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夢か現か (タクト)

 さわさわと流れる風が心地良い。けれど、同時に身体をうまく動かせないもどかしさを感じた。体がいうことを聞かなくて、勝手に動いてしまう。

 ぺたん、と地面に座った僕の視界に入ったのは、繊細な樹の模様が入ったテーブルセット。周りにはレースを重ねたような白い花がたくさん咲いていて花畑みたいに見えた。


 ここはどこなのだろう?


 知らない場所のはずなのに見覚えのある気がする…………とても懐かしくて不思議な感覚。


「タクト」


 呼ばれた方を振り向いて、僕はとてとてと歩く。少し離れた木の下に声の主が立っていた。


 誰だろう?


 風で揺れる髪が、射し込んだ木洩れ日でキラキラと輝く。その人はとても綺麗だったーーーーーー。















 目を開けると、僕は不思議な場所にいた。

 夢から覚めたつもりだったけれど、どうやらまだ夢の中みたいだ。


 周りには銀色に光る半透明の壁。側にいた焦げ茶の髪のお姉さんは、黄土色のマントと金属製の胸当てを身に付けて手元には剣を置いている。

 ゲームの中に迷いこんだみたいだ。なんだかちょっとワクワクしてしまう。


 目が合うとお姉さんが話しかけてきたけれど、何の話なのか僕にはわからなかった。


 何かを考えいるようなお姉さんの様子を伺いながら、周りを見渡して自分の意思で体が動かせることを確認する。

 なんだか違和感があるけれど、手を握る感覚は夢とは思えないほどリアルだ。


「あの……ここ、どこですか?」


 ひとまず場所を尋ねてみた。急に話しかけたせいかお姉さんはびっくりした顔をしてから、答えてくれた。

 ここは森の中らしい。確かに壁の向こうに沢山の樹が見える。


 頼りなく笑うお姉さんは、思い出したように話し出した。


「自己紹介してなかったね。私はハル」


 十五、六歳に見えるハルさんは、僕と同じくらいの年らしい。タメ語で話して欲しいと言われた。ちょっと上だと思ったんだけどな。


 僕も自己紹介をしないとーーーーーーあれ?

 名前を言おうとした時、僕はずっとあった違和感の正体に気がついた。


 記憶がない。


 何か覚えていないものかと頭を働かせるけれど、もやがかかったようにぼやけてしまい、思い出せることが一つもないのだ。


『僕』は……誰だ?


 記憶がないと気づいたとたん、僕は不安にのみ込まれた。これは本当に夢なのかな。何も分からないということが怖い。


 そんな驚きと戸惑いのなか、僕の口からは勝手に言葉が飛び出した。


「僕はタクト」


 夢の中で呼ばれた名前だ。それが僕の名前……?


 僕は自分の情況をハルさんに話してみることにした。

 しどろもどろになりながら、思ったことをそのまま伝える。するとハルさんはゆっくりと説明をしてくれる。


「ここはゲームの中なんだよ」


 そんな言葉で始まった説明は信じられないものだった。

 今いるこの世界は『パンタシア』というゲームの中。タイトルは聞いたことがある気はする、でもそんなゲームに覚えはない。

 ゲームみたいだとは思ったけれど、まさか本当思わなかった。


 街にある神殿にいけば、ゲームの運営に問い合わせができるらしい。本当かどうかも確かめられるし、情報収集もできるから、という理由で僕たちは街へ向かうことに決めた。

 危ないモンスターが出てくる前に森を抜けなければいけない。

 ハルさんは僕のステータスを見て少し戸惑っていたけれど、手早く森を抜ける準備を整えた。

 さっと壁をすり抜けるハルさんを追って外に出ると、僕が壁を抜けたとたんに木の葉が舞うように壁が崩れていく。

 どこかに向かうのかな。崩れた壁はみんな同じ方向へ飛んでいった。



 そこからはひたすら森を歩いた。思っていたよりも森は広い。

 頭の上にあった太陽がどんどん傾いていくのに出口は見えない。

 暗くなりはじめてからは、ハルさんに手を引かれてドキドキしながら必死に走った。大きな黒い狼に追われていたのと、ハルさんと手をつないでいること、全力疾走のしんどさ、三つ重なったドキドキは何がなんだかわからなくなっていた。


 やっと出口にたどり着いた時、僕はもう一歩も動けなかった。全力で走った体はとても重くて息も荒い。

 夢じゃないと実感した瞬間だ。夢ならこんなに疲れないよ……。



 少し休憩して動けるようになると、すぐに街へ向かって歩き始めた。

 僕のステータスでは、この辺りのモンスターに攻撃されると一発でゲームオーバーになるらしく、早く安全な場所へ行くためだ。


 森を抜ける時と違い、のんびりとした速度で色々と話をしながら歩く。



「ね、その『ハルさん』っていうの止めない?」


 ハルさんは年上扱いが嫌らしい。タメ語で話して欲しいと言っていたし、今も「さん」付けは止めてほしいと言う。でも呼び捨てにするのはちょっと気が引けるな……。僕、同じ年の子はどう呼んでたっけ。


「えーと、なら、ハルちゃん?」

「うん! ちゃん付けなら呼ばれ慣れてる」


 呼び方を変えると、ハルちゃんは満足気に笑った。



 ハルちゃんはすごくこのゲームが好きみたいだ。レベルを上げるためにダンジョンに潜ってゲームオーバーになったとか、魔法の習得に失敗したといった失敗談もニコニコと笑顔で話している。

 聞いているだけでこっちも楽しくなってしまう。


「ーーでね、私の今回の目標はイベントクリア! クリアできれば夢に近づけそうだから」

「夢?」


 どんな夢なんだろう?


「私好みのゲームを作るために、ゲーム会社に就職したいんだ。イベント参加してクリアしてれば、良いアピールになりそうでしょ?」


 無邪気に夢を語るハルちゃんは目がキラキラしていて、とても可愛いと思った。

 就職へのアピールに、イベントのクリアか……。


「確かに。ならーー」


 僕を運営に連れて行けば、バグを見つけた功労者として、就職活動にプラスになるんじゃないかな。


「ん? ごめん、ちょっと聞こえなかった」

「あっ、何でもないよ」


 ハルちゃんはきょとんとした僕を見た。気づいてないなら知らない方が良いよね。

 少しでも役に立てたらいいな。




「ハルちゃん! ほら、あれ、街じゃないかな」


 僕は先に見える丘の上を指差しながら足を速めた。


ハル視点との書き分け……難しいですね。もっと勉強しないといけません。


次回もタクト視点でお送りします。サルターティオに着いてからの出来事です。

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