4,王命
大理石で埋め尽くされた床に、玉座へと続く緋色の絨毯、柱には建国神話を題材とした、聖女や妖精が彫られてある。価値が分からないものが溢れている様は、さすがは王城の謁見の間というところだ。
「アリーシア、参上しました」
アリーシアは恭しく頭を下げる。
「頭を上げよ」
アリーシアが顔をあげた先には、王と王妃、第一王子がいる。
王は皺のある目を和らげた。
「久しぶりだな、アリーシア。そなた、家名は名乗らぬのか?」
「はい。私はクラーシェ公爵令嬢ではなく、国家魔術師アリーシアとしてこの場に参上しているので」
アリーシアは、エレトシア王国の四大公爵家のひとつ、クラーシェ公爵家の長女である。しかし、過去のある出来事から家名を表に出そうとはしなかった。
幸いなことに、アリーシアは幼い頃から顔と髪を隠しているので、ローブやベールをとっても、アリーシア・クラーシェと気付くものは少ない。
素顔が分かるのは、アリーシアの両親と兄や弟妹、王と王妃、魔術師長にアリーシアの友達である妖精3人ぐらいだ。
「王命による依頼だが」
王の顔が、一気に厳しくなる。
「ある男を探し、そなたの庇護下においてもらいたい。受けてもらえるな」
「はい、ありがたく承ります」
アリーシアの返事に、王は安堵する。
「そなたのことだから、男の名と持ち物ひとつあれば探せるだろう」
王は近くにいる侍従に目配せをする。侍従は紙と黒を基調とした首飾りを渡す。
紙には、王がいう男の名と思わしきレインとだけが書かれてある。
「ありがとうございます」
アリーシアは、深く礼をする。
「では、依頼の成果、期待しとるぞ」
王からの精神的な圧力に押され、アリーシアは謁見の間をあとにした。