No.1:一章『変事』
――世界の容態は二千八十年現在、二十一世紀初頭と比べると随分と変わった。
現在、超光速で移動、通信する技術と、火星や月と言った星を住めるよう開拓し、定住できるようにする技術が確立され、世界は一世紀程前に公開された映画『ス◯ーウォー◯』のような容態になり、幾つ物星が開拓され、国ごとにこの新たな領土として管理され都市が形成されている。(但し、火星や、月など太陽系内又は、太陽系からから余り離れていない地球型惑星に限る)また、宇宙には沢山の大小様々な宇宙船が行き来し、無数の通信用、補給用の基地などが浮遊している。
何故、一世紀も経たないうちにこんなにも文明のレベルが進化したのか。
そこには二千三十年頃から起きたある出来事が関係していた。
ーー二千三十年、観測技術の発達により、ある程度大きさのあり、地球に衝突する確率が僅かでもある天体は監視され、衝突する可能性が高い場合はある程度の衝突する時期とその確率を(混乱を避ける為)に主要国政府のみに公表するシステムが作られた。
それから数年後経った二千三十三年六月、直径約十キロの天体が二千六十年あたりに衝突する確率が約六十パーセントあるというニュースが主要国政府の間を駆け巡った。
アイザック・ニュートンの予言か? とも思われたこのニュースはすぐさま地球規模(主要国間政府と一部の学者のみの間だが)で対策を考えることとなった。
その結果、地球を脱出する方法が模索され、科学者たちの苦心惨憺の末十年後、一度に十万人を輸送また、船内で時給自足の生活ができる宇宙船と、それを光速以上の速さで移動させる技術、火星のような星に定住する技術が開発された。
しかし、対策は宇宙船の製造と試験に入ろうとした二千四十五年再び問題の天体を観測した結果、ほかの天体と衝突し、軌道が変わったことが判明し、地球に衝突する確率は限りなくゼロに近くなった。
このことは対策チームと主要国政府に伝えられ、すぐさま今後の対応についての会議が開かれた。丸一日議論した末、技術と事の顛末をを公開することが決定され、その一ヶ月後一大ニュースとして各メディアから一斉に報じられた。(もちろん国連や政府はかなり叩かれた)
その後、公開された技術を基に宇宙船を製造、月や火星などを開拓する企業が出てきた。
ただ、領有権を主張する国家も出てきたため、国連は領有権に関する法律を作った。
法律はかなり単純なもので日本で昔出された墾田永年私財法のように星を人間が住める環境にした団体、個人の所属する国家のものであると定められた。(国家またはEUのような国家に準じる組織に属していない団体、個人が開拓した場合、領有権は認められず、どこの国家にも属さない公星となる)
この法律が施行されたことで各国で領土拡大のため国を挙げての熾烈な開発競争が起き、太陽系外惑星も開拓され、約二十年後の二千六十六年には所有された星が百を超え、その数年後数が増えすぎたためにもうこれ以上は国連の許可なく星を開拓、所有してはならないと決められた。
この急速な発達で、開拓に成功した国々は他の星に人口を分散させ地球に食料の生産と首都機能、観光地のみを残した。また、宇宙開発が自力で出来なかった国は労働力や資源を交渉の材料として先進国と交渉して同盟国となったり(と言う名の属国)、ASEANのような連合組織を作り共同で星を開拓するなどした。
ーーこれがこの約半世紀の間の公に公開されている出来事だ。
だが、隕石対策の時に隕石を迎撃する案も出され、核爆弾よりも強力な大量破壊兵器になりうるものが並行して開発されていて、各国がそれを秘匿しているとの噂もあるーー。
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「たくみ兄ちゃん。なぁ〜にしてるの?」
「明日の入学式の準備と、高校の校則の抜け穴チェックだ」
俺はいっそ清々しいまでの迷いのない口調でそう答えた。
「はぁ〜。お兄ちゃんらしいね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
妹の工藤小和は呆れと諦めを含んだ口調で話したが、それに構わず俺は微笑みながらわざとらしく言った。
ここは日本の首都、東京の郊外にあるベットタウンのマンションだ。そこに俺は妹と二人で住んでいる。因みに親はいない。他界したという意味ではなく、住んでいないという意味で。
そこには色々と訳があるのだが、取り敢えずは教育機関が地球に集中しているのと、親は他の星にいるからという説明に留めておく。
「あっそうだ! 」
妹はいきなりそう言い残し、タタタタと駆けていき冷蔵庫をパタン、パタンと開け閉めする音がした後、またタタタタと駆けて来て俺に何か渡してきた。
「はい。これ」
「なんだ。笹団子か?」
「うん。今日お花見行ってきたんだ」
「……お兄ちゃんを差し置いてか?」
「だってお兄ちゃん午後寝てたじゃん! それに、友達と行ったんだよ」
今までなら、俺が寝てても叩き起こしてでも「お花見行こ?」って上目遣いで言ってきて半ば強制的に行かされたんだけどなぁ……しかも、こういう時、友達とだけ行くことは殆んどなかったんだけどなぁ……これが思春期ってやつなのかな?
「受け取らないなら、食べちゃうよ」
「えっ、あっ、じゃあ有り難く」
そんな、俺の感慨は妹の催促によって消し去られ、俺は慌てて笹団子を受け取り、頬張った。
(モグモグモグ……)
「ふまいなふぉれ」
「……お兄ちゃん。飲み込んでから話そ。汚い」
妹に嫌悪を孕んだ目を向けられ、俺はしっかり味わいつつもさっさと飲み込む。
「まぁ、まだしばらく咲いているから、今度の休日にでも一緒に見に行こ」
「よしっ。今度の休日だな」
俺は少しテンションを上げてそう答えた。
……確か、その日は高校の各部活の説明会の日だったような気もしたが……まぁ良い。それよりも桜は年中咲いてる訳じゃないしな。妹との親睦を深めることの方が重要だ。それに、帰宅部になれば済むことだしな。
そんなことを考えながら、俺は妹とに別の話題を振った。
「そういえばお前は明日から中三だったな」
「そうだけど…… なんで?」
妹は唐突に振ってきた俺の話に怪訝な表情で俺に問う。
「いや、ただ、始業式の校長の話が受験生の意識を持てだのなんだのって話がとにかくクソ長いから寝ないように注意しとけよ」
「寝るわけないでしょ! てか、お兄ちゃん、まさか寝たの⁉︎」
「…………」
俺の沈黙を肯定と判断し、妹は、はぁ〜と深くため息をついた。
「それじゃあ私、もう寝るね。おやすみ」
「おぅ、おやすみ」
そう言って妹は自分の部屋に向かった。
(俺もそろそろ寝ようかな?)
今の時刻は、午後十一時。最近寝不足な俺は体が睡眠を欲し欠伸が物凄くでてくる。俺は体に素直に従い寝るためにパジャマに着替えて寝ようとするが……
タッタッタッタッ
不意にこちらへ駆けてくる足音を聞いた。この音は聞き間違える筈はない。これは妹が駆けてくる足音だ。
そう知覚した数秒後、俺の部屋に妹が押しかけてきた。
「なにがあった?」
俺は妹がこうやって押しかける時は何かあった時だけだと知っているので、俺は開口一番そうを尋ねた。
「ちょっと付いてきて」
「えっ……」
「いいからっ!」
そう言って俺の手を引っ張り、妹は俺をデスクトップパソコンが置いてある部屋へ誘導した。
「これ……見てっ!」
妹が切羽詰まった声で指差した先には、暗がりの部屋をWARNING と書かれた警告メッセージで赤色に染める普段とは似ても似つかぬ様相を呈したデスクトップパソコンが、けたたましい警告音を室内に延々とこだまさせていた。