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砂上の老若  作者: クーズー
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パチンコ屋との出会い

鷹は大学の4年間で法律を専攻した。4年目に入るとリクルートスーツで講義に出る生徒が増え、就職活動で慌ただしくなり始めた。

鷹は祖父が亡くなる直前に大手のM商社へ入ることを強く熱望していたことを思い出し、その会社の法務部に行くことを第一目標に面接を受けた。

結果は残念ながら落選となってしまった。

このまま何もしなければ世間的にはニートと呼ばれる人になるのだろう。鷹にはそれだけは避けたいという気持ちがあり、数社内定をもらった会社でも業種を問わず一番大きな会社に入ろうと決めた。入社先は大手コンビニチェーンである。


「いらっしゃいませ。」「かしこまりました。」

こういった接客サービスを受けるのは客側の立場では経験があっても自分自身が提供する側になるのはアルバイト経験を含めても鷹には初めてだった。マニュアルや仕組みが確立されていて、アルバイトの高校生でも覚えやすい内容である。扱っている品目やサービスは多く、店舗の立地や直近の天気、近所のイベントによって売れ行きが変わる為、発注は店長や副店長に確認しながら覚えていった。


半年が経ったある日、鷹は副店長として転勤を言い渡された。行き先は静岡県内の港に近い店舗である。店には店長がいるが夜勤のアルバイトが不足していた為、鷹と店長が週毎に交代で夜勤に入るようになった。

休憩時間に外に出てタバコに火をつけてみる。辺りは暗くそびえ立つ山と、遠くに見える船の灯りが微かに見えるだけで人通りはほとんどない。鈴虫の鳴き声に時々通りかかる車の音が聞こえるだけだ。このあたりは車が無いと生活は難しそうだな、と思いながら鷹はまた店内に戻る。

夜勤のメンバーは日によって変わるが一緒に入るのは大体が30代後半の吉田さんか、高校を卒業したばかりの坂本さんの2人と一緒になることが多かった。2人とも性格は穏やかで仕事もテキパキやり、鷹ともすぐに打ち解けた。


シフトが終わって翌日が休みになると坂本さんとカラオケや地元の名所に遊びに出かけることが多くなった。全く見ず知らずの土地で心細さもあった鷹にはこういった遊び仲間が出来たことは嬉しかった。吉田さんはシフトから上がると自宅へ戻らずそのまま車でどこかへ行っているようだったがその時はあまり気にはならなかった。


ある日の深夜に吉田さんと同じシフトになった。

「吉田さんって、シフトあがった後はいつもどうされてるんですか?」鷹は雑誌を並べながら聞いてみた。

「パチンコ屋ですよ、ほら駅前の。10時開店だからシフトあがりに行くといい席取れるんですよ。」

鷹はパチンコはしたことがあったが、暇つぶしに入っただけで、千円打ってすぐに球が無くなり楽しいというイメージはなかった。ましてや朝から行ったことはなかった。

「明日空いてます?一緒に行きませんか?」

吉田さんから誘ってもらえるとは意外だった。

「明日は何も予定ないです。じゃあ、お願いします。」鷹には特段断る理由もなかった。


朝9時半には朝番の人に引き継いで仕事を終え、吉田さんと駅前へ向かった。駅前といっても田舎の駅なのでそれほど人も多くない。その一角に人が10人程並んでいる。この人達も吉田さんと同じように席を取る為に並んでいるのだろう、その列の最後尾に2人は並んだ。

10時になると店のドアが開き先頭の人達が早足でまるで自分の家のように中をすすんでいく。ものすごい音量の音楽が流れ、店員がマイクで店内アナウンスをしているが何を言ってるのか鷹には全く聞き取れなかった。

「こっちです。この札がささってるところに座るんです。」吉田さんが座ったのはパチスロ台だった。台の右上には卵のマークがついた札がささっている。

鷹はよくわからないが吉田さんの隣の台に座った。

吉田さんは慣れた手つきで台横にあるメダル貸出機の紙幣投入口に千円札を入れると貸出機のスロープからメダルが50枚ほど出てきた。鷹はてっきりパチンコ台に座るものだと思っていたのだが、スロットはやったことがない。

「やり方教えてもらっていいですか。」

吉田さんに聞けばこのスロット台は5号機と呼ばれるものらしく、パチンコのように大当りしたときだけ赤や青の7を3個リール上で目で見て揃えるそうだ。

通常は適当に押してて問題ないがそれだと大当りするまでに打ち手が飽きるのでアニメのキャラがベルやスイカが揃うのを告知してくれるのだ。

吉田さんを見ながら鷹も同じように打ってみた。

メダルを3枚BETしてレバーを引き、リールを回して停止ボタンを押すが、それだとわずか16回しか回せない計算になる。だが途中でベルやスイカなど小役と呼ばれるマークが3個並ぶと数枚のメダルが払い出されるので、実際には千円分のメダルで20回以上は回すことができた。

吉田さんは素早くレバーを押して回していく。千円分のメダルが無くなるのに5分〜6分もかからなかった。どんどんお金が貸出機に吸い込まれていく様子は鷹を不安にさせた。アルバイトで1時間かけて稼ぐ時給がわずか数分で無くなっていくことにこの人は不安にならないのか、と鷹は思っていたが6千円程使ったところで吉田さんは大当りした。

大当りで1度に300枚程のメダルが出ていたが、その後も連続で大当りしていた。

鷹も同じようにメダルを入れてやってみた。3千円入れたところで大当りの画面が出た。回っているリールで7を揃えるとボーナスゲームに入り次々とメダルが払い出される。思った以上に簡単なんだな、と思っていると店員さんがささっていた卵の描かれた札を宝箱の札に差し替えた。

「その台、今日一番設定がいい台ですよ!よかったですね。」吉田さんの台の札はコインのマークの札に変わっていた。聞けば宝箱の次に設定がいいらしい。

昼過ぎになると2人ともコインの入った箱が4つ、5つと増えていた。


食事を終えて席に戻り再び打ち始める。鷹は今夜も夜勤だったので少し仮眠を取る為に夕方で切り上げることにした。

「おつかれさまでした。かなり大当り出ましたね、ありがとうございました。」吉田はまだ残るというので鷹は先に店を出ることにした。

店員にメダルを精算してもらう。メダルはトータルで5000枚程となり、換金すると10万円近い金額になった。だった3千円で10万円儲かるのだったら働くのがバカらしいと思ってしまう。

仮眠をとり鷹は夜勤に入った。


ずっと座ってボタンやレバーを押していたせいか体がだるかった。耳も大きな音量のせいで耳鳴りのような状態が続いている。品物を整理して店頭に出していくが鷹はボーっと他のことを考えていた。

もう一度あの店に行けばまた稼げるんじゃないか。

その翌日は特に予定はなかったのでまた駅前のパチンコ屋へ向かった。昨日ほどではなかったがまた2万円程収支がプラスになった。


鷹は近くのスーパーに入り買物をする。臨時収入があったので普段買わない寿司や肉、菓子やお酒を買い込んだ。今日はささやかな贅沢を楽しむ日だ。

近くのレンタルビデオ店で借りたDVDを見ながら飲むビールも悪くない。

その日は鷹の誕生日だった。大学時代からの彼女とは毎週電話でやり取りしていたが遠距離ということもあり、会うのは3ヶ月に1回程であった。


翌日の夜勤後にも鷹はパチンコ屋にいた。

すでに2万円以上使っているがまだ大当りはない。吉田さんと行った日はたまたま札をさすイベントをやっていたがその日は特に何のイベントもなかった。その日は3万円負けた時点で手持ちの現金が無くなったので店を後にした。


翌週も鷹はパチンコ屋へ向かった。3万円負けても当たれば10万円で戻ってくることがあると思っていたからだ。その日は5万円負けた。

イベントのある日に絞って行けば負けないだろうと、鷹はまた翌日パチンコ屋へ向かったが4万円負け。

卵の札が卵のままで変わることは無かった。


インターネットで調べるとこの地域には他にもパチンコ屋がいくつか点在していた。 鷹は貯金から数万円を引き出して行ったが持って行った分ほぼ全てを使い切ってしまった。


夜勤に入ると鷹と吉田さんとはパチンコの話をよくするようになった。そして駅前の店に新台が入ったら一緒に行くようになっていた。

常識で考えればお客さん全員が勝ち続けると店の儲けが無いので商売として成り立たない。それでも鷹には攻略法やオカルトまがいの情報から自分だけは勝ち組だという考えが頭から離れなかった。


転勤して1年も経たないうちに鷹の貯金は底をついていた。




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