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名もない物語  作者: 細川女々男
小々波春香の三つの願い
1/2

1 『いつもの始まり』

「おいクマリ話が違うじゃないか」

一人の男が汗をかき走って階段を駆け上がり大声で叫んだ。

周りは遠くにあるグラウンドを照らす微かな光のみで、学校の屋上には光など一切なかった。


そんな暗闇に紛れながら手元もよく見えないのにノートを手に取り左手にペンを握り何かを必死に書いている者がいた。


「んん?誰です?暗くて全く見えないんで分からないのですが私に何かようですか?」


首だけ後ろに捻り、疑問そうに男の方を見つめていた。


闇からの声はとても明るく綺麗で若い女の声であった。


「僕だよ君と契約した四部だよ!願いを取り消しにきたんだよ」


「あ〜、四部様ですか。それでどうかしましたか?」


暗闇から四部の方へと一人軽快な動きで接近してきた。

最初は暗くて見えなかったが次第に姿が見えてきて、小学生ぐらいの白髪のセミロングの女の子が四部の元へ寄ってきた。


「久美ちゃんと付き合ってみたのはいいけどすっごく性格悪くてさ、僕の理想と全く違うかった。取り消してくれよ。」

「性格って言われましてもね〜。私は四部様の願いを叶えただけですよ。それなら最後の願いは願いを取り消す願いでよろしいですか?」


少女はにこやかに笑った。


だが四部は彼女とは真逆の表情で眉間にシワを寄せて少女の胸ぐらを掴みかかった。

少女は小さく、簡単に宙へと持ち上がった。


四部は少女を見上げる形となり凄い形相で少女を睨んだ。


体格的にも四部は柔道部で一番ガタイが良く少女と比べれば三倍近くも違うのだ。


それなのに少女はピクリとも動じもせず、にこやかな笑顔のまま四部を見下ろしていた。


「ふざけるなよクマリ!そんなのに願いを使っちまったらもう叶えれなくなるだろうが!」


四部は少女の首を絞めにかかり始めたがそれでも少女はピクリとも動じなかった。


「四部様。貴方は既に二つ願いを私に言いました。残りは一つです。一つ目はクラスで一番可愛い久美さんとの交際。二つ目は柔道の試合での優勝を。この二つは変えられない貴方の願いです。それを取り消す事は出来ません。」


先ほどまでの明るい声とは裏腹に声のトーンが落ち、優しい眼差しがどこかゴミを見る目に変わり果てた。


暗くてしっかりとは見えなかったが四部が少女を持ち上げたことにより月と星が照らし背中を照らした。


よく見ると背中には黒い羽が生えており、可愛い人間ではなく、羽が生えた人間ではないナニカであった。


だがそのナニカの首を絞める人間の方が人間ではないのかもしれない。

四部の目は怒りと欲望を宿しナニカに自分の要求を飲んでもらえなかった事により一方的な怒りは膨らむばかりであった。


膨らんだ欲望と怒りはナニカにぶつけるが全く反応を見せずただただ四部は首を絞めることしかできなかった。


「僕はどうすればいいんだ!答えろ!……答えてくれ。」

怒りを怒りにしてぶつけるも少女は全く動じない。


自分の怒りが少女には全く通じないと分かったのか四部は悲しそうに彼女に問いかけた。


彼女は明るく四部の問いかけに答えた。


「そうですね〜。二つ失敗しちゃったんですし三つ目も期待できないですよね〜。女と夢で満たされなかったならお金なんて如何ですか?それが無理ならいっそそこから飛び降ります?楽になれますよ。」


先ほどの声の低さより明るく死ぬように勧めてくる少女の方がよほど恐いものだと四部は痛感した。


四部は疲れたのか、怒りが治ったのか少女を床に下ろした。

そしてそのまま鉄格子の方までゆっくりと近づき、鉄格子に手をかけて格子を超えて行った。


下を見ると今自分が屋上に居てそしてどうしようもなくダメなゴミだと実感した。

高嶺の華の女と無理やり付き合い。勝てない試合を勝てる試合にする。

その時はそれで満たされても後に残るモノなんてなに一つ無い。


ただ意味もなく少女に命を取られただけだった。

後一つ願いが残っているが何を叶えても虚しさと自分の弱さを痛感するだけだと四部は気づいた。


だが飛びたくても、そこから下に飛び降りる勇気なんてなかった。

四部は本当に中途半端な男なのだ。


そこにまた初めて出会った時のように一人の少女がにこやかに話しかけてきた。

「困ってるなら叶えましょうか?アナタの願い事。」


そして僕はあの時と同じ様に答える。

「君は天使か?是非お願いします」


そうして四部勝の物語は幕を閉じました。


「う〜ん。なんか違うんだよね。やめだやめだこんなのじゃ立派な小説家になんてなれないよ。次はもっと面白い人にしよっと」

少女はノートを引き千切りぐしゃぐしゃと丸めてその場に捨てた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジリリリリジリリリリジリリリリ


いつもの時間にいつもの音が鳴る。

目覚ましに手を伸ばしていつもの様に止める。


人生なんて《いつも》の繰り返しだ。


俺は朝ごはんを済ませていつもの服に着替えて玄関のドアを開けた。


「おはよ春香。今日も時間通りキッカリだ!」

俺の名前は小々波春香(さざなみはるか)女みたいな名前だけど普通に男だ。

特にコンプレックスもないし母につけて貰った名前を誇らしか思ってる。


「おはよサル!時間を守るのは当たり前だろ?」


彼は親友の猿島響(さるしまひびき)金髪のツンツンヘアーに名前通りにサルみたいな身軽さからみんなにはサルって呼ばれている。


俺らは昔からの付き合いでなんだかんだで高校まで一緒の中だ。

スポーツや体育祭ではサルは常に輝いているのだが勉強は全くダメな男で俺はそんなサルとは真逆で学校では凹凸コンビなんて呼ばれたりもする。


「春香!今日の数学の宿題やった?いややってるよな!見してくれ」

「またかよ。仕方ない学校でな。」


いつものことだがサルには宿題を提供している。一見ただの使われ者の様に見えるが一流大学に行くためには体育の内申も必要だ。それをサルと同じチームにすることである程度点数をあげてもらっているのだ。


いつもの様にくだらない話をしながら二十分近く二人で歩いていた。


歩き始めて五分程しかたってないがこれで三台目のパトカーだ。

流石におかしいと感じたのか、何も考えてないサルですら頭も捻り始めた。


「なぁ春香パトカー多くね?」

「そうだな。それも学校の方だな。なんか事故でも起こしたのかもな」

「それなら国語の池上のやつが痴漢で捕まったとかあるんじゃねーか」


サルは笑いながら楽しそうに話している。


そんなサルと話している日常が楽しくて俺は満足だ。


いつもの並木道を歩きながら俺はそう感じた。


「知らないと思うけどサルはデジャヴって知ってる?」


俺は何気なくサルに質問を飛ばして見た。

「知らね。サッカー選手かなんか?」


案の上知らないと言う答えが飛んできた。


俺は毎日の生活が同じことの繰り返しに感じることが多い。朝の一連の流れ。

サルと会ってから学校が終わる流れ。


この事をデジャヴというのかはわからないが俺にはそんないつもが時々気になることがある。


「違うよ。なんか言葉では説明できないからいいわ」

「なんだよそれ!難しいことは俺分からん」



十分も歩けば見知った制服の人が何人も見かけるようになる。


だが一部の人がいつもの様にゆっくりではなく、どこか急ぎ足で学校に向かっている。


「ねーね聞いた?二年の四部が自殺したらしいよ。」

「えーまじ?同じクラスなんだけど〜」

そんな会話が耳に入り込んできた。


急な話に俺は耳を疑った。

同じ学年の奴が自殺なんて急に聞けば疑うのは普通だ。


しかしそれならパトカーや急ぎ足の生徒の理由も納得が行く。

横のサルは全くその事に気がついてない様子だった。


気になる話だが早く学校に行くからといって、特に何があるわけでもないし無駄に関わるのも嫌だから俺はそのことをサルには話さずにそのままいつものペースで歩いた。


その角を曲がれば正門だというタイミングで後ろから声が掛かった。


俺とサルは体ごと曲げて後ろを振り返ると茶髪でミディアムの女が俺らの元へ向かってきた。







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