番外編『俺のエイプリルフール』<前編>
今日はエイプリルフールにちなんで、それに関連した番外編を投稿してみました。
本編の『入学式』が前編で途中なのにこっちを優先してしまったのは申し訳ありません。
しかも、その番外編も前編、後編という……
明日はこっちの番外編の後編投稿します。見てくださいね。
あと、本編が進まないことに関しては再び陳謝。
ピピピピ……ピピピピ……
ベシッ
俺は喧しい目覚ましを叩いて黙らせたが……
『……現在時刻は、二千八十年、四月一日月曜日、午後八時丁度です。……フフフ、冗談ですよ。正しい時刻は午前八時丁度です。どうですか? エイプリルフールにちなんで、ウソをついてみました。面白かったですか?』
朝起きたとたん目覚まし時計はそんなウソをかましてきた。
半世紀前と比べ、AIの話し方は流暢になったとはいえ、ユーモアはある意味では有るが人間的なそれとは程遠い。
それと……
「何で、画面に『面白い』or『面白くない』ってタッチ式で表示されてるんだよ。しかも、その表示の『面白い』って方が、『面白くない』の二倍ぐらいのデカさになってるし。AIはこういう人間の厚かましいところだけ真似て進化しちまったのか⁉」
少々腹を立てながら、俺は目覚ましの電源ボタンを叩きつけるように押した。
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――『エイプリルフール』それは毎年四月一日は嘘をついても良いという風習である。因みに『エイプリルフール』は騙された人という意味だけどな。とにかく、この日は世間全体で軽いジョークを言いあったりして、友達とかと親睦を深める日だ。
だけど、俺にとってはかなり面倒くさい日だ。
何でかっていうと……
「おい、小和! 俺のサンドウィッチの中に瓶一本分のタバスコを仕込みやがったな!」
俺は朝飯にがっつこうとする寸前でキッチンにおいてある昨日まで満タンだったはずのタバスコの小瓶が空になっておいてあるのを見て不審に思い、半分鎌をかける形で妹にそう問い詰める。
「ちぇっ、バレたか……今年こそはうまくいくと思ったのにな……」
「『ちぇっ』じゃねーよ! 俺の朝飯どうしてくれるんだ!」
やっぱり、仕込んでいたようだ。本当に毎年毎年面倒な奴だ。それに、タバスコの匂いに気付かれないように、中に巧妙な位置で仕込んでやがる。
そういえば、去年は俺が玄関から出ると水風船が降ってくる仕掛けを作ってたな……でも、あの時は玄関の扉の上から紐が出てて何かあるのがすぐに分かったんだけどな。今回は不覚にも不審な瓶を見るまで気付かなかった。
こいつ、腕を上げているようだ。でも、そのリソースもっと他に使うべきだろ。
「別に新しいの作ってもいいけど、そうなると、そのせっかくのサンドウィッチ捨てることになっちゃうな……」
「っ!」
妹は「勿体ないよね? 私がせっかく作ったのを捨てるの?」みたいな声が聞こえてきそうな勢いの女優顔負けの仕草で俺を上目遣いで見つめてくる。
「ああ! もう分ったよ食うよ!」
俺は半ばヤケクソにそう言った。
……ってか、これ俺が順当に引っかかった時とあまり変わらなくね?
「食べるんだったら早く食べてね~」
「くそう~~~~!」
俺は、超絶辛い悪魔のサンドウィッチと共に牛乳を流し込んで何とか完食することに成功した。
因みにこの時、俺はいままで、給食の時ご飯に合わないものとしてしか扱っていなかった牛乳の真価を知った。
……マジで牛乳は、辛いもの食う時に助けになる。水なんか目じゃない。
牛乳万歳!
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「いつまで、この悪戯を続けるつもりなんだ?」
「もちろん、お兄ちゃんが引っ掛かるまでだよ」
「俺が基本引っ掛からないからってそんなにムキにならなくたっていいだろ! お前みたいな輩が毎年この時期俺に悪戯とか嘘か本当か微妙な嘘つかれたり、仕掛けられたりして、滅茶苦茶面倒なんだよ!」
そう、これがさっきの「何でかっていうと……」の答えだ。
俺は基本的に回避しようのない悪戯以外は大抵察知して引っ掛からないし、嘘はコールドリーディングとかそういう相手を観察する技術とかで、話の矛盾点を見つけ出すことでほぼほぼ看破してしまう。
そうやっていつも他人のウソとか看破してたらいつの間にか、噂として親戚とか同級生とか先輩とかのほぼ全員に広がり、エイプリルフールという大義名分を利用して、俺にこの日仕掛ける人は増えて行ったという訳だ。
「わざと引っ掛かれば良いじゃないか」と思う人もいると思うが、何だろう? 俺のプライド的な奴がそれを許さない。それに、引っ掛からない奴として名を通してしまった以上、簡単に引っ掛かる訳にはいかないのだ。
そんな回想をしていると……
プルプルプル……プルプルプル……
不意にコール音が響いた。
「電話だよ。この着信音は……お兄ちゃんの携帯じゃない?」
「あぁ……そうだな」
発信者は誰か見当はついている。
俺は深いため息を吐いてスマホの画面をタップした。
「ハロハロー。オレだよオレ。なぁ、分かるだろ?」
「はいはい。半世紀も前に流行った『オレオレ詐欺』……じゃなくて、正式名は『母さん助けて詐欺』だったか? ……とにかく、そんなアンティークなネタまで使って何の用だ市村遼太郎? 言っとくが俺はお前の母さんではないし、お前を助けてやるつもりなんてないぞ。大体、俺と同じく『黒ヶ崎』に受かったお前なら、そんな手助けは全く必要ないだろ」
俺は、呆れてますオーラ全開で嫌味にそう返す。
だが、遼太郎はそんなことに構わず、
「まあまあ、そう冷たくしないでくれ。今日はちょっと要件があって電話した」
「何だその要件って」
どうせ、エイプリルフール関連だろと思いながら俺は面倒くさそうに問う。
だが、その後遼太郎が言ったことは想像の埒外だった。
「今日、俺と、デートしないか?」
「…………お前、目覚めたのか? もしそうなら、ごめんなさい。あなたとは付き合えません」
「えっ⁉ ちょっと待って! そういう意味じゃな……」
俺は無言すぐ、電話を切った。
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「いきなり、切られるとはな」
ここは都内の喫茶店だ。ここで、俺たちは六人掛けの席に座って待ち合わせている。
とはいっても今いるのは俺と遼太郎しかいないがな。
「仕方ないだろ。お前がいきなり『俺とデートしないか』なんて言ってくるんだから。俺はBLには寛容だが俺にそう言う気持ちはないからな」
俺は遼太郎の呟きに真っ赤な嘘で答えた。
確かにあれは想像の埒外だった。だが、誤解したわけじゃない。遼太郎にBLの気がないのは知っていたことだし、それでデートと言われればダブル以上のデートか比喩的な表現かのどちらか、又はその両方であることは容易に想像がつく。
なのに、俺がそういう対応を取ったのは、電話をさっさと切って携帯の電源を切る口実をつくり、連絡が来ないことを言い訳に参加しないためだ。
だけど、コイツはあの後、妹の方にかけてきやがった。てかなんで俺の妹の電話番号知っているんだよ! もしかして俺の知らない所で既に俺に対する包囲網が形成されているのか? 今度調査する必要があるな。俺のクラッキングテクを使えば正体を割ることなく、その包囲網を破壊できる。
そんな物騒なことを考えていると、
「おはよう。タクとタロウ」
「おっはよー! タク、タロー!」
「おはよう。拓海君、遼太郎君」
「おはよー。ふぁ~。拓海、遼太郎」
丁度、今日のトリプルデートの(たぶん比喩。正確には、同窓会的な方)メンバーが入ってきた。それに俺たちは「よう」と返しておいた。
因みに、今来た奴を紹介しておくと、最初に挨拶してきた、黒髪で色白で背も俺ぐらいあるいかにも好青年って感じのこの男子の名は円城寺創我。中学の頃は生徒会の書記をやってた。
次に挨拶してきた、ショートで茶髪(因みに地毛)で日焼けの濃い男勝りキャラのコイツは大崎澪。中学の時は、天賦の才としか言いようがない運動が得意な男子にも勝る運動神経を利用してテニスの大会で全国まで行った強者だ。しかも、その容姿がとても整っているため、結構、テニスに興味のない人にもメディアを介して全国に顔が知れている。あと一応、合気道の有段者らしい。
その次に挨拶してきた、黒髪ロングの清楚な感じの人は吉津芽生。超成績優秀で、学年の順位の方は5位を大きく離して三年間四位以上をキープしていた。因みに、進学した高校は、俺と同じ黒ヶ崎高校だ。
最後に、欠伸をしながら眠そうに挨拶してくる茶髪と黒髪混じりの(こいつも地毛らしい)ミディアムストレート(あんま詳しくないからよく分かんない)のほかの二人とは違った意味で可愛いコイツは、川岸菜々美。中学生のくせにイラストがプロ並みに……いや、プロ以上に上手く、イラストレーターをやっている。おそらく、眠そうにしてるのも、昨日徹夜でイラスト書いてたんだろう。
……てかなんだこのチート経歴は。しかも、みんな容姿整ってるし。まあ、俺も黒ヶ崎受かってるし、俺も容姿が整っている方だから、(注:これは客観的な事実だよ。負け惜しみじゃないよ)あれかもしれないけど。
とそこへ
「じゃあ、いくか?」
と、遼太郎。
「そうだな」
「そうだね」
「もういくの? 何か食べたかったな~」
「澪さん、まだ十時なんですから、あまり食い意地を張らない方がいいですよ」
「ふぁ~。眠いな~。移動するんだったら乗り物にしてほしいな~」
三者三様の反応を聞いた後俺たちは店を後にした。
――因みに、このメンツが、終始店内のほかの客や店員の視線を集めていたことは言うまでもないだろう。
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俺たちは喫茶店を出た後、大通りで雑談をしながら渋谷にある複合商業施設に向かっていた。
「澪、お前、なんかもうプロのスカウトの人来てるって?」
俺はとりあえず、ありそうな話を振っておく。
「いや、そんなことはないけど……なんで?」
「そんなことを噂に聞いただけだ」
今回はないパターンだったようだ。俺は会話を終了させる。
「そういえば、今日何見るんだったかな?」
「そうね……何見るかまだ聞いてなかったわ」
「で、何観るの~」
「むにゃ?」
創我が聞いてきたのに釣られみんな一斉に聞いてくる。(たぶん「むにゃ」もカウントに入る)
だが、一つ言っておこう。俺は知らん。というか、コレ企画したの遼太郎だろ。なぜ俺に聞いてくる?< ……さてはあいつこのメンツ集めるときに俺が企画したみたいなことを言ったんだな……後で成敗してくれる。
「あ~えっとまだ決まってないよ。行ってから決めよう」
そう言ったのは俺ではなくタローこと遼太郎だ。
集めるときに自分の名前だけを使えよ。俺を意地でも参加させようとするからって詐称は良くないぞ。
「それにしても、俺ら視線集めているな~」
「そうだね~」
と、そんな話をしていた時、
「リア充爆ぜろ‼」
二人組の男がナイフのようなものをもって俺たちに向かって叫んで走ってくる。
しかも、そのうち一人は俺の方に向かっている。
「っ!」
俺は恐怖で硬直してしまった様にも見える様子で俺はそのまま立ち尽くした。
「拓海、あぶない!」
「えっ⁉」
そう言って今まで眠そうにしていた菜々美が俺と男との間に割って入り――
――そのまま菜々美は刺された。
【用語解説】
――スマートフォン――
二千八十年現在もスマホはCDと同じく健在。ただ、半世紀を経て紙のように薄くなり最新モデルでは巻物のように円柱状に丸めることもできるようになった。