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カワレルパラレル  作者: イバラ道明
3/3

Former



……………




インストール完了



……………





「…なぜ、あんな嘘を?」



「途中で目が覚められたら困るだろ。夢に、夢中にさせなければならなかったのだよ。」



「よく平気な顔して、あんな嘘がつけますよね。話し合いでは、そんな事をするなんて一言も言ってなかったじゃないですか。」



「怪しまれたら、僕とあの人のプロジェクトが、ダメになるという可能性があってだな。」



「記憶の改変、想像の改変。神をも恐れる行為でしょう。」




「ロボットの君から、そんな言葉を聞く日が来るとは……神なんていやしないよ。」




……………




……………




昨夜は眠れなかった。暗闇に一人ぼっちでいるような感覚に襲われたせいだ。きっと、猿人達はこの暗闇を恐れていたに違いない。太陽の光が消えて、世界の終わりのような感覚を何度も味わったはずだ。



そんな感覚を紛らわそうと、滅多に点けないテレビを点けてみた。某テレビ局で、生放送の政治の討論会がやっていた。



夜な夜なご苦労なことだ。彼らの発言は、一体誰に向けて発信しているのか不明瞭であった。トリクルダウンだとか、ボトムアップだとかを視聴者が知っている前提で話す。これでは、衒学的に見られてもしょうがない。



だいたい、こんな夜中にこの番組を見ているのは、社会不適合者が大半のような気がするのだが。更に言えば、日本人の討論というのは大体、水掛け論ばかりで自分の意見を曲げない。そんな取るに足らないやり取りを好き好んで見るのも、日本人の嫌なところだ。



そんな番組に嫌気が差してテレビを消した。そして、何時間もボーッとしていると窓から夜明けの光が射し込んでくる。夕焼け色のようだ。段々と夕焼け色が薄まり真っ白な光へと変わっていく。朝だ。




ゴミ収集車の音、カラスの鳴き声、シャワーの音、これらの音を聞くと、朝の始まりを連想して、とても憂鬱になる。




オレは、あまり家を出たくない。本当は常に家を出たくないが、毎月銀行に仕送りされる金を、銀行で引き出しに行くためである。



仕送りでは流石に足りないから、高校の時にバイトで貯めた貯金を切り崩しながら生きながらえている。



もちろん、こんな生活がいつまでも続くはずもないことはわかっている。貯金の「底」が見えてきているのが今の現状だ。



「底」という言葉を聞くと、何かを思い出しそうになったが、何かによって掻き消される。別に、気にするようなことでないではないと判断し日常へと戻っていく。



ユニットバスから出て、水浸しの体を念入りにタオルで体を拭く。頭の部分にタオルをやった時、酷く頭痛がする。鈍い痛みだ。だが、特に気に留めることもなく、拭き終えたタオルを洗濯カゴへと放り投げる。



パジャマに着替えて、歯を磨く。これが日課だ。終われば、パソコンの前に腰を落ち着かせてゲームをする。飽きたなら、小説を読んだり、何も考えないでボーッとしてみたりするのが常だ。




こんな生活が間違っているなんて事は、わかっているし、変えたいとも思う。



変えたいというか、消えていなくなりたい。もし、俺に味覚がなかったなら、もうすでに死んでいると思う。味覚がなかったら死ぬなんて言っていた同級生の事を思い出す。



いつも、彼の言うことには、言葉では言い表せない説得力があった。けれども、そんなことを認めたくなかった昔のオレは、核心を突けないままに否定していた。よく話したような気がするけども、なんという名前か忘れてしまった。



思い出してはみたものの、そんな事を考えるのは今の自分には無意味だ。



なんだか眠くなってきた。さっきの頭痛もあるし、寝た方がいいと思い、布団の上で枕を抱えながら眠りについた。





…………




…………





夢を見た。今から5年前の出会い。



5年前、オレは中学二年生だった。

この頃は、何もかもが楽しくてしょうがなかった。



常に発見があり、希望の階段を駆け上がっていた。何不自由なく過ごしていた。秋が終わり冬がやって来る頃、それが出会いだった。転校生だ。



よくつっかかる引き戸を、非力な力で開き入ってきたのは華奢な女の子だった。



女教師が、彼女を紹介し空いている席に誘導する。その席は、オレの席から斜め前だった。腰を落ち着けると、彼女は周りに小さく会釈をした。



会釈の際に、揺れるミディアムヘアの髪型。すこし毛先がくせ毛だが、そこがまた良い。そして会釈の際のあの笑顔。



きっと天使なんだろうと思ったと同時に、オレなんかが、話せるほどの人ではないということがわかってしまった。



クラスではごく普通に、色々な人と会話をしているが、誰からも恨まれる事なく学校生活を終えたいという考えが頭を巡る。それに、思い上がり過ぎかもしれないが、万が一オレと仲良くなってしまったら、彼女に迷惑をかけるかもしれないからだ。



冬は、彼女のことをかなり考えたりしていた。一体、どんな性格をしているのか、好き食べ物は何か、他にも沢山、そんな取るに足らないことばかり考えていた。けれども、そんなことを聞く間柄にはなれなかった。彼女は彼女で、様々な人と友好関係を築いていた。



あっという間に、冬は過ぎ春になり三年生。

彼女と同じクラスになれないかなぁ。と期待はしてはいたものの、現実はそんなにうまくはいかなかった。



絶望とまではいかないが、心に小さな穴が空いたような気がした。そんなこんなで、新しいクラスになる。すこし時間が経つにつれクラスは、受験勉強に熱心に取り組む者たちと、そうでない者たちとで二極化していった。以前のクラスより、少しピリピリしているが無理もない。中学校生活最後が影で覆われるような気がした。



しかし、そんな影に光が刺すような出来事が起きたのだ。恒例の委員会決めの時間。挙手制で着々と様々な委員が決まっていく。だが、いつのクラスの時もある委員は、なかなか決まらなかった。清掃委員会だ。



校外清掃もあるらしく、ついている先生も厳しいことが原因らしい。清掃委員会の番が来る。もちろん、誰一人として挙手をしない。と思ったが、手を真っ直ぐ挙げる者が現れた。お調子者の田口だ。教師に名前を呼ばれる。そして田口は、次のことを口にする。



「彼を推薦したいんですけど!」



田口は、オレを指差して言った。この光景、前に見たことがあるな。一年の夏頃。突然飼っているカメを持ってきて、先生に頼み込んで飼育係を作ったと思ったら、オレを指差し推薦して二人で夏休みに、飼育係をやった思い出がある。



後から聞いた話では、夏休みに田口の両親は旅行に行っていたそうだ。つまりコイツは、普段両親が世話をしているカメを、持ってきて、飼育係をオレにやらせたのだ。



そんなお調子者の田口がまたやってくれた。

彼とは、それをキッカケに仲良くなったので、そこまで苛立ちはしなかった。どうせ、二人で清掃委員会に入るという算段なのだろう。田口と仲良く清掃。別に悪くないじゃないか。



そんなことを考えていたら、拍手の音が聞こえる。どうやら、田口の熱弁により俺が清掃委員に決定したそうだ。黒板にオレの名前が書かれる。しかし、田口の名前がない。教師は次いでこう言った。



「今年の清掃委員はクラス各一人だ。」



オイオイ、なにやってくれるんだよ田口。

断れる雰囲気じゃなくなってるし。田口は、たまにこうやって空振りする。だけど、何故か憎めない奴だ。田口の方を見ると申し訳なさそうな顔をしている。



そんな田口に向けて、ため息をこぼす仕草を見せる。さらに、田口は申し訳なさそうな顔をした。このくらいさせて貰うのが筋ってものだ。



全ての委員会決めも終わり、あっという間に放課後。さっそく委員会の時間だ。かなり早く着いてしまった。中で、誰か一人座っている。





引き戸を開くと、座っている女がクルリとこちらを振り向く。転校生の本庄岬だ。







「田所秀くんだよね?二年の時の。」






少し間があったかもしれないが、重く閉じた口を開く。





「あ、あぁ。」





光が射した瞬間だった。

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