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地獄のボス部屋~ヘポラルド2~

 このボス部屋、十六鏡回廊の最深部で激しい戦いが始まろうとしていた。


 倒すべきはヘポラルドという変な名前のアークリッチで脅威度はA+

既に滅んだ王国の賢者が死霊系のモンスターになったものだった。

リッチとは強大な魔法使いがアンデッド化して不老不滅になったものだが

ヘポラルドはその上位版にあたる一等強いリッチなのだ。


 ボス部屋に到着した108名の大部隊はヘポラルドの殺気を当てられただけで

戦意喪失するものが続出し脱落したものはゾンビの相手をさせられている。


 その殺気に耐えられた者だけがヘポラルドと戦う資格がある。

たとえば次期ネクスト勇者のユージ・タナカとパーティメンバーや

クラリス王国の将軍であるローザ様、リライザさんなど猛者たちが前衛。


 他はこの世界に転生してきたリナ(=リッツォー)と上司のシークさん、

賢者フレアやクラリス聖歌隊、他上位の魔法使いたちが後ろに控えており

支援やボスの妨害が主な仕事になる。


 ザマフ達など力の劣る冒険者は震えながらゾンビと死闘を繰り広げている。


 「ヘポポ何とか君、さっさと俺に倒されて経験値とゴールドになりたまえ。

何の取柄もなく使えない君が世の中に役に立つにはそれしかないのだよ」


 口の悪い勇者のユージ・タナカが相変わらず口撃を続けている。


 「貴様のこれまでの発言は万死に値する。もう実験の材料にも使ってやらん。

前回吹き飛ばしたとき、貴様の体が欲しくてつい手加減をしてしまったが

その必要はなかったようだな。今度こそ粉々になって死ぬがよい」


 ――『ダークブリザード』


 ヘポラルドの周囲にグルグルと暗紫色の渦が巻き邪悪な冷気が集まっていく。

その中心には透けて魔法陣が見える。こぼれた冷気は地を這って周囲に広がり

リナのほうにまでブワっと漂ってきた。離れているのに体がびりびりと痛い。


 そうか冷たい空気って下に沈むもんね……。よく見ると地面が少し濡れている。

気温が下がりすぎてごく一部が液体空気になっているようだ。

ただの発動準備に過ぎないのに既にこれだけの被害があるのは恐ろしい。


 「はーい! そこまで」


 そのときボスの魔法陣がバチンと弾けて冷気が霧消し嘘のように気温が戻る。


 「わーい! 今の思いっきり無駄な魔法だったねー残念でしたー。

フレアがいるんだからそんな重たい魔法打てるわけないのにねー」


 「いいぞフレア。さぁ唯一のとりえの魔法を封じられたヘポポ君には

いったい何が残るのかな? 早く何かやってみい。ほれほれどうした」


 「小癪な。口の悪い貴様を八つ裂きにする前にまずは我の邪魔をしている

うるさい小バエどもを滅ぼしてくれようぞ。楽に死ねると思うな?」


 ――『ブラッディエッジ』


今度はより小さい魔法陣が作られて毒々しい赤黒い刃を形成していく。

風系魔法でこれをフレアに向かって飛ばそうという攻撃だったようなのだが

その前に再び魔法は弾けて飛び散ってしまった。


 「ぶっぶー! 残念でしたー」


 「おいおいヘポポ君、なんだ今の残念な攻撃は? 君の頭はニワトリなのかね。

魔法はダメだって言ったそばから魔法を使いだすなんてがっかりだよ」


 「フン。かなり溜めの短いのを選んだのだが今のでも阻止されるのか。

なかなかやるではないか。だがより短い溜めや無詠唱の魔法はどうなるかな?

どこまで我の魔法を阻止できるのか小バエ女、貴様を実験してやる」


 「取り込み中のところ失礼。残念ですが、貴方にそのような時間はありません」


 シュッ! ズバッ!


 ユージ・タナカやフレアの挑発で完全に周囲が見えなくなったヘポラルドに

一足飛びで踏み込んでいったローザ様の聖剣クルアーンが一閃!

肋骨から背骨を叩き切って通り抜けヘポラルドの体を左から両断する。

そのままヒラヒラと剣筋を一周させて手元に引きローザ様が構える。

その華麗な動きにリナは思わず見とれてしまった。


「これで終わりです!」


 ――『ラジアータ』


 ローザ様の剣技が炸裂。

シャワーのように放射線状に聖剣クルアーンの剣閃が走って突き刺さる。

目にも止まらぬ速さの突きのラッシュだろうか? ローザ様の手元が見えない。

針の山で串刺しにされたようにヘポラルドの体は穴だらけになり崩れていく。


 見ているだけでも物凄い攻撃なのだがヘポラルドにとっては運の悪いことに

聖剣クルアーンはアンデッドの弱点となる神聖属性をまとう剣になっており

さらに事前にリナのホーリネスによって神聖属性が強化までされていたのだ。


 これが普通の剣であれば上位のアンデッドなら消滅するほどのダメージには

ならない可能性もあるが、今回は本当に条件が悪かったのではないだろうか。


 ヘポラルドの体は散り散りになり何もなくなった空間でローザ様は手を止め

スッと一度剣を縦に振り下ろしてから手を返して剣を鞘に納める。

血振るいという動作だが相手は死霊系で血が出ていないので特に意味はない。

かっこつけというわけではないだろうけど普段の習慣だろうか。


 ローザ様のお姿は、プラチナブロンドの金髪に派手な装飾の神々しい聖剣、

緋色のドレスは魔布でできており今は下手な金属製の鎧よりも防御力があるのだが

この部屋で一番人目を引き付ける美しさがある。空間を支配する美というか

本当に絵になる人だなぁとリナは思う。


 「やるじゃないかローザ君。心眼でヘポポ君のゲージを見てみると

10%ぐらいはダメージを受けているようだよ。まぁ高レベルの鑑定妨害のせいで

細かい数値までは読み取れないけどね」


 「今ので倒せてはいないのですか? ユージさん。感触はあったのですが……

私は一つ下の強制鑑定しかもっていないのでゲージなどは読み取れませんね」


 「実はヘポポ君みたいなモンスターは霧状になっているのが本当の状態で

魔法使いの恰好をしたスケルトンみたいに実体化しているほうが仮の姿なのだよ」


 「そうですか。私のクルアーンは神聖属性をまとっている剣です。

あれだけ叩き込めばアンデッドならただで済むはずがないと思うのですが」


 「ヘポポ君が普通のリッチか、それより格下のドレッド・レイスあたりなら

今のローザ君の攻撃で大きなダメージを受けるか倒せていた可能性はあるよ。

普通の人間にしてはなかなかの攻撃だった。うんうん。」


 「そうですか。私は普通の人間ですか」


 そこから少し離れた場所でリナたちのグループは話していた。


 「シークさん! ローザ様って本当にすごいんですね!

今の場面めちゃくちゃかっこよかったです。動画にとって保存したかったなぁ」


 「ローザ様はライブフォースが1万を超えて冒険者ならS級に相当するからね。

そのドウガ? というのは僕にはよく分からないけど」


 「あとはゾンビを倒さないとですよね。ザマフさんも少し怪我してるみたいだし

こんなところで死人がでないようにしたいです」


 リナはホーリネスを飛ばしてゾンビと戦っている冒険者たちを回復させていく。

ローザ様の活躍がなかったらやられていた人たちもいたかもしれない。

周りを見渡すと少し離れた場所にリライザさんが立っていた。


 「リライザさん! 大丈夫でした? 終わってよかったですよね。

あとは早くゾンビ倒してここから脱出しないとですよね」


 「リナちゃん、こっち来ちゃだめだよ。フレアや聖歌隊のいる所にいくんだよ。

やけにあっさりすぎるし、ヘポラルドがこれぐらいで消滅したとは思えないから。

隙を伺って油断したところをまた実体化して襲ってくるかもしれないからね」


 見ると賢者フレアも勇者のユージ・タナカも臨戦態勢を解いていない。

まだ終わってないのか。なら今のうちにリライザさんの剣に神聖属性をつけよう。

それからシークさんと一緒に賢者フレアの近くに戻る。


 そのフレアは空中に図面のようなものを浮かべて睨めっこしていた。

レーダー的なものだろうか? 近くに色とりどりの魔法球もふわふわ浮いている。

空いた時間に次々と魔法を詠唱して球体にして周囲に貯めこんでいたようだ。


 集中しているようなのでリナは邪魔にならないような位置に立って

フレアを見ていたところ、彼女は突如何もない空間に青と赤の魔法球を飛ばした。


 青の魔法球は稲妻を放出し、赤の魔法球は灼熱で空間を焼いていく。

やがてその二つは混ざり合い赤い稲妻となってバチバチ回転しながら放電する。

こっちに飛んでこないよね? 当たったら即死しそうなんですけど。雷怖い。


 フレアは空中に透けて浮かぶレーダーを凝視して難しい顔をしている。


 「んーだめだー。この作戦でいくとフレアのほうが先にMP尽きちゃう。

集まりつつある場所に攻撃しても十分の一ぐらいしかダメージ通らないから

効率悪いみたい。残念。フレア悲しい」


 どうやら実体化してきたところを叩かないと長引きそうな感じらしい。


 「おーい ヘポポ君 いつまでも隠れてないで早く出てきたまえ。

早くしないとこの部屋から出さないようにしてる広域魔法陣を破壊して

ついでにアンデッド撲滅用の魔法陣に張り替えておくけれどもいいのかー?」


 隠れられていても時間さえあれば討伐隊にはいろいろ打つ手はあるようだ。

やがて高い空中に霧が集まってヘポラルドが再び現れる。

今度はフレアも魔法球を打たないで実体化するまで敢えて待機をしている。


 先ほどローザ様に聖剣でやられたはずの体は見た目上は元通りになり、

霧状態のときにフレアの魔法球で受けたダメージも読み取れない。


 「フン。勇者と小バエ女以外にも少しは戦えるやつがいたようだな。

緋いドレスの女! 貴様が男だったならアイシス様の伴侶への触媒に使えたのだが

実にもったいない。だが、よい体だから貴様は別の実験材料に使ってやろう」


 「私のさっきの攻撃で倒せなかったのは残念です。

しかし先ほどより、少し貴方の体が小さくなっているように見えますね。

どうやらまったく効かなかったというわけではないようです」


 「なかなか良い不意打ちだったが我に同じ手は通用せんとだけは言っておこう」


 さすがにちょっとはダメージがあったようだ。それならこちらがやられない限り

少しずつ攻撃を与えていけばいずれは倒せるということになる。

これから今度はどういう闘いになるのだろうか。

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