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四ヶ月も我慢したんだから、これくらいの仕返しはさせて下さい。

作者:ARIMA
前半は主人公視点。後半は岡田視点。
 職場の飲み会は嫌いだ。気をつけていたのに、四ヶ月前に失態を犯してしまった。この会社に入社するときに、一つ決意していたことがある。

 私は絶対に職場恋愛をしない。

 大学生のときのバイト先が、職場恋愛で常に修羅場だったからだ。もう、飲み会のときの駆け引きが嫌で嫌で堪らなかった。幹事になると、確実に恋愛の修羅場に巻き込まれる。私は幹事の順番が回って来る前に出席しなくなった。バイト先でのボッチは辛かったが、修羅場に巻き込まれるよりはマシである。

 さすがに、社会人になると飲み会に出席しないのはまずい。四月の花見、八月の暑気払い、十二月の忘年会には顔を出して、後はうまく逃げた。

 ところが入社三年目の暑気払いに、職場で人気のある男性社員岡田に、運悪く自宅アパートまで送って貰うという失態を犯した。酔っていたとはいえ、一生の不覚。岡田は優良物件と呼ばれ、職場の独身女性の憧れの的。私と釣りあわない自覚はありますよ。

 私を送ったことで、終電を逃してしまったらしい。岡田をタクシーに押し込めて、運転手に釣りはいらないと一万円札を押し付けた。空気を呼んでくれた運転手は、さっさと出発して最悪の事態は回避した。

 ええ、週明けの月曜日に職場の女性たちから、厳しい追及があったが事実をお話ししてお引き取り願いました。
 唯一人の猛者であるお局様を除いては。

「黒崎さん、本当に岡田君と何もなかったの?」

 うちの課のお局様。この人がしつこくて、鬱陶しい。我慢して我慢して四ヶ月。ついに、最終手段を取りました。

「ありません。直ぐにタクシーで帰って貰いました。仕事中なんで、勘弁して下さい。これ以上、邪魔をするなら、上に相談しますっていうか、させて頂きました」

「え?」

「山本さん、課長が話があるから会議室に来るように伝言を頼まれたんだけど、修羅場?」

 山本はお局様の名字である。地獄への使者は、貴女が夢中になっている岡田か。奇遇ですね。

 ICレコーダーに溜め込んだ四ヶ月分の『追及』の証拠が、認められたようである。我慢したかいがあったものだ。

「課長が……」

 私をキッと睨み付けるが、お局様が悪いに決まっている。ハラスメントが社会問題になっているのに、あれだけしつこく『追及』をすれば、パワハラもしくはモラハラに該当するのは当然だ。

 私は何度も何もないと断言しているのに、もうすぐアラフォーになるお局様は就業中に何をやっているのよ。

「早くいかないと、課長の心証が悪くなりますよ?」

 ふうん、岡田もうんざりしてたんだ。遠回しな嫌味に、嫌悪を感じる。慌ててお局様は立ち去った。

「黒崎さんは忘年会に出席しないんだね」

 岡田は世間話を装って、探りを入れる。この四ヶ月間、私はお局様との攻防戦で消耗しているんですよ。

「色々と事情がありまして。仕事が忙しいので、失礼します」

 岡田に一礼をして私も立ち去る。

 岡田、私は知っているんだよ。岡田に興味を持たない私を、肉食女子への盾に利用しようと裏で画策していることを。

 大学時代にバイト先の先輩に一度やられたんで、すっかり懲りていた。そう、飲み会の帰りに私を送ることで、肉食女子たちから逃れられる。でも、彼女たちから追及されるのは私だ。理不尽極まりない。 

 本人は同僚の女性が酔っ払って心配だから、自宅まで送って行っただけで済む。そこで万が一口説かれたりしたら、送って行っただけなのに、勘違いされたと被害者面出来る。

 まさに、俺は悪くありませんだ。最低である。

 まあ、もうすぐあの男と関わることは無くなるからね。それまでの我慢だわ。





 ※




 俺の本命の彼女は同僚の楠原(くすはら) 美月(みつき)。美人でスタイルも良くて、胸がデカイ。美月に比べたら、他の女は霞んで見える。

 昔から、俺は女に不自由をしたことがない。学生時代は女をとっかえひっかえしていたが、今は美月一筋だ。しかし、職場の女たちには俺が優良物件らしく、あの手この手で気をひこうとする。

 だから、俺と美月の交際は秘密だ。バレたら、職場の女たちが黙っていないだろう。俺の可愛い美月がいじめられるのは我慢できない。今まで何とか誤魔化してきたが、俺に好意を寄せているお局様に感づかれそうになった。

「岡田君は楠原さんと付き合っているの? この前、一緒に歩いているのを見かけたんだけど?」

 ヤバい。俺と美月の関係がバレたら、この女は美月に嫌がらせをするだろう。数日前から、美月がお局様に嫌味を言われると怯えていた。俺と一緒に歩いていただけで、これだ。お局様の追及を適当に誤魔化して、美月とは少し距離をおく。

 もうすぐ、毎年恒例の暑気払いがある。前から目をつけていた黒崎(くろさき) 和美(かずみ)に疑いを擦り付けることにした。彼女は俺に興味がない。それは、美月も認めるくらい興味がない。だからこその人選だった。美月に協力して貰って、黒崎を酔わせて俺が彼女を自宅アパートまで送り届けた。

 黒崎を自宅まで送り届けたら、酔いが幾らか覚めた彼女が、わざわざタクシーを呼び運転手に幾らか渡して、俺を自宅まで送るように頼んだ。終電は既に終わっていたし、彼女の好意を俺は素直に受け取って自宅に戻った。

 予想通り月曜日の朝から、黒崎が職場の女たちに詰め寄られていた。

 黒崎は淡々と俺が送った後は、終電がなかったからタクシーを手配して帰って貰ったと繰り返した。俺も聞かれれば、直ぐに帰ったと女たちに説明した。

 それに納得しなかったのがお局様だった。何度も何度も、黒崎が説明しても納得しない。

 そのお局様の執着心は酷いもので、一度昼休みの間ネチネチとやられて、静かに怒った黒崎が主任に大声で直訴した程である。

 目撃者も多数いて、ほぼ全員が黒崎に同情的だったことからお局様が厳重注意をされていた。これを俺の美月がやられていたらと思うと、ゾッとする。

 お局様もさすがに反省したかと思えば、今度は影でネチネチとしつこく黒崎に追及していた。就業中に何をやっているんだよ。

 もうすぐ、忘年会がある。その時も、黒崎には悪いが利用させてもらう。彼女は俺に興味がないから、解放されるのも早い。あの肉食女子たちの煩わしい攻防戦から逃走できるなら、黒崎を自宅まで送るのは苦痛でも何でもない。むしろ、楽である。

「黒崎さん、今回の忘年会は出席しないって。お局様にあんだけ追及されればね。嫌になるのも仕方がないね」

 え? まさか? 当てが外れた。幹事にそれとなく、忘年会の肉食女子たちの出欠を確認したらこれである。肉食女子たちから逃走するには、情報収集は重要だ。

 今回の逃走はどうしようか? 美月とも相談してーー。

「岡田君、山本さんを会議室に呼んでくれ。黒崎さんの件で処分を伝える。頼むよ」

 考えを巡らしていたら、課長に伝言を頼まれた。

 これに関して、黒崎さんは良い仕事をしてくれた。お局様からの追及を証拠として提出し、お局様は減給処分されて地方へ左遷されるらしい。

 こっそりと主任が教えてくれた。

 お局様を呼びに行くと、黒崎に言いがかりをつけていた。最後まで馬鹿な女だよ。軽蔑をこめて会議室へ行くようにお局様に要件を伝える。お局様は黒崎を睨んだまま動かない。再度、嫌味をこめて促すとやっと会議室へ向かった。

 黒崎に忘年会の件で探りを入れると、彼女は曖昧な返答をして仕事に戻る。一瞬、黒崎の目が鋭くなったのは気のせいか?

「岡田君、君も迂闊だね。もう少し、うまく立ち回らないと駄目だよ。幹部候補生の君らしくもない失態だったね」

 お局様の処分が正式に発表された日に、俺は主任から忠告された。

「どういうことですか?」

「今回の件は山本さんの自爆だから、彼女だけが処分されたけどね。黒崎さんは君の態度を問題視して課長に訴えていたよ。岡田君が黒崎さんを自宅へ送ったことが元凶なのに、君の他人事みたいな態度が腹が立つとね」

 いや、俺は関係ないだろう? 俺と黒崎の仲を邪推する周囲の方がおかしい。

「君が元凶なんだからさ、黒崎さんを庇うなり、課長に山本さんと黒崎さんの仲を相談するなりすれば良かったんだ。黒崎さんを利用するなら、ちゃんとフォローをしろってことだよ。君は黒崎さんを利用しておいて放置した。黒崎さんが君を『最低な男』だと評価しても仕方がないだろう?」

「え? 何故?」

 主任と黒崎に俺の思惑がバレたんだ。

「うちの会社は社内恋愛を禁止していない。君が独身女性に人気があって、それなりに苦労があるのも理解はしている。本命がいるのに、好きでもない女から言い寄られるのは、さぞかし苦痛だろう? 俺も通って来た道だから岡田君の気持ちは分かる。黒崎さんが君に興味がないのは事実だし、婚活目的の逞しい女たちから逃走するのに彼女を利用したことなんか、ちょっと、洞察力がある人間ならさとるよ。黒崎さんは本人の希望で、職場を異動することが決定している。送別会は遠慮するそうだ。君に利用されるのはもう嫌だと課長に訴えていたよ。じゃあ、今度から気をつけるんだね」

 黒崎が異動? それは問題じゃない。課長は色恋沙汰を仕事に持ち込む人間を極端に嫌う。本人に聞いたわけではないが、それとなく先輩社員から忠告をされてはいた。

 今回の黒崎に対する俺の態度が、課長から見て色恋沙汰だと判断されたらーーいや、されている。俺の出世は遅れるな。それくらいの権限を課長は持っている。

 美月を守るためだったとはいえ、その代償はあまりにも大きかった。

 黒崎を放置しないで、庇っておけば良かった。

 俺はその場に項垂れることしか出来なかった。
 

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