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めがみ様と精霊と私  作者: 木瓜乃ハナ
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孤独な私のひそやかな楽しみ

めがみ様と精霊と私



 ドリーム国の北に位置する、広大なブラウザの森を含むこの領地は、ウランバートル男爵が統治していた。

プラウザの森には、魔物が住み着いていると、近辺の村人たちの噂がある森だ。

森に入った者は、森から帰ってこなかったと、運良く出て戻ってきた者も、正気を失って戻って来るらしい。


森の近辺の村では、絶対に森には近づくな、絶対に遊びには行くなと禁止され、子供たちは大人から言われて育つのだが、中には興味本位で森に入る者は、不思議な体験をして戻る。

戻った者に話を聞くと、木が急に暴れたり、突風が吹き前に進むことができなかったり、地面が揺れて立つこともできなかったらしい。

森の中には沢山の、食料となるものがあるはずだが、誰も恐れて取りに行く者はいないのだ。


ウランバートル男爵は、広大な土地を、国王から受領されてはいるが、土地の大半がこの森なので、農地からの税収入も広大な土地がありながら少ないのだ。

屋敷の懐に入るお金も少なくいつも火の車で、裕福とは言えない。森の前にあるわずかばかりの平地に、5つの村が点在している。

温暖な気候なので、毎年作物はそれなりに収穫できていた。

村人は農業を営む者が多い。

森を開拓して、農地を作れば領民たちも楽な暮らしが出来るのだが、誰も言い出す者さえいなかった。

以前ここを統治されていた領主様が、森を開拓しようと、村の人達を連れて入ったらしいが、誰一人も、戻ってはこなかったと、噂になりそれ以来は、森に近づくのはいないのだ。


その後、今の領主様の父上が、この土地を受領なさって、二代目の領主様になられた。


エスパル・ウランバートル男爵(43歳)には、奥様と二人のお子様が、おいでになる。

奥様の名前は、エリス。(38歳)

お嬢様の名前は、アメリア(16歳)弟、コステル(13歳)

お屋敷には、侍従長のベントレー。下働きのドンとカリア夫婦。

3年前に孤児だった子供、当時(12歳)を奥様が連れてこられて、小間使いとして働いている。

名前は、ユウリアス(15歳)になる娘だ。

生まれた時から12歳までの記憶がないのだが、ただ一つ覚えていたのは、自分の名前だけで、両親の名前もどこで暮らしていたのかも分からず、身寄りのない天涯孤独の娘を屋敷に置いた奥様の慈悲深さに、村の人達はほめたたえた。


この屋敷での、暮らしは楽ではないが、孤児の自分が、お屋敷を追い出されては、行く当てさえない身なので、お嬢様の虐め行為に、コステルの悪戯、奥様の冷たい仕打ちにも、孤児の自分は耐えなければならないと思って暮らしていた。

着るものは、いつもお嬢様のお古で、それをアメリアはわざと破いて、まともには着られない状態で渡される。

ユウリアスは、そのドレスを丁寧に洗い、破れた場所には、同じように貰ったドレスの生地をもう一枚のドレスに使い、一枚の服にして着ようと思っていた。

自分にとっては、蝋燭一本の灯りの中で指に針を刺しながらも作る服は、大事な服なのだ。そのドレスも普段は着ていない。


普段着は、黄ばんだブラウスに色あせた紺のスカートを履いて、シミだらけのエプロンを付けた姿でいつも働いていた。

腰まである亜麻色の髪の毛を、無造作に分けて緩く編んで両サイドに垂らしている。

15歳とは思えない華奢な体をしている。

顔は整っているが、美しい若葉色した眼が異常に大きく見えるのは、痩せているせいかも知れない。


ユウリアスは、胸に密かな楽しみを抱いている。

この領地では、近辺の村が集まり年に一度の春祭りが行われている。

その日だけは、自分にもお休みが貰えるのだ。

他所の町から来た出店が並び、大勢の人で賑わう。

家の軒先には、色々な花で飾られて、村は春一色に生まれ変わる。

ユウリアスは、お給金は貰ってはいない。どんなに素敵な物で欲しくても、買う事は出来ないけれど、お店を見て回るだけでも、娯楽のない自分にはとても楽しみだった。


初めてお屋敷に来た年は、休みは貰えず、カリアさんの話を聞くだけで、終わってしまい。

2年目の年には、アメリアお嬢様に自分で作った服を破かれて、行く事は出来なかった。

今年の春祭りの当日は、男爵家ご一家はお留守なので、今年こそは春祭りに行く事が出来ると楽しみにしていた。


アメリアお嬢様は王都にある、お城で侍女としてお勤めされるので、お家族お揃いで王都に滞在される。

この国では、女性は16歳になると成人とみなされる。縁談の話も成人すると話が来るのだが、アメリア様は、結婚よりも城務めを希望されて宮殿に行かれる。


花まつりは、ご家族が王都に滞在中なので、自分にも行く事が出来ると思うと嬉しくなる。

祭りの当日は、自分で作り直したドレスを着ていこうと心秘かに思っていた。

15歳になった乙女の、ささやかな楽しみである。

小さな事でも今のユウリアスには、幸せな事だと思うほど辛い毎日を送っていた。


明日は、領主様家族が出発されるので、屋敷の中は、荷造りされた荷物を運び出すのに、忙しく朝から動いていた。

奥様の罵声が、聞こえる。

「ユウリアス!ぼやぼやしないで!此方に来て荷物を運びなさい!」

「はい!奥様。」

「あんたは、本当に気の付かない子だわね!早くしないと、お昼ご飯はないからね!」

ユウリアスは大きな荷物を抱えて、階段を降りようとしていた。

その時、コステルが足を出してきて、その足に取られてユウリアスは階段のしたへと転げ落ちていく。

「母上!またユウリアスがヘマをしたよ!姉さんの荷物を落としたんだ!」

「ユウリアス!孤児のお前を引き取ってやったのに、恩を仇で返すつもりなの!」

奥様の罵声とともに、顔に平手で打たれた痛みと、階段から落ちた痛みが同時にユウリアスを襲う。

「私の不注意でした。ごめんなさい。」

「カリア!」

「奥様、何でしょうか?」

「この子には、昼ご飯はやらないで!いいわね!顔も見たくない!後は、畑仕事をさせなさい!」

「はい!奥様。」

ユウリアスは、痛む体と心に震えながら、畑に向った。


畑に着くと、ドンさんが怪訝そうな顔をして、私の側にやってきた。

「ユウリアス、また嫌がらせをされたのか?この屋敷の奴らは、お前には酷い仕打ちをするもんだ。奥様からがあんな態度では、子供たちも益々増長するだろうよ!大丈夫か?辛かったら、そこに座って休むと言い、ここには、俺しかいないから心配するな。」

「ドンさん、ありがとう。少し体中が痛むけど私は大丈夫、それより私が怠けていれば、ドンさんにも迷惑がかかってしまうのは、嫌だわ。何をしたらいいのか、教えてください」

「急がなくていいから、畑の草むしりをしてくれないか。」

ユウリアスにとって、ドンさんだけが、自分に優しく接してくれていた。

そんなドンさんに迷惑はかけられないと思い、畑に腰を下ろして草むしりを始めた。


暫く、草むしりしていると、ドンさんが、昼になったから、飯を食いに行こうと言って道具を片付けている。

私は先ほど、奥様から言われた事を話して、屋敷には戻れないので、ドンさんには一人で帰ってもらうように頼んだ。

ドンさんは、腹を立てて怒ってくれたが、ドンさんも雇われている身なので、主の命令には背くわけにはいかないのだ。

「村の連中は、奥様の事を慈悲深い優しい人だと言うが、馬鹿々々しい!とんでもない!」

ドンさんは、私に自分の水筒を持たすと、屋敷に戻って行った。


私は、ドンさんに貰った水筒の水を、飲むことにした。

水でも少しはお腹の足しにはなるだろう。


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