2.アルム・ヴィルムは今日も行く
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山あいを一時間ほど馬車でいった先に、町が一つ。
ここらにしては十分に栄えているこの町は、落ち着いた雰囲気が評判である。だが、いまは少々様子が違う。にわかに、色めき立っている。
人々が囁きを耳にして見上げる先は、町の郊外。
騒ぎの中心に立つ者こそ、あの白の重騎士がいる。
ユリエルの目の前に現れた、分厚い装甲の白の重騎士だ。
その大きな手から下ろされた馬車からは、縛られた男が四人転がり落ちてきた。
何事かと折衝にきた警官も、突然のことには眼を白黒させるしかない。
そして、騎士から降りてきた人物にもまた、目を丸くした。それは青年だったのだ。
驚くのもつかの間、男らが馬車を襲っていたと伝えられれば警官は職務をすぐさま全うする。
手当てを受ける若夫婦の言もあって、証拠は十分。悪漢どもはあえなく御用。
去り際の警官の敬礼に青年もまた、敬礼を返す。
遠巻きに彼を見つめる視線に、彼が笑顔で手を振れば、色めき立った歓声が上がった。
悪を見事打ち倒したヒーロー、というだけではないだろう。
二十歳前後。短くもやわらかな亜麻色の髪に、どこか幼さの残る面持ち。すらりと伸びるその背筋はたくましい。
そして物腰軟らかでいて、精気溢れるその態度。
青さを失わず、されど芯をしっかり持つ若者特有の魅力がある。
そんな青年が重騎士を駆り悪人を引っ捕らえたとあれば、注目を浴びようもの。
けれども周囲を意にすることなく、彼は歩みを進める。
人垣が自然と割れるなか、その先、建物の隅には荷馬車が一つ。そこにいるのは、ロックとユリエル。
何者かと集う視線もよそに、端正な顔めがけてロックは言った。
「よくぞ、やったな」
「君こそ、よく立ち向かった。お陰でうまくいったよ」
青年もまた、得意気に言う。
お互い笑って、二人は握手を交わした。
●
事の次第は一時間前に遡る。
悪漢退治はあっという間のことであった。
突然現れた白の重騎士に驚き見上げた悪漢どもの背後から、ロックがそこらの木片で殴りかかる。
一人気絶。地に沈めたことに脇目も振らず、ロックは次の獲物へと得物を向けた。
だがそこは小癪な悪漢たち。すぐに人質を盾にし、数に任せてロックを囲む。
ロックを打ち負かし馬車で逃げればいい、重騎士で来ようと森に入れば逃げられる、とでも考えたのだろう。
その自信もある意味では当然。なにせ彼ら、伏兵として雑騎士を一騎用意していたのだ。
雑騎士は錆びだらけの体をけたたましく鳴り響かせて壁となる。
だがそんなボロボロの体で重騎士に太刀打ちできるわけもなく瞬く間に露払いをされて、地に沈んだ。
あっという間のことに男たちは泡をくって盗んだ馬車で走り出したはいいものの、重騎士に馬車ごと掴み挙げられてあえなく捕らえられたのである。
●
白騎士と、ロックたち。
彼らは共に近くのこの町で警官に悪漢どもを引き渡すことと決めたのだが──
「ずいぶんといい動きをするじゃないか。三人相手によく怪我一つなく!」
「そちらこそ、雑騎士を打ち倒す手腕は見事なもの」
「いや、こっちはまだまださ」
「私もそちらがいなければ囲まれたままどうなったことやら……」
あちらが言えば、こちらも言う。
馬車を捕まえたのが白の重騎士なら、直接乗り込み悪漢を捕らえ、人質を救出したのはロック。
成し得たことも互いに謙遜しあう様をどこか嬉しそうに眺めていた馭者が、声をかけた。
「何をおっしゃいますか。お見事なことでしたよ、アルムの坊っちゃん」
「やめてくれよ、事実さ」
馭者の恭しい礼に、少年─アルムは端正な顔を歪めた。
「馬車に手をかけてるうちに操縦者は逃がしたし、まごつくうちにあの二人にも怖い目に会わせてしまった」
「だが、二人は命がある。大事もない。反省をして次にいかせばいい。もちろん、心に留めてな」
「そう言ってくれると、助かるよ」
アルムは小さく、笑みを浮かべる。
悪党の雑騎士は、馬車を盗むために使っていたらしい。
山道で悪党が止めた馬車を掴み取っては、山奥に消えていく。
それがここらで起きていた事件の概要だった。
以前マンチェスターで起きた銀行馬車遭難事件と同じ手口だ。
また犯罪が続かないか、不安にもなろうもの。
けれども、緊張の解れたその笑顔。
まるで絵画から抜け出してきたかのようとはこの青年のことを言うのかと、ユリエルはどこか納得した。
●
「こちら、この荷の依頼主であるアルムさんでな。目的地である先の町の町長さんでもあらせられる」
「息子なだけだよ。まだ正式に決まった訳じゃない」
「何をおっしゃいますか。騎士を継いでおきながら!」
「一人っ子なだけさ」
馭者の言葉に、少年─アルムは気恥ずかしそうに頬を掻く。
端正でいて、人懐っこい柔かな笑みはそこらからため息が漏れ聞こえてくるほどのもの。
「アルム・ヴィルムだ」
「ロック・ロー・クラームです。こちらはユリエル・アウグストル」
握手を交わしたロックの手には、温かな感触。線は細くとも使い込んだ硬い手だ。
紹介した二人の姿をしげしげと眺めたアルムは、不思議そうな顔を隠さない。
馭者へと、言った。
「トマスが客を一緒にのせるとは珍しいな」
「珍しい客だからですよ。なんとこのお二方、あなたさまの町が目的と仰います。それもマンチェスターから」
「おぉ、それはそれは。遠路はるばるようこそ。それがいきなりこんな騒動とは、ずいぶん災難なことで」
「慣れてますよ」
ロックの軽い言葉に、馭者も同意する。
「あれが悪党どもと見抜く手際は素晴らしいものでしたよ。そうでなければ積み荷がどうなったことやら」
「あの積み荷はぼくの重騎士《ホジスン》のものでな。また集めるのは大変なんだ。感謝する」
アルムは力強く、ロックの肩を叩いた。馭者も、関心するように深く頷く。
「探偵とおっしゃってましたからな。見抜くのは当然のことなのでしょう」
「探偵というと、あの、色々捜査をする? 殺人とか、窃盗とか」
「えぇ。猫とか犬とか落とし物とか、呆れるほどに色々と」
「なるほど手広くやっておられる」
「とにもかくも、見つけるのが仕事なんでね。あなたが馬を使わず騎士で森を歩いてきたこととか気になりますよ」
その言葉に、アルムは意外なように眼を瞬かせた。
「おや、なんだってその事を」
「その靴ですよ。馬の鐙を踏んだ跡が一切ない。爪先回りにいくらか跡がつくんですがね」
「あぁ、なるほどね」
アルムは思わず、自身の靴に眼を落とした。
輪のような擦り跡は、たしかにどこにも見当たらない。
靴はおろかズボンの裾までひどい土汚れがあるだけだ。
「あとは騎士の鎧に靴汚れもあります。それも、落ち葉や葉っぱまでそこらにある」
言い切って、ロックは一息ついた。
「とまあ、お試しでこんな具合でどうでしょう」
「いやはや、確かにお見事なものですな」
「もう一歩踏み込めるってんなら、もっと気になることは色々あるんですがね」
──光、とか。
どこか上機嫌に回していた舌は、アルムの神妙な言葉に止められた。
「なあ……その依頼って、ぼくでも出せるかい」
「もちろんですとも」
先ほどまでのとはまるで違う真剣な眼差しに、ロックは自信に満ち溢れた笑みで答えた。
けれど、とその笑みはすぐに引っ込む。
「だが、依頼だ。ちゃんと依頼料のことも考えてもらいたい。前金に報酬って具合にね」
「──全部が金じゃあなくても、いいかい。いや、金欠って訳じゃないんだが」
「”もの”による……かな?」
その返答にアルムは顎に手をやり、しばし考え込む。
そし思いきったように、面を上げた、
「お二方。なんでも、あの二つの重騎士を探しにきたんだそうだな?」
唐突な、その話題。何が絡むのかとロックは内心で首をかしげるが、先を促した。
「この出来事は僕も覚えがある。なんだったら、現場に案内してもいい」
「本当ですか!?」
飛び付くようなユリエルの肩を、そっとロックが押し止めた。
アルムも、続けて言う。
「ただ、だ。君たちが求めているのは、正確には情報だろう? 観光じゃあない」
アルムの言う通り。二人が求めたのは、その騎士やその周辺について。
なにか、ノックスとそっくりな騎士の手がかりになること。
「情報収集の拠点として、ぼくの家から部屋を貸すし、食事も提供する。好きなだけくつろいでいいさ」
「そいつはなんと魅力的な報酬だな。それで、その依頼はなんだい?」
「ぁ、いや──ちょっと、ちょっとな」
迷うように、言い淀む姿に、ユリエルは首をかしげた。
その口調は、どこか面倒な場所の掃除でも頼むような、心底困ったようでいて軽いもの。
それでも非常に重要な決断を迫られる自分を納得させるように、何度も頷いていた。
──なにか、契約でも破ってしまうかのような……
楽しむような笑みを浮かべていて、それでもその目の色にあったのは。
「宝探しを、手伝ってもらいたくて」
──悔しさ、でしょうか。
●
《──己、あるべき所に構えよ。それ光をもって示す》
《それは共にあるべきもの》
《それはすべてを映すもの。それは純粋なるもの》
《遠く臨むこと限りなく。輝くこと果ては無く。濁ること底はなし》
《見渡すときこそ見えぬもの》
騎士が、歌う。
分厚く大きな兜のせいなのか、どこかくぐもった声。それでも不思議とはっきりと聞こえてくる。
山に森にと朗らかに響く、気っ風のいい歌声だ。
白の重騎士《ホジスン》に乗ったアルムは、己の町へと向かう道すがら歌を聞かせてくれた。
それこそが、宝探しのヒントになる歌なのだという。
『──とまあ、こんな歌が僕の家に伝わっていたらしい』
「らしい、って。踏ん切りがつきませんね」
ユリエルのあきれたような視線に、ホジスンは肩をすくめておどけて見せる。
顔も埋まるような分厚い上半身の装甲では、なかなかそうも見えづらいのだが。
『キツいこと言うねぇ。これもたまたまあ父さんの遺した古い日記から見つけたんだから、そうなるさ』
「遺したって……すみません、勝手なことを」
『いいってことよ。現に面倒にしてくれたのは違いない。日記がなかったらもっと面倒だったな!』
うつむいたユリエルを、からりとした晴れやかな笑いが吹き飛ばす。
「ほう? 出所は日記なのかい。伝え聞いた訳じゃないのか」
『普通だったらそう思うが違うんだなぁ、探偵よ。なんだって戸棚の上なんかにあったんだか』
「まあ、誰だって隠すもんだな」
「で、そういうやつに限って隠し忘れて見られて大慌てってな!」
馭者の声に三人揃って大笑い。ユリエルは一人残されて、首を傾げていた。
●
アルム曰く、彼の一族は代々この山奥を領地とし、町長として町を興してきたらしい。
『そしてそのヴィルム家次期当主は、十八の時にこの文句に則って宝探しをするのが習わしなんだとさ』
ようはどこかに隠されているという宝を見つけててみろ、なんて子供じみたものだ。
だが、それは確かに代々受け継がれてきたもの。
親父も、祖父も、曾祖父も。代々これに挑み、領主を継いだ由緒あるしきたりだ。
──親父が死んだから、文句の当てもなかったが。
アルムの言葉には、溢れんばかりの呆れと疲れがにじみ出ていた。
『俺は十八、でも親父はとっくにくたばってる。まわりの大人もまともに覚えちゃいないときたもんだ!』
天を仰ぎ、騎士は嘆く。張り裂けそうな悲痛な声が胸をつく。
『最初の半年はうろ覚えのデタラメに振り回されて空振りだった。だがちゃんとした文句を見つけたのだ!』
大きな拳を握りしめ腕を振り上げる。その声にも、力がこもる。
その騎士の大袈裟な身振りには、よくも動かせるものだとユリエルは感心した。
『そして途切れかけた伝統を俺が継がせるのだと思い立った! 張り切って探した!』
「見つからなかった……のですか」
『そうなんだよなぁ……』
重い、重いため息が辺りに響く。
心なしか重騎士も、肩を落としているように見えた。
『この、だだっ広い森のどこかに、そのお宝はあるはずなんだ』
「それで騎士で歩き回ってたってのかい」
『親父は『こいつがあればそれでいい』なんて言ってたしね』
山道のなか、白騎士の先導によって、馬車は進んでいた。
辺りの森はいまだ深い。騎士も通れるこの広い山道でなければ、苦労したであろう。
周囲に広がるのは、森と、丘と、山。険しい崖がある。清らかな水をたたえる川がある。
あふれんばかりの瑞々しい自然が、そこにある。
この中からそのお宝を、見つけ出すというのだ。
いくら重騎士で歩き回ろうとも、どれだけかかるのだろう。
果てしない旅路を幻視して、ユリエルはめまいのあまりに眉間を揉んだ。
『さすがにこれでは厳しいと薄々思ってきたわけで。とどのつまりは探し物の専門家をだな……』
「伝統の試練がそれでいいんですか」
『『持てるものをもって挑むもの』とも日記に添えてありましたから。それに他の連中に頼むのもちょっと、なぁ?』
話を向けられて、ただじっと聞いていた馭者も、困ったように肩をすくめる。
けれどもその顔は、緩む頬を押さえきれていない。
「私は先代のときに手伝いましたからね。それが出張っちゃあズルいでしょう」
「それで、俺は助言役ってわけか」
なら致し方なしと、ロックも頷いた。
宝探しの手伝いで、宿も飯も案内もついてくる。十分すぎるものだ。
「なら、楽しく参加させていただこう。冒険のついでに宿が良くなるなんて、なんとありがたいことか」
『そのくらい軽い構えで構いませんとも。重苦しい決意やらは僕が背負いますから』
あっさりと、アルムは言う。言葉のわりには、重さはどこにも感じない。
『当主代理を返上し正真正銘先祖に恥じぬ当主となるんだ。ご助力お願い致します!』
「うむ、どんと任せなさい」
胸を叩くロックの言葉も、さきを行く騎士の歩みも、心なしか高揚しているように、ユリエルには見えた。
『あぁ──』
ふと、白騎士が足を止めた。
その足元に馬車が追い付き、並ぶ。
『──見えたぞ』
その声にしたがって稜線を越えれば、一気に視界が開けた。
緑のなか、草地と石造りの住まいが辺りに広がっている。
そして時おり介間見える、雑騎士の姿。鍬を振るい、草山をかき回し、農作業にせいを出している。
双眼鏡で覗いてみれば、子供たちがこちらを指差して、大きく口を開けている。
いや、示しているのは白騎士か。
『あれが、僕らの町さ。カルナックっていう名前さ』
その声に気恥ずかしさなど微塵もない。とても、誇らしげな言葉であった。
●
カルナックに踏みいれば、やいのやいのと集まってくるのは子供たち。
騎士が歩く度に波紋のように近寄り離れ、みるみるうちに群がっていく。
近寄るなというアルムの呼び掛けもなんのその。
見かねた白騎士が膝つけば、脚に飛び付きよじ登り、思い思いの始末。
首もとの操縦席からアルムが顔を出せば、わぁと騒ぎ立てるばかりだ。
「ほうら、お前たち。この僕が帰ってきたぞ!」
「どこであそんできたんだ?」
「けっきょくみつかったの?」
矢継ぎ早に言葉が飛び出し、聞き取るのも一苦労。
アルムは両手を広げてどうにか押し止めるが、勢いは止まらない。
「まぁ、待てお前たち。元気なのは良いが、ぼくもこれからも仕事が残ってるんだ」
「なぁんだみつからなかったのか」
「つまんねーの」
「ははは、何をいうか。俺だってな。しっかりと進めてるんだぞ」
言いたい放題の彼らにも、アルムは負けじと胸を張る。
端正ながらも幼さの残る顔もあって、その振る舞いはまるで兄貴分のよう。
いや、事実そうなのだろう。
「じゃあなにやった?」
「今日は隣町でな、悪党をぶっ潰したのさ。困った商人を装った卑劣なやつよ。ほかにも街道整理に──」
「そのていどか」「たからじゃねぇのかよ」「なぁんだつまらねぇの」
「なんだとお前らァ!」
腕を広げて威嚇すれば、ひゃあと子供たちは飛び散っていく。
アルムは結局誰も捕らえることはなかったが、彼も子供らもその顔には嫌悪も侮蔑もない、晴れやかなもの。
ダメだったかと馭者と二人で笑うその姿は、毎度のことらしい。
その光景を、ロックも面白そうに眺めていた。
「ずいぶんと子供たちにも人気だね」
「嫌われていては元も子もないさ。子供にすら嫌がられるのでは立場がないからね!」
「それなら子供らに手伝わせたりはしないのかい。彼らの小遣い稼ぎとしてもちょうどいいとは思うんだが」
彼らの助けを得るのは、ロックも時たまやっていることだ。実績はいくらでもある。
その機動力は今も見た通り。けれどもアルムは首を振って否定する。
「彼らの手を煩わせるわけにはいかないだろう?」
「はぁ」
「畑に家畜の世話、家事に勉強、やることはみんなたくさんあるんだ! 子供だろうが大人だろうがな!」
拳を握りしめ語るアルムの眼差しは、非常に熱がこもっている。
「間隙をぬって遊ぶ子達の大切な時間を僕のワガママが奪うわけにはいかないだろ? もっと時間を大切に、な!」
「で、その結果があの悪党退治か」
「悲劇が一つ消えたからいいだろう!?」
「それならなぜ、あのようなところに居たのでしょうか……」
先程の町での話を統合するに、あの現場はほぼヴィルム家領地のギリギリ外のあたりになる。
ユリエルの冷たい視線に、アルムはそっと目をそらす。
ロックも、馭者のトマスも。三者も集う眼差しにアルムは冷や汗ひとつ。
最初に糸が切れたのは、ロックだった。
「まあ、そうじゃなければ頼んだりしないわな」
「そう、その通り!」
言いきったアルムだが、その言葉はどうにも歯切れが悪かった。
彼の頬も、どこかひきつっている。
「──ねぇねぇおっちゃん。みたことないけど、だれ?」
「”おっちゃん”じゃない。”お兄さん”と呼びなさい──ん?」
視線が、一つ。いつのまにやら戻ってきていた子供が一人、馬車のそばでロックを見上げていた。
さきほど散らばった子供のなかに、見た覚えがある。
「ねぇねぇどうしたの!」
「あ、あらあら…?」
ユリエルのそばにも。また一人。
気づけば子供たちは二人の周囲にまとわりついて、あっという間に馬車の荷台は囲まれた。
どこから何しに誰なの夫婦などなど思い思い好き勝手に騒ぎ立て、言いたい放題。
「またお前たち!」
アルムもまた黙っていない。腕を巻くって飛び出せば、ひゃあ、と子供たちは再び散らばった。
囃し立てるような捨て台詞とともに町に消えていく。
「おぉ、早い早い。どこも子供は元気ですね」
「あれだけ元気が有り余ってるなら、大丈夫じゃないかね?」
「いやしかしなぁ……これは譲れない」
二人の言葉にも、アルムの顔は非常に苦いものだった。




