ユウリアス!ブラウザの森からの旅立ち
ユウリアスは、不安に怯えていた。
あのユウリオンと名乗った人ならどうしようかと、でも私を迎えに来る筈はない。
自分は名前さえ言わなかったけれども、女神様の言われたように本当に自分を迎えに来たとしたら、やはりここにはいられない!森から出されて、私は人の中で生きていかなければならない。
ユウリアスは、森の家族と離れて自分はまた一人孤独の中で、人と関り遭いながら与えられた試練を受けなければいけないのか?
「ユウ!女神様がユウに東屋まで来るようにと。」
「ベル!もしかして私を迎えに来たの?」
「俺にも、分からないよ。今は、女神様の言われたようにするのがいいよ。」
「ベル、困らしてごめんなさい、直ぐ行くわ。」
「ユウ!嫌なら断っていいんだよ!女神様には、俺からももう一度頼んでみるからさ!元気出しなよ!」
「‥‥・ベル、ありがとう。」
ユウリアスは、重くのしかかる気持ちに耐えながら、東屋まで行く道を歩く
ジョンソンと共に東屋の近くによると、そこには前に出会った人ではなく、神々しい女性がいた。本能が知らせている。この女性こそが、女神なのだと。
「ドリーム国王子の、ユウリオンですね。今日はこちらから招待しました。そちらは騎士団長のジョンソンですね。さあ、こちらにきて、お茶を入れましたからどうぞ。」
僕たちが、何処の誰かも知っている目の前の方こそが本物の女神だと瞬時に分かった。
「貴方は、初代国王と誓約された女神様ですか?」
「そうですよ。ユウゲルは民の為の王になりました。私は彼の意思に打たれて彼と共にこの国に平和と豊かさを、そして盟約を交わしたのです。しかしいつの間にか、人は移り変わります。盟約も忘れ去られたようですね。」
「僕が森に入り、こちらの生き物を害してしまった事は、誤ります。彼女の言った通り、謝罪しても僕がしたことは消えないでしょう。罪の償いをしに来ました。今の王は誓約の事は知らないのです。どうぞそれだけは信じて下さい。この国を見放さないでください。僕一人の為に、大勢の民が辛い目にあうのは、とても耐えられないのです。」
「人の人生ははかないものです。移り変わる人たちに、盟約を守らせるのは容易いではないでしょう。今回は、王子が剣も持たずに私を訪ねたことで、終わりにします。
しかし、王子には、一つ試練を与えます。良いですか!」
「それは、駄目です!女神様!その試練を私に与え下さい!」
「ジョンソン!横から口を挟むな!お前には関わりない。僕と女神様の話なのだ。」
「しかし!殿下は次の王となられる方です。」
「ジョンソン!これは王子とか王とか関係ないのだ!個人の問題なのだ!分かってくれ!」
「・・・・・・」
「女神様。僕の試練とはなんでしょうか?」
{ユウ!こちらに来なさい!}
ユウリオンは女神が顔を向けた先を見た。
先刻であった彼女だ。華奢ではあるが女らしい姿で、亜麻色の髪の毛、新緑を思わせる瞳。
間違いない彼女だ。<ユウ>と女神は呼んでいる。彼女の名前なのか?側で見ると、眩しすぎるほどの美しさだ。化粧などしてないはずなのに、白い肌にほんのりと赤く染まった頬をしている。僕は、彼女に逢いたくて此処に来たのだ。
「ユウリオン!貴方の試練は・・・ユウの事を任せます!」
「・・・・・それが試練だと?」
ユウリオンは女神の言葉が信じられなかった。何故僕に任せるのかも、彼女を見ると、泣きそうな顔をして呆然として女神を見ている。彼女も多分突然で理解が出来ないのだろう。
僕も、女神のいう事には理解できないでいる。何をどうしろというのだろう。
「ユウリオン!ユウは人です。両親には12歳の時に死に別れて、以前の記憶もないのです。天蓋孤独の中で暮らしていました。2年間は、ある事がきっかけで私の元にいましたが、そろそろユウにも広い世界で生きていく事を学ばなければならない。そこで、ユウリオン!あなたには、ユウをそなたの城で働かせて欲しい、」
「いいか!そなたが連れて戻れば、ユウは好奇な目で見られるだろう!そなたの行動、言動一つで周りにいるものは、ユウに対する態度も違うであろう!」
めがみの試練の意味が分かった。僕が王子という立場でユウを庇えば必ず、妬みがユウに行くだろう、僕にとってはまさしく試練なのだ。
女神は、何でも知ったうえでこのことを言い出したのだ。
僕が彼女の事が気になっている事も、深い心の中まで見通しているのか。
ユウリアスは、自分が深い水の中に沈んでいくような感覚になっていた。
女神様は、もう私を森から出すつもりなのだ。
この事は、分かっていらしたから、あの時に、話をされたのだと思った。
自分には、選択肢はない。そして、来たあの人にも私を連れていくしかないのだ。
「ユウ!話は聞きましたね。森にはいられません!出る準備をしなさい。」
「・・・・はい」
ユウは、ツリーハウスに戻って少ない荷物をまとめ始めた。
ユウリオンは、彼女が落ち込んだ姿を目にして後悔の念にとらわれるのだった。
「女神様。一つお聞かせください、30年前位にもと領主のハリソン伯爵は、この森を開拓しようと森へ侵入したのでしょうか?ぜひお教え願いたい!」
「何故?そなたが知りたいのだ。」
「ハリソン伯爵は、誓約の事を知っていました。禁忌を冒してまでするような人ではないのです。それ以来伯爵は消息不明なのです。」
「この森は、長い間守られていた。そなたが初めて、禁忌を侵すまでは森の入り口付近では、たまには無鉄砲な輩はいたが、精霊たちが追い払っていた。」
「では、ハリソン伯爵はこの森には来なかった。」
「人は欲望の為なら、人道を踏み外す。私には人の世界には、無関心だが・・ユウは気に入っている。あの子はお前の手の上にいる、手で包み込むのか、落とすのか、私はユウリオンを見ている。」
「今日は、ここで休むがいい。明日、ユウを連れて行きなさい。」
女神様は、そう言うと霞の様に消えてしまった。
僕とジョンソンは、東屋のソファに座ってお互いに話さず、茫然としていた。
暫くすると、ジョンソンが、僕に問いかけてきた。
「殿下!彼女を城にお連れするのですか?」
「これは僕に与えられた試練なのだ。彼女は僕の侍女として置いておく。」
「殿下!それは彼女にとっては辛いことになるかもしれません。」
「ジョンソン!何故だ。僕の側では不満ということか!」
「違います。殿下!良くお考え下さい、王子の側に仕えるの侍女は爵位を持つ家柄の淑女なのです。確かに容姿は誰にもおとりはしないでしょう。彼女には、後ろ盾のない身の上では、・・・妬みの対象になります。」
「もういい!ジョンソンの言いたい事は分かっている。人の世は彼女にとって居心地は悪いかもしれない。それを除いて助けていくのも僕の務めなのだ。」
ユウリオンは、彼女の悲しそうな顔が浮かんでいた。
僕は、彼女に笑顔を与えたいと強く思っている。
森の中は、満天の星と月あかりの中を静寂に包まれていた。
「ユウ!元気を出しなよ。俺はいつでも逢いに行くから。」
「俺だって、いつもユウの足元には俺がいるんだから、寂しくないだろ。」
「私だって、すぐそばに川が無くても、井戸だって、水の有るところなら会えるんだからね。」
「俺だって、火さえ起こせば、炎の中で会えるから、ユウの側にいるよ。」
「ベル、シャイン、ドロン、エルありがとう。私とても嬉しいわ。それにとても心強い・・・私は、また一人になるのかと思ったけど、
私の周りには、皆がいてくれるのよね、グリンも・・・ひとりじゃない。」
「私は、大丈夫。もう泣かないわ!ありがとう。お世話になりました。」
ユウリアスは精霊たちに囲まれて幸せだった。
ユウの側に精霊たちはいつまでもいてくれたこの夜が長く続きますようにと祈りながら眠りにつく。
森の中に朝日が差し込み始めるころ、ツリーハウスの前には、ユウと別れを惜しむ生き物たちが集合していた
。
鹿のエルフやウサギのロンとは、もう会えない。
ユウは涙を見せないように、側に寄って、エルフとロンを交互に抱きしめる。
此処に出たら、もう二度と言葉を交わす事は出来ない。
「ユウ!またいつか会えるよ。僕らは森にいつまでもいるから、逢いたければ森においでよ!」
「ユウ!俺も君が僕らの仲間を心配してくれたのを、一生忘れないからね。また森に来いよ。
これは、葡萄の木から、ユウに、食べて欲しいからと僕は頼まれたんだ。食べてよ!」
「エルフ!友達になってくれてありがとう!」
「ロン!いつも私の側にいて、色々な事を教えてくれてありがとう!楽しかったわ。」
ユウリアスはこらえていた涙が、溢れて来てあとはなにもいう事が出来なかった。
私は、ユウリオンともう一人の後について、森の出口に向かって歩いていく。
最後にもう一度女神様に、お会いしてお礼をしたかったが、女神様は、最後まで姿を現してはくれなかった。
ユウリアスは、森の出口で立ち止まり森に向って一礼をした。女神様に届くようにと願いを込めて話す。
「女神様、今までありがとうございました。私は人として成長していきます。自分の未来を見つけるために、女神様、行ってきます!」
私の気持ちは、決まった。これからはなにが自分に起ころうと、泣きはしないで頑張ろうと森の家族に恥じないように、人として生きていこう。