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砂上の老若  作者: クーズー
6/7

万馬券

翌週に鷹は大西、山崎と一緒に麻雀を打ちながら話をしていた。今日は尾池が欠席なので雀荘のボーイさんに入ってもらっていた。

「山崎さん、こないだやりましたよFX。難しいですね。」

鷹が話すと山崎は少し驚いていた。

「最近のアメリカドルは動きが激しいし読みにくいでしょ。損したんじゃないの〜?」

図星だ。

「うん、1万くらい負けちゃいましたね〜。」

10万円も負けたとは言えなかった。程々の金額にしないと周りからギャンブル中毒だと思われるのが嫌だったからだ。

大西は誰かと電話している。電話しながら考えつつ牌を切っていくなんて器用な奴だ。まるで料理しながらテレビを見つつ電話をする由美のようだ。鷹はそう思いながら大西の電話を聞いていた。どうやら野球観戦に行くつもりが1人欠員でチケットが余ったらしい。

「山崎さん、来週木曜の夜どうすか?横浜ー阪神1塁側中段あたり。」

山崎は予定があって無理なようだ。

「綾野はどないや?」

木曜日は研修で早く上がれるので問題なかった。

「行きま〜す。」

鷹は野球に特別興味はなかったが参加することにした。

「あ、それロン。」

大西は器用に見えたが場をあまり見ていなかったのか山崎の満貫手に振り込んでしまった。


木曜日の夕方に研修を終えた鷹は野球場へ向かった。阪神・横浜どっちのファンでも無いが生でスポーツ観戦するのは好きだった。到着すると大西と大西の教育担当の先輩である石川が一緒だった。

「おつかれさまです。2部配属になった綾野です。今日はよろしくお願いします。」

石川は笑いながら

「知ってるよ、そんな畏らなくていいから。今日は飲もう!」

この人は社内でも歳が近く、気さくで明るい人だ。

席につくと石川は辺りを見渡す。

「とりあえずビール頼もう!えーと、あのお姉ちゃん呼ぼうか。」

近くにもう一人ビールの売り子さんがいるのだが少し離れたところにいる美人の売り子さんからビールを買いたいそうだ。

「ありがとうございます、ご馳走になります。」

鷹と大西はビールを買ってもらい乾杯した。


石川はどちらの球団のファンでもなく広島ファンだった。

広島の選手が阪神に多く移籍していることもあり、今日は阪神の応援をすると言う。

「高田さんのとこに配属でしょ、あそこメンバー皆我が強いおっさんばかりで大変じゃない?新入社員が育たずに辞めちゃう事多いんだよね。」

まさにその通りだ。

「最初から怖いイメージありましたね〜。ちょっとずつ頑張って慣れていきます。」

石川は大西の方を向くと

「おい、綾野はちゃんとしてるぞ。お前も事務の〇〇ちゃんにちょっかいかける暇があったらちゃんとやれよ。」

大西は少し恥ずかしそうにしていた。この師匠と弟子は仲がいいんだな、と鷹は思った。


試合は阪神の圧勝で終わった。

スタジアムを出て近くの居酒屋に入った3人はビールで乾杯した。

「石川さんはよく野球観にいくんですか?」

鷹が聞くと

「野球はたまにかな〜、どちらかと言うと競馬の方が多いよ。競馬やるなら来週行くけど来る?」

競馬は昔鷹の祖父がやってるのを見ていただけで競馬場に行ったこともないが何が面白いのか興味があった。

「はい、ご一緒させてもらっていいですか。」

大西も一緒に行くことになった。


翌週の土曜日に3人は競馬場に集まった。

入口で入場券を買い、中に入ると新聞を買った。

そのまま歩いて奥へ進んでいくとすでにパドックと呼ばれる場所で1レースに出走する予定の馬が周回している。

「えらい大きいな。こんな大きい馬にあんな小さい騎手が乗って操縦するってすごいやん。」

大西も来るのは初めてのようで驚いている。

鷹もテレビで見るのと実物とでは随分イメージが違うと感じた。

「ここでまず馬の状態を見るんだ。暴れてる馬とか元気がない馬、馬っぷりはここでチェックする。」

石川はそう言うが馬の健康状態などサッパリわからない。

新聞を見ると◎〇▲の記号が打ってある馬がいる。

オッズと見比べると印がついてるのが人気馬だとわかった。

パドックを見ていると色々な馬がいる。厩務員に逆らって嫌々歩いてる馬、逆に甘えっぱなしの馬、糞をポロポロ出しながら歩いてる馬、チョンチョン跳ねてる馬、よくわからない。

だが新聞に◎がついている馬をよく見ると真っ直ぐノシノシ力強く歩いていて如何にも強そうな雰囲気だ。

鷹はこの◎の馬の単勝を買うことにした。


馬券にはいくつか種類がある。

1着の馬だけ当てる単勝、1〜3着以内の馬1頭を当てる複勝、1〜3着以内の馬2頭を当てるワイド、順不同で1着2着を当てる馬連、順通り1着2着を当てる馬単、順不同で1〜3着全て当てる3連複、順通りに1〜3着全て当てる3連単。

これだけ見ると複勝が一番当たりやすいのだが配当が低い。逆に3連単が一番当たりにくく配当が高い。


建物内に入るとマークシートと鉛筆があり、これをマークして購入金額と一緒に券売機に入れると馬券とお釣りが出る。馬券を買って馬場のあるスタンドへ出ると広大なコースが目の前に現れた。

芝のコースとダートと呼ばれる砂のコースの2種類が内側と外側に分かれている。


スターターの旗振りとともに1レース目のファンファーレが鳴った。

1レース目はダートの未勝利戦で1600mだがスタート位置が遠くて見えない。未勝利戦とは1度も1着になったことのない馬ばかりが集まるレースである。

スタートしたことは中央の大きなモニターで見ながら確認できた。広いトラックをすごいスピードで回ってくる。

地響きのようなドドドドという音と共に馬達が目の前を走り去っていく。あまりのスピードと砂埃でどの馬がどこにいるのか全くわからない。

結局中央のモニターで確認することになった。

1着は鷹の選んだ◎の馬だ。

「お、当たった!単勝。」

鷹と併せて大西も

「オレもや!馬連当たったわ。」

石川はハズレ。1着と4着の馬連だったらしい。

単勝は2.7倍で100円買ってたので鷹は270円。

馬連は25倍で100円買ってた大西は2,500円だ。


1レースが終わると2レース目のパドックを見に戻る。

次のレースも未勝利戦だが牝馬という雌の馬限定のレースだった。

また新聞紙面の◎や〇の馬に注目してみるが◎の馬はどことなく元気がなくトボトボ歩いている。1頭だけ歩くのが遅くて後ろがつかえている状況だ。

「これは荒れそうだな。」

石川も◎の馬を疑問視していた。

「それよりも12番の馬見てみろ。毛ヅヤもトモの張りも踏み込みもしっかりしてる。」

12番の馬が前を周回してきた。

ノシノシと力強く歩いている。太陽の光が馬体にあたって輝いていた。この12番は新聞に何の印もついていない。

鷹も大西もこの馬から馬連で5頭を相手に200円ずつ買った。石川は3連複で12番を軸に100円で20通り買っていた。


2レースでは石川の予想通り波乱が起きた。

◎も〇の馬も最後の直線でズルズル下がっていってしまい人気薄の馬が2頭入ってのゴールだった。

そのうちの1頭は12番だ。

「え!?よく見えないけどこれ12来たんじゃね?」

3人のテンションが途端に上がる。

「ほんとだ!12が1着だ。12-10-5か!」

12は10番人気、10は8番人気、5は3番人気だった。

大西は12-5の馬連は持っていたが12-10の馬券は持っておらずハズレだった。

鷹は自分の馬券をポケットから取り出して12-10の馬連を200円買っていたことを確認すると叫んだ。

「うおー!きたぁ!」

石川も3連複的中だったようだ。

「よし!とった!」

馬連は130倍で200円買ってた鷹は26,000円。

3連複は310倍で100円買ってた石川は31,000円。

「くっそー、12は買ったのになぁ。」

大西は少し悔しそうだったが気を取り直して3レースのパドックを見に行く。


このレースは障害未勝利戦で2,880mの距離を走る。2レースまでの馬と比べると少し大きく見えた。

石川は体に模様が出ている馬は体調が良いと教えてくれたがどれが模様かわからない。

「あれちゃうか?」

大西が馬の腰のあたりに丸い模様がついているのを見つけた。

「違うな、あれは電気治療の跡だ。もっとこう、体の中から浮き上がってる感じだ。」

石川のいう模様がよくわからないが首筋にかけてうっすら模様が出てる馬がいた。

「これこれ、これ銭形といって調子がいい馬に出るんだわ。」

鷹はその銭形が出てる7番の馬を軸にしてまた馬連で5点を200円ずつ買った。

大西も7番から馬連で5点、石川は7番複勝で5,000円買っていた。


3レースがスタートした。

障害レースはコースの中に置かれた生け垣障害や水濠障害という障害物を人馬一体でジャンプして通過しなければいけないレースだ。

スタートしてすぐに2番が落馬し場内からはどよめきがあがった。2番は1番人気の馬だ。

「お、これはオッズはねるぞ〜。」

石川の買った複勝は1〜3着馬の人気に応じて配当が変わる馬券だ。1番人気が飛ぶとオッズは上がることになる。

最終障害を飛越したところで7番の前を走っていた10番がバランスを崩して倒れてしまった。後ろから飛越した7番も避けようとしたがこのアクシデントに巻き込まれて落馬となった。

「ああ!?ふざけんなよ10番!これなけりゃ当たってたろ。」

石川は少し怒っていた。

落馬した馬は失格の扱いとなり賭けたお金は戻らない。


4レースも未勝利戦だったがこのレースは◎〇▲の1.2.3番人気で固い決着となり、穴狙いの買い方にシフトした3人は全員ハズレだった。


午前中のレースはここで終わりとなり、昼休憩を挟んで午後のレースが始まる。









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