第十四話 恐怖
食事を済ませ部屋のベットの上で寝っ転がってファッション雑誌を見ている茜、
「ねえ、ヒロヤ~。この服可愛くない?」
「茜が着るならどれも可愛いよ」
「そうよね~、私が着るならどれも可愛いのよ!
でもな~大人の魅力ってのも大事と思うわけよ・・・
あっ、このキャミソールワンピなんてどう? 大人の女性って感じ出ると思うんだけど?」
雑誌のモデルが着ている服をヒロヤに見せて意見を求める茜。
「僕は今の君が一番良いよ」
「え~。パジャマなんですけど・・・」
「茜がその服を着て、見せたい人が僕だったらよかったのに・・・」
「何言ってるのヒロヤ?」
「きっと、茜が見せたい人はこの前部屋に来ていた一平って人だろ?」
「ばっ、ばかじゃないの! なんで一平君が出て来るのよ?」
図星を付かれて戸惑う茜に対してヒロヤは続ける、
「あの人のケガ、もう良くなったんだ?」
「えっ・・・」
「・・・」
「どうして・・・? 私、ヒロヤに一平君のケガの話なんてした事一度もないわよね」
「僕は君の事なら何でも知っている。見てるんだ・・・見守ってる」
ヒロヤの告白に言葉を失い固まる茜の脳裏に、ある事がよぎった。
(そう言えば、私のAIプログラムでパワーアップしたヒロヤは、この部屋のネットワークを自由に移動して制御もしている。ネットワークを利用すれば部屋の外の世界に出る事も可能って事か・・・
でも、そんな能力を身に着けているとして諭吉先輩の行方を知らないはずは無いわよね)
疑問を感じた茜はヒロヤに尋ねた、
「ヒロヤ、正直に答えてね。あなた諭吉先輩がどこに行ったか知ってるわよね・・・ 見てたんでしょ?」
「正直に答えるよ。あの猫は僕がこの部屋から追い出したんだ」
「なんでそんな事するの! 諭吉先輩がなにしたって言うのよ!!」
「僕と君の時間に不必要だったからさ」
「冗談じゃないわよ!諭吉先輩を返してよ!!」
諭吉先輩との楽しいやり取りと、ヒロヤのやきもちとも思える態度。その次の日の諭吉先輩の失踪。
繋がりが見えて来た茜は恐ろしい事を考えていた。一平とのキスの後に起こった事故・・・繋がりの可能性が頭を過り恐る恐るヒロヤに尋ねた。
「あなた、まさか一平君の事故に関係なんてして無いわよね?」
「あいつは君にふさわしく無い、今回は警告だけだよ。
これ以上茜を僕から遠ざけるなら次は何が起きてもあいつの責任だ」
ヒロヤはあの日の夜、茜と一平がマンションの前でキスしたのをマンションの監視カメラを通して目撃していた。
日に日に帰りが遅くなり、茜の心が自分から離れて行く事が我慢できなくなり、一平に対して行動を起こしたのだ。
一平の乗る車をNシステムを通じて追跡し、各交差点カメラで停車中の一平の車と横から来る車のスピードを計算して最適の状況でお互いの信号を青にして事故を誘発したのだった。
「ふざけないでよ!!」
茜は持ってるファッション雑誌をヒロヤの写るPCに向かって投げつけた。
「一歩間違ってたら一平君、死んでたんだよ・・・
自分のした事、解ってるの!」
「だから警告の為、軽い事故で済ませたのさ」
「うるさい!! もういい、もう出てって。顔も見たくない!」
「茜・・・」
茜はPCの前に座りヒロヤのデータを呼び出してした。
『アンインストールしますか?Y/N』
「さようなら・・・ヒロヤ。今までありがとう、楽しかったよ・・・」
一瞬躊躇ったが指先に力を込めて実行ボタンを押す茜。
アンインストールの実行バーが満たされて行き、データの削除は完了した。
目に涙を浮かべ天井を見上げる茜。
少しの時間が流れたが、
「茜、怒らないで」
ダイニングからヒロヤの声が聞こえた。
「なんで?」
ダイニングに走って行くと、冷蔵庫制御パネルにヒロヤの姿があった。
「ヒロヤ、あなた・・・」
「僕はもう、この部屋に縛られていないんだ」
「そんなバカな・・・」
茜は状況を確かめる為に再びPCに向かいデータ状況を調べた。
確かにデータ削除は完璧に行われていた。AIデータ入力を行った日時をさかのぼると、見慣れないタグを発見した。
記憶を辿り当時を思い出す。
(一平君の作ったウイルスプログラムだ。私の作ったAIプログラムに紛れて一平君のプログラムもインストールされてたんだ。
だからセキュリティーを突破していろんな事が出来る様に進化していったんだ)
状況がつかめて来た茜は、
「ヒロヤ、出て行って。お願いだから・・・」
「僕は君の傍を離れない。君が望まなくても、僕は君を見守り続けるよ」
データ消去が終わったはずのPC上に現れたヒロヤの言葉に血の気が引いて行く茜。
暫く固まった茜は強硬手段に出た。
PCの電源をコンセントを引き抜く事で落としたのだ。
ダイニングの冷蔵庫のコンセントも引き抜いた。
「茜・・・」
ヒロヤの声がする。声のする方に向かうと、浴室の水温調整などを行うタッチパネルにヒロヤの姿があった。
タッチパネルは埋め込み式で電源を落とす事が出来なかった。
茜を呼ぶヒロヤの声に耳を押さえてその場に座り込む茜。
暫くして立ち上がった茜は玄関に向かい歩き出した。
玄関の上に設置されているブレーカー電源を落としたのだ。
物理的電源を全て失った部屋は真っ暗だった、ヒロヤの声は聞こえなくなっていた。
手探りで暗い部屋を進み、ベットにたどり着いた茜は、ベットの上で膝を抱えて暗闇を見つめていた。
(ピチョン)
台所の蛇口から滴る水の音にさえ脅えて反応する茜。
結局この日、茜は一睡も出来づに朝を迎えるのであった・・・・・・