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進みたい道は

 衣替えも終わり、涼しさというよりは寒さを感じるようになった中学最後の秋。私は土曜日なのに学校へ来ていた。

 受験に集中するために部活を引退して以来、土日に学校へ来ることはなくなっていたし、人のいない学校は久しぶりでなんだかそわそわしてしまう。


 静かな廊下には二人分の足音が響いて、先生の待つ教室に向かう間、少しずつ緊張で体が硬くなるのを感じた。


 教室に入ると、一番前の席だけ机を四つ合わせたボックス型になっていて黒板側に先生が座っていた。


「どうぞ。」


 先生はゆったりとした声で私たちに着席を促した。

 机を挟んで先生の向い側に二人で座る。


 私と先生、そしてお母さんが揃い、志望校を決めるための三者面談が始まった。




 言い争いの始まりは私の志望校名を言った瞬間だった。

 今まで進路について何も言ってこなかったお母さんがいきなり声を荒げたのだ。


「そんなところには絶対に行かせません!!」

「えっ!?」


 あまりに突然で、私は驚くことしかできなかった。お母さんのピリピリした雰囲気に先生も着いていけていないようで、顔がひきつっている。


 それにしても、『そんなところ』とは心外だ。

 私は自分の夢に向かって最短コースを行きたくて、情報科のある高等専修学校へ進学すると心に決めていた。資料を集めて、何ヵ所も高校を見学して、色んな人に相談して選んだ学校だ。

 お母さんにも進路指導があるたびに報告していたから、私が目指していることは把握していると思っていたのに……。

 とはいえ、保護者の同意なしに受験はできない。


 正直なところ、今になって反対するのは反則じゃない? という気持ちはあるけれど、ここは落ち着いて話を――できそうになかった。


「千陽の成績なら国立の学校でも合格できるのだから、高専なんかに進学するのはもったいないもの。」

「高専なんかってなに!?」


 お母さんの言葉に私はムカッときて、思わず言い返す。

 高専は専門的な知識を学ぶ場所で、どちらかというと高校よりも大学に近い。高校よりも専門的に勉強できるから高専を選んだのに!

 私の苛立ちが伝わったのか、お母さんは更につり上がった目でこちらを見てくる。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。」


 先生の優しく語りかけるような口調でほんの少し空気が柔らいで、お母さんも声をかけられて気が散ったのか、ムッとした顔だけれど、さっきよりも話せそうな雰囲気だ。


「……鴻島さんの成績ですと、確かに国公立でも合格できるでしょう。けれど、進学には生徒の自主性が重要です。嫌々進学した学校では学ぶ意欲がなくなってしまうことが多いのです。ここの学校は、学力が進学校並みに高いですから基礎学力が合わないということもありません。卒業までに沢山の資格を取ることもできますし、希望すれば大学へ編入することも可能ですよ。」


 ナイスフォロー! さすが先生!! 先に相談していて良かった。


 冷静に高專のメリットを話してくれて、少し私に有利な状況になってきた。お母さんは不満そうな顔をしているけど、何かを考えているようにも見える。よし、これに乗って高専の良い所を解ってもらおう。



「お母さん、ここは私が見学に行った中でも一番施設が良いし――」

「ダメ。」


 途中で切られて一瞬止まったけれど、私はアピールを続ける。


「就職率もダントツだし――」

「ダメよ。」


 まったく話を聞く気がないスピードで遮られた。なんで最後まで聞いてくれないかな……さすがにちょっとイライラしてくる。


「私が知りたいことが勉強できる学校なんだよ。それに――」

「ダメなものはダメ、いい加減にしなさい。あなたのためを思って言ってるのよ? 先生もこの子のためを思うなら、普通の進学校へ行くよう指導してください。」



……ラチがあかない。いくら説明しようとしてもお母さんは高校へ行けの一点張りで、その後も聞く耳をもたなかった。私はどうにも変わらない空気に堪えきれず、ガタッと立ち上がった。目が熱くなり、視界が歪む。

 ここに居たくない。お母さんとこれ以上話したくない。


「お母さんのバカ! 聞く気ないならもういいっ!!」

「――鴻島さん!!」



 先生の引き止める声が聞こえたけれど、私はカバンを掴んで勢いよく扉を開け教室から出て行った。












「……はぁ。」


 私は自分の部屋に入り、ため息をついた。学校を出てから色々と寄り道したものの、結局、行く所がなく家に帰るしかなかったのだ。

 カバンを置いて部屋着になり、バタンッ、とベッドに倒れ込む。


 幸い、お母さんはまだ帰ってきていなかった。顔をあわせたらまた喧嘩しそうだったから、私は胸をなでおろした。


「うぅ……なんとかお母さんを丸め込めないかな。」


 高専に行けば、一、二年後には簡単なゲームくらい作れるかもしれない。早く夢を叶えるためには、やっぱりなんとかして高専に行かなければ。

 けれど、どうにも説得するためのいい案は浮かばない。必死に頭を働かせていると、思い出したかのように学校での苛立ちが戻ってきた。胸の辺りがモヤモヤする。



「なんか他に説得できそうな話あったっけ。」


 ゴロンとベッドの上を転がりながら交渉方法を考える。

 ちらりと時計を見ては、もう少ししたらお母さんが帰ってくるのではと気が重たくなってしまう。


「はぁ………………もう五時か。」


 いくら転がっても、いい案は浮かばない。



「――――だあっ、もう! 何にも思い付かない!! ゲームして気分転換しよう!」



 私はベッドの下に置いてあるヘッドギアを手に取った。




初めての投稿なので所々おかしいかもしれませんが、ご容赦ください。

次回はゲーム世界『パンタシア』の説明回です。

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