3,白銀
アリーシアは、馬車を降りた。すると、今までの喧騒がぴたりと止んだ。町の者は、じろじろと珍しい物でも見るような目で、見てくる。
ーー何年たっても、これは馴れないなぁ。
白銀の髪は、エレトシア王国ではとても稀である。なので、アリーシアは人目を集めてしまう。
いや、稀ではない。白銀の髪はエレトシア王国では、不吉の象徴。ただじろじろと、遠目で見るのはまだかわいいもので、なかには石やゴミを投げつけるものまでいた。
見せ物のように、好奇の眼差しを向けられるのは、耐えがたいものである。よって、アリーシアは人の多い所が苦手になった。
「どうぞ」
ミアはベールを被せる。ベールは、アリーシアの白銀の髪を隠せるほど長いものである。
「なんで、ローブを忘れたんだろう」
アリーシアは、ぼそりと呟いた。
アリーシアは森から一歩でも外を出るとき、フード付きのローブを纏っている。顔を極力見られないよう、フードを深く被っていた。
今回は急いでいたためにローブを忘れ、ベールで顔や髪を覆っている。しかし、ベールでは心許ないアリーシアは、ベールを両手で押さえ、辺りを見回しながら歩いていた。その様子は、傍目からは不審者にしか見えない。
「アリーシア、一回屋敷に帰ってローブ持ってくるか?」
アリーシアの挙動不審に、カーラインは見かねたようだ。
「いいの! お願いするよ」
「了解」
カーラインは羽を大きく広げ、大空へと旅立った。
「カーラインの旅に、墜落の奇跡を」
「うるせぇ、ラエル!」
あっという間に、カーラインは見えなくなった。
王城の門は、見上げるほど高く、馬車が2,3台走れるほど大きい。まさに、王国の威厳や威信を表している。
アリーシアは門番へ、王家の印が入った手紙を渡し、問題なく王城へと入った。
アリーシアがまず最初に向かうのは、謁見の間のある本殿ではなく、国家魔術師がいる黒の塔へと向かった。
黒の塔の扉は、細かい細工が施されている重そうなものだ。しかし、見た目にそぐわず、扉はかなり軽い。
アリーシアは勢いよく扉を開けた。
中には、魔術師が脇目も振らずに実験をしている。大きな実験場のある方からは、ばかでかい爆発音が響いてくる。
アリーシアは多くの魔術師を通り抜け、奥にあるひとつの扉の前にたどり着く。アリーシアは蹴飛ばすように、扉を開けた。
「おいおい……蹴飛ばすなよ……」
「なんなのよ、王命って!」
アリーシアは目の前にある机に手紙を叩きつけた。
目の前に座る、茶髪に琥珀色のたれ目の男ーー魔術師長は、呆れた眼差しをアリーシアに向ける。
「そこまでしないとお前、ここに来ないだろう」
「うん、来ないよ。絶対に。たとえ、勘当されようと。なのに、王命なんて使って……卑怯だよ!」
「何とでも言え」
魔術師長は今代の王の王弟だ。今回は王にお願いして、王命を出したのだろう。
「お前を王都に呼びたかったのは本当だが、王命でお前を呼ぶほどに重要な依頼が入ったのが主だ」
そう言うと、魔術師長は席をたった。
「早速、謁見の間へ行くとするか」
アリーシアは謁見の間へと向かった。