ユウリアスの悪い噂と貞操の危機!
季節も夏の暑さも和らぎ、朝夕は虫の声も賑やかになった初秋。
ユウが働く食堂で変な噂が広まっていた。
周りの人はユウを見ては、何かこそこそと話している。
ユウが側に近づくと、それぞれが眼も合わせずに去っていく。
ユウは玉ねぎの皮をむきながら、隣のアンさんに尋ねてみた。
「アン!私、何か失敗したのかな?皆を怒らせてしまうような事をして、敬遠されているのアン、教えて!私が悪いのなら、直さなくてはいけないでしょ?」
「ユウ!あんたは何も悪くないよ。ユウの事が噂になっている。いいかい!誰が噂を流しているか分からないが、私は信じてはいないよ。ユウと過ごしてみればわかるのに、此処の仲間はユウの噂など気にしてないよ!」
「アン。私の噂、どんなこと言われているの。」
「ユウ!聞かない方がいいよ!時間が解決してくれるよ」
「でも、知りたいの。アンは優しいから、私の耳には入れたくないのね。でも周りの皆が知っていて、自分の事なのに私だけが知らないのは、私は嫌なの!ですから教えて下さい」
「そこまで言うのなら話はするけど落ち込むんじゃないよ。ユウは3年前に男爵の屋敷で下働きをしていたとか、その時男爵に色目を使って、奥様に追い出されたとか。もっとひどいのは追い出された後は、街角に立って花売りをしていたとか、まあ・・ユウは美人だから嫉妬して根も葉もないことを噂してるんだよ。だから深く考えるなよ!気にしていてはこの世の中は生きていられないからね。」
「アン、街角で花を売る事はいけないことなの?」
「ユウ!あんた!花を売る意味を知らないのか?つまり花を売るという事は、自分の体を男に買ってもらう女の事なんだ。」
「・・・・・・」
「だから、ユウには聞かせたくなかったんだ。」
「・・・・アン、大丈夫よ。」
ユウリアスは、アンに心配させないために強気を見せてはいたが、本当は気が動転している。
自分に言い聞かせる。
噂を聞いた位で失敗していたら皆の迷惑を掛けてしまう今は絶対に涙を見せては駄目。
忙しい時間が過ぎて、午後の休憩に入る。
ユウは厨房から外へ出た。一人の時間が欲しかった。
いつもの秘密の場所に座り噂の事を考えていた。誰が私の噂を流しているのか分からないのが不気味だった。。
私の事を、自分の知らない誰かが恨んでいて怖いと思う。
今日は、精霊の誰にも会えず、自分はまた独りなのだと思うと孤独感に襲われる。
妖精さんたちだけには自分の落ち込んだ姿を見せては心配をかけてしまうと思いに至り、
秘密の場所から厨房へ戻ろうとしたときに、騎士らしき恰好の二人組に出あった。
この場所は、厨房で働いている人しか知らないはず、何故と?不振に思いなぜか不安になる。
厨房へ戻らなくてはいけない、この場を早く逃げなければと心の中で警笛がなる。
急いで男たちの横を通り過ぎようと・・・一人の男が私の腕を捕まえる。
「側で見ると尚更美人だとわかるよ。ユウ、俺達と一緒にいいことしようじゃないか。」
その、男は私を抱きしめると体を触り始めた。
私は、恐怖で声を出す事さえ出来ずに必死に抵抗したが、騎士の力には到底抗える筈もなかった。
「いい身体をしている。たまらないね。相棒見張っていてくれ。先に楽しませてくれ」
ユウリアスは、嫌だ!引き込まれる。騎士の力ではいくら抵抗しても動じてはくれない。
ユウリアスは物陰に引きずり込まれそうになる・・・・・
「貴様ら!何をしている!」
大きく怒鳴る声がした。二人の男は、私を放すと逃げてしまった。
余りの恐怖と衝撃にユウリアスは呆然として草むらに座っていた。
「ユウ!大丈夫か!」
「・・・・」私は、この声を聴いたことがあるような気がする。
「ユウ!しっかりしてくれ!」
「・・・・」私は、声のした方に顔を向けると、日に焼けた端正な顔で、騎士の服を着ている。その瞬間に今の出来事が脳裏に浮かび、思い切りその人を突き倒そうとした。
「ユウ!ジョンソンだ!」
「・・・・」
「俺の事忘れたのか!ジョンソンだ!」
「・・・ジョンソン様・・・」
私はようやく我に戻り、彼の顔を見たら涙の決壊が壊れて、涙が溢れてきた。
そんな私の事を、ジョンソンさんは抱きしめて、頭を撫でながら、私が落ち着くまで側にいてくれたのだ。
「ユウ!何があったのか大体想像がつくから無理に話す必要はない。怖い思いをさせてしまった。済まない!」
「・・・・ジョンソンのせいではないから、謝らないで。女神様が与えた試練なんだから。」
「こんなのは試練ではない!ユウ!馬鹿な事を言うのではない!ユウを傷付けるような事を女神様が与えるわけがないではないか。」
「・・・・」
「誰も、望んではいない。」
「・・・ありがとうございました。ジョンソン様のお陰で助かりました。私は、平気です。」
「私、仕事に戻らなくては、ここにはいられなくなるわ。そうしたらユウリオン様と女神様の約束が駄目にしてしまう。私はもう大丈夫です。ありがとう。」
ユウはスカートに付いた雑草を払いながら、戻って行った。
ジョンソンは後悔していた。
1週間の予定で、殿下と一緒に領地の視察に行って、昨日戻ってきた。
今朝、騎士が変な噂を聞いたと言って同僚たちと話をしだした。
俺はいつもの無駄話と思い聞き流していた。
話の中に、ユウの名前を聞き、部下を呼びつけて聞き出した。
どうやら噂の種は第4騎士団より始まったようだ。
噂は聞くに堪えない物だった。
噂の内容が、ユウを貶める悪意のあるものなので、心配になりユウを訪ねてみたら強姦されそうになっていた。俺がもう少し早く来ていれば、怖い思いもさせずに済んだはずだ。
いつもは、気丈に振舞っているが、まだ17歳なのだ。
俺の顔を見て安心したのか泣き出してしまい、どうすることもできないまま、ユウが落ち着くまでの間抱きしめて亜麻色の髪をなでていた。
俺の中にこんな一面があるのかと思ってしまう。
ユウの体は柔らかくこれ以上抱きしめたら壊れてしまうのではないかと思う。
亜麻色の髪は甘い香りがして、俺の鼻腔をくすぐりこれ以上抱いていたら、今度は俺の理性の歯止めが利かなくなる。
俺は、騎士団の自室に戻り、ユウの現状が腑に落ちない。
この数週間で急速に広まった噂は、誰か悪意を持って故意に流させたのか。
では、誰が?ユウを知る者は、この城では、殿下と俺に父だけのはず、殿下と俺ではない。
父は、こんな陰険で女々しいやり方はしないはずだ。
もう一度、ユウに逢って、城の中で知り合いがいたのかを聞いてみる必要がある。
殿下に、話をすれば自分の立場を考えないで動かれてしまう。それでは余計に敵も多くなりユウが危険にさらされてしまうだろう。
俺は、一人の部下を呼んだ。
彼は、男爵の息子で、誠実で責任感もある騎士だ。彼にユウの事を調べてもらうか
「団長!お呼びでしょうか。」
「ロン!戻って来たばかりで悪いが、ブラウザの森へ行き調べてもらいたいことがある。」
「ブラウザの森へまた入るのですか?」
「森ではない!其処の近辺で村人から、ユウリアス17歳。つまりユウリアスが15歳頃何処で、何をしていたのかを聞いてくるのだ。」
「・・・・はあ~」
「ロン!何か不満か。人の名誉が掛かっているのだ。ロンも、噂の事は知っているだろう?あれは、眼も葉もない悪質なものだ。12歳で孤児になってから、何処に引き取られて15歳までいたのか、その時に何があったのか。調べてくれ。」
「ジョンソン団長!分かりました。俺もユウの事は好きなのです。団長に頼まれなくてもユウの名誉を守るために、俺はいきます。」
「お前が、ブラウザから戻るまで、長期休暇を与える。」
「いいな、この事は俺とお前だけの秘密だからな、他の者には、親が死んだことにしておけ」
「団長!それはないでしょう!」