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前編

前編で2万文字ちかく行きました。

後編はもうちょっと短くなるとおもいます。


長くなってしまいましたがよろしければどうぞ。

一部修正。

「ルーテシア!貴様との婚約を破棄す「言わせませんわ!」


 パーティー会場である広間にに盛大なビンタの音が響き渡った。


 突然のこと失礼しました。(わたくし)はルーテシア=リシア=グレイテシア。

 グレイテシア侯爵家に生まれた侯爵令嬢でございます。

 今私がいるのは王立学校卒業パーティーの会場。

 そしてその中心部で起きた、それこそ見る人が見れば陳腐と形容するしか無い茶番劇。

 所謂(いわゆる)婚約破棄現場ですね。

 平手打ちして止めたので未遂ですが……、これはもう止まらないかもしれませんわね。

 慈悲として一度目は止めましたが、正式に宣言したらもう庇い切れませんね。


 そして平手打ちがヒットしたのは顎下。

 頬を打つつもりでしたが相手が避けようとした為ズレてしまいましたわ。

 ズレなければ頬を叩いてしまいたかったのですがまだまだ未熟でしたわね。お恥ずかしい。

 むしろ顎を砕いて喋れないようにた方が殿下のためでしたでしょうか?


 そして顎下を叩かれて尻もちを着いたのは私の婚約者であらせられるセオドア=フォン=パトリシア。

 パトリシア王国第一王子様なのですが……、衆人環視の前で何をしようとしているのかちゃんとわかっているのかしらね?

 分かっていたらこんな愚行はしなかったでしょうに。


「セオドア様、大丈夫ですか!? 酷いわ、こんなことするなんて!」


「酷い? それこそとんでもない話しですわ。取り返しのつかない過ちを犯そうとしていたのを、無理矢理でしたがお止めしただけの事。むしろ感謝して欲しいぐらいですわ」


 脳を揺さぶられた所為で立てないセオドアに駆け寄るのは、ネトリーナ=ネトリ=グレイテシア。

 私の腹違いの妹ですわ。



 話は今から16年前まで遡る事になるでしょうか。

 彼女が正妻で、私が側室の子。

 最初に側室の母が私を産み、その11ヶ月後に彼女が生まれました。

 ですが母は病弱だったのか、私を産んだ3年後に病に倒れ、幼かった私を残して息を引き取ったと聞かされてます。


 それからの人生は針の筵でしたわね。後ろ盾となる母もなく、母の実家は私の方には見向きもしない。

 本来ならば私の後ろ盾にも成るはずの父親でさえ、正妻腹の娘である彼女の方が可愛いかったようで、私なんかは二の次三の次ですわね。

 まあ、側室の子と言えば当たり前なのかもしれませんけど……。

 使用人の方も、私への接触は最低限のものでした。

 唯一の心の拠り所はお母様の形見の品々のみ。


 そして、こうなるのは必然だったのでしょうね。

 かつて彼女が私に向けて言った言葉、幼い時の私には意味がわからなかったあの言葉。

 そう、あれは母さまが死んでから二年後、5歳の時でしょうか?


 彼女が人目を避けて、私の前に現れて言ったのです。


「愚かにして哀れで可哀想な悪役令嬢のお姉さま。貴女は私の引き立て役。そのために生まれてきたんだから、しっかり踏み台の悪役になってよね」


 そう言って、彼女は足早に去っていったわ。

 当時の私には何のことだかさっぱりでした。


 そして時は流れて、私が6歳になった時の事です。

 それはパトリシア王家からもたらされた婚約話だった。

 最初は妹に話が行くかと思っのですが、どういう訳か、父は私を婚約者にと押しました。

 その訳が……。


「おとうしゃま、わたしよりあく……おねえさまのほうがいいとおもうの。だから私じゃなくて、お姉さまを王子様の婚約者にしてあげて」

 その後に、なにか小さい声で「あの……様苦手……よね……」

 そうつぶやいていた気がしました。 


「おおネトリ、お前はなんて優しい子なんだ。そうだな、一応長女であるわけだし問題はないか。それにネトリはまだこんなに小さくてかわいいんだ。親元離れてなんて辛いことさせる訳にはいかないもんな!」


「そうよあなた、あの女の子供なんてとっとと王城に差し出しちゃいなさいな。体の良い厄介払いが出来ますわよ」

 


 妹の一声によって、お父様は喜んで私を婚約者として王城へ送り出しましたわ。

 あの私、その妹とギリギリ一歳違うかどうかなんですけど、私まだ6歳なんですけど!

 ある意味家族に捨てられたような形で行くことになりましたが、その時は逆にもしかしたらと。

 婚約者となるのですから、もしかしたら暖かく迎えられるんじゃないか。

 そんな希望を胸に抱いていましたわ。




 ――ですが、行った先で私を待っていたのは酷い拷問でしたわね。




 婚約が王家に受理された次の日には、私は王城へと向かう馬車の中でした。

 礼儀作法のほうは、お城で失礼がないようにと、妹が私を婚約者に押した後に、徹底的に仕込まれましたわね。

 それこそ、食事と睡眠、お風呂以外の時間はすべて、礼儀作法に当てられましたわ。

 なんせ短時間で仕込まなければいけないとはいえ6歳の身体には堪えましたわ……。


 こういうのを世間では詰め込み教育というそうですけど、実際の所はどうなのでしょうね?

 短期間で、なんとか必要最低限の礼儀作法を身につけ、王様や王妃様の前で恥を晒さずに済みましたわ。


 だけど王様や王妃様に挨拶をした後は、来る日も来る日も王妃教育の毎日。

 当然その教育は厳しいものでありました。

 そこらの貴族子女が優雅に過ごしている傍ら、私は厳しい教育の日々。

 マナーはもちろんの事、経済、外交、戦術、語学に薬学と医術、魔術に護身術、さらにはどうしてこれが必要なのかわかりませんが王妃教育なのに、森の中などで野営までしないといけないのか理解に苦しみましたわ。

 そうやって王妃に必要なありとあらゆる事を教えこまれました。

 当然、そんな厳しい教育に6歳の女の子が耐えられる訳もなく、毎日のように枕を濡らし、すぐに泥のように眠る日々を過ごしたわ。


 帰りたいと願っても帰れる訳もなく、父からもらった手紙には、戻れば放逐すると書いてありました。

 はっきり言ってしまえば『王妃になる以外の価値はお前にはない』と言わてるようなものです。

 結果、3年も過ごせば慣れると言うものなのでしょうね。

 9歳になった頃にはもう泣くことは無くなりましたね。

 もしかしたら涙が枯れ果ててしまっただけなのかもしれませんが……。


 3年に渡る王妃教育の結果、私の実力は王室でも徐々に認められる程の物になっていきました。

 そのお陰で婚約者である10歳の第一王子との初顔合わせもできたのですが、その第一声が。


「――母さま、こんな子が僕の婚約者なの?――」


 一瞬、厳しい王妃教育で作られた鉄壁の微笑みマスクが粉微塵に砕けそうになりましたわ。

 ですが、なんとか微笑みを崩すさずに、その場を乗り切ることが出来ました。

 しかし周りの人達はその発言に凍りついてましたね。

 一歩間違えれば「私の3年返せやこら」

 思わず怒って、胸ぐらに掴みかかっていたかもしれません。


 それにしても偶に聞こえてきた第一王子と、その母親であるこの国の第二王妃様でいらっしゃるシャリーア様の悪い噂は本当だったようです。


「ごめんなさいね、セオが王位を継ぐためにどうしても必要だったのよ。王様になったら好みの子を寵妃か第二王妃とかにできるから、それまではコレで我慢してね」


 これ、私キレていいですわよね? 張り倒しても罰は当たりませんわよね?

 いや、実際にやったら不敬罪とか色々ついてきそうですけど。

 だけどまず先に侮辱してきたのは向こうですし。


 その後色々調べた結果、自分なりに今の王城の様子を考察してみました。

 王妃教育で得た知識を元に考えた結果、今この国は第一王妃派と第二王妃派で真っ二つなんです。

 王様は第一王妃様に付いているんですが……どうも第二王妃様は貴族達に無理やりねじ込まれたようなんです。

 そして第二王妃派の貴族たちは金と権力と腐敗にまみれた人達のようで、第一王妃様と王様はどうにかして彼らを弱体化させたかったようなのですが、なかなかその切っ掛けが掴めないようです。

 不正の証拠集めもしているのですが、全員で結託して証拠を隠しているため、それも上手くいってないようなのです。


 そして何よりもまずいのが彼、セオドア様が第一王子であることです。

 第一王妃様の子が第一王子であったならまだ良かったのですが、よりにもよって第二王妃様の方が先に男児を産みになられたのが彼らをより増長させてしまったのです。

 なんでも第二王妃の所は一度で出来てしまったとか。

 本当は王様も第二王妃様の所に行く予定はなかったのですが、第二王妃派の強烈な圧力と世間体で致し方なく一度行ったそうなのです。……まさかその一度でご懐妊なされるとは、王様の目を持ってしても見抜けなかったそうです。


 そしてその2年後に王妃様もお子様を出産なされたのですが……、女の子だったのですよね。

 それが彼らをより増長させたといえるでしょう。

 そして彼らの目指す所は……、第二王妃主導の傀儡政権と噂されております。

 いや、王子様のあの甘やかされ具合から見るにおそらく真実でしょうね……。

 とんでもない所に嫁いでしまった感が半端ないです。


 ちなみに王女様のお顔は何度かちらっとお見かけしたのですが、あれは絶世の銀髪美少女といいますか、整った顔立ちで中性といってもいいぐらいの美形でしたね。

 周りの人は全員一致で美少女と言っておりましたが……私の美的感覚がずれているのでしょうか?

 話がそれました、話を戻しまして。


 王子様の教育もあの第二王妃、シャリーア様が直接していらっしゃるとか。

 ですので第一王妃様や王様もなかなか手が出せない様子。

 正直教育できているのかすごく疑わしいです。

 ちなみに私の教育をなさってくださっているのが第一王妃様の、エカテリーナ王妃様。


 そしてこの王子様、セオドア様との出会から暫くして開かれた婚約披露パーティー。

 その際にセオドア様のパートナーとして最初に踊ったのですけど……。

 問題は一度踊っただけでその後は別の女性と踊ってばかりだったことです。


 私? 私は遊び呆けている王子様を尻目に、王妃様や王様と共に各国から訪れた方々への挨拶回りで忙しかったですわ。

 セオドア様も本来なら、一緒に各国への挨拶まわりに向かうはずだったのですが……、あのわがまま王子様、全然仕事しないの! 綺麗な女性とばっかり踊り回り、挙句の果てには妹と何度も踊った挙句、手の甲にキスまでしてやがりましたわ。

 いけませんね、思い出したらつい口調が。

 そしてこれには流石のシャリーア王妃も、思わず苦笑い。

 どう見ても教育に問題があるとしか思えません。

 

 その後13歳になって全ての貴族が通うパトリシア王立学園に入学することになりました。

 そして、セオドア様も婚約者として、一緒に入学するほうがいいだろうと、1年入学を遅らせておりました。

 まあ建前何でしょけどね。



 そして入学の前日、謁見の間にて私に王妃様から下されたのは『学院では常に貴族の模範たれ、常に次期王妃らしくあれ、そして学生の模範たれ』とのお言葉と、婚約者の証たる首飾りでした。

 そうして王妃様達からの謁見を終えた後、なぜか第一王妃様。エカテリーナ様のサロンに来るように命令を受けました。

 王家に来てから一度も王妃様のサロンに、レッスン以外で呼ばれたこと無いんですよね。


 そして王妃様の許可のもと入室、中にいたのはエカテリーナ様と王様であるシャルル=フォン=パトリシア様がいらっしゃいました。

 直ぐ様最敬礼で跪こうとしたのですが、手で静止なされました。


「今は私的な用事ゆえ、堅苦しいのは抜きとしよう。今この一時、この室内は無礼講とさせてもらう。何よりこちらは、そちに頼み事をせねばならぬ立場だ」


「王命とあらば喜んでお受けいたしたいのですが、まずは内容次第でございます。王妃様からも常々『自らの力量をわきまえよ。出来ぬことを出来るというのは一瞬の恥! だが出来ぬことを出来ると言えばそれは一生の恥と共に、多大な被害を周囲に及ぼすだろう』そう教えられてきましたので」


 それを聞いて王妃様は微笑を浮かべておられる。

 ……教育の成果を見ていらっしゃるのでしょうかね?

 そして王様からはどうにかして第一王子をまともに出来ないかお願いされてしまいました。


「これは王としての命ではなく、王子の……、いや、セオの父親として頼みたい。このままでは儂は自分の息子を何時か、――この手で切らねばならぬかもしれん――。できればそうなる前にあの女から引き離し、まともな王族にしてやりたいのだ。もしこのままセオが、奴らに言いなりの傀儡の王となってしまえば、確実にこの国は終わる」


「とは言え、王城内ではセオの教育は母であるシャリーアに一任されており、こちらからはなかなか手出しができないのですよ。ですが、学院内でならば話は別です。あそこはならば彼女もそうそう手は出せません。ですから、貴女にセオの事をお願いしたいのです。このままではあの子にも未来は無いのかもしれません……」


「できる……とは断言しかねますが、可能な限り尽力いたします。ですが二つほど質問をしてよろしいでしょうか?」


 話を聞いていると二つ疑問が浮かんだのだ。


「構わぬぞ、何が聞きたいのだ?」

「では失礼ながら……、王様はまだわかりますが、なぜ王妃様までセオドア王子様の心配をなされるのですか?エカテリーナ様のお子様ではなく、シャリーア様の子供ですよね?」


 私にとっては一番の不思議だったのだ。自分の子では無いセオドア様を心配するエカテリーナ様の事が。


「そうですね、それはあの子が愛する人の子供だからでしょうか……。できればこの様ないがみ合う関係などでは無く、王を支える良き家族となれればよかったのですが」

「そう……ですか、分かりました――ではもうひとつの質問なのですが――」


 それから王様や王妃様との話し合いの翌日、学園へと向かうことになりました。



 そしていざ入学してみたところ、そこにはパーティー以降会うことのなかった妹の姿もありました。

 それからは忙しい日々でしたわね。

 入学して直ぐに学院の生徒会入りをしてからは、学園内での運営に携わることになりましたわ。


 学園内では時期王妃として、貴族子女達への見本となるように振る舞いました。

 そして時には愛想も振りまきながら勉学、そして人脈作りや王子をまともな王子へと導くべく色々動きまわってましたわ。

 生徒会も1年目はまだ有能な先輩たちに支えられながら平穏にやっていくことが出来ました。

 この時はまだ、何とか王子をまともにしようとあれこれ手を打って教育できてきましたから。


「まったく、なんで次期王である俺がこんなことを……」

「次期王様を名乗るなら出来ないとまずいですわよ。次の定期テストで赤点とって、王族が補習なんて笑い話にもなりませんわよ。ちゃんと終わるまで付き合ってあげますから、頑張りましょう」

「なあ、王子様特権ってことで試験をパスできないか?」

「そんなまねが出来るわけ無いでしょうに! そんな事してバレたら他国からいい笑いものにされますわよ! ……これが終わったらお茶にしましょう」


「セオドア様とルーテシア様、仲睦まじくていいですな~」

「全くだな、俺はまだ婚約者がいないから妬けてくるぜ」

「ですが、ああ言う雰囲気もいいですわね、……ちょっと妬けてしまいます」


 生徒会業務の傍ら、こうやって何度もセオドア様や他の生徒会役員の方達とも勉強会を開きながらまともな王族になれるよう、精一杯教育をしていきましたわ。

 最初の頃は逃げ回られたりして大変でしたが……。

 ですが、その苦労のかいがあってか、2年に上がる頃には大分真っ当な王子様になられましたわ。

 これなら王様や王妃様にも顔向けが出来、私も婚約者として一緒にやっていける。



 ――そう思えていましたのに。――



 それから翌年になってセオドア様が会長に就任、そして私も慣例にそって副会長になりました。


 このままいけば王様の願いも無事に叶えることが出来るのではと思った矢先の事でした。


 妹が生徒会入りしてきたのです!


 そこからはシャレにならない忙しさでしたわ……。

 具体的には私の胸が2センチ減るぐらいには。


 妹が生徒会入りしてからこの王子本当に仕事しなくなったの!

 挙句の果てには妹と逢引や、仕事をサボるという暴挙にまで!

 婚約者の私の事は……まだいいですわ。

 ですが生徒会は、貴方様の将来にも深く関わる事だと何度説教したことか。

 そして逢引だけならまだしも、男子生徒の約2割程が妹にぞっこん。

 おそらくこれが生徒会入り出来た理由なのでしょうね。

 それに加えて学園内で問題行動を起こしておりましたわ。

 その度に私が動いて諫め、尻拭いまでする為に学園中を動き回るはめになりましたわ。

 しかも生徒会役員でもある公爵子息に伯爵子息様達までも問題行動を……。

 何しに生徒会入ったんだこいつは!


 その結果、妹が生徒会入りしてからは、私の度重なる諌言を無視し、聞き流し、あの妹の言葉ばかりに耳を傾けるようになってしまいましたわ。

 お陰で仕事は増える一方。あの王妃教育がなかったら今頃倒れてましたわね。

 その御蔭で、セオドア様への王族教育も満足に行えずに、今日この日を迎えてしまったのが悔やまれます。


「セオドア様、一緒にお茶をしましょ! 生徒会の仕事? そんなの後々、せっかくの学院生活なんだから楽しまないと!」

 妹はそう言って度々セオドア様と逢引し、生徒会の仕事をほったらかしにしていきましたわ。

 しかも、「皆も行きましょ! 仕事ばかりでは息がつまりますわよ!」

 そう言って一部の役員を連れだしていきましたわね……。


 仕事ばかりなのは一重に、貴様が生徒会長達を連れだして仕事が溜まっているからですわ!

 貴様もさっさと仕事しろ! 何ために生徒会に入った!


 怒りで何度ペンを握り潰したかわかりませんわ。

 何度か威圧しないように、なんとか穏やかに注意しましたけれどのらりくらりと躱して聞く耳持たずと言った感じでしたわね。

 穏やかに言ったつもりでしたけれど、後で他の方から目が笑って無かったと言われましたわね。

 

 その結果、生徒会の機能は麻痺寸前にまで追い込まれました。

 ですがなんとかギリギリの所で他の役員の方達と踏ん張り、今日という卒業式を迎えることが出来たのです。

 

 なのに今日、私達生徒会の最後の仕事である卒業式を迎えたこの日に、この王子と妹は他国の方の目がある中で自国の恥を晒すような真似をしてくれましたわ。


「くっ、今までは一応婚約者ということで大目に見ていたが、貴様! こんなことして許されると思っているのか! 不敬罪並びに反逆罪で一族郎党皆殺しに」


「残念ですがこれは陛下直々に許可されていることですわ。書状もこちらにございます」


 本当にどうしてここまで愚かになってしまったのか、2年前のあのセオドア様はどこに行ってしまったのか。

 どうしようもない婚約者の目の前にしっかりと陛下からもらった書状を見せつけます。

 そこには学院内における様々な許可が書かれておりました。

 その中には第一王子、並びに貴族の模範足り得ない行動をしているものを正そうとする際には、いかなることも罪には問わぬと。

 ただし、ルーテシア=リシア=パトリシアが貴族の模範足り得ないと判断された場合無効となる。

 と言う、一文も書かれており、仮に私が先ほどの証言のようなことをすれば確実に無効とされておりますわね。


 ただこの書状は可能な限り、ギリギリまで伏せておく様に言われておりましたわ。

 この手のカードは相手に悟らせないように忍ばせておくほど威力はでかいですからね。


「そして加えて申し上げるならば、一族郎党皆殺しの場合そこにいる妹も含まれますのであしからず。第一この婚約は、そもそもが親同士が決めたことであり、何よりも陛下が決めた事! 私達にどうこうする権限はございません」


 しっかり正論を突きつけてやる。

 ぐぬぬと言いたそうな顔をしてらっしゃいますが、何がぐぬぬだと言いたいところですわね。


「さて、無駄だと思いますが一応なぜこんなことをしようと思ったのかお聞きしておきましょうか」


 扇を広げ、口元を隠しながら威圧するように言ってみた。

 威圧するのはエカテリーナ王妃様、直伝の交渉術。

 王妃たるもの、威厳と同時に畏怖も持ち合わせなければなりません。

 貴族社会って舐められたらおしまいなんですのよ。

 優雅に御茶してるだけが仕事ではありません。


「決まっているだろう! お前が卑劣にも、ネトリーナやその周りを散々虐めてきたからだろうが!」


「一体何のことでしょうか? 私には身に覚えがありませんが?」


「嘘です! 私はルーテシア様に虐めを受けました! ノートを破られたり、水をかけられたり、服を破かれたり、罵声を浴びせられたり……、挙句の果てにはこの間のパーティーで階段から突き落とされたり!」


 ネトリーナはそう言って私を批難しようとしますが、私には全く見に覚えのないことばかりですわね。

 でも罵声というのはマナー違反等の注意のことですかしら?


「ネトリーナもこう証言している。貴様の悪行は明白だ!」


 そんなドヤ顔で証言があると言っても本人だけじゃないですか。

 それは証言とは言いません。虚言というよりもむしろ、狂言でしょうか?


「呆れて物が言えませんわね……。証言が本人だけなのでは証拠能力としては薄いですわ! そこまで仰るならば、肝心の物的証拠はございますのよね!」

 正直ため息を付きたくなるレベルだ。

 勉強会を開いていたあの頃のほうがもっと賢かったですわ。

 少なくとも、こんな子供の喧嘩レベルのような事は言わなかったでしょうね。


「当然だ! 破られた制服もちゃんとある!」

 胸を張って言っておりますが、それは私がやったと言う証拠にはなりえませんわ。

 一部の生徒がざわついておりますが、反応が私への批判とそれは無理があるだろうと、半々に分かれている感じでしょうね。

 これを出して私がやったと主張するのは無理があるもの。

 ちゃんと物事を考えられる人達はこんなことに引っかかりはしないでしょうね。

 一応、考えられる人達の顔を覚えておきましょう。

 私これでも記憶力はいいのですのよ。


「一体それのどこに物的証拠能力があるのですか?」


「れっきとした証拠だ! 言い逃れするな!」


「それが破れているのは事実ですが、どこに私がやったという証拠になるので?」


「うるさい! 証拠は上がっているんだ! 言い逃れせずに罪を認めろ!」


 これはもう、庇いきれませんわね。

 王様に王妃様、力及ばずで申し訳ありません。

 最初の一年はなんとかまともな方向に向いていましたが、そこにいる妹の甘言、並びにその取り巻きの行動で水疱に帰してしまいましたわ。

 こうなってしまった以上、後はやるべき事をやるだけですわ……。


「ルーテシアお姉さま、罪をお認めください! そうすればきっとセオドア様も寛大な処置を取ってくださいます!」


 涙目で悲劇のヒロインを気取っている妹はそう言うが、そもそもの原因は貴女でしょうに!

 威圧と敵意を込めた眼差しで妹、いえ違いますわね。愚妹を見つめました。


「ひっ!?」

 その視線に耐えられなかったのか、尻もちを付いて令嬢らしからぬ声を上げる。

 まったくなっていませんわね。この程度ではこの先の社交界で生きていくことは出来ませんわよ。


「ネトリ!? くっ、こんな悪徳令嬢に情けは無用だ

 それに何度も俺に小言を言っては気分を害してくれたこいつに慈悲はない!

 俺が王位を継いだ暁には即刻処刑してくれる!」


 愚妹を抱きしめながらそんな風に言ってくるが、その程度の事で私の心はちっともゆるぎませんわ。

 こちらとて今までは婚約者であり、なおかつ王様と王妃様の願いもあったため、心を鋼の様にして耐えてきましたがもう勘弁なりませんわ。

 王様に王妃様、お二人の願いを叶えられず、王子を守ることも出来なかった私をどうかお許し下さい。


 無言で私は心の内で許しを請いながら、目の前の愚か者に鉄槌を振り下ろすことにしました。


「今更後悔しても遅い! 俺はネトリーナを愛しているのだ! 貴様の様な可愛げの無い女よりも、可愛げがあって俺を愛してくれるネトリーナの方が何倍も貴様より俺の嫁にふさわしいのだ!」


「無言になったのは貴方があまりにも愚かで、もうどうしようもないと判断したからですわ。殿下は先ほどそれが証拠だとおっしゃいましたが、他の虐めとやらも証拠や証人、並びにそれがいつ頃行われたのか教えていただけますか?」


「ふん! その汚らわしい耳でよく聞くがいい!」


 そう言って王子は次々と証人、並びに虐めが行われていたとされる日時を宣言していきますわ。よくもまあこんなに人達を揃えたもんね、20人ぐらいいるわ。

 けれども現れたのはどれもこれもが第二王妃派の貴族子女ばかり。

 しかも素行も悪ければ成績も悪く、何かにつけて家を引き合いに出しては他国の者であっても人を見下す、周りの迷惑を顧みない者達ばかり。


「以上が証人だ! さぁさっさと己の悪事を認めて、その婚約者の証たる首飾りをネトリーナに明け渡せ! そして貴様との婚約も破棄だ!」

 漸く言い終わったのか、少し息を乱しながら宣言し、私の首飾りを指で指し示す。


「ああ、漸く終わりましたのね。全く愚かしい事この上ないですわね」


「何が愚かしいことこの上ないだ! これ以上しらを切るならこの場で切り捨ててくれる!」


 そう言って腰に携えた剣を抜こうとする愚か者に私は軽蔑と侮蔑の表情で見つめながら。


「そちらが私を罪人にしようと証人を用意したのならば、こちらはそれよりも確実な物的証拠をお出ししましょう」


 そう言った瞬間当たりがざわついた。まあそうですわよね。普通ならこんな突然の事に物証が用意できる訳なんて無いですもの。

 事前に向こうの動きを知っていて用意していない限りは。

 言っておきますと、事前にあの馬鹿王子が何かしようとしているのはわかっていましたわ。

 だけどここまで愚かなことをするとは思っていませんでしたわ。

 取り巻きの人は誰も止めなかったのかしらね?


「私が証拠として提出するのはこの首飾りですわ」

 私の首から下げられた首飾りを軽く持って示す。


「はん、その婚約者の首飾りが何だというのだ」


「殿下は知らされておりませんでしょうが、この首飾りは本来の王家の首飾りとは違うものなのですよ……」


「一体その首飾りが何だというのだ? ただの婚約の証だろうに」


 訝しげな目で見ていますが、この首飾りには重大な意味と効果があるのだと。


「この首飾りはただの首飾りではありません! 実のところこれはマジックアイテムなのです。常に周囲の様子を(・・・・・・・・・・)記録し、着けた者の(・・・・・・・・・・)行動を監視する(・・・・・・・・・・)いわば首輪ですわね。当然身につけたものは常に王家に監視され、行動にやましい事、貴族にあるまじき行動をすれば直ぐに報告が上がります。そしてこの首飾りから得られた映像は王城に保存されております。今回の婚姻のために特別に作られたものなのですわ」


 ちなみに本物は現在王妃様の元で保管されております。

 無事に卒業したら王妃様から手渡される予定でしたが、もうそんな未来はありませんわね。


 首飾りの話を終えたら、私を非難していた方々は一斉に表情が青くなりましたわね。

 いい気味ですこと。当然の事ながら、この光景も全て記録されております。

 言ってしまえば私の行動は常に把握され、一言一句すべて報告される。それ故に彼らが言ったようなことが出来るわけがないのです。

 しかもこの首飾りは私では外すことができません。その為、監視はお風呂だろうとベッドの中だろうと緩むことはありません。

 女性としては少々つらい事ではありました。ですが逆を言えば、このような状況では最強の武器になりえますわ。

 ちなみにこの首飾りの証拠能力に関しては、国が責任をもって保証してくださってますので、何の問題もありません。

 陛下や王妃様からも書状を頂いておりますので、まさに鬼に金棒(オーガにヘビーメイス)ですわ。なんせこの首飾り自体にも映像を再生する機能がございますもの。

 王様も王妃様も、できればこのような事にならないことを祈っておられたのでしょうが、こうなっては致し方ありません。


「当然、先ほどの証言も全て記録されております。後ほど何らかの沙汰が下るでしょうが、少なくとも証言を偽った偽証罪は確実ですわ」


 そうきっちり宣言すると、証人としてここに来ていた問題児たちは全員顔面蒼白を通り越して真っ白になっていきましたわね。

 さて、残った王子と愚妹にも、しっかりと現実を教えてさしあげないといけませんわね。


「さてセオドア様、先ほど王位を継いだ暁にはとおっしゃいましたが……――今の貴方が、本当に王位が継げると思っていらっしゃるのですか?――」


「な、なに?」


 青ざめた顔のままこちらを見上げる姿はなんとも見っともないですわね。


「貴方はこの学園で何をしていらっしゃいましたかね? そして考えたことはありませんでしたか? どうして二年生になってなんの決議も無しに貴方が会長になったのかと」


「それは俺が第一王子で一番偉いから」


「違います、そんな訳がないでしょうに! この学園の自治は生徒会が管理しています。当然生徒会長ともなればそれ相応に能力が求められます。本来ならば王族だからと言って、はいそうですかとなれるわけもなし!まあ、第一王子だからというのは一応あってますが、偉いわけではないです」


「はっ?」

「貴男が第一王子だから、とりあえず試験することになったのですわ。現在は貴男しか王子がいないから、普通に生徒会長をしていればまだ王位を継ぐ可能性もあったでしょうね」


 私の説明を聞いておマヌケな顔を晒す。

 王族としては絶対にしてはいけない顔のはずなんですがね。


「試験は学園に入った所から当然始まっています! 学業、素行、生徒会での仕事ぶりに人脈作り。そして生徒会主導で企画されるイベント、ありとあらゆることが審査対象になります。そしてその結果次第で次の王が決まると言っても過言ではありません」


「そんな事聞いてないぞ!」


「私はちゃんと言いましたよ。生徒会は貴方様の将来にも深く関わる事だと! 直接言うのは禁止されておりましたが、少し遠回しながらも忠告は何度もいたしました! ですがそれに耳を傾けずに、そこの愚妹と遊び呆けていたのはどこのどなたかしらね? 今の貴男だと、王子としての点数は0点に近いか、あるいは-100点かしらね?とても王位を継げる点数ではございませんわ!」


 今になって自分の行動を振り返っても、もう遅いですわよ。

 さて次は、人の婚約者に手を出した痴れ者。

 愚妹であるネトリーナにもしっかり言って置かなければいけませんね。

 なんせ私の後に王家に嫁ぐのかもしれないんだから、ちゃんと教えてあげないといけませんわね。

 私がそちらに顔を向けると「ヒッ」っと悲鳴のような声を出して後ずさろうとする。

 そんなに怖い顔してるかしら? 少し傷つきますわね。


「さて、貴方にも色々言いたいことはあるけれど、まずはこの王子と婚約して王家に入りたいようだから教えてあげる。王妃教育がどんなものか、時間をかけて懇切丁寧にできないのが残念ですわね」


 それから王妃教育における厳しいレッスン内容を説明してあげたら血の気が引いていったわね。

 そして最後にこの首飾りに関しても教えてあげたわ。


「もし貴女が殿下と無事に婚約できたらおそらくこの首飾りが着けられるでしょうね。常に監視されるから、万が一サボろうなんてしたら確実に罰が下るわね。分かりやすい所だと乗馬用の鞭で人には見えない部分をベシンと叩かれるか、ビリっと来る腕輪でも付けられるか……、ですが王妃様のことだからどんな罰を下すのか……」


 愚妹にそんな説明していると、後方の扉が開かれた。

 力強く開かれた扉から現れたのは陛下と近衛騎士達だった。


「ち、父上!?」


「……報告は受けていたが、やはりこうなってしまったのか」


 王様は王子の姿を見て落胆、そして悲しみの色を浮かべていた。

 そして近衛騎士を率いてこちらにやってくる。


「迷惑をかけてしまったなルーテシア嬢」


「もったいなきお言葉ににございます陛下。このような事になってしまいまして申し訳ございません」


「いやそちらに責はない。有るとすればこの愚か者達だろう」


 怒気を放って王子達を睨みつける陛下の姿は、一瞬オーガのようにも見えましたわね。

 それに対して怯えながらも弁明しようとする王子、正直一体なにを弁明しようというのか……。


「ち、父上、今回のことについてはそこの女が悪いのです」


「ほう、ルーテシア嬢のどこに非があるというのか? 言っておくが貴様らが発言したことに関しては確認を取ったがルーテシア嬢は一度もそのような事はしていないぞ」


「そ、それは……、ですが!」

 縋り付こうとする王子はなんと言うか、哀れですわね……。


「くどい! それに学園での貴様とネトリーナ公爵令嬢の行動報告はすでに受けている! まったく呆れて物が言えない報告の嵐だったぞ! ルーテシア嬢がいなければ今頃学園の機能は確実に崩壊していた! それだけに飽きたらず、ネトリーナ嬢に現を抜かした挙句、学業を疎かにした上での素行の悪い生徒との付き合い。並びに王族らしからぬ行い。さらに先ほどのルーテシア嬢への誹謗中傷の暴言を加味すれば本来であれば廃摘、いや王籍末梢の後の追放刑を言い渡してもおかしくないのだぞ!」


 そして陛下はこちらを向いてその膝を折り頭を垂れました。


「ルーテシア嬢、いままでこの愚か者を支え続け、我らの頼みを叶えようと努力し続けてくれたことに感謝する」


「陛下、お顔をお上げください。王たる者がそのように安々と頭を下げてはなりません。むしろ謝罪しなければならないのはこちらでございます。私は結果として王子を導くことは出来ず、お二人の願いを叶えることが出来なかったのですから……」


「いや、これは下げねばならぬのだ! こちらの事情で本来ならばしなくてもいい、いらぬ苦労を多大に背負わせたのだ。しかもこれからそなたには、いらぬ醜聞がつきまとう事になるかもしれんのだ……。謝っても謝りきれんよ」


「……陛下の謝罪をお受けいたします、ですから顔をお上げください」


「すまない。この詫びは必ずしよう」


「しかしこうなってしまった以上、私はもう嫁ぐわけにはまいりませんわね……」


「こうなっては仕方あるまいな。セオドア! 貴様の望み通りルーテシア嬢との婚約は破棄してやろう。そしてそこのネトリーナ侯爵令嬢との婚約を認めよう」


「ち、父上」一瞬笑顔になるバカ王子、ですがその後に陛下は。


「ただし、お前が王位を継げるとは思わぬことだ。今の貴様は王族と名乗ることすら厳しい状態なのだぞ! そしてネトリーナ嬢!」


「は、はい!」


「貴女にはルーテシア嬢が8年掛けて身につけた王妃教育を2年で身につけてもらう! 言っておくが今更愛していない。婚約などできませんなどと言えるとは思わん事だ! ましてや他に男を侍らせるなどという事ができると思うなよ!まったく、ルーテシア嬢がいなければ将来を期待されていた一部の者達まで危なかったな……」


「そ、それはどういう……」


 そう、この愚妹の回りにいる者達は、愚妹に出会う前までは優秀で、それも将来を期待されていた者たちが何人かいたのだ。

 その人達は愚妹にあってから様子がおかしくなり始め、会う度にそれはひどくなっていた。

 そして彼らは自らの婚約者のことを忘れ、彼女を愛するようになっていた。

 だけど私はある時、彼らを元の状態に戻すことに成功したのだ。


 ――そう、このお母様の手袋をを使って。


 あの妹はどうも無自覚で魅了の力を使っているようなのだ。

 そしてそれは何度も出会う内に強くなっていく様なのだ。

 ある時に廊下でぶつかって来た人がいたのだが、謝りもせずに走りぬけようとしたので、思わず平手打ちしてしまったのだ。

 よく見たらその人はとある国から来た留学生の獣人で、今年から生徒会に入った方だったの。


「……あれ? 俺は一体? すまない、俺は一体何をしていたんだ?」

 急いで駆け寄ったのだけど、その後の様子が余りにも違うので少々調べさせてもらったのです。

 そして判明したのが、愚妹の魅了とお母様の形見の手袋の力。

 いわゆる破邪と呼ばれる力が込められた手袋だったんですよねこれ。

 そして私にもどうやらこれを扱うための魔を払う力、破邪の力があったようなのです。


 それからは情報を集め、優秀な生徒は妹から隔離する仕事が追加されました。

 その際には先程の彼、留学生で狼獣人のウォルフォード様。

 彼も今の学園の状態を見ていられないようで、手伝ってくださることになりました。

 正気に戻す仕事と生徒会、どちらの仕事でも彼は良き相棒となってくださいました。

 お陰で公爵子息や伯爵子息、宰相子息などしっかりと教育され、次代にと期待されている優秀な方達を無事に正気に戻していけたのだ。

 

 ――そう、この手袋を使ってビンタすることで!


 学園内で何度この右手が唸ったか……。

 彼らを正気に戻すためにビンタして回ったのですけど、そのせいで私は影でビンタ姫って呼ばれるようになったのよ!

 言った連中には後から往復ビンタしてやったけど、その後から『どうか私めをぶってください!』なんて言ってくる者達がでるから困ったもんだわ。

 余りにもしつこいようだからぶったのだけど、どうして彼らは喜んでいたのでしょうね?


 だけど肝心の王子は何度か叩いて払ったのだけど、私の力が弱いせいなのかわからないけれど、どうにもならなかったわ……。

 軽度~中度ならなんとかなったのですけど。


 それにしてもあの愚妹、時折好感度とかイベントとか悪役令嬢のくせにとか、目指せ逆ハーエンドと訳のわからないことを言っていましたがあれは何なのでしょうかね?


 そして詳細を知った愚妹は豹変してこちらに襲いかかってきた。

「お前の仕業かぁぁぁぁぁ! 私のハーレムを邪魔したのは! ただの引き立て役の悪役令嬢のくせに!」


 そう言って掴みかかろうとしてきたのだ。

 考え事をしていて反応が遅れてしまったのは私が未熟ゆえだろう。


(油断した……、ちょっと気を抜きすぎたわね)


 しかし厳しい王妃教育の賜物か、それともこの学院の日々で染み付いたのか、私の体は掴みかかろうとしたネトリーナに対して左手が反応していた。

 とっさにネトリーナの頬をを左手でビンタして弾き飛ばしたのだ!


 しかし、それでも復讐の炎を瞳に宿したかのように、直ぐ様襲いかかろうとしたのです。

 ですが、その前に間に入って彼女を取り押さえてくださった方がいました。

 ウォルフォード様です。


「貴様、今彼女に何をしようとした!」


「ヒッ、痛い痛い痛い! は、離しなさい!」


「衛兵!すぐにこのバカ共を拘束して別室に連れて行け!」


 組み敷かれて床に額を打ち付けるネトリーナ、そして衛兵を呼びつけてバカ共を纏めて連行させるる王様。

 そしてネトリーナの姿をみて呆然としたまま連行される第一王子。


「ルーテシア嬢、怪我はないか?」


「はい陛下、こちらの御方のお陰で私には傷ひとつありませんわ」


 先ほどネトリーナを取り押さえてくれたウォルフォード様を見る。


「そうか……、ルーテシア嬢を守っていただき感謝する。そなたは確か隣国からの留学生であったな」


「ハ、過分なお言葉、恐縮でございます。私はただ当然のことをしたまでです」


 膝を付いて最敬礼とされる挨拶で返すウォルフォード様。


「ルーテシア嬢には迷惑の掛け通しだな。この程度の事で詫びになるかわからぬが儂の力で出来ることならそなたの望みを叶えさせて欲しい……が、まずはこの場を収めよう。その間に考えておいてくれ」


「……そうさせていただきますわ」


「先ほどルーテシア嬢を守っていただいたそなたにも何か礼をしたいところじゃ、後で招くからその時に教えておくれ」


「ありがたき幸せにございます」

 ウォルフォード様、普段の口調とまるで違いますわね。

 まあ本来これができないとまずいのですけどね。


 こうして陛下が会場を鎮め、パーティーはなんとか進行していったのです。


 それにしても陛下はああ言ってくださるけど、望みね~……、今までずっと王妃になることだけ、それ以外の道は全て閉ざされてきた人生だったからどうしたものかしら。

 とりあえず今後何が必要かとかそう言う所でしょうか……、まず現時点での事を踏まえると……。


 まず婚約破棄されたから家には帰れない。それに例え帰れたとしてもそこにいるのはあの父と継母。

 まともな待遇は期待できないでしょうね。

 それにあの継母の事も考えれば確実に逆恨みしてくるのは確定ですわね。

 そうなるとやっぱり家に帰る選択肢はないわね。

 むしろこちらとは完全に縁を切ってもらったほうが気楽でいいですわ。


 それからもう貴族ではなくなるのですからここはやっぱりお金ですかね? 国外に出るつもりですから馬も一頭欲しいですし……。

 それにしても必要のない教育だと思いましたが野営訓練のお陰で外で野宿するのも苦にならないのは感謝ですわね。


 纏めると家との絶縁。

 そして二度と私に関わらせないようにさせて、後必要なのは、お金と馬……。

 ――それと後はアレにしましょう、今まで私が溜めてた鬱憤を倍にして返してあげましょう。



 この後、少々ごたごたしたものの卒業パーティーは無事終了しました。

 パーティーの最中では正気に戻した方たちの婚約者の方たちからの感謝の言葉をもらったりと色々ございましたが、一番印象が残ったのは戦友たるほかの生徒会役員の皆様でしたね。

 過ぎてしまえばあの忙しい日々も少しは良い思い出になるのでしょうか……。


「それにしてもルーテシア様があの女を思いっきり引っ叩いてくださって漸く溜飲が下がりましたわ」

「本当ですわね。人の婚約者に手を出すなんて信じられませんわよね」

「ルーテシア様が助けてくださらねば、今頃どうなっていたか……」

「ほんと、婚約者をないがしろにしてあの女の色香に騙されるなんてね~」

 彼女たちは宰相子息や伯爵子息達の婚約者。

 生徒会で彼らが働かなくなった際に生徒会業務を手伝ってくださった戦友なのですわ。


「うっ、それ言わないでよ」

「……面目ない」

「でも、助けてくださったことはほんとうに感謝ですよ」

「一歩間違えれば、俺達もあいつらと一緒に連れてかれてたんだよな」

 彼らも正気に戻ってからは、彼女たちと共に生徒会を盛り立ててくださいました。

 ですが負い目があるので、彼女たちには頭が上がらない様子。

 でも、楽しそうにしているみたいなので、助けたかいはありましたわね。


 そしてパーティーも終盤、ダンスパーティーで締めくくる形になりましたわ。


「ルーテシア、俺と一曲踊ってもらえないか?」

「……ウォルフォード様。そのお誘い、お受けいたしますわ

 学生として、そして貴族として最後の記念に」


 こうして卒業パーティーは終わりを告げたのです。

 後残すは彼らの処遇だけですわね。

 王子様、それに愚妹、覚悟しておいてくださいね。





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