5,始動
ここから、第一章です。
「ミア、ラエル、ここに座って」
ここはアリーシアが持つ、国家魔術師宿舎の部屋である。宿舎は、数少ない国家魔術師が王都にいる際に使うものである。
アリーシアは自分の部屋の真ん中にあるテーブルに座らせようとしている。
ーードン、ドン
窓を叩く音が聞こえる。アリーシアは慎重に窓を開けた。
「ただいま」
窓を叩いていた正体カーラインは、窓から部屋に入ると、腕に掛けていたものをアリーシアに投げ渡した。
アリーシアは投げ渡されたものを広げると、真っ白な生地に裾や袖に青い糸の刺繍がされてあるローブが現れた。
「カーライン、ありがとう」
「どうってことないぜ」
カーラインは空いていた席に、腰を落ち着かせる。
アリーシアは1枚の紙と王から渡された首飾りを、テーブルの上に置いた。
紙で首飾りを拭くと、その紙を部屋の広いところに置く。
「この魔力を持つレインというものの、居場所を探せ」
アリーシアが唱えると、紙の周りに魔方陣が浮かび上がった。紙は、ふわりと中に浮き、部屋の窓を突き抜けた。
「よし、成功!」
「アリーシアが、失敗することはないでしょう?」
「フッフッフッ……分かっているじゃない」
ラエルは淡々と告げる
アリーシアはニヤリと口角を上げた。
「あれ? 紙が落ちた」
「今回は妙に早いな」
アリーシアの呟きに、カーラインは難しい顔をする。
アリーシアはテーブルの上に王都の地図を広げ、ある一点を指した。
「ここだ。ここに、レオンという人がいるらしい」
「ふーん……王都は王都でも、町外れどころか廃墟が多い地域じゃないか」
「廃墟街とは……事件の香りがしますね、アリイ」
アリーシアがレオンという人の居場所を指すと、ラエルとミアは口々に意見する。
「廃墟だったら、いくら壊しても大丈夫だな」
カーラインは意気揚々としている。
「カーライン、いくら廃墟でも壊したら、私のところに請求がくるんだよ。少しは、自重して。というか、あそこの建物は壊せないでしょう」
アリーシアは、鋭くカーラインを睨む。
「はい……」
カーラインは、じめじめとした空気を纏いはじめた。
ぼそりと、ラエルは呟いた。
「壊すことしか脳にない、カーライン」
「なんだと!」
ガタン、と大きな音をたてて、カーラインは席を立つ。
ラエルは自分の周りに魔方陣を展開すると、薄い水を張った。
「おーい二人とも、喧嘩するのなら置いていくよ」
アリーシアは二人に呼びかけて、今度はしっかりローブを纏って部屋から出ていった。ミアはバタバタしながら、アリーシアの後ろを追いかけていった。
「すぐ向かいますよ」
「待て、俺も行くから」
ラエルは落ち着いた態度で追いかけ、カーラインは慌てて追いかけていった。