運び込まれたワニの行方! 前編 呪いの短剣
前回の投稿から一か月と一日経ちました・・・色々とセリフ回しやらを考えるのは骨が折れますね。後書きに関してはこれからも色んなところからパクっ・・・他作品のリスペクトを欠かさないようにしていこうと考えています。文章の書き方は特に見本としている人もいないので、話の内容でカバー出来ればなーと考えております。これから暫く続きますが、頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。
緩やかな時間が研究所で流れるなか、生きることを許された者が現れた事を多くの者はまだ知る由もなかった。
「よしカムロギ、それじゃあ次に行くぞ」
ロンは扉を開けて登録室をでた。それにつられるようにしてカムロギ、ボンゴレ、シャルニーその他五人がぞろぞろと部屋を出て行く。
「次ですか?」
「生きることが許されたんだ。衣食住の確保が優先だろ?一人で出来るのか?」
「確かに・・・アテもない」
「ならついて来い。分からない事が有ったらとりあえず聞いてくれ」
彼らにとっては、異世界にいたというカムロギの価値観など知る由もなく、ただ陽気な奴だということぐらいしかまだ分からずにいた。そのためロンはカムロギの事をもっと把握するために、衣類などの、買うものを見て判断しようと考えたのだった。
「まず、金が必要だが・・・コレは先に俺が貸してやる」
小さい袋に銀貨がジャラジャラと入っていた。それをポンと渡され、戸惑うカムロギ。
「コレをどうしろと・・・」
人から極力貸しを作ることが嫌だったために、渡された銀貨の袋に渋い顔になる。
「盗みはこの研究所でも、もちろん他でも罪になる。それは分かるか?」
「・・・俺、もしかして子供扱いされていませんか」
ロンはとりあえず似たような価値観なのか?っと、考えた。窃盗が禁じられている事に抵抗を感じていないその言動に、自分達に近い文明社会から来たのではないかと期待する。
「いやいや、コレは真面目な話だぞ。俺達はまだ全裸でも大丈夫な世界というぐらいしか、お前の世界の事を知らないんだ」
「いやよくねえからな!?」
ここで、カムロギは彼らの抱える一抹の不安を汲み取った。
(もしや、仲間全員が俺の事をかなり初期の文明からやって来た勇者だと・・・そんな誤解をされているんじゃなかろうか。・・・まぁ、確かに初登場が全裸だったからな・・・ふむ)
そのためカムロギは服屋に付くまでの間、自分のいた世界に付いての話をした。高度な経済発展を遂げ、狩りや冒険者の数が比較的に少ない世界の話を。面白可笑しく、そしてたまには悲しい体験談を交えて。そして服屋に着くころには、全員がカムロギの現在置かれている状況について、何となく理解するまでに至った。
「お前・・・何というか、あれだな、お疲れ様だ」
「・・・ん?どういうことですか?」
「かなり波乱万丈な人生を送ってきたようじゃないか」
「悪くはない前世だと思うけどなー」
ロンが代表してカムロギを慰めた。カムロギ自身、なぜ自分が哀れまれているのかよく理解出来なかったが、余り良い気はしなかったため話を変えることにした。
「アレ、あれ服屋じゃないですか」
「ああ、あれの奥にあと10軒以上あるぞ」
『お頭、成人男性用のは手前のだけだろ。そこだけ詳しく教えてやれば良いんじゃないか?』
「それもそうだな・・・。じゃあとりあえずあの店で粗方見繕うか。ボンゴレ、お前も勿論手伝えよ?」
『俺はここには詳しくないぞ?』
服屋には、人型成人男性用、人型成人女性用、人型子供用、四足歩行用、研究者用、など多種多様な用途などに合わせて出来た服屋が多く並んでいる。その中でも手前にあるのが、人型成人男性用だった。そして獣人族、人族、エルフがこの場所を良く利用するのだった。
「ボンゴレはここじゃないのか?」
率直な疑問をボンゴレに話す。
『俺のはあそこだ。竜族と龍族だけの専門店がある』
「キラキラしているあそこか。・・・何が違うんだ?」
『素材の都合で、値段が百倍ほど違う』
「・・・百倍?」
桁の違いに、もしや冗談を言っているのかとボンゴレの方を向くが、鎧から見える目が冗談を言う竜ではないことを物語っていた。
『あぁ、布の服一枚が今俺達のいるこの服屋で銅貨10枚、1000ジェルであれば・・・』
一応ボンゴレは、分かりやすいようにカムロギに説明するが、それ以前の問題に躓いていた。
「ジェル?・・・貨幣の単位か?」
貨幣の単位を知らなかった。
『そうか。そうだな(貨幣が統一されていない世界から来たんだったな)、ココではジェルだ。それを竜族の店で買うとすると、100000ジェル、今度は銀貨が10枚必要になる』
ここでカムロギは、パチパチと頭の中で適当に算盤の絵を想像しながら計算した。
(俺の常識で考えるなら、銅貨一枚当たりがおよそ100ジェル。1000ジェルで一枚の服が買えるとするなら、銅貨を円換算すると、1銅貨辺り100円ほど。そして銀貨は恐らく壱万円・・・になる。金銭感覚になれるのには暫く時間がかかりそうか)
「ボンゴレ、金貨やら白金貨の説明は良いのか?」
ロンがボンゴレの説明に口を挟むが、途中で説明の口を止められたボンゴレは少し不機嫌になる。
『今話をしたところでカムロギが混乱するだけだ。お頭は女達に指示を出しておけ』
「女達って・・・相変わらずだな」
『知ったことか。特にそこでさっきからずっとニヤニヤしている馬鹿には、きつく言っておけ』
ボンゴレの言う五人の内の一人、最も重装備な鎧をまとった仲間がケラケラと笑って呟く。
『あの人いきなり不機嫌になっているけど、頭大丈夫なのかしらね~アッハッハッハッハ』
その声にギロリとボンゴレがその鎧の仲間に向けると、その鎧は鎧をきたシャルニーの陰に隠れた。
『ハッ!?マジ睨みだ。ガチだ。ガチで怒ってない?許して?ね?おねがいー』
なにやら、女性陣と男性陣・・・主にボンゴレの間には何かあるようだとカムロギも理解したが、どちら側に着くのも面倒だと考え、おそらくは中立であろうロンに目線を送る。しかしそのロンも知らんぷりを決め込み、暫くの沈黙が続いた。
『二度と俺の前では喋るなと前に言ったよな?』
『誰かの三回目のプロポーズは、君の聲をずっと聞いていたい・・・だったっけぇ?』
ブチッとボンゴレの頭の血管が切れる音が聞こえた。それが羞恥によるものなのか、怒りによるものなのかは定かでなかったが、どっちにしろ、三回もプロポーズしている時点でアンタの負けだろと、思わざるを得ないカムロギ。
『言って良い事と悪いことがあるだろうが!!』
『わぁー~大人げないー!』
重装備の女性に対してボンゴレは何かあった様子。そんな二人を穏やかな目で見るロンを、シャルニーが肘で突く。
「いつものでしょ。お頭、見てないで早く後輩君に服買ってあげましょうよ」
「それもそうだ。・・・カムロギ、二人はほっといて行こう」
「良いんですか?」
「ボンゴレとファルファッレはいつもこうなんだ。なるようになるだろう、ほっといて構わない」
「そういうもんですか」
「そういうもんだ」
「分かりました」
「うむ」
ファルファッレという重装備の女性と、ボンゴレを置いて店内に入るカムロギとロンとシャルニー。他の三人のメンバーはロンに一言伝えると、別の店を覗きに向かった。
「いラぁっシゃシゃい」
木や石、宝石などバラバラな材料で作られた店内は、落ち着きがない店主の人格を反映するように、微妙な居心地の悪さを醸し出している。
「オロバス、コイツはカムロギだ。これからも此処を利用するから顔を覚えてやってほしい」
「宜しく。オロバスさん」
「っひっひぃヒョー・・・・ハイ。シコ」
馬の頭部を持つ人間という奇妙な生物、ソレがオロバスだった。口をもごもごさせながら、時々その馬の長い口を震わせる。しかしそのようなマヌケに見える言動とは対照的に、来た者を見定めるその眼光は真剣だった。
「ロンさん、彼はもしや言葉を・・・」
「理解しているが、話すのが面倒な時は適当に返してくるんだ。今はどうやら面倒だったらしい。だが、顔は憶えて貰えたんだ。試しに今欲しい物を頼んでみたらどうだ?」
「じゃ、じゃあ、下着類を三着と履き心地の良いズボンを一着、一番安い服を一着お願いします」
「ぶるぶるぶるるぶるるぶるぶる」
オロバスは店内をうろつくと、パパっと服を見繕ってカウンターに並べた。既製品に見えない服に戸惑いを感じつつ、コレが自分の望む物なら良いなと、手触りを確認する。
「ズボンは・・・スキニーっぽいな。あぁ、悪くない感じだ。綿にしちゃあ、しっかりしている感じはするが・・・。下着は・・・まあ、擦れて痛くねえなら良いや。服は・・・あぁ、こりゃあ酷い。乳首が血まみれになりそうな肌触りだ。こんなものを着た日には間違いなくベッドが鮮血に染まるな・・・」
「なにブツブツと・・・お、おい、衣類の方は何とかなりそうなのか?って・・・おい、オロバス!貴様なんてものを俺の部下に出しやがる!殺されてえのか?」
「ブィー!?ブぃーブぃー」
ドスの効いたロンの声に、オロバスは震えあがり、先ほどのザラザラとした皮の服とは別に、サラサラの生地を使用した明らかに値段の高い物を持ってカウンターまで走って戻って来る。
「おいくらでしょうか?」
「下着三着2100ジェル、私手作りシャツ300万ジェル、ズボン1100ジェル、計300万3300ジェルです」
「クソ馬、誰がこの店で一番高いヤツ持って来いって言った?それともなんだ、カムロギにプレゼントのつもりでここに置いたのか?」
ハッキリとした言葉で値段を提示したオロバスに、机を小手で叩いて脅すロン。
「ブッチ・・・そのツモリはなんね」
「おぉー!ありがとう。こんな良いものをプレゼントしてくれるなんて。流石、善良なる悪魔と呼ばれるオロバスさんだ。ロンさん、これからも此処を利用しようと思います」
オロバスの言葉を無視して、強引に最高級品の服を手中に収めようとするカムロギ。ロンも真面目なのかそれとも冗談のつもりか、オロバスにくれるよなと聞いた。
「グヘッ・・・善良なる悪魔か・・・グヘッ。まあ・・・な」
「お、喋る気になったか?」
「グヘッ・・・300年ぶりに誰かに褒められた。グヘッ・・・あげる。会計は3300ジェルで良い・・・ぜ」
「ホントかよ、ハハハ良いヤツじゃん。俺の友達にもなってくれよ」
「馬で良ければ、グヘッ・・」
カムロギはオロバスの名を前世で知っていた。ゲーティア第55位の悪魔であり、オロバスを召喚した者にあらゆる幸福をもたらし過去未来現在全てを見通す力貸すという、いわゆるチート能力を貸し与えてくれる悪魔である。
ただ、悪い事に使えず、話すネタに下ネタを使っては絶対にならないという難点を覗いて、この悪魔はなぜ悪魔になったのか謎なほどに人間に甘い馬の悪魔だと言うのを、カムロギは本で以前見た事があった。
「馬、次いでにコレもお願い」
「ぐふっ・・・シャルニー・・・綿入り半纏一つね。50000ジェル」
「はい、銀貨五枚」
「ゲレゲレ・・・まいんどぉ・・・トイチ、たまにはウチに来て顔を見せてくれっへっへっ」
笑いながら咽る馬は、人の手を振りながらカムロギ達を見送った。
「面白い悪魔だった・・・」
「カムロギ、アイツが悪魔だと何時知ったんだ?」
ロンがカムロギに不思議そうに尋ねた。一緒にいたシャルニーも「確かに誰も教えてなかったはずよね」と不思議がる。二人の疑問に、早速かった服を装備したカムロギは苦い過去でも話すように、話しをした。
「俺はここに来る前に悪魔と神については粗方の情報を持ってやって来たんです。・・・死ぬ時がどうしても怖かったもので」
「死ぬ時が分かっていたのか?」
ロンの言葉に頷くと、カムロギは大きなため息を吐く。そして、臭いや顔色で分かるのだと言った。
「そりゃあユニークスキルじゃないのか?」
「いえ、そう言うのじゃあないんです。後天的に身に着いた癖に近い・・・のかな・・・。とにかくあんまり良いものでもないんですよ。見たくない物が見えるだけなんで」
「俺には今そういうモノは出ているか?」
ロンの言葉に首をふる。元気な人には基本出るものではないとロンに伝えると、まあそれもそうだなと、興味が若干薄れた様子でカムロギもほっと心を撫でる。余りこの話をして気味悪がられるのも困ると思ったのだ。
「カムロギ・・・君・・・トイチ君・・・うーん・・・」
シャルニーは買った半纏の袋を持ってぶつくさ呟いている。ロンも不思議に思い話しかけてみるが、逆に共に悩み始めてしまった。
「んーどうかしたのか」
「なんて呼ぼうかなって」
シャルニーはカムロギをどう呼ぼうかと悩んでいるらしかった。そしてロンはなぜかうーんとそれを一緒に悩んでいる様子。
「別に何でも良いぞ」
「下で呼ばれるのは嫌いじゃない?」
「いきなり下で呼ぶ奴はぶっ飛ばすが」
「・・・・」
シャルニーは露骨に悲しそうな顔をする。ロンは「別に良いじゃねえか、好きなように呼ばせてやれよ」と、カムロギに促す。
「ダメかな?」
「男は良いいんだよ。でも女は・・・以前それでつけ上がった奴がいたし、変にマウント取られるのは嫌だ」
「小さい奴だなぁ・・・じゃあなんて呼ばれたいんだ?」
「カムロギ君でお願いしようかな」
「そりゃあいくら何でも冷たすぎる!シャルニー!カムロギに何か言い呼び名で呼んでやれ!」
異性にマウントを取られる事をとても怖がるカムロギは、予め防御壁を高く構える。
「じゃあ後輩君で」
「全然話聞いてないな・・・」
背丈はカムロギよりもむしろ小さい後輩のように見えるシャルニーは、この潜在一隅のチャンスをモノにしようと罠を張る。
「後輩君!」
「なんだ?・・・あっ」
「ははっ、はーい決定!」
小さなぴょんぴょんと跳ねるさまは見ていて和むような有様だが、当の本人はかなり不純な動機が内に渦巻いているのを、カムロギはまだ知らない。
「良かったなぁ、シャルニー。お前さんにも遂に後輩が出来たか・・・なんか少し泣けてきたな・・・」
「ちょっと・・・泣かせないでよ・・・あ、コレ後輩記念にどーぞ」
してやられたと思うことすらも嫌なカムロギは、毅然とした態度で後輩君呼びを受け入れる。そしてシャルニーから手渡されたものは一着の半纏だった。そう、冬場に着るアレである。
「半纏?」
「夜はまだ少し寒いから。それで夜も行動出来るかなって」
上から目線でモノ事を言って来るのかと思いきや、突然の行動にグラつくカムロギ。
「おー・・・ありがとう。外はまだ寒いだろうし、・・・ほんとにありがとな」
久しく人からプレゼントを貰った憶えのなかったカムロギにはダメージが大きく、涙腺が緩んだ。そしてその変わりによろよろと表情を硬くしながらお礼の言葉を述べていた。カムロギはプレゼントに弱かった・・・。
「よーし、カムロギ。じゃあ、次は武器を見に行くか!」
そんな状態になっているとは露知らず、シャルニーとロンは五人を置いて次の店へと歩き始めていた。軽装の売り並ぶ露天商の区画から、どっしりと店を構えた高価な武具を売る区画へとその姿をかえていく。
「装備の新調に来た奴らが多いみたいだなぁ・・・。カムロギ、今ならアイツらの使っていた中古の武器が安いかも知れないぞ。買っていくか?」
同業者と思われる者達が、装備の試着や試し斬りをしている。そんな荒くれ者達の溜まり場のようなところへとやって来た一行は、若干先ほどよりも気持ちが高揚としていた。
「武器の中古はちょっと・・・」
「ハハハハ・・・贅沢者め。だが、中古だと好きな武器を選べるぞ?自分の手に馴染む武器を直ぐに見つけられるのはラッキーだからな~。初めは中古でも良いんじゃないか?」
そうロンに促され、武器屋の中をうろつくカムロギ。慣れ親しんだ武器から用途の分からない武器まで・・・多種多様な物が揃っていた。
「これは、剣か・・・!」
手に取ってその想像以上の重みに驚く。ズシリと重厚な長剣、その素材はよく分からなかったが、鉄とか鋼とか、そんな鼠色の金属だろうと思われた。
「見りゃあわかるだろ、どうした?」
横からカムロギの反応を面白そうに見るロン。王宮貴族ですら剣を嗜むこの世界で、「コレは剣か」などと言うカムロギが実に不思議に見えた。
「俺はこういった剣を見るのは初めてではないんです。だけど、このついさっきまで使われていたような感じを味わうのはコレが初めてで・・・」
「後輩君にはその武器はまだちょっと早いんじゃないかなぁーって、思うけど」
カブトを外して長剣を見るシャルニー。ふわりとカブトから零れ落ちた髪が鎧に流れるように落ちる。茶色い髪・・・毛並み?をしている彼女の頭部にはぴょこりと耳が立っていた。
「シャルニーは猫の獣人なのか?」
「そうよぉー、部隊では私とお頭だけが猫の獣人なの。だから猫の国に近いここをメインに活動してるってこともあるんだけどぉ~・・・あ、コレなんか良いかも」
シャルニーに手渡された短剣を抜くと、中から血がドロリと流れ、その短剣は所々に黒くこぶりついた血が付着していた。しかし、見たところ刃こぼれもなく、使い込んだような痕跡も見当たらない。
「こ・・・コレは・・・」
短剣の鞘をひっくり返すと、血がポタポタと滴り落ちる。つい先ほどまで使われていたような存在を放って。
「フフフッ、驚いた?・・ちょっと意地悪だったかな?」
「おいシャルニー、後輩いじりはそれぐらいにしとけ。それは呪いの短剣だろう?適合したらどうするつもりだ」
「だったら私が一生この子の面倒を見ます!」
「馬鹿を言うんじゃない。カムロギも何が何だかわからないみたいじゃないか」
カムロギが握っていたのは、呪いの短剣と言われる呪い武器だった。呪い武器には持ち主を選び、死ぬまで傍を離れないものが殆どで、純粋に悪意がある人間が恨む相手に送るような物だった。
「の・・・呪いの武器なのか?」
「大丈夫、呪いになんて滅多に掛からないわ。それはだから玩具みたいなモノなのよ」
カムロギの焦り顔を見て楽しむシャルニーに、不安げななにかを直感的に感じとったロン。そして、その直感は最悪の結果として現れる事になる。
「まあそれはそうだが・・・カムロギ、早いところそんな武器は元の場所に戻してこい」
「は・・はい・・・そうしたいのは山々なんですが・・・そのずっと血が出ているんです」
そう、ロンとシャルニーが会話する中、カムロギは鞘からドクドクぽたぽたと流れ落ちる鮮血が、床に黒ずんだ血だまりを作るのを黙って見ていたのだった。そして流れ続ける血に、カムロギもそのまさかを疑い始めていた。
「・・・マジか」
「・・・嘘」
「ロンさん、シャルニー・・・これどうすればいい・・・」
無理やり剣を戻そうと、ロンはカムロギの腕を捻ろうとするが、腕は固い石のようにピクリとも動かない。シャルニーは先ほどまで笑っていたが、カムロギの反応を見ながらその笑顔は、引き攣ったものにかわる。
「お頭、急いで後輩君の腕を折って!」
「分かった」
「ちょっとまて!なんで無理矢理にでもへし折ろうとするんだよ!成功法じゃないだろ!?」
「いや、成功法だ。呪いは物理で解くに限る」
「もっと痛くない方法でどうにか出来ないんですか!」
「出来ないの。だから今はちょっと我慢して」
「シャルニーお前!!」
「ちょっと悪ふざけが過ぎちゃった・・・てへっ」
その言葉に反応するように、鞘を持った手がダラリと下がる。カムロギの鞘を持つ左手は自由になった。そして右手も自由になった。
「あ・・・自由になった」
しかし直ぐに体の自由を剣に奪われ硬直する。
「どうやったんだカムロギ?」
「シャルニーに腹パンでもしてやろうと思ったら、剣が放してくれました。今はこのダラリとした状態で動かなくなっちゃったんですけど」
「・・・厄介なタイプに当たったな」
「どういうことですか?」
「私にもう一度酷いことしようって、思って見たら分かるんじゃない?」
「あ、余裕ですよ?・・・あっ」
カムロギは自由になった。この呪いの短剣は使用者の他者に害を及ぼしたいと願った時のみ体の自由を取り戻す事が出来る短剣だった。
「鞘から流れ出ていた黒い血も止まった・・・」
「制御出来ている・・ということだろう。カムロギ、良かったな。とりあえず急場は凌いだようだぞ」
「うん、なにも良くはないからな!?・・・ほら・・・もう、背筋が長剣みたいに・・・」
シャルニーに対する腹パンしたいという気持ちだけが、今のカムロギを自由にした。しかし、その気持ちも先ほどの半纏を貰った事を思い出してしまうと、揺らいでしまうのだった。
「クッ・・・俺の体を早くどうにかする方法を探して下さい」
「お頭、店主呼んできて!私は後輩君がなんとかなるように頑張るから!」
「分かった!待ってろカムロギ!」
ロンが剣の売り場からカウンターに座る店主と話しているのが見える。カムロギからはロンと店主が何を話しているのか分からなかったが、焦るロンと話を聞いた店主が慌てているのが目に入った。
「後輩君、頑張って!もうちょっとで助けが来るから!」
「止めてくれ。俺に優しくしないでくれ!」
「え!?・・・あ、そうか。うーん、馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!」
カムロギの体は完全に硬直してしまった。もはや、足どころか頭すら動かせないほどにガチガチに固まってしまった。しっとり茶髪のネコミミが、上目遣いをしながら心配顔で馬鹿馬鹿という。そんな状況で、許してしまう甘さが出てしまうカムロギだった。
「クッ・・・黙っていてくれた方がマシだ!」
「・・・うぅー」
「こっちを見ないでくれ!?涙目の奴を怒れないから!」
「ははっ・・・優しいんだね。実はちょっとチョロかったりして?」
「あ、自由になった」
「怒んないでよ!」
それからはもうまったく動けなくなってしまったところに、一人の獣人が救世主を連れてやって来た。
「主人を呼んで来たぞ!」
「おやおや、お客様。その短剣をにぎってしまわれましたか。ほほほほ」
獣人の皮で作った仮面を身に着けている武器屋の店主は、愉快そうに手を叩いてその光景を笑う。180cmほどの体格の良い男から漂う強い死の臭いに、武器屋である以前に何者であるかを物語っていた。
「笑ってないで早く後輩君のソレをとってちょうだい。解呪の魔法があったでしょ?」
その男に臆することのないシャルニーに、ブリキ人形中のカムロギは驚いていた。色々とツッコミどころの多い店主に何も言わず、いつもの事と言いたげに物怖じしていないのだから。
「ふむ・・店がこのまま血に染まるのもまた一興ですがね~。畏まりました。手首から先を斬り落とす物をお持ちします。魔法は今切れているので」
「なんの解決にもなってねえから!身元の判明してる血が噴き出るだけだから!」
どくどくと流れ落ちる血は、一定の距離を保って特殊な力によって堆積していく。黒い血は何かが成就することをただ待つように、願っているようにも見える。
「・・・ほー、ではどうでしょう。なんならその短剣をお使いなると言うのは」
「アンタにはこの状態で短剣使えると思うのか!?」
「私には彼方が拒絶しているだけのように見えますがねぇ~。どうです?試しにその短剣に好意的に接してみては・・・案外いい返事が貰えるかも知れません」
なんだそれは、というのがカムロギの本音だった。だからと言って、このまま体を固められたままなのも、手首から先を失うのも勘弁願いたいものだった。
「け・・・けーん、けんやー・・・剣さーん・・・」
「無機物にその問いかけは難しいと思われますがー」
「じゃあどうしろと!?」
「彼方なりの“ケジメ”を付ければいいのではないかと」
「ケジメ・・・はっ!?」
不気味な店主のその言葉に、ようやくカムロギは自分が今何をするべきなのかを理解した。自分だけがこの世界に来て、衣類を受けたことや優しくされた事、あの世界に残して来た皆に申し訳ないという様々な思いが彼の中で強い苦しみになっていた。
「なるほど・・・それでわかった」
ここに来て、自分がとるケジメとは。この世界に受け入れて貰ったことへの感謝、あの世界を離れた謝礼、その二つだと確信する。
「え!?、ちょっ・・・後輩君何を!?」
カムロギは自身に怒り、体の制御を我が物とすると短剣を握りしめ、鞘を持った左腕を出し・・・・・左小指を刎ねた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・ゔぐッ・・・ヴゥ・・・ギィ・・・・゛オ゛ォォ・・・」
「カムロギ・・・お前、何をやっているんだ!?」
その行動から一転、短剣を持つ前のように体が自由に動く。心の靄もカムロギからは消えていた。
「俺なりのっ・・・・この場所に来た・・・儀式です・・・・気にしないでください」
小指からダラダラと流れる血が、手首を伝い、足首へと伝う。そして地面に堆積した凝固した血の中へとその血が流れ落ち・・・周囲の血は時間を逆にするように鞘の中へとその姿を消した。
「・・・ふぅ・・・どうやら・・・分かって貰えたらしい・・・な」
その光景にシャルニーとロンはドン引きし、武器屋の店主だけが心から嬉しそうに手を叩いて喜んでいる。
「オォッホッホッホッホ、おめでとうございます。『犠の剣』は彼方を選びました。かれこれ数百年だれにも使わず、この研究所で玩具となっていましたが・・・いやぁ、ようやく新名を彼にも言い渡すことが出来ました。オホホホホホ」
「ウォラギネ・・・一体どういうことだ?」
ロンの疑問の矛先は、不気味な武器屋の店主ウォラギネに向けられた。
「先ほど申した通りでございますが・・なにか?」
「呪いの短剣はどいつも使えないんじゃなかったのか」
「いえいえ、誰でも使えますよ、使えます。ただ・・・今のカムロギ君?というのでしたか。彼のような強い意志を好む武器も無論ございますから。彼のように馬鹿が出来なければ、普通に扱うことも出来はしないのでしょう。ホホホホホ」
「後輩君・・・痛かったね・・・ごめんね・・・」
刎ねて転がった指を握って、必死に元の場所に戻そうとするシャルニー。時々弱くシャルニーの手が淡くピカッと光っては、徐々に離れた指がくっ付いて行っているような不思議な感覚が手から伝わってくる。そんなことはあり得ないというのに。
「・・・そんな涙ぐむのは止めてくれ、冗談のつもりだったんだろ?」
しかしどういうことか、手からドクドクと流れ落ちていた持ち主の分かる血液も、いつの間にか止まってしまう。そんな状況にカムロギは、止血剤のような物が彼女の手から分泌されるのではないかという仮説を立てた。その手で触られた場所は血が止まるという、“魔法”のような物があるのではないかと。
「だから・・・そのね・・・本当に御免なさい」
止血をしながら、何度も謝るシャルニーを見る事がカムロギは苦しく、また自分の落ち度もあったことを今の彼女に伝えられない自分の弱さを悔いた。
「シャルニー、カムロギももう良いと言っているんだ。そろそろやめてやれ」
「グスッ・・・」
「・・・もう良いんだ」
「・・・・」
黙りこんで、カムロギの手をぎゅっと握るシャルニー。その手は震えていた。ロンとカムロギは(どうする?)とお互いアイコンタクトを心見るも、特に良い案もなく、気まずい空気が店内に流れる。・・・しかしそんな空気などお構いなしに、陽気な声が三人に降りかかる。
「剣のご説明はどうなされますかー?」
一段と陽気な武器屋の店主ウォラギネは、武器の説明がしたくてたまらないと言った様子で、ブルーな気持ちになった三人の前をウロウロとする。
「どうする?聞いておくか?・・・恐らくは何か特殊な効果のある武器だろうが・・・」
「そうですね。シャルニー、顔を上げてくれ。・・・シャルニー・・・?・・・・」
トントンとシャルニーの肩を小突くカムロギ。しかし一向に返事のないシャルニー。死んだように鎮座するその姿を見て、ロンもカムロギもまさかと息を呑む。
「シャルニーお前まさか・・・泣きつかれて・・・座ったまま・・・」
「嘘だろ・・シャルニー・・・」
そう、まさに今彼女は寝息を立てて・・・
「寝ておられますね。仕事の終にココによられたのでしょう?それも収拾関係の依頼から帰ってきたとお見受けします。大変お疲れになっていても、何もおかしくはないでしょう。ホホホホ」
しょうがないヤツだと、ロンはシャルニーをおんぶする。小さな寝息がスコー、スコー、と聞こえるのを確認したあと、ウォラギネの説明を受けた。
「その剣はまず一に、突き刺した対象を回復する効果がある、というのが主な効果となります。そのまま聞くと非常に便利な剣ではありますが、それではただの聖剣になりますから、当然それに見合った対価が必要になります。何せ呪いの武器ですから・・・まあ・・・はい・・・」
「勿体ぶらずにカムロギに全部話してやれ」
「ハァ・・・この説明を聞いて返却などと考えないようお願いします。使用者よりも、その説明を聞いて使われない武器が可哀想ですから・・・ね」
「この武器は気に言ったから今後とも使わせて貰うぜ。心配はねえよ」
カムロギの言葉を聞いて、渋々その回復効果のある犠の剣の説明を続けるウォラギネ。その顔は何所か恐れるような、哀れむような顔をしている。
「・・・その対価として、使用者は同じ傷を負うのです。刺した相手の体力を回復する代わりに、自身は相手の受けた傷を変わりに受ける身代わりとなる、というのがその剣の主な効果となります」
「・・・呪いの武器に相応しい効果だな。・・・で、呪いの武器ならもう一つあるんだろ?そうでないと、カムロギに起こった硬直の説明がつかないからな」
あくまで全てのことを話せと、ロンは若干脅し気味でウォラギネに迫る。しかし、その話をしようとする顔は先ほどの悲しそうな顔ではなく、むしろコレがメインだとでも言いたげな顔をしている。
「実はこの武器は大変嫉妬深いという面白い効果がありまして。『武器の覚醒状態で、他に武器を装備などしている使用者に渡ること』を条件に、まず使用者を硬直させた後、使用者を殺すよう周囲に呼びかけるという効果がございます」
「聞けば聞くだけ、クソな武器だな・・・。カムロギ、本当にソレで良いのか?呪いの短剣一本がお前の武器になるぞ。他にもミスリルの剣やら・・・鋼の斧だって・・・」
確かに沢山の武器がまだ他にあった。しかしそのどれよりも、カムロギはこの呪いの武器に魅了されてしまったのかも知れない、何かに誘導されるように犠の剣を選んでいた。
「俺は結構この武器気にいったんで、コレが良いです。ウォラギネ、コレは幾らなんだ?」
「そうですねー、呪いの武器、品質は精霊級・・・名付きとなれば・・・」
「被害手当がついてもおかしくはないなぁ?なぁ、ウォラギネよ」
「こっちも商売なのでね、今後も此処を利用してくれると言うなら値引きも考えますがー、普通は行いません」
「友達料金だな」
「スマイルで宜しいですか?」
「テメェ・・・覚えてろ」
カムロギの持っていた銀貨の袋から、十数枚取り出し、机に並べながらウォラギネはつづけた。
「おぉ怖い。まあしかし、何時なったかは存じませんが、お友達の私から一つ忠告を差し上げましょう」
「値引きの代わりに忠告か」
「まあまあ。・・・呪いの武器に惹かれ合うような人間に碌な人間はいません。十分に注意した方が良いかと思います」
「はぁーん、それを俺の隣で言うのか」
「ええ、カムロギさん。彼方からは嫌いじゃない臭いがする。昔の私のように呪いによって不幸にならないことを願います。そのために、彼方の先輩にも強くこうして言っているのですから」
「フン・・・余計なお世話だ。行くぞカムロギ」
「ウス」
シャルニー「後輩君が私の買った半纏を着てる! 半纏には後輩君の汗が血が体温と心臓の鼓動がぁああああああ」
カムロギ「次回、希望薬の夢幻姉 運び込まれたワニの行方! 後編 元値より高く」