ユウリアス、宮殿でのお仕事は!
ジョンソンは城に戻り、騎士団の建物に顔を出し、団長としての仕事を終わらせると、殿下の元に行く。
ドリーム国には、5騎士団がある。
第1騎士団は、陛下直属で陛下の警護をする。
第2騎士団は、王位継承を持つ殿下、今はユウリオン殿下を警護する。
第3騎士団は、王妃並びに、王の嫡子であられるユウシオン様を警護する。
第4騎士団は、主に、城全体の警備になる。
第5騎士団は、有事の時は戦場で戦いに行く。軍隊なのだ。
殿下の部屋の前に行くと、侍女たちに出会う。
侍女に殿下のご様子を尋ねると、自室にてお休みされていると聞き、一旦は戻ろうかと思ったが、ユウの事を話しておかなくてはならないと思い部屋を訪ねた。
ドアをノックして侍従に殿下のご都合を伺うと、直ぐに自室に通される。
殿下は、侍従を下がらせて、用事があるまでは誰も入れるなと入室を禁止したのだ。
殿下はユウの事が気にかかるのだと俺は思った。
「ジョンソン!遅かったな。何かあったのか!」
「殿下、遅くなり申し訳ありません。屋敷に戻りながらユウに城下を説明しておりました。ユウは、王都に来るのは初めてなので興味があったのでしょう。」
「ユウには、初めての王都なのか、僕が案内をしてやれたら・・・・」
「ゴホン!殿下、忘れてはいけません。」
「分かっている!それより城での働く場所は、決めたのか!」
「そのことは父に頼んでおきましたから、心配ないと思います。」
「カアター伯爵にか?」
「殿下、父では不服ですか?」
「悪い、そんな事ではないのだ。伯爵なら宮殿の内情も把握しているから大丈夫だろう。」
「ユウは、どうしていた?」
「やはり、心配ですか?」
「森から離れて、初めての場所で、心細くしてるのではないかと思っていただけだ。」
「ユウは、そんな弱い人ではないと思います。」
「そうだな!ユウと僕に与えられた試練だから、ユウも乗り越えられるはずだ・・・・」
ユウリオンは、自分にそう言いながら何故か心の中がざわざわと騒ぎだしている。
ジョンソンが部屋を退室すると、僕はバルコニーに出る。
カアター家の屋敷にいるユウの事をまた思ってしまう自分が情けない。
こんなにも一人の女性の事が気にかかるのは、自分自身初めての経験なのだ。
僕が、14歳か15歳頃に、ある貴族の年上の女性に恋をしたことがある、初恋だ。
逢いたくて、城に彼女がきていると知ると、僕は逢いに行っていた。
その恋も彼女の結婚で終わった。その時の僕は、ときめいていた感じだった。
ユウに感じる自分の気持ちは、以前に感じたときめきではなく、胸を揺さぶられるような、時には締め付けられるような、ユウの表情次第で僕の心は乱れるのだ。
こんな風に、自分自身を制御できないのは、恋ではなく愛。
ユウリオンは、ユウリアスを愛しているのだと感じている。
王位継承をするものが持ってはならない感情だ。
女神は僕がこうなる事を見通していたから、ユウを城で働かせるようにした。
今更ながら思った、辛い試練だと。
ユウリアスは、カアター家のお屋敷に着いてから、3日目に伯爵に呼ばれていた。
カアター伯爵は、騎士団を退団してからは、宮殿の軍備管理の役職についておられる方で、風貌は、がっちりとした体格で、日に焼けた顔をした50歳の年齢で、眼尻にしわがあり外見とは違い、とても優しそうな人物で、奥様を早く亡くされたのに、後添いを持つことはなかった。
ユウリアスは、伯爵のお顔を見てジョンソン様と似ている所があり、血の通った親子はやはり似るのだと思った。
自分は、両親のどちらに似ているのだろうとそんな事を思っていた。
伯爵は、侍従から、娘の事を聴いてはいたが、実際に目の前で逢うと、娘は美しかった。
森の中で暮らし、境遇も分からない娘の事を貧相で粗忽な娘だろうと思っていたが、実物は私の想像を覆していた。
そして名前を聞いてまた驚いてしまった。
王家にしか付けないユウの字がついてるではないか、これは相当な食わせ者かと、娘を注意深く観察しながら様子を伺うが食事の仕方、お茶の飲み方、話し方などは躾けられて育ったようだ。
礼儀作法は記憶をなくしても、忘れないものだからだ。
特に子供の時に躾けられていれば、仕草を見れば、育った環境が分かる。
これは俺の長年の経験なのだ。
娘には貴族の淑女の様な優雅さはないが、躾は出来ているようだ。
この娘の両親は、ある程度裕福で良い環境で育ったのではないだろうか。
ユウリアスは、カアター伯爵に呼ばれて、書斎の部屋のソファに座り、伯爵の話を聞いていた。
「ユウリアスさん、貴方のお仕事が見つかりました。城の下働きで多少はきつい仕事かもしれません。いかがですか。城で働きますか?」
「はい、私は下働きでも構いません。見つけて下さりありがとうございます。」
「この数日間、大変お世話になりました。御恩は忘れません。」
「では、明日城へお連れします。今日はゆっくりなさると良いでしょう。」
娘は、自分に丁寧にお辞儀をして、部屋を出て行った。
ユウリオン殿下が、娘に熱を上げる気持ちは分かるが、素性の分からない者をやはり二度と合わせてはならないと考えていた。
それが、殿下にとっては最善な方法で一番いいことなのだと、逢わなければ自然に縁は切れるのだと信じていた。
臣下として、最善な方法で殿下をお守りする事が自分の役目なのだと思っている。
翌日カアター伯爵に連れられて、ユウリアスは城の中に入った。
城は、高い塀で囲まれていた。
正門から城に入り、横道を塀に沿って行くと馬車から降りるように言われて、降り立つ。
そこには、門があり二人の門番が立っていた。
この通用門は、家から通って働く人の出入口の門らしくて、普通だと私はこの門を利用することになり、正門からは通常私は通れないらしい、今日は伯爵様と一緒なので通る事が出来たのだ。
私は伯爵様と共に、宮殿から離れた場所にある建物の中に入った。
廊下の奥の部屋で、此処の責任者ガント氏に紹介されて、女頭のキャリーさんに引き合わされた。
私は、キャリーさんに連れられて、これから自分が働く場所に行った。
そこは、沢山の人が働く厨房で、私は野菜を洗うのが最初の仕事だった。
その次に働く人の宿舎に案内された。
今夜から私が暮らす場所は、3階建てで建物の1階で入り口に近いドアが部屋。
8人部屋の一角が私の城で暮らす部屋だった。
8台の寝台が並んでいる。横には、3個の引き出しが付いたクロゼットが置いてある。
私は、ドアから一番近い寝台を与えられた。
そこには、仕事場で着る服が用意されていた。
それに着替えるように言われて、私は着替えを始める。
紺色のワンピースに白いエプロンを付けて、頭には三角のチーフを被る。
私は、シミのない新しい服を着るのが嬉しかった。
初めて人として扱われたのだと思ってしまう。
着替えが終わった私を、これから始める仕事の説明を受けながら厨房に向った。
私の仕事は、一番に起きて、竈とオーブンの火を付けて温めておく、これが大事な事らしい。
朝、一番先にパンを焼かなくてはならない。寝坊したら即首にされるので、気を付けるように言われる。
城で働いている人達の食事をこの厨房で作るらしい、2千人が、朝、昼、夕と食事をする為に3回作らなければならない。
私は、男爵家の台所しか知らないので、人数の多さに驚愕する。
王家の方と貴族たちの食事は別の厨房で作られている。
野菜を洗う事は、慣れていたので心配はないと思っていたが、野菜の量の多さに驚愕してしまう、私の他に3人で野菜を洗ったり、皮をむいたりしても忙しい。
キャリーさんが、私を三人に紹介した。
「一番長く勤めているアン。その隣がカンナ。向こうがマリアよ。この子が新しくきたユウ。
良く教えてあげなさい。これからは仲間なんだから仲良くやるんだよ」
「ユウです。宜しくお願いします。」
早速、服の袖を捲し上げて、水に浮かんでいるジャガイモを洗い出した。
ユウは、洗っても洗っても、次から次へと野菜が来るのには、ビックリしていた。
手と腕が疲れてきたときに、昼のご飯を食べるように言われた。
私は、手を洗い、食卓に着いたが、スプーンを持つ事さえ億劫になる。
アンさんが、私の隣の席に来て、声を掛けてくれた。
「ユウ!あんた、美人だから何も出来ないと思ってたけど、手際がいいよ!最初は誰でも疲れて食欲も出ないだろうが、食べなくては、昼からの仕事がきついよ!無理しても食べな!」
「アンさん、ありがとう」
「アンさんなんて、呼ばないでよ!アンでいいよ!私もユウと呼ぶからね。」
「はい、」
厨房の皆にも、私の事を紹介してくれた。私は、とても暖かい気持ちになり、無理やりにパンを口の中に入れた。
そして数週間が過ぎた。
私は、寝坊をすることもなく、朝早く起きていつも通り竈とオーブンに火を入れる。
暫くすると、パンを作る人達が厨房に来てパンをこねだす。私はパンが焼ける匂いが大好きだ。パンが焼ける匂いを嗅ぐとなぜか幸せを感じてしまう。
今日も、忙しい一日が始まる。