第一話 プロローグ
恋愛小説って言うより小説初挑戦です。
読みづらい点など多々あると思いますが、ご意見、ご感想などありましたら遠慮なくどうぞ~
よろしければ評価、ブクマなどおねがいします。
「おはようございます」
会社ですれ違う人に挨拶を交わす。
2つのゲートでIDパスを翳して自分の勤務する部署へと向かう。
私の名前は水沢茜25歳独身
因みに彼氏いない歴も25年である。
長い通路を抜け扉を開ける。
「課長、おはようございます」
「ああ。おはよ」
先に出社していたこの部署の課長、山田純一54歳が挨拶を返してくる。
この男、私はとても苦手だ。
禿げた頭を無理やり隠す為か、残った髪を無理に頭に乗せている。いわゆる、バーコード禿である。
しかも、顔も頭もテカテカに脂ぎっており、仕事中でもお構いなくオナラをする。
鼻の横には大きなホクロが有り、社内では”ホクロ田”と、あだ名で呼ばれている。勿論本人に言う人はいないんだけど。
この男、年齢の割に課長という役職なのは、以前配属されていた人事部で、セクハラ騒ぎを起こして飛ばされたらしい。と、もっぱらの噂である。真相は謎だが・・・
課長の前を通り過ぎ私のデスクに向かうと、すでに出社していた一平君がデスクにうつ伏して寝ている。
この子、いつもマイペースである。
野村一平22歳、この子は無愛想なのか、人と付き合うのが苦手なのか、話しかけても会話が弾んだ事は一度も無い。
自分のデスクに座り、パソコンを立ち上げ社内メールなどを確認していると。
「先輩、おはようございます~」
「ハルカちゃん、ありがと」
給湯室から出て来た、後輩の木下春香23歳がコーヒーを置いて行く。
課長と一平君にもコーヒーを配り、自分の席に着くハルカ。
(キンコーン・カンコーン)
始業の鐘が鳴る、今日も業務スタートだ。
うつ伏せしていた一平君もゆっくり顔を上げ、パソコンに向き合う。
私の勤務している会社は国内では知らない人はいないだろう巨大企業、四つ葉グループなのである。
四つ葉グループは、鉛筆から、宇宙ロケットまで手掛けるグローバルカンパニーだ。
私が配属されているのは、その中でも防衛産業の一翼を担う、コンピュータセキュリティ部門だ。
社内では”セクションセブン”と言われる花形部署である。
残念ながら、私のいる部屋は、その分室なんだけど・・・
実際のセクションセブンは大きなスペースで中央に巨大モニターがあり、常時20人のスタッフが危機対応とプログラム開発を行っている。
それもそのはずで、3年前にセクションセブンが開発した「ファイアウォール」「IPS」「WAF」複合セキュリティーソフト”オリオン”が防衛省に採用されて以来、防衛省と同じソフトをセクションセブンでも使用しており、2か所のセキュリティー環境をモニターしてあらゆる攻撃に対処しているのである。
そのセクションセブンの分室で何をしているのかと言うと、おかしな話では有るが、最高強度を誇るセクションセブンの開発したソフト、”オリオン”を攻略するのが仕事なのである。
なぜそんなことを事をしているかと言うと、最強プログラムであっても、絶対に他人に破られるわけにはいかないからである。
だれかが破る前に、あらゆる方法でオリオンの脆弱性を試し、素早くプログラムを補強して、より堅牢なシステムにアップグレードしていかなければならないからである。
私は目下、人工知能のプログラムを開発中なのだ。
一平君はオリオン攻略のコンピュータウイルスを開発中だ。
ハルカは私と一平君のプログラムを合成して自立思考型ウイルスに仕上げる為の調整役を担っている。
これが完成すれば、侵入を阻止されたウイルスプログラムが自分で考え、何千、何万、何億と自分で最適な方法を導き出し、オリオン攻略を可能とするかもしれない。
私とハルカは大学でコンピュータ工学を学んで入社したが一平君は異色の経歴の持ち主だ。
彼の最終学歴は中学卒である。
高校に入学はしたのだが面白くなかったらしく、すぐにやめて家に引きこもってパソコンばかり弄っていたいわゆる”オタク”である。
そんな中卒の一平君がなぜ大企業の四つ葉グループに入社出来たかと言うと。
以前セクションセブンが自社用に開発したセキュリティソフトを一般公開して攻略出来たら百万円進呈と言うイベントを開催したのだが、その時、唯一そのソフトのセキュリティーを破ることに成功したのが一平君なのである。
その後、セクションセブンからスカウトされて学歴無視で入社したのだった。
顔はそこそこ悪くない一平君。マッシュルームカットでいつも眠そうにしておりやる気が感じられないが、パソコンに向き合うと別人の様に凄まじい速さでキーボードを叩く、何気に凄腕のプログラマーなのである。
なかなか仕事が進まない。私のくせなのか、唇の上にボールペンを乗せ、タコの様な口をしてモニター上の数字とアルファベットの羅列と格闘する。
う~ん。いいアイデアが浮かばない。
回りを見渡すと、一平君は凄まじい速さでキーボードを叩いている。天才はとどまる事を知らないってか。
ハルカの方を見てみると、分厚い本を片手に何か調べものをしている様だ。
最後に課長のホクロ田の方に目をやると、なんと、スポーツ新聞を読んでやがる。
みんな一生懸命仕事しているのに、いいご身分だ。
いつもの事だが、腹が立つ。
そんな時、「ガチャリ」部屋の扉を開けて牧村さんが入って来た。
ホクロ田は即座に新聞を机にしまい込み、立ち上がり牧村さんを出迎え、なにやら揉み手でぺこぺこしている。
牧村さんとは、牧村冴29歳、その若さでこのセクションセブンを束ねる統括責任者だ。
役職もホクロ田より断然上の本部長である。
アメリカのMITを卒業した後シリコンバレーの企業を渡り歩き、キャリアを積み上げ四つ葉グループにスカウトされて後、セクションセブンのトップまで上り詰めた帰国子女、バリバリのキャリアウーマンである。
セクションセブンが開発し防衛省に納入したセキュリティーソフト”オリオン”も彼女が中心になって開発したものである。
黒いパンツスーツを着こなし、長い後ろ髪を靡かせて、颯爽と歩く姿はセクションセブン全女性の憧れの的だ。
私生活は謎に包まれており、誰も彼女のプライベートを知らない。
ホクロ田との打ち合わせが済んだのか、部屋を出ようとした時、二人のやり取りを見ていた私と牧村さんは目が合った。
「ヤッホー」
牧村さんは小さく手を上げ私に挨拶してくる。私はすぐにお辞儀をして答える。
そして牧村さんは部屋を出て行った。
見かけは近寄りがたい美人で出来る女なんだが、性格は、部下思いで気さくな人だった。
ホクロ田は牧村さんを、お辞儀したまま見送り、扉が閉まると、のそのそと自分の席に向かい、座ると何事もなかった様にスポーツ新聞を広げた。
ホクロ田の仕事は肩書上、この分室の責任者だ。実際何をしているのかと言うと、始業の鐘が鳴ってしばらくの間、スポーツ新聞を広げて熟読する。そしてなにやらノートパソコンを開けて仕事してるふりをしている。
なぜふりと解るかと言うと、以前ホクロ田がPCを付けっぱなしでトイレに部屋を出た際、モニターを覗き込んだら、競馬の予想サイトが写し出されていたからだ。
たまに何やら打ち込んでいると思ったら、ブラインドタッチではなく、一本指打法ときたもんだ。
幾らPCが苦手な世代と言ってもあんまりではないか。
人事課から来たと言ってもセクションセブンに似つかわしくないにもほどが有る。
業務終了時は一応、3人の業務の進捗状況をヒアリングして業務日報を作成する。
ホクロ田なんかより、牧野さん直属で働きたいものである。
進まない仕事に頭を悩ませていると終業のチャイムが鳴った。今日は全く進まなかったな・・・
PCの電源を落とし会社を後にして帰宅の途に就く。