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地獄のボス部屋~ヘポラルド4~

 ユージ・タナカの一声で集結した勇者パーティがボスと向かい合っている。

今まではヘポラルドの魔法を警戒して慎重に戦いを進めてきたのだが

多少の攻撃はすぐ回復されてしまうという事で総攻撃の様相を呈してきた。


 「遠くで見ているギャラリー君たちにもそろそろ協力してもらおう。

フレア、全員でヘポポ君に向かって攻撃魔法を打つように声をかけるんだ」


 「うん。ユージ様。みんなの火力でこんがり焼きあげるのが楽しみ!」


 勇者パーティとして前線に出ていたフレアは後ろを振り返り手を上げて

ヘポラルドを指差しながらジェスチャーで攻撃対象を示した。


 「みんなにお願い! 攻撃魔法を撃てる人たちであいつを攻撃して欲しいの」


 今までは相手に反撃されないためや大魔法の詠唱を妨害するために

後方で牽制役の指示が出されていた魔法使いたちに向け作戦変更があったようだ。


 いいのかな? 確かに攻撃は最大の防御というかもしれないけど

ごちゃごちゃ戦っているところに、横から後ろから次々と魔法を撃ったりしたら

勇者パーティ自体にも当たっちゃいそうだけど。同士討ちが怖い。


 そもそも事前に決めた作戦を勝手に変えていいのだろうか?

勇者一行以外にもローザ様やクラリス聖歌隊などもいるんだし。

何の相談もなくいきなり指示を出されて困惑している顔の人が多い。


 そういう空気によりフレアの指示にも関わらず全然魔法が飛んでこないので

ユージ・タナカはしびれを切らして叫んだ。


 「何してるんだい? 君たちは。魔法を使えるのにこの場で撃たなかった者は

裏切り者として後で処罰するからとにかく早く攻撃したまえ」


 そこまで言われるんだったら後は知らない、どうにでもなれとヤケクソ気味で

多くの者がポンポンと魔法を撃ちだし始めた。Lv2の攻撃魔法が多いが

名のある冒険者や魔法使いが放つLv3クラスのモノもちらほらと混じっている。


 全体の人数は100名を超えているが、魔法を打てない戦士や下級の冒険者たちは

ゾンビと戯れており、この一斉掃射に参加しているのは40名ほどだろうか。


 ローザ様の部下であるシークさんも、ユージ・タナカの指示に渋々と従い

土魔法と風魔法を併用して、細かい岩の破片を弾丸のように高速で飛ばし始めた。


 炎の矢、氷や岩の礫、それらを巻き上げるつむじ風、聖水、無属性の魔力弾、

様々なものが飛び交いヘポラルドと勇者パーティに向かって飛んでいくので

リナ(=リッツォー)もどさくさに紛れホーリネスをシークさんの後ろから放つ。


 ここまでの道中、回復や属性付与しかできなかったのでアンデッド相手に

この神魔法がどれぐらい効くのか、自分の攻撃魔法の威力に興味津々だ。


 一方で同士討ちになりそうな不安もあったがその心配は必要なかったようだ。


 迫りくる弾幕に向けて、賢者フレアがくるくると舞うように回りながら

指揮者のごとく腕を振るい、魔力を操作して飛んでくるモノを制御していく。

拡散し始めていた攻撃たちは束ねられ、一本の流れとなってヘポラルドに向かう。

もちろんその中にリナの放った神魔法Lv1ホーリネスも混ざっている。


 「こしゃくな。しかし、我がステータスを確認してその戦法を選んだのか?

これでも魔法防御力には自信があってな、雑魚共のくだらない出来損ない魔法が

いくら束になったところで我が体を傷つけることなど不可能と知るがよい」


 この世界のINTは魔法防御力にも関わっているらしい。

確かに賢者クラスの魔法ならともかく、一般の魔法使いレベルの攻撃が

どれだけヘポラルドに通用するのかは未知数なところはありそうだ。


 「よくやったフレア! ヘポポ君の動きさえ止められれば結構!」


 普通の人間なら一瞬で体が砕け散りそうな攻撃でもヘポラルドにとっては

流れるプールの水流で押されている程度だろうか?

ダメージは無いが、とにかく体のバランスを崩すぐらいの効果はあったようだ。

 

 ――『ライトニングバースト』


フレアの予想外の攻撃に視界を遮られ、態勢を崩したヘポラルドに対し

ユージ・タナカの剛剣ライゼンが再び特大の雷をまとって襲い掛かった。


 「ムッ!」


 (透過では防ぎきれない。ミスト化で軽減して逃れてやる。そして……)


 ヘポラルドは考えを変えた。後ろの連中は様子を見ているだけだったから

見逃しておいたし、実験材料として傷つけないよう配慮もしてきたのだが

我に対して牙をむいてきたのならばもう許さぬ。ミスト化で一度逃れた後は

一般の魔法使い共を優先して皆殺しにしてやるぞ。


 (なんだ? ミスト状態への移行が上手くいかない)

 

 緋いドレスの女に斬られた時と同じような感覚だ。

ミストへの移行が何かに阻害されている感じがする。聖歌隊どもの魔法か?

まずい。我はアイシス様に仕える身、この場で滅びるわけにはいかぬのだ。


 「ヘポポ君、君の火葬もついでに済ませておくから安心して成仏したまえ」


 (しまった。透過もミスト化も無理ならとにかくバリアを!)


 とっさに張ったヘポラルドの三重の魔法障壁を剛剣ライゼンが叩き割り

圧倒的な破壊力と高電圧が大規模な爆発を引き起こした。

心臓まで揺さぶられる大音響と大震動が部屋中を揺らす。


 ドガガガガガーーーーン! ズドドドドーン!


 Lv1のリナは爆発音だけで死ぬかと思った。バ火力とはこういうことだね。

普通のお年寄りなら今の音だけで心臓の鼓動が狂ってしまうかもしれない。

思わず地面に手をついてしまった。


 こういうとき伏せろとよく言われるがうっかり胸を地面につけてしまうと

そこを伝う衝撃波が心臓や内臓を破壊してしまうと聞いたことがある。

胸が地面に接しないように伏せるのが戦場では正しいらしい。


 もうもうとした土煙が立ち込める中、勇者パーティは戦果の確認をする。


 「やったか? ヘポポ君はとっさに魔法障壁を張ったようだが」


 「ううん。惜しかったユージ様。最後にギリギリミスト化で逃れたみたい」

 

 Lv:55 ヘポラルド・ゾラリス 年齢/種族/性別:1584/アークリッチ/男

 称号:死霊系賢者、不死者、パルティア王国の魔術総監、禁呪法使用者

 LF(ライブフォース量):27550(身体 15250/スキル9000/魔法3300)

 HP:3665/7400

 MP:3936/7850


 「ヘポポ君のMPもかなり減っているな。今のをもう一回当てれば倒せそうだ」


 自分のホーリネスが効いたかどうかなど、どうでもよくなってしまうような

ユージ・タナカの半端ない馬鹿火力で地面に大穴が空いて呆れていたが、

まだ倒せてないのがリナには信じられない。日本なら自衛隊出動案件だと思う。


……。


(危なかった……)


 ヘポラルドは空間に溶け込みながら思案している。

全力で水Lv3、風Lv3、闇LV3の三種魔法、MP3000分の魔法障壁を張ったのだが

あっさり水と風のコーティングを突き破って闇のバリアが破壊されてしまった。


 このまま隠れていてもいいが、実体化しないと龍脈でMPを補充できないし

HP回復の消耗ドレインもこの状態になると効果が切れてしまい

実体化してからもう一度発動させないと機能しない。MPが2000必要だ。

一度発動しておけば連続でしばらく使えるので減ったHPは何とかなるが。


 奥の研究室にはこれまでの実験資料やアイシス様に関わる極秘書類もあるので

結局は人間どもを近づけるわけにはいかないし

対アンデッド用の広域魔法陣を張られて少しずつ削られていく展開も避けたい。


 だが出ていくにしても、我のミスト化を阻害する聖歌隊どもの聖魔法が厄介だ。

奴らの背後に集まっていくと、フレアとかいう小バエ女がレーダーで動きを察し

警戒するように聖歌隊どもに指示を出している。


 奴らを何とかしたいが逃げられない状態で勇者に攻撃される事態は避けたい。

実験魔法で作った罠を利用してみようか。


 ヘポラルドはボス部屋の片隅、今までいた場所とは反対の方向に姿を現した。

100メートルは離れているが、数秒の時間稼ぎができるかどうかといったところで

負ったダメージを回復するだけの余裕はない。


 「こうして薄暗いダンジョンにいるのもそろそろ飽きてきたし

ヘポポ君の戦い方もつまらないからトドメを刺して終わりにしようかな。

ぽかぽかの温泉に入って汗を流し宴会でうまい酒を飲む時間が待っているのだよ」


 「待ってユージ様。あのね、あっちに魔法反応を感じるの。何か罠があるかも」


 「ヘポポ君らしい行動だね。ならば罠ごとぶち壊して進むことにしよう。

俺たちを躊躇させて時間稼ぎしてる間に回復したいだろうからね。

見えない罠を前にあれこれ考えるぐらいなら突っ込むのが分かりやすいのだよ」


 「ユージ様ちょっと待っててね。またさっきのをするから」

 

 フレアは再び、後方の者たちに魔法攻撃をするよう指示を出した。

先ほどよりヘポラルドとの距離は離れているが今度も同じ作戦となる。

大勢の放った魔法をフレアが束ねてコントロールして相手にぶつけ

そこにユージ・タナカが必殺の一撃を叩き込むというわけだ。


 すぐにフレアの指示通りに魔法の弾幕が完成し、収斂して一本の流れとなり

それはウネウネと蛇のようにヘポラルドに向かって飛んでいく。


 ユージ・タナカはタイミングを合わせて蛇の尾にまとわりつくように、

その流れと一緒に飛び込んでいった。地面を走らずに風魔法で飛翔している。

このようにすれば、魔法の流れが空間上の罠を破壊してくれる可能性もあるし

地面に仕掛けられた罠でも大丈夫という判断だ。


……。


 このときヘポラルドはMP1000を消費して『龍脈』のスキルを発動していた。

これはMPの自然回復量を大幅に高める効果があり、時間さえあれば消費分に

大量のおつりがついて戻ってくる強力なスキルなのだが、

ミスト化で効果が切れてしまうのでしばらくうまくやり過ごさなければいけない。


残りMPは2936なので、まだ消耗ドレインで2000を消費するわけにはいかず

負ったダメージなどは後回しでとにかくMPの回復が最優先の場面だ。


 ヘポラルドの前方には幻影魔法で蓋をした大規模な落とし穴が口を開けている。

相手が警戒をして怯んでくれれば、その時間ですぐにMPが全回復するのでよし、

無防備に突っ込んでくれば落とし穴で葬り去るのでそれもよしという作戦だったが

魔法の流れとともにユージ・タナカが即座に突っ込んできたのでたまらない。


 ここでミスト化をして逃げるとMPを1000消費しただけで終わってしまうので

それはできないが、聖魔法を含む魔法の束を浴びるのはまずい。


 ならば再びMPを消費するのは痛いがやむをえない。

ヘポラルドはMP600を使って闇目Lv6を発動した。対象の視界を奪うスキルだ。

ユージ・タナカの目は暗闇に包まれるであろう。


 本当はフレアにも使いたいところだがそうなるとMPが2000を切ってしまうので

消耗ドレインも使えなくなりかえって危険と判断してやめた。


 視界を奪われたユージ・タナカは空中でバランスを崩して壁に激突していったが

フレアの魔法の束は避けきれず、魔法障壁を張る余裕もなかった。

うっとうしいがこれ自体のダメージはとても小さいので

今はとにかく龍脈でMPが自身に流れ込んでくるのを待つしかない。


 ヘポラルドは自分で張った落とし穴をうまく回り込む形で歩きながら

フレアや大勢がいる方に向かっていく。本当は風魔法などで飛べば早いのだが

魔法の流れに押されながら進んでいる形なので、風魔法で流れに逆らって飛ぶと

魔力がさらに枯渇すると判断して、自ら歩いて近づく方を選んだのだった。


 台風の暴風に逆らいながら進むような感じでその歩みは遅い。

勇者が起き上がる前に聖魔法を含むこの魔法の束を何とかしないといけない。

そろそろ賭けに出る時間か? ヘポラルドは覚悟を決めた。


 「ワハハハッ! 状況が見えぬ愚か者どもよ。滅びるがよい」


 ピシャリと天から雷が落ちるように光り10メートル四方の空間が削り取られる。

そう。歩きながら既に、奴らが恐れるサモンゲートを発動していたのだ。

人間どもが全員魔法を撃つことに集中し、フレアはそのコントロールに忙しく

ユージ・タナカは落とし穴の前に激突して倒れているので邪魔されることはない。


 ヘポラルドのミスト化は阻害されているので実は自分にも当たる可能性がある。

今まで普通の聖魔法をくらってもこのような危機に陥ることはなかったが

今回は高位の魔法の使い手が紛れていたようで少しだけ追い詰められている。

それを悟られぬよう、戦いの駆け引きでポーカーフェイスで破滅への賭けに出る。


 「さあ我に歯向かった罪を贖う時間だ」


 ピシャリ! ピシャリ! ブオオオーン……。

部屋のあちこちが光って地面ごと抉り取っていく。

この部屋は100メートル四方よりも広いので一発のサモンゲートが

自分や人間に直撃する確率は1%もないのだが奴らがまるで猿のように

ギャーギャーと醜く騒いで、ピョコピョコ動き回って慌てているのが愉快だ。


 「フレアさん。今の攻撃をやめて相手の魔法を抑えてください。」


 ローザ様が賢者のフレアに助言を出す。


 「追い詰められているのは向こうですから皆さんにも落ち着いて頂きましょう。

着弾がランダムなので下手に動き回るとかえって死ぬ確率が上がるだけです」


 リナの上司のシークさんが指示を仰ぐ。


 「ローザ様、フレアに相手の魔法を封じた後はどうしましょうか?

リナを使ってユージ・タナカを回復させますか?」


 「そうですね……私に考えがあるのですが確証がまだ持てないので

それまでユージさんにはもう少し頑張ってほしいですね。そして」


 ピシャリッ! ブオオオーン……。 


 ――そのとき空爆のように降り注いでいたサモンゲートの一つが

話していたそばで着弾した。あの辺りにはかなりの人数がいたはずだ。

光り輝いた門が消える前に人的被害の覚悟をする。


 (あっ! 死人がでた! 絶対何人か十人以上は死んでる)


 日本にいた頃でも人の死ぬ瞬間を見たことはないが

目の前で初めての犠牲者が出たと思われる。表面上はグロシーンではない。

被害者が姿ごと消えているからなのだが、精神的にはかなりくる。


 「お、おいっ !ヨーク!」


 見るとサモンゲートの境界線上に人がいたようで人の体の一部が倒れていた。

C級冒険者ザマフ・ドライモンのパーティメンバーのヨークだった。

まんまると太った体の大半を持っていかれて三日月状の遺体が残っている。


 グロシーンだ!


 「ワハハハ! これで我に歯向かった者どもの末路が分かっただろう

大人しく見ているならこのようには殺さず大切な実験材料に残しておくがな。

貴様らは何もせずそのまま座って、勇者が死ぬところをみているがよいのだ」


 そう叫んでヘポラルドは満足げにサモンゲートの発動をやめた。

クラリス聖歌隊の一部と、十人以上の雑魚を始末できたようだ。

外野の邪魔が無くなればユージ・タナカに受けたダメージも回復して盤石になる。


 「ん……」


 そんなヘポラルドをローザ様が訝し気に見ていた。


 「なるほど、そういうことですか。やはり私の思ったとおりのようですね」


 ポツリと独り言を言うローザ様だったが周りはそれどころではなく

誰も聞いていなかった。死体がある場合はまだ分かりやすいのだが

多くは体ごと消滅して行方不明者になっているので被害確認に時間がかかるし

冒険者や兵士たちなので死人が出るのには慣れているかもしれないが

突然味方が消滅したのだから動揺が激しい様子だ。


 「今のやり取りを見て敵を倒す算段が付きました。

リナには倒れているユージ・タナカと彼の剣にホーリネスの付与をして頂きます。

シーク、貴方は被害者の確認作業を皆と一緒にしてください」


 どうやらローザ様には勝算があるらしい。

次でこの戦いは終わりになります。

空気なリナ(=リッツォー)ですが、一発逆転はなるのでしょうか。

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