リナの初陣、初ダンジョンその1~リライザたちとの再開~
リナの初陣です。
最初の山場になりそうなので、この話がしばらく続きます。
剣と魔法の世界で初戦闘!
そう意気込んでダンジョンに入ったリナ(=リッツォー)だったのだが、
入っていた気合の分だけ拍子抜けをしてしまった。
――『十六鏡回廊』
ここがリナの初陣、デビュー戦となるダンジョンなのだが
その通路ではモンスターの代わりに冒険者と兵士がひしめき合っている。
物語なら5人1パーティーで進んで攻略していくところだが、
それは脚色された話に過ぎないのか? 現実には『大名行列』状態になっていた。
リナは『大名行列』の後方中央に布陣しており
わかりやすく5両式の電車に例えると4つ目の車両に相当する場所だ。
先頭の1両目は、あまり強くない冒険者のパーティが配置されており
罠の発見や解除、索敵、発見した敵を引きつけての退却などが仕事になる。
そうやって引っ張り込んだ敵を叩くのが2両目の役目なので
ここは戦闘力の高い冒険者パーティが割り当てられている。
3両目は主力部隊で勇者の一行や将軍のローザ・スカーレット様がいる。
2両目で太刀打ちできない敵を倒すが、基本はこのダンジョンのボス戦のため
温存されていなければならない。
4両目はリナやシークエンスが配置されている支援部隊で何でも屋だ。
怪我を負って下がってきたものを回復、ボス戦では主力部隊を後方から支援、
後ろから全体の様子を観察して主力部隊に報告などをする。
5両目はクラリス聖歌隊で教会が送り込んだ聖魔法の使い手たちだ。
周囲に湧いたアンデッドを浄化する仕事もあるが、基本は回復に専念する。
「シークさんの言ったとおりでしたね。アンデッド退治と聞いて
どんな怖い思いするのかと思ったら、平和すぎて本当にピクニック気分です」
「あはは、初陣なんだしリナはそれぐらいの気持ちでいいんだよ。
そのうち傷ついた者が下がってくると思うから、そしたら初仕事だね!」
「ホーリネスを味方に使って回復ですよね? ドキドキしてきました」
「何も心配すること無いよ。初めての経験は一回しかできないんだから
楽しい思い出にしようよ。僕もリナと初めて冒険できて嬉しいよ」
たまに散発的な剣撃音が前の方から聞こえるがすぐ止んでしまうので
危険なダンジョンに入っているという実感がまったく沸かない。
大勢に守られている安心感が強くて完全に他人事になっている。
前の方にいる人達は大変かもしれないけど、その分報酬も大きいそうだ。
それにしても一向に敵が来ない。もう突入して一時間は経っている。
このままだと何もせず終わってしまい初戦闘を経験できないかもしれない。
といっても前の方では罠の確認や正解ルートの確認などに手間取っていて
入り口から一時間でリナが歩いた距離は200メートルぐらいなのだが。
――『十六鏡回廊』は廊下に鏡が配置された無限回廊風のダンジョンで
長い一本道の先に回廊があって16の鏡が配置されている。
正解の鏡を使って転移することで次の回廊に進めるのだが、
不正解を選んでしまうと入り口に戻されてしまう。似たような16の回廊に
16の鏡が配置されているので鏡の数が256個あるというダンジョンである。
先行部隊が次々と鏡に目印をつけては、不正解を選んで入り口に戻ってくる。
これを人海戦術とも言う。うっかり最後の正解を選んでしまった人は
ボスに瞬殺されてしまうだろうから、先行の人たちは不正解が望ましい。
やがて手傷を追った男がリナの前に連れてこられたのだが
付き添いの女性には見覚えがあった。
「あれ? リナちゃんじゃないかい 」
「リライザさん! どうしてここに? ……じゃなくて
頂いたこの服、なんか特別な魔布だったみたいでありがとうございます!
装備買えるようになったらいつか必ずギルドまでお返ししにいきますので」
リライザとの出会いは良いものではなかったが服のお下がりをもらったことで
少し打ち解けて二人は話せるようになっていた。
「その服はリナちゃんが着るほうが似合うだろ?
あたしはもう着ないし、リナちゃんに着てもらったほうが服も喜ぶからね。
……それよりもいきなりこんなところに来て大丈夫なのかい?」
「うん。前の方の人は大変そうだけど、後ろの方にいるからぜんぜん大丈夫」
「その大変そうな人が俺だけどな。なんだこのキツイダンジョンは。
ゾンビを1匹倒したまではよかったんだが、横に湧いたスケルトンにやられた」
傷ついて血を流したザマフがリナの前に出る。
「お嬢ちゃんはあの時のか。嬢ちゃんが汚した床を俺が掃除したんだぞ。
あのときは汚いローブの女だと思っていたが見違えるように綺麗じゃないか
がはははっ 今度俺がおごってやるよ。 嫌とは言わないよな?」
リナの屈辱的な光景、その現場にこの男はいたようだ。
羞恥心でうつむくリナの腕をザマフが掴んで笑っている。
「ちょっと、君、リナが嫌がってるよ? 怪我人は黙って治療を受けようね」
シークがザマフに文句を言う。
「なんだお前は? 別にまだ怪我人の行列ができてるわけじゃないんだ。
後ろで控えてるような男が前衛の気持ちも知らないで余計なこと言うな!
だいたい俺たちがいなければお前らなど罠か迷子になって全滅だ」
「お、おい。ザマフさん」
「なんだ、オズマ。お前の怪我はどうした?」
「もう別の人にもう治してもらったよ。というかそのシークって男の人……」
Lv:31 シークエンス=ブリンドル 年齢/種族/性別 : 24/人族/男
LF(ライブフォース量):2134(身体 1224/スキル310/魔法600)
HP:486/486
MP:738/738
称号:元B級冒険者 男爵家次男
オズマが簡易鑑定の結果を耳打ちするとザマフは頭を深く下げて許しを請う。
「まったくこの馬鹿は学習しないね また後でこき使ってやらないと」
様子を見守っていたリライザがため息をついていると、シークが口を開く。
「ようやくリナの出番がきたんだよ。これが最初の仕事だね。
どれぐらいの回復効果あるか僕も興味あるし見てみたいな」
うながされたリナは神魔法Lv1『ホーリネス』を発動する。
スラム街の自宅で何度も試したものの使い方が分からなかった魔法だが
人に使うとリジェネの回復効果があるそうだ。
この世界での回復魔法にはいろいろあるが
人間の身体は地水火風空で構成されているので
この基本属性を組み合わせることで手術レベルの怪我の応急処置ができる。
理論上は人間の部品も作れるはずなのだが、神の加護がないと実現不可能らしく
身体欠損レベルは治せない。
そうやって5つの属性魔法を操るには相応のライブフォースも必要だし
回復に手間も時間もかかるので戦闘中に行うのは難しい。
そこで神聖魔法の登場となる。こちらは神の加護によって体の失われた部分が
少しずつ生えてくる。この状態のときには地水火風空を組み合わせた魔法で
体の部品を作ることができるので、合わせれば素早い復帰も可能になる。
――「ホーリネスッ!」
リナが発生させたシュワシュワした光がザマフの傷ついた右肩や腕に飛んで
ふんわりと患部を包み込み痛みが和らいでいく。
「おう! これ気持ちいいな 教会で受けた聖魔法より効果ありそうだぞ。
オズマ、お前もこの嬢ちゃんに回復させてもらえばよかったのに」
「ザ、ザマフさん、しーっ! 後ろに聖歌隊の人いるから」
「やべ と、とにかく綺麗な嬢ちゃんありがとな! 元気が出てきたぜ。
俺たちと違って怪我しなかったヨークは損をしたかもな」
三人組だったのでヨークはザマフたちの仲間の名前だろう。
「リナちゃん、ザマフをありがとう。この魔法で口の悪さも治ると良いけど。
とにかく回復の仕事に専念して絶対無理をしちゃだめだよ!
リナちゃんはレベル1なんだから危なくなったら逃げてもいいからね!
とにかく絶対死なないって約束してね」
「うん。というか私なんかよりリライザさんこそ無理しないでね」
やがて完全回復したザマフたちはお礼を言って前の方に走っていった。
……。
その後何人も治療をしてダンジョンに潜って二時間ほど経った頃
正解ルートをだいぶ絞り込めたようで本格的な進軍が始まったのだった。
次回は本格的な戦闘シーンになるかもしれませんし
まだピクニック気分かもしれません。