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地獄のボス部屋~ヘポラルド3~

 思い返せば転生してから二週間ぐらいだろうか。

チート人生を満喫するどころか逆チート状態が続いているのがつらい。

この格差が激しい世界で、超人連中に囲まれた凡人の立場として

相対的なポンコツ具合では日本時代より確実に落ちぶれているように感じる。


 少しぐらい私を喜ばせるような展開があってもいいのだけれど

強制的にダンジョンに連れてこられてつまらないものばかり見せられて嫌になる。

数十メートルも吹っ飛ばされて平気な男、霧状になって不死身のモンスター、

なんでそんなわけのわからない連中と行動したり対峙しないといけないのか。


 私を放っておいて勝手にやりあっていればいいだろう。

今までは意識していなかったが、だんだんと腹が立ってきた。


 いい加減、世界征服・酒池肉林とかそういう話はないのか!

ないのならこんな世界、破壊魔ルフィスに滅ぼされればいい。


 例えば私が、ヘポポ何とかという変なボスのとどめを横取りして

いきなりレベルが100になりました! みたいな展開があってもいいんだよ?


 今の私はレベル1だけどボスの弱点・神聖魔法が使えるので宝くじを買う気分で

それを狙ってみようか。当たるかどうかわからないしとどめを都合よく取れるとも

限らないけど、このイライラを何かにぶつけることには意味がある。


 経験値はとどめを刺した人だけもらえるのか、HPを削った分もらえるのか

それとも最初に一撃入れて引っ張ってきた人が総取りできるのか

この世界の仕組みはわからない。あとでそれとなくシークさんに聞いてみるか。


 とにかくボスから経験値を頂いて一発逆転の強者人生を初めて満喫して

その勢いで世界征服酒池肉林などをしてやるんだ!

もしくはローザ様の元を逃亡して田舎でのんびり隠居生活でもいいけど

それをするにもお金や最低限の強さがなければすぐに崩されてしまう。


 ヘポポを倒すのは私だ、と暗い情熱を秘めて転生者のリナは戦況を眺める。

均衡が崩れて一方的な展開になると横やりをいれるのが難しいけど

消耗戦になって勇者どもとボスが疲れ切ってくれれば私にもチャンスがある。

よし! ヘポポが長持ちするように適当に手抜いて援護しよう。


 そんな折、次期ネクスト勇者のユージ・タナカと

そのパーティーメンバーで賢者のフレアが何やら話している。


 「あのねユージ様! やっと相手のステータス覗けるようになったんだよ。

この情報をみんなで共有して見れるようにするね!」


 「ナイスだフレア。ずっと高レベルの鑑定妨害がかかっていて

ヘポポ君の本当の名前もステータスもまともに見ることができなかったのだよ。

どれ、ヘポポ君の実力をみんなで見て笑ってあげよう」


 このボスはローザ・スカーレットの奇襲を受けてダメージを負った後、

霧状のまま隠れて実体化しない時間が長かった。その隙をうまくついて

賢者のフレアが隠された相手のステータスの鑑定に成功したようだ。


 Lv:55 ヘポラルド・ゾラリス 年齢/種族/性別:1584/アークリッチ/男

 称号:死霊系賢者、不死者、パルティア王国の魔術総監、禁呪法使用者

 LF(ライブフォース量):27550(身体 15250/スキル9000/魔法3300)

 HP:6701/7400

 MP:7322/7850

 STR:3345

 INT:4874

 AGI:4135

 DEX:2896


 スキル(LFの内訳) 

高度魔術実験Lv3(3000)、鑑定妨害Lv9 (900)、消耗ドレインLv2(2000)、

探知Lv5(500)、龍脈Lv1(1000)、闇目Lv6(600)、透過Lv1(1000)


(特殊スキル一覧)

絶対不死:HPが0になったとき指定された場所で一ランク格下の種族として復活

ミスト化:パッシブスキル。空間に溶け込み一体化することで物理と魔法攻撃無効

実体化:ミスト化を解除する。移行期間に受けた攻撃は十分の一に軽減 


 魔法能力(LFの内訳)

 地Lv2 (100)  

 水Lv3 (1000) 

 火Lv2 (100) 

 風Lv3 (1000)

 空Lv2 (100)

 闇Lv3 (1000)

(特殊魔法一覧):

サモンゲート:ランダムな座標に異次元の門を開いて次元の狭間へ強制転移


 見事な奇襲で打撃を与えたローザ様が、共有された鑑定結果をみて口を開く。


 「多少HPが減っています。相手のスキルは鑑定妨害Lv9だったようですね。

私の強制鑑定の方がより上位のスキルなので鑑定はできたはずなのですが……

今まではまったく見れなかったですね」


 「えっとね、今までこの部屋のフィールドに鑑定妨害の闇魔法がかかってたの

だから相手のスキルが鑑定遮断レベルにまで上乗せされていたんだよっ。

フレアがさっきそれを解除したから見れるようになったの わーい嬉しい」


 「そうですか。ヘポラルドというボスは事前にいろいろ準備していたのですね」


 「ローザ君、あとは俺に任せるのだ。本当の戦いというものを見せてあげよう」


 ユージ・タナカがそう言って一歩前に踏み出す。

実はここまで、彼の剣にホーリネスの属性付与をする時間的な余裕はあったのだが

リナ(=リッツォー)は敢えてそれをしなかった。


 次の瞬間、ユージ・タナカは土をけり急加速して一直線に突撃し切り込む。

リナの目にはボフッと土けむりがあがって、彼の姿が急に消えたように見えた。

ゆっくりした動作の後で、大砲のように飛び出していったから緩急が効いていて、

さっきのローザ様の奇襲より鋭いのでヘポラルドは反応できないかもしれない。


 ユージ・タナカの瞳には、この急発進に反応できず棒立ちになったままの

ヘポラルドが写っている。反応が遅い。


 「ヘポポ君 その命もらった! 潔く散りたまえ」


 ライゼンと銘打たれた剛剣が、文字通り吸い込まれるように入って斬り抜ける。

ここまでは、先ほど胴体を横なぎにしたローザ様の奇襲とほぼ同じ結果だが、

今度は突きのラッシュではなく乱れ切りだ。彼のライゼンは雷属性の剣のようで

バチバチと焼きながらヘポラルドを切って切って切りまくる。


 ローザ様の攻撃ではHPが700ほど減ったので今度は2000ぐらいだろうかと

共有された鑑定結果をリナ(=リッツォー)が確認すると

ヘポラルドのHPは6701から6678になっていた。あれ? あまり効いていない。


 「我に同じような奇襲は通用せんといっただろう」


 今度のヘポラルドは離れた場所にすぐ実体化して反撃に転じた。

ノーモーションで禍々しい赤い光線をユージ・タナカに次々と投げつけると

ヘポラルドのHPがその度に回復して6722、6788、6833と増えていく。


 「ムっ! 消耗ドレインか フレア? 妨害できないか」


 「えっとね、それ魔法じゃなくてスキルなの。溜めもないから無理そう。

吸い取られたユージ様の体力は回復させてあげられるけど」


 「まだ回復はいい。こんなのは蚊に刺されたようなものだよ。それよりも

さっきの俺の攻撃に手ごたえがなかったのだがヘポポ君は何をしたのかな?」


 「しばらく待ってね さっきの場面、リプレイ流してフレアが解析するから」


 「この消耗ドレインは追尾してくるのか、ヘポポ君のくせに味な真似を。避けれないな」


 そのままユージ・タナカから吸収し続けてヘポラルドは全回復してしまった。

東方出身の次期勇者は何度も切り込むのだが一撃目に全く手ごたえがなく

すぐにミスト化して違う場所に現れるヘポラルドに有効な攻撃ができないでいる。


 「うむ。ヘポポ君がミスト化する前に一撃が入っているはずなのに

まともにダメージが入らないのだよ。さっきのローザ君の攻撃は有効だったのに」


 「だから我の名はヘポラルドだ! 鑑定して名前が出ているんだったら

いい加減に、きちんと我の名前を呼んでくれてもよかろう」


 「うるさい! もう君の名前はヘポポ君に決まったのだよ。早く改名したまえ」


 「フン。まったく無茶苦茶な事をほざきおって。焦っているのか?

もう貴様のような奴とはまともに戦ってやらん。このまま遠距離で削り続けて

どこまで減らず口を叩いていられるか貴様の曲がった性根を耐久試験してやろう」


 「ユージ様! フレアね、調べてわかったの。

相手はね、切り込んだユージ様の最初の一撃を透過のスキルで無効にしてるの。

一番威力のある攻撃をそうやって殺してからミスト化をするから

スムーズに移行できて、結果ほとんどダメージを受けないみたい」


 確かにローザ様の攻撃を受けたときはミスト化が上手くいっていなかった。

斬られて効いた直後にラッシュをくらっていたのでそこが違うのかな。

リナ(=リッツォー)はそう思ってほくそ笑む。良い感じの消耗戦になってきた。


 ヘポポのトドメを刺して「世界征服酒池肉林せかいせいふくしゅちにくりん」計画を実行する際、

懸念材料になるのは神魔法Lv1ホーリネスが当たるかどうか分からないことで、

相手はAGIが4135もある化け物だからあっさり避けられてしまうかもしれない。


 試しに一発投げてみようかと思い、手を前に突き出して魔力を込めていくと

近くにいたシークさんが止めにはいった。


 「リナ、相手を攻撃したらだめだよ。反撃を食らっちゃうから」


 「私の服って魔布なんですよね? リライザさんに貰ったんですけど。

ダンジョン突入前に、森の魔法陣で魔法障壁をかけてもらったから

攻撃されてもユージさんのときみたいに実は大丈夫だったりしますか?」


 「いやぁそれは無理かな。普通のモンスターの攻撃は大丈夫だと思うけど。

例えばローザ様の場合、城内の本格的で高度な魔法陣に三時間も入って

高名な専属魔術師に魔法障壁を付与してもらっているぐらいだからね」


 「そっか、森の簡易魔法陣の防御だと強敵にはダメなんだ。

でも城で三時間も魔布の強化を受けてここへ来るのってすごく大変そうです。

下着も含め、一度脱いだら効果なくなるからお手洗いにもいけないんですよね。

王城からここまで数日かかるから、えっと、ローザ様のドレスの中は……」


 優雅なたたずまいで素敵なローザ様、その服の中は考えたくもないような

悲惨な状態になっているのではないかとリナは心配してしまう。


 状態保持しておかないと魔布の強化が解けるのは欠点だと思う。

しかし地球の歴史上、中世の全身鎧などもトイレにいけなかったそうだから

それを考えれば軽くて疲れにくく動きやすい分だけマシなのかな。


 「あははっ、攻略計画が立った際に、事前に転移魔法陣を張ってあるからね。

ローザ様は今日の早朝に魔布の強化を受けてこっちに来てる形だから

数日間、ずっとお手洗いにいけないってことはないから安心していいよ」


 早朝ですか? 今は確実にお昼過ぎだしそれもたいがいな気がするんですけど。

しかも決着つく気配がないし。でも転生前には貴婦人の膀胱という言葉があったし

うん。きっとそうなんだろうと無理やり納得させる。


 でもこのままホーリネスを撃てないと世界征服酒池肉林計画は頓挫してしまう。

人間側の魔法使いは、今のところ無駄撃ちをしないで勇者の闘いを見ているけど

花火のようにみんなが火力を出し始めたら、どさくさに紛れて私も攻撃しよう。


 戦いを見ているとユージ・タナカは痺れを切らして大技を出すようだ。


 ――『ライトニングバースト』


 「ムッ!」


 「特大の雷をまとったこの一撃ならヘポポ君もただではすまないのだよ。

君の透過とやらの小手先のスキルでごまかせるのかね? ほれほれいくぞ」


 剛剣に特大の雷を付与したユージ・タナカが今まさに突進しようとすると、

急に水が降ってきて剣に纏った雷を破裂させて散らしてしまった。


 「うぎゃー」


 自分の溜めた雷に感電してユージ・タナカはダメージを受けている。


 「愚か者め。小バエ女にされてきた妨害をやりかえしてやったのだ。

そのような無駄に溜めの大きい技など我には通用せんぞ」


 理科の授業で不純物を含んだ水は電気を通すって聞いたことがある。

少なくとも空気よりは確実に電気が流れやすいから水でびしょびしょにされたら

そっちに全部電気が流れるよね。ユージさん痛そう。

 

 その様子にローザ様が動く。ユージ・タナカに見ているように言われて

ずっと傍観していたローザ様だったが剣に手を当てながら口を開いた。


 「このままユージさん一人に任せていてもダメそうですね。

やはり私が戦うしかなさそうです。最初の攻撃では倒しきれませんでしたが、

今度は滅身を使い、一瞬で勝負を決めて見せます」


 「ローザ様、滅身とは。お言葉ですがまだこちらの戦力は欠けていませんし

急がずとも、もう少し様子を見て持久戦の選択肢もありそうなのですが」


 リナと話すときは砕けた口調のシークさんが言葉を選んで止めようとしている。


 「シークさん。私はこのまま持久戦になれば危険だと考えています。

相手は不死身の上、手の内が多く周到な準備までしている様子ですから

こういう相手には何か余計な事をされる前に倒してしまうのが一番良いのです」


 「ヘポラルドが大きく隙を見せるまで様子を見た方が安全と思われます。

今は警戒されているのでご自重されるのが賢明かと思うのですが」


 「それは分かりますが、ユージさん一人に任せていては危ないですよ。

バタバタした戦い方でそのうち絡め手にかかって倒されてしまうかもしれません」


 ローザ様とシークさんが話し合っていると、さっきの水をかぶって感電し

ちょっぴり焦げているユージ・タナカが起き上がってきた。

顔が赤くなり頭に血が上っている様子だ。


 「さて、ヘポポ君とのお遊びはここまでにしておくよ。 

おーい! フレア、オデン、エバンス、四人でいつものように狩っていこう」


 ユージ・タナカは勇者パーティを集合させて戦うようだ。

ということは賢者のフレアが前線に出て行ってしまうので

その背中という安全地帯に隠れる手段がなくなったリナはちょっと困る。


 シークさんも強いけどちょっぴり不安。

とにかくここからの展開は、勇者パーティとヘポラルドが戦っている間に

ローザ様が隙をついて大技で勝ちに行くみたいな流れになりそうかな?

とリナ(=リッツォー)は思った。


 うっかり戦いの中でフレアの頭が熱くなったりしたらボスのチート魔法、

サモンゲートの発動を妨害できなくて一同消滅みたいなことにもなりかねないけど

私の世界征服酒池肉林計画に向けて何ができるかというと

この戦いの流れに身を任せて一瞬のチャンスを逃さずつかみ取ることだけだろう。

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