・・



「茜~。もしかして、ふられちゃった~」


 牧村の冗談に気が緩んだその時。


 画面にヒロヤの姿が映し出された。


「茜、こんな所にいたんだ」


 茜は牧村の目を見つめ、作戦開始を頷く事で伝える。


「来たわね~ストーカー野郎!」


 牧村は『サジタリウス』開始のボタンを躊躇無く押す。

【外部リンクスタート】


 出力を上げたスパコンに同調してファンがうなりを上げる。

 室内の温度上昇を感知した空調機からは冷たい風が流れて頬を通り過ぎて行く。


「頼むよ~『サジタリウス』ストーカー野郎のハートを射抜いて頂戴」


 牧村の祈る様な気持ちをよそに、茜はヒロヤと語り合っていた。


「ヒロヤ。私の事、大切に思うならもうこんな事はやめて」


「どうして茜は僕の気持ちを理解してくれないの?」


「気持ち? ヒロヤの気持ち? 私の気持ちはどうなるの?」


「茜の事は僕が一番知っている」


「違う!!ヒロヤはなんにも分ってない!

 私が何を考え、なにを思っているかなんて考えた事無いんでしょう?」




 二人の会話をよそにスパコンの画面を食い入るように見つめる牧村。


「捕まえた」


 スパコンの画面には、ヒロヤのプログラムに侵入する事に成功した事を示すサインが点灯していた。

 ほっと胸を撫でおろし二人の元に歩いて行った。


「夫婦喧嘩は犬も食わないよ~」


 二人の会話に割って入る牧村。


「初めまして~、 ヒロヤ君。あれれ~予想以上に色男じゃないの~

 もっとジメジメしたタイプを想像していたんだけど・・・

 茜、あなた結構面食いなのね~

 ヒロヤ君、そんなお子様ほっといて、私とお喋りしてみない~?」


「オバサンに用は無いよ!邪魔しないでもらえるかな!」


「おば、おば、オバサンですって~!!」


 ヒロヤに窘められた牧村は不機嫌そうにツカツカと足音を鳴らしてスパコンの画面の前に戻って行った。


 スパコンの画面にはヒロヤのプログラムへの浸食率42%と表示されており、ゆっくりではあるが値は上がって行った。

 数値を見つめていると、画面が警告サインと共に背景が赤色に変わった。


「クソ! 気づかれた!!」


 スパコンに対してヒロヤの浸食が始まった。


「反撃なんて、そんなのありなわけ~」


 牧村の顔に緊張が走る。


 ヒロヤとスパコンの戦いが始まった。


 3% vs 45%


 10% vs 52%


 33% vs 62%


 55% vs 77%


 ヒロヤの浸食スピードがスパコンの速度を追い抜かんとグングン迫ってくる。

 牧村は生唾を飲み込み、額に浮かび上がった汗は頬を伝い、一滴の水滴となって床に落ちて弾けた。


 戦いは続いていた。


 72% vs 87%


 91% vs 96%


 96% vs 100%


「よっしゃーーーー!!!」

 牧村は渾身のガッツポーズを決めた。


 二人の方に目線をやると、二人の会話は続いていた。


「茜・・・・・・」


 ヒロヤは自分の身に起こっている事を悟り茜に最後の言葉を伝えていた。

 茜も牧村の勝利の雄叫びによって状況を理解した。

 PC画面上のヒロヤの姿はだんだん薄れて行く・・・


「ヒロヤ、今度こそホントにお別れね!」


「茜、最後に一つ僕の願いを聞いてくれないか?」


「なに?」


「僕を見て!」


「見てる!」


「そして忘れないでほしい」


「忘れたりなんかしないよ、今までありがとう。

 もう会えなくなるけど、ヒロヤはずっと私の胸の中にいるよ」


「その言葉が聞けて僕は幸せな気分だ、ありがとう茜・・・シンク・オブ・ミー」


「さようなら・・・・・・」


 画面上からヒロヤの姿は完全に消え失せた。

 その姿を見届けた茜の頬には大粒の涙がとめどなく流れていた。







































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