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希望薬の夢幻姉  作者: 鷹鷲 烏 
3/4

ラフボーイ

ウェルカムトゥーディスクレイジーワールド、このイカれた研究所へようこそ

君はrough boy.

まともな奴ほど フィールソバ

正気でいられるなんて運が良いぜ。

君 rough boy rough boy rough boy rough boy.

沼地から森の中へ、ロンデンバブルと共にカムロギはその歩みを進めていた。そんな道中、高レベル帯の魔物と幾度となく遭遇し、その度魔物達はロンデンバブルを見た瞬間に逃げていくのだった・・・。


「ロンさん」


「・・・それは俺のことか?」


カムロギはロンデンバブルという名前を何度も呼ぶのを面倒に思い、ロンデンバブルの事をロンと呼ぶことにした。


「・・・バブさん?」


「いや・・・ならロンでいい。どうした?」


「さっきから魔物が寄ってこないんですが、何かしているんですか?」


森の奥に体を隠してこちらを見つめる数体の魔物が、息を潜めこちらを覗いていた。しかし何故か警戒され、積極的に交戦しようとする魔物は現れなかった。カムロギがロンから離れる時をじっくりと待っているのだ。


「寄って来た方が良かったか?ハハッ、戦闘好きめ」


「何か理由があるんだろ?」


「ここら辺の魔物は狩り過ぎたからな・・・顔を覚えられたんだろう。それが分からない程アイツらも馬鹿ではないだろうしな」


「ここはじゃあ、縄張りみたいなものなのか・・・」


「縄張り・・・うーん・・・いや、俺達には別にそういう考え方はないな。ただ、日頃からここら一帯の魔物はレベルが高すぎて誰も近寄らないだけで、別に俺達が独占しているってわけでもない」


「へー、強いんですね」


「いーや、俺達はまだまだ弱小グループだぞ。俺達の上にはまだまだ強いヤツがゴロゴロいるからな。実際に俺達が束になっても副所長には勝てる気がしねえ」


「副所長って、どっかの研究所みたいだ」


カムロギは研究所がこの世界にあるかどうかも不思議だったが、物は試しにそんなことを聞いて見る。


「研究所だぞ?・・・あ?言ってなかったか?」


「俺は初耳です、研究所に今向かっているんですか?」


カムロギは研究所に向かっていた。


「そうだぞ?・・・お前、何所に行くかもわからないで、とことこ付いて来ていたのか?」


ロンは呆れたようにカムロギを見る。


「いや、てっきりアジトのような。簡素な作りで出来た森の中のツリーハウスに連れて行かれるのだと」


「ツリーハウスの研究所はこの大陸にはねえよ。向こう側にある。・・・それよりもお前・・・俺の服着るか?」


ロンはこの数分間、自分の綺麗好きの心との葛藤があった。しかし、全裸の青年を研究所に連れて行ったら自分はどのようにからかわれるか、ソレを考えるのも癪に障ったため、結局貸した服は捨てる覚悟でカムロギに聞いた。


「おぉ、ありがとうございます。・・・なくした羞恥心を取り戻した気分だ」


「いいよ別に・・・はぁ」


そして更に十数分雑談後、大きなぶかぶかのシャツを着たカムロギと鎧だけを着たロンは、研究所に到着したのだった。沼地にポツンとある一軒の酒屋、見た目にはただそれだけの場所。しかし研究所の周りには魔物の姿はなく、変わりに私服の人間が数人立っているのが見えた。


「お帰りー!」


『お帰りなさい、兄貴!』


二人を迎えたのは、一人の白衣を着た女性と、黒い沼の主を運んだロンデンバブルの部下だった。


「ただいまジャッキーさん。はい、コレが例のアレだろう」


「ありがとうさん」


ロンは鎧の中から球根付きの草を取り出し、ジャッキーと呼ばれる研究者に手渡した。大柄なロンとは対照に小柄な人族の女性で、色白な肌に艶のある茶髪は若さを象徴しているようだが、カムロギは経験則から、この方はたぶん40代後半だろうという目星をつけた。


「コレがないと、最近旦那がダメでねえ・・・」


「ハハッ・・・副所長も大変だな、・・・それで報酬の支払い方法なんだが・・・」


「はいよ。銀貨3枚ってとこだね」


「いやいや、そんなにはいらねえよ。二枚返す」


「良いのさ、アンタも暇じゃないのに付き合ってくれたんだ。これぐらいやらんとね。それに多いと思うなら、このお金で、そこの新人君に、上質な装備でも買い与えてやったらどうだい?」


ジャッキーはニコニコとしながら、球根つきの草を持って研究所の中へと姿を消していった。カムロギは挨拶も出来ず、その人の神秘的とも言える長く美しい髪に見惚れながら、ただ会釈するだけとなってしまった。


「さっきみたいに、依頼者に狩って来た品物を渡して俺達の仕事は終わるわけだ。カムロギ、多分お前も似たような仕事を後々することになるだろうから、覚えておけよ」


「・・・はい?分かりました。ところであの人は?」


何も分かっていなかったが、とりあえずその事よりも母性本能で満ちていた彼女のことが気になっていた。


「あの人はジャクリン、通称ジャッキーさんだ。副所長の嫁さんで、俺達みたいな流れ者全員の母親みたいなものさ。グランドマザーと呼ぶ奴もいる。今回お前を見つけたのは、ジャッキーさんの依頼を受けていた最中だったってことだ」


カムロギは親切な彼らの行動を一つ一つ丁寧に観察しては、偽りか誠かの判断をしていた。そしていま、神秘的なジャッキーの姿を見て、彼ら全員が誠のことを話していると、カムロギは確信した。


(彼女が母親代わりなら、彼らの良心にも納得がいく・・・何より彼女に騙されるなら・・・)


カムロギは、姉の派生として年上は好みだった。恋愛対象かと言われれば、ノーと答え、初めから好印象を抱くかと聞かれれば、イエスと答える。彼の思考は楽観的であった。


『兄貴、結局そいつはやっぱりそうなんですかい!?』


部下の一人がそう好奇心に満ちた声でロンに聞く。


「おぉー、多分な。なあ?」


「なあとは?」


「当てもないだろうから、とりあえずここで働くよなあ?」


カムロギの中で彼らの身なり、品性、ジャッキーの存在、そしてその他の様々な条件を彼なりに、考える。


(彼らの使う通貨、銀貨というのを、比較的に簡単に手に入れることの出来そうな仕事があり、文明のレベルは表面上中世から近世の辺り。そして、ジャッキーさんがジャッキーさんでジャッキーさんがジャッキーさんのようだ。そしてコレが一番大切ジャッキーさん・・・)


穴だらけの不純な考えを持ったことを確認すると、彼は答えた。


「はい。今日から宜しくお願いします」


こうして、最高の姉ではないが、最高の義母を手に入れたような気持ちに浸るカムロギ。色々なことがハイペースで続き、そのどれもが幸運続きでウキウキもしてきた。そんな彼に必然か、新たなる試練が到来することとなる。


「よし、そうと決まればまずは帰るか」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


「お、どうした?」


「俺下半身丸出しですけど、そのお店に入ったら通報されませんか?」


カムロギの中で、取り戻した羞恥心が叫びを上げていた。


「されたら追い払ってやんよ・・・ちいせえことは気にすんな!」


(早々にブタ箱に入るのは勘弁だ・・・いやしかし・・・腹くくるしかないのか?)


「ヨシ、行きましょう」


覚悟を完了させたカムロギは、堂々たる面持ちで酒屋へ入店した。


『お、お頭、コイツすげえ度胸だ・・・隠しもしねぇ・・・‼』


「そういう異世界もあるのかも知れないぞ?」


『もろだしの・・・世界』


カムロギの剛毅な性格が、屈折した価値観を彼らに妄想させ、カムロギの元々いた世界に対するイメージを汚れたモノにすることに、そう時間はかからなかった。


(勝手なことを言いやがるなぁー。厚着をする方ではないが、俺でも下半身を出して歩いたのはコレが初めてだぞコノヤロー!)


『チビの癖に度胸は大人だな』


部下の一人がボソッと笑いながら、冗談めかしてそんなことを言った。


「164㎝もあるんだ。俺はチビじゃあない。チビという奴は次からは怒るぞ?」


『・・・・』


突然のカムロギのドスのきいた声に、微妙な空気になる店内とロン一行。彼らの脳内には今、「怒ってるじゃねえか」の満場一致の一言だった。


カムロギはチビと言われることが嫌いだった。小さい頃から格闘技をすると伸長がまるで伸びなくなることをカムロギは知らずに育ち、体に染みついた格闘技術と引き換えに、彼は腰から下の成長をほぼ失っていた。


「おい、なんかタブーっぽいぞ皆。短足だとかあんま言ってやんじゃねーぞ」


「短足は余計だ!」


『らしいな・・・』


『っぽいんな~』


『はーい』


『了解』


『はいよー』


『わかりました!』


ロンがその場で軽く話をまとめ終えると、その後店の主人と話を付け、店の主人は裏へと続く扉の鍵をロンに手渡した。


「さてと、まずは此処まで大丈夫だったな・・・」


ボソリとロンが呟く。何者かの襲来を怖れるように目を配らせながら、下半身装備のないカムロギを部下たちで囲みつつ、下る階段を進んだ。


「ロンさん、さっきから何をそんな周りに気を遣っているんですか。店主なら追い払えば良いんでしょう?」


カムロギのその言葉をふさふさの一指し指で遮るロンの部下の獣人が一人。


『ちょっと静かにしていた方が良いよ。ここには店主以上にヤバいヤツがいるからさ』


小柄な鎧にマントで体を包んだ、柔らかい声の獣人に顔を向けると、カブトの隙間から光る二つの目がカムロギを見ていた。目線も丁度同じほど。獣人達の中では一番に背の低い獣人だった。


「お前は・・・?」


『私はシャルニー。もし今研究者達に見つかったら、玩具にされるよ?ソレが嫌なら、静かにしておいた方が懸命だと思うな』


「・・・研究者?」


『うん・・・ここには沢山の研究者がいるから。彼らに見つかる前にまずは彼方の身分を証明しないといけないの』


「・・・そうなのか」


『何でそこまでって言うような顔しているね・・・あなた。無理もないでしょうけど。でも、とりあえず今は、静かに足並みを合わせて歩いた方が彼方のためよ。分かった?』


「・・・わかった」


ロン一行は、ゆっくりとカムロギを隠すようにして店の地下にある研究所の地上から、地下一層へと続く階段を降り始めた。ひんやりとした冷たさが、固い何かの素材で出来た階段から足の裏から伝わってくる。


(酒場はこの階段を隠すためのフェイクだったのか)


暗く下へと続く冷たい階段は、上にあった温かみのある落ち着いた酒場と一変して、強い緊張感があった。階段の側面は触れば湿った土が付着するほど柔らかく、不安定な地盤の元に作られたように思えた。


(・・・こんな場所に地下を作って本当に大丈夫なのか?)


暗い階段を抜け、光の射す巨大な空洞へカムロギ達は抜け出た・・・それは紛れもない、巨大な施設の一層目、地下研究所地下一階だった。大きなランタンが宙に浮かび、その巨大な空洞を明るく照らしている。


赤毛の人間や獣人、悪魔の角を生やした色白の種族や、尾ひれの生えた魚のような種族、翼の生えた天使のような種族、トカゲのようで翼の生えている種族。


多種多様な種族が行き交い、巨大な通路で店を構えていた。そして、それらを買う者や売る者、共通して欲に溺れた卑しい目つきをしていた。


「しまった・・・今日だったか」


ロンは予想外の状況に頭を掻く。大きな丸頭の白い毛がフワフワと抜け落ち、ロンの顔は次第に困り顔になる。


『お頭、コレだけ研究者が多いとかえって目立たないはずだ。彼は狭いところも抜けるのに便利そうな大きさだから、このまま囲んでいけばおそらく大丈夫だろう』


『だねぇ、変に目立ったことするよりもソレが良いと思う』


鎧に身を包んだロンの部下の二人が、ロンに提案し、それをロンも首を縦に振って理解を示した。ボォーと光る明かりを抜けて、ロン一行とカムロギは地下一層を歩いて抜け出した。途中何度もロンは研究者に声を掛けられるものの、「あぁ、ちょっと今は疲れているんだ、また後で聞く」と、何となくすり抜けたのだった。


「ロンさん、今日は何かのお祭りか何かですか?」


「あぁ・・・今はマグロが旬だからな。別の狩猟グループが近海から釣って来たんだろう。高値で売れるし、今日はマグロが絶対に釣れる日だったんだ」


「ま・・・マグロの釣れる日ですか」


「400キロなんて化け物も最近釣れるからな。一匹釣れば、大金が手に入るってなわけで奴らは血眼だ。当然それを買い取る奴らもまた多い。猫の獣人にマグロの嫌いな奴はいないからな」


「ロンさんもその一人と?」


「勿論だ・・・だが今はカムロギ、お前の身の安全が先だ。マグロが海の宝石ならば、身の上を保証されていない今のお前は、言うなれば陸の金山といったところだ。高値で取引されるぞ」


「人にそんな価値はないと思いますが・・・」


胡麻の油と人間は絞れば絞るほどよく出るものと、カムロギは心得ているが、ソレをせずしてそのモノに価値などあろうかと疑問に思う。


「そのままならな。・・・運が良ければ、薬漬けにして殺した後に生き返らせて、何度も再利用コースだろう。精神が壊れて、魂が擦り切れるまで遊ばれるぐらいで済む」


「それは何とも・・・また冗談のような話だ」

(研究者達には研究者達なりの人の見方があるってことか。注意しないといけないな・・・)


そこから暫くの間、ロンのグループは中心にカムロギを隠し、研究者達にバレないよう地下一階を通過することが出来た。地下二階に付く階段まで辿り着くと、ロンの部下たちは大きなため息をついた。危機は過ぎ去ったのだった。


カムロギは皮鎧を着こんだ彼らの顔をじっくりと把握することは出来なかったが、息を荒げ、極度の緊張から解放されたような雰囲気なのは伝わって来た。


『お頭、そういえばコイツの名前をまだ聞いてないぞ。なんて言うんだ?』


「コイツの名前はカムロギだ。転移者のカムロギ。あとトイチってのも次にあったが・・・役職名か?・・・なあ、カムロギ」


「カムロギはファミリーネームで、トイチが俺の名前だ」


『トゥイチ?』


「いやなんでアメリカン・・・トイチだ。いや、俺の名前はカムロギで良い。えーと・・・」


『ボンゴレだ。チームでは偵察を担当している。トゥイチ、宜しくな』


ロンの部下の中で一番大きな体格の男、ボンゴレはそう言って左手で握手を求めた。その手に一度カムロギは躊躇ったが、ガントレットも外され素肌を晒しての握手だったため、警戒しつつ握手を交わした。獣人ではなさそうなその鱗の生えた腕の感触にも、興味があったのは彼自身気付かない好奇心もあっただろう。その手を握り返した。


「獣人族じゃない?」


『俺は竜族だ。見たのは俺が初めてか?』


「竜・・・?火や凍える吹雪を吹くあの伝説とかのやつか?」


『そちらの世界では俺達は伝説になっているのか・・・、まあ希少な種族ではあるだろうな』


「尻尾は生えているのか?」


『伸ばす奴もいるが、俺は基本的には毎日斬っている。鎧を着るのに邪魔だからな』


「へぇー・・・人でいう髭か、なんかカッケエな」

(えーと、なんで他のメンバーは何も話してくれないんだ?警戒されているのか?後ろでコソコソ何か話をしているし・・・)


『ククッ・・・別にかっこよくはないだろう?お頭、コイツ面白いヤツだな』


尻尾の事を褒められることなど、ボンゴレは生きて来た中で余り言われた試しがなかった。人で言うならば、尻尾の処理を怠らない竜は「とても綺麗好きで、センスの光る人で、超尊敬します」といった具合の意味があった。勿論言われて嫌な気分になる竜族などいるはずもなし。


「ボンゴレが気にいるなんて珍しいこともあるものだ。まあ、お前の後輩でもあるからな。ちゃんと先輩らしく教えてやれよ?」


『ロンデンバブル・・・お前が連れて来たんだろ・・・?』


「おっと、まだ仕事中だぞ?」


『・・・チッ、お頭』


「この悪い先輩みたいになるんじゃなくて、仕事とプライベートの区切りはしっかりするんだぞカムロギ。・・・それはそうと他の奴らはどうした?皆黙りまくってよ」


ロンは適当な話題に切り替える方法をとった。自分が適当に脊髄で会話したところで、ボンゴレに上手く責任を擦り付けることが出来ると思えなかったのだ。ロンはそれならばこれまで通り、「チーム全員で面倒を見ようじゃないか!」という考えに全員を誘導しようという考えに至った。しかしそれもロンの考えの及ばぬ事態によって妨げられる事となる。


『えーとな、お頭。私が代弁して良い?』


「あぁ?・・・おう、シャルニー頼む」


『多分、四人共カムロギ君の下半身が気になって皆顔を背けているんだと思うな』


ロンの部下はロンデンバブル、ボンゴレを除いて残りの五人全てが女性だった。そして、ある者は慣れない物を見るのが嫌で目を背け、ある者は汚物を目に入れるのが嫌で目を背け、ある者は知的好奇心と羞恥心との葛藤中故にチラ見ばかりし続け、そしてなぜかは分からなかったがとりあえず周りに合わせ背けている者が一人いた。


『みんな目のやり場に困っているんだと思うな』


「あぁ・・・・気付かなかった。ボンゴレ。カムロギにズボン貸して遣ってくれ」


『すぐそこだからこのままで良いだろ?なあトゥイチ』


「良いぞ、ちょっと肌寒いけどな。自己紹介はパンツを履いた後にするよ」


『そうか』

(トゥイチの前に住んでいた世界では、パンツを履いたら捕まらないのか?パンツだったら恥ずかしくないのか?コイツの世界は謎だらけだな)


その後階段を降り、地下二階は会議室や集会場となっている事をロンから説明され、それを補足するようにボンゴレの言葉が入った。ロンが声を大にして全員に伝える役割なのだとしたら、ボンゴレは小さな声でソレを下から支える役割を担っていた。


そうこう話ながら、また、研究者達の目を盗みながら、カムロギは遂に地下三階へとたどり着いた。


「カムロギ、ココからは絶対に俺達が良いと言うまで喋ったらだめだぞ」


カムロギはコクリと頷いた。ロンは大きなマントの後ろにカムロギを隠し、周りもソレに合わせてマントを広げ、違和感のないようカモフラージュをした。


「やあやあ、ロンデンバブル!!そんな大きなマントをしてどうしたんだい!!?砂漠返りかい!!?」


ド派手な紫の眼鏡をした人間の科学者がロンデンバブルに話かける。背は高く、二メートル近くはあるだろうその科学者は、何か喜ばしいことがあったのか上機嫌でロンデンバブルに話かける。


「いや、近場で採集をしてきただけだ。マントに関しては触れないでくれ」


「ほーん。そうなのかい?じゃあ!!そのマントの中身を僕にくれたら、マントには触れないであげるよ!!」


ロンの部下の誰よりも大きなその科学者は、笑いながらマントで隠れたカムロギに指を指してニヤニヤと笑っている。どうやらその研究者にはカムロギのことが分かってしまっていたようだった。


「・・・なんのことだ?」


「また連れて帰って来たんだろう!!?それも今度はバレないようにかい!?案外小賢しいんだねぇ!!!」


「・・・耳元で煩くしないでくれ。俺達は何も連れて帰って来てはいない。それとお前におみあげがあるんだ」


「え!?なに!?お土産!!?小賢しいロンデンバブルがお土産!?何!?ナニ!?」


「転移して来た勇者の下に出現すると言われている合金があっただろう?アレを偶然、見つけたんだ。それをお前にやるよ、だから今回は・・・」


「ハハハッ!買収!?ねえそれ買収!?アハハハハハ!楽しそう!ヨキヨキ!買収されます!!アハハ!ムアハハハハハ!!!」


ロンデンバブルが懐から出した石盤を渡された研究者は、楽しそうにぴょーんぴょーんと、スキップをしながら奥へ消えて行った。ロンと部下全員の鼓動がバクバクと音を立て、次研究者に見つかれば後はないとロンは冷や汗が滲み出る。


『まだマシな奴で助かったな。お頭、早く済ませよう。俺達が持たない』


「そうだな・・・あと少しでつくんだ。急ごう・・・」


間一髪のところを脱し、やっと安全と言える場所までやって来た一行。


全員がで命懸けだったことをカムロギは知らない、しかし自分の理解の外でなにか大変なことがあったことは、何となく本人も理解していた。


「そ、その・・・なんというか。ありがとうございます、全員で守ってくれて」


「二度目は夢見に悪いだろうからな・・・まあ、連れてきて良かったさ・・・」


部下全員の顔色はあまり良くないものへと変わる。彼らは以前にも似たように転移者を連れ帰り、痛い目を見ていた。それが今回のカムロギに対する好待遇の理由だった。全員が前のような事は御免だと思っていたからこそ、今の最善と言える状況が成立していた。


『トゥイチ、この部屋の奥にある穴が見えるか?』


「穴・・・?アレのことか」


目の先には金属でできたダクトのような、どこに続くかも知れない先の見えない暗い穴があった。


『あそこに潜って前に進め。そうすれば勝手に戻って来るようになっている』


暗い穴へ体を上手く使いながら、匍匐前進で暗黒へと一人で進んでいく。カムロギは何かの風習だろうかと疑問に思いながらも、此処まできて疑い続けるのも気分のいい話ではないと、素直に潜っていったのだった。


(冷たくて暗いな・・・それに狭い・・・。地獄までの道を自分で這っているみたいだ)


途中何度か眩しい光が穴の側面に走ったかと思えば、直ぐに元の暗やみへと戻り、ソレが十分ほど続いた、丁度感覚がマヒし始めたところだった。穴の先に小さな光が見え始め、それは段々大きくなり始めた。


(光だ・・・!・・・やっと終か・・・!)


穴を抜けると、また同じ穴から出て来たカムロギ。同じ場所から出て来たことに面喰っている顔はさぞかしマヌケだったのだろう。ロンは腕を組んで無表情だったが、部下たち全員はソレをニヤニヤとしながらソレを見つめていた。


「穴の隣に座っている男がいるだろう。そいつに名前を伝えるんだ」


ロンの声は少し震えていた。よく見ると腕を抓り、ただ笑いを誤魔化しているだけだった。


「あらら・・・こりゃ酷いバカ面を見られたな・・・」


椅子に小さなランタンの付いた杖を持った老人が、先ほどまでいなかったその老体が、カムロギの目には映っていた。


【儂が見えるようになっておるか】


「ああ見える。聞えもする」


そう答えたのも、自分自身で改めて理解するためだった。このランタンを持った老人が、再び瞼を閉じて開いた時には、朝露のように消えてしまうような存在に思えたからだ。そして、カムロギの意識に彼自身を定着するようにカムロギは神経を研ぎ澄ませた。


【心配するな・・・儂は元よりこのような存在なのだ。この部屋に住み、この部屋そのモノのような存在なのだ。どこにも居なくなったりはしないよ】


静かに重いその声は、落ち着きや安定といったイメージを持ち易い穏やかな声だった。長いとんがり帽子を被った髭の長い老人。カムロギにはソレがそう映りこんだ。


【落ち着いたか。・・・ならば、早速・・・・名前を教えておくれ】


「カムロギ トイチだ」


【神漏岐 十一・・・でいいか?】


「異世界の言語も分かるのか!?」


【数は少ないがなぁ・・・、お前さんの翻訳のされ方を見たところ、お前さんの使う言語は、第405日本語系の最新版だろう。ちゃらい、ごち、卒乳などが加わったであろう?】


「(言葉のチョイスが謎過ぎて反応に困るぞ、おい)・・・そんな言葉はもう古くてあまり使われていないような気もするけどな」


【なんと・・・ではまた機会があれば、十一の世界の言語を話しておくれ。報酬は勿論払うから】


「あぁ良いぜ。カタカナ語ばかりで会話できるような最近の若者じゃないけどな」


【ほぉー・・・ほっほっほ・・・生きがいがまた一つ・・・増えたわい・・・。それと、ホレ・・・・出来たぞ】


杖の先に付いたランタンの中を開けると、小皿に蝋燭が一つだけ立っていた。しかしよく見ると、小皿の下に何か平たい物を見つけることが出来た。カムロギはソレを手に取ると、それは平たい楕円形の鉄バッチのようだった。


「コレは?」


【証じゃよ。お前さんの価値を研究者の奴らに示すための証じゃ。コレを付けている間であれば、十一、お前さんは振りかかる不条理から身を守ることが出来る。生きることを許されるのじゃ】


「別に生きることぐらい誰にでも許されていいと俺は思うけどな」


【外の世界では勿論そうであろう・・・しかし、この場所は違う。だから覚えておいておくれ、この場所に・・・決して染まってはならないよ・・・。お前さんはお前さん自身を絶対に見失ってはいけないよ・・・。ただコレだけ、見失わず生きていけるのなら、ここはお前さんにチャンスと可能性を与えてくれるはずじゃ・・・強く生きるんだよ・・・】


そう言い残し、老人はランタンの残光の中に消えて行った。こうしてカムロギはこの研究所で生活する権利を獲得したのだった。



姉を追うカムロギに待ち構える羞恥のワナ!

生きていくにも金がない、下着がない、姉がない!

だが!それを全て解決せんとするカムロギの救世主が現れる。


次回、希望薬の夢幻姉 【運び込まれたワニの行方!】


カムロギ「お前はもう死んでいる」




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