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イベント前日


 イベントにはいくつかの注意点があった。


 その一、イベント中、ログイン不可。

 その二、戦闘不能時の自動ログアウト後、再ログイン不可。

 その三、転移陣・神の祝福はイベントクリアまで利用不可。


 その一はちょっと早めにログインすれば良いだけだし、その二は死ななきゃ大丈夫。問題はその三だな。移動手段と一番簡単な強化方法が使えないのはキツい。神殿に行って神の像に触るだけで、その領地の神様から祝福されて一日強化してもらえるから便利なのに……。

 と、文句を言っていてもしょうがない。まずは準備だ。




 これから向かう先はテレプシコラ領。イコール、上級者向けの大陸だ。用心するに越したことはない。


 ギルドで土地柄を調べてみると、テレプシコラ領は芸術と音の領地で、音楽や演劇・ダンスなどが好きなプレイヤーが多いらしい。嬉しいことに、平野部であれば強力なモンスターはでないから、中級者でも比較的過ごしやすいそうだ。

 けれど、やっぱりタレイア領に比べると手に入る素材の種類は少ないと書かれている。これは出来るだけ採集してから行った方が良いな……。予定を考えつつ、私は荷物を用意し始めた。


 まず初めに、部屋の保管庫から大容量のカバンを引っ張り出し、どんどん荷物を詰めていく。休憩する時のモンスター避けや、いざというときのお守り。回復薬に治療薬、用意するものは沢山ある。ちなみに、着替えや食べ物なんかもあった方が良い。汚れたりお腹がすくことはないけれど、現実での生活と同じように過ごすことで身体の違和感が少なくなるからだ。……衣食住って大切だよね。


 確認しながら荷造りをしていると、保管庫の中だけでは足りない物が出てきた。定住とは違うアイテムも必要になるし常備していない物があるからね。足りない物を揃えるために買い物に行ったり、向こうでは手に入らない素材を採りに行ったりして……あっという間に時間は過ぎていった。





「ーー調子に乗って採集し過ぎた!!」


 私は纏めた荷物を抱え、転移の館へ向かって突っ走る。時計を確認すると、強制ログアウトまで残り十分を切っていた。まだ間に合う! 大通りで人を避けながら走っていると、石レンガの大きな建物が見えた。



「ーーっ、ふぅ。すみません! テレプシコラ領行きはどこですか?」


 ゲーム内だけど全力で動くと軽く息切れしてしまう。私は入り口で呼吸を整えて、近くにいた係りの人っぽいお姉さんに聞いた。


「テレプシコラ領ですね。あちらの階段を上がってすぐがテレプシコラ領への転移陣でーー」

「上がってすぐですね。ありがとうございます」


 場所だけ聞いて、私はすぐに階段を上った。残り時間は……二分。ギリギリ間に合った。一番手前にあった転移陣に飛び乗り、私はテレプシコラ領へと転移した。












「ん~。ふぅ…………すっごいギリギリだった」


 伸びをして寝起きの体をほぐす。

 転移先に着いた直後、強制終了された。もう少しでテレプシコラ領へ行けないところだった……危ない危ない。


 目を開けると部屋の中は真っ暗になっていた。のそりとベッドからおりて、手探りで電気を着ける。壁にかかった時計を見るとキッチリ二時間が経っていた。

 七時過ぎか。……お母さん帰ってきてるよね。そっと部屋のドアを開けてリビングを確認する。料理中なのか、キッチンから包丁の音が聞こえてくる。私は部屋に戻って静かにドアを閉めた。



「さて、と」


 お母さんの説得方法をどうするかな。イベントがうまくいけば、別に高専にこだわらなくてもいい。全ては明日のイベント次第だ。


 けれど、その前に。

 今日明日、お母さんと気まずいままは気分が悪い。とりあえず仲直りしておかないと。

 さて、どうしたものかな…………。


 スカウトのイベントについて話してみる? いやいやそんなこと言ったって本気にしないって。悪影響とかでゲーム禁止になりそう……これはナシ。


 とりあえず高専は諦めたって言う? ダメダメ、スカウトされなかった時は絶対に高専に行きたいし。心にもないことは言えないよ。


…………そうだ! まずは面談中に飛び出したことを謝ろう。さすがに飛び出したのは良くなかったなって思ってたしね。あとは、そうだなぁ…………うーん………………頑張って誤魔化そう!

 私は気合いを入れて、ダイニングへと向かった。




 テーブルにはすでに料理がいくつか並んでいた。後はご飯をよそって完成。かな?

 けれど、夕食の前に嫌なことはさっさと終わらせたい。


「あの……お母さん、きょーー」

「千陽。お茶碗運んで頂戴」

「えっ。あ、はい」


 二人分のお茶碗を渡され、ダイニングテーブルに運ぶ。ご飯をよそっていると、お母さんもダイニングに来た。


「いただきます」


 お母さんは、さっと席に着くとすぐ食べ始めた。私もすぐに食べ始める。

 完全にいつも通りの夕食だ。黙々と食事が進む。私は話すタイミングをはかって、切り出した。


「あのねーー」

「あぁ、そうだ。今日はお父さん帰ってくるのが遅いから、食べ終わったらお風呂に入って頂戴」

「……わかった」




 結局、そのあとも話そうとするとかわされて、謝ることもできず、お母さんと進路について話すことはなかった。




お母さん、話を聞かない人ですね(汗)

書いている自分でもそう思います。

どうやら話をかわしたり流したりするスキルが高いようです。


次回から、やっと本編に入ります。

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