解決法
広場を出て数分。
振り回されるように『妖精』に連れられて、ようやく彼女の足が止まった。目的地に到着したらしい。
街の裏門のすぐそばにある石造りの一戸建て。彼女は無造作にドアを開けて、私たちを部屋の中へ放り込んだ。
「その辺に座って少し待ってて」
そう言うと彼女は部屋の奥へと入って行った。
部屋の中はいたってシンプルな家具が並び『妖精』の愛らしいイメージとは程遠い。似合わないなぁ……。そんなことを考えながら、私は近くにあった椅子にそろりと腰かけた。
「……タクト、大丈夫?」
部屋に入ってすぐ、タクトはソファーの上に倒れた。レベル差のせいだろう。今もまだ、息も絶え絶えにぐったりとしている。
しんどそうなタクトの様子を見つつ、私は何でここに連れてこられたのかを考える。試合では触れることも円から出すこともできなかった……報酬ではない。
何か私たちに用があるのかな。
ーーガチャ。
「おまたせ。軽食を用意したから、食べながら話しましょう?」
テーブルの上にはサンドイッチやワッフル、ケーキなどが置かれ、『妖精』がそれぞれのカップにお茶を入れる。
「あの、えーっと……『妖精』さん?」
「ふふっ、それは称号。私はアノン。よろしくね、ハルちゃん」
愛らしく微笑むアノンさん。『妖精』はさすがに名前ではないだろうから、通り名かと思ってた。称号だったんだね。
「運営に聞きたいことがあるのよね?」
「は、はいっ! でも試合は私の負けで、報酬は……」
負けたのに報酬を貰うのは抵抗がある。けれど質問はしたい。二つの気持ちに挟まれて、私は言葉につまってしまった。
そんな私を見て、アノンさんは不敵な笑みを溢した。
「あなたたちが何を聞きたいのか、大体の予想は出来てるの。私が自分の予想を勝手に話すのは、報酬にならないと思うわ」
私は微笑むアノンさんを見つめて固まった。
予想できてる? 何かの不具合の報告だってこととか? それくらいしかわからないんじゃない?
本当にわかるものかと軽い疑いが私の頭によぎった。
そんな私を横目に、アノンさんはスッと立ち上がり、やっと落ち着いてきたタクトの横へ座る。
「聞きたいのは……この子のことでしょう?」
いきなり言いあてられ、私はドキッとした。
その間に、アノンさんはタクトの手を取り「ちょっと見せてもらうわね」と一言ことわってから、メニュースフィアに触れる。
彼女がパキンッと指を鳴らすと、タクトの詳細なステータス画面が全表示になった。沢山の画面が二人を囲む。アノンさんは当たり前のように一つ一つ確認している。
魔法? それとも運営の特権?
人に見せられるメニューは普通なら簡易版だけだ。この人、運営に近いとかじゃなくて運営に携わってるのかも……。
「レベルが一で称号もなし。特殊な状態だけれど、ステータスを見た限り他は問題ないわ」
診察が終わると、ふいにタクトが口を開いた。
「……何で聞きたいことが僕のことだって分かったんですか?」
私もそれが気になった。挑戦したのは私だし、タクトは応援していただけだ。
アノンさんは軽く目線を反らして答えた。
「…………知り合いに似てたから、試合中にチラッとステータスを見たのよ」
あの時か。隙ができたのはタクトの簡易ステータスを遠視していたかららしい。
そんなことをしてる人に勝てなかった私は一体……うん、考えるのは止めておこう。
「まぁ、とりあえず解決法は鍛えること。イベント中で時間もあるし、二人まとめて私が鍛えてあげるわ!」
二人まとめて!?
えっ、私もですか?
『妖精』ことアノンへの弟子入りが確定しました。
次回はここまでのことをタクト目線でお送りします。
そして、ここで少し初めの方を書き直す予定です。
変更点などは書き直した際、活動報告に記載します。