6,ユリアーナ・ノルディ
大通りは、人通りが激しい。王都で暮らしている都民や旅行者、旅人などで溢れかえっている。
カーラインが持ってきてくれたローブを纏っているアリーシアは、旅人と同じような格好になるので、よく間違えられる。
「あら? アリーシアじゃない」
鈴のような可愛らしい声色が聞こえた。
「えっ……ユリアーナ!」
アリーシアは、思わず声を上げる。
ユリアーナと呼ばれた、金髪に鳶色の大きなまん丸の瞳を持つ女性は、優雅な仕草で口許を隠した。
「珍しいわね、アリーシアが王都にいるなんて」
「……そうですか。にしても、ユリアーナもどうしたの? その格好」
ユリアーナは不思議そうに、首を少し傾けると、思い付いたように口を開いた。
「お忍びよ、お忍び」
ユリアーナは悪戯が成功した子供のような、笑顔を浮かべた。
ユリアーナ・ノルディは、ノルディ侯爵家令嬢である。財力もあり、ノルディ侯爵は外務大臣である。
ノルディ家とクラーシェ家は家ぐるみで仲良くしている。なので、アリーシアとユリアーナは幼なじみという間柄だ。
生粋のお嬢様であるユリアーナの格好は、何処にでもいるような町娘の格好だった。アリーシアからすると、おしとやかで深窓の姫君である通常のユリアーナからは考えられない行動だった。
「それにしても……まだその言葉遣いですの? アリーシアは一応公爵令嬢なのですから、もう少し言葉遣いを直したらいかがですの,ねぇミア樣」
「そうですね……ユリアーナ樣のいう通りですね。アリィ、これからは言葉遣いの矯正といきましょうか」
ミアの最後の一言に、アリーシアは一気に青ざめる。
「ミア……それでは、私が両親に無理を言ってこの世界に入った意味がなくなるじゃない」
「……アリイ」
ミアはアリーシアを、蔑むような視線を投げる。
「わっ……分かりましたわ、ミア」
負けたアリーシアは、お嬢様言葉と言われるものを使う。
「……っ、ぶはははは! 前々から思っていたけど……ぷっ……その言葉遣い全然似合わねぇぞ」
無礼な態度なカーラインをじとりと睨んでいると、後ろにいたラエルが苦言を呈する。
「カーライン駄目だよ。アリーシアも一応女性なんだから」
「ラエル……一応ってなに? 一応って」
苦言を呈するところが、ラエルもなかなかに無礼であった。
「言われるのが嫌だったら、少しは直しなさい」
ここまで言われてしまえば、ミアには反論できないアリーシアは、口をつぐんだ。
ユリアーナは、アリーシアの顔を覗くように屈んだ。
「ほら、アリーシアはこんなに美人ですのに」
「謙遜は要らないよ、ユリアーナ」
アリーシアがそう言うと、ユリアーナは苦笑いをし、王城のある方へと歩いていった。
「また会いましょう」
「またね」
アリーシアは紙が落ちたーー廃墟街の方へと歩き始めた。