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対戦

 私たちは整理券を手に広場の裏側を通り、受付へ向かった。


 広場にはたくさんの人が集まっていた。分厚い鎧で身を包んだ戦士風のいかついお兄さんや、ぼろぼろのローブを着こんだ魔法使い風のおじさん、軽鎧を装備した盗賊風のお兄さん…………闘技会とはいえ、なんか男の人率高くない? うん、一言で表すなら「むさ苦しい」がピッタリだ。街の雰囲気と真逆過ぎて違和感が大きい。


「「「うおぉおぉぉぉおぉ!!!!」」」


 野太い歓声が響き渡る。アイドルのコンサートのような雰囲気にのまれて、思わず足が止まってしまった。

 ちょうど試合が終わったらしい。中央のステージには倒れ込んだ挑戦者らしい男の人と、もう一人ーー。


「ざんねーん! 惜しかったね。また今度がんばれー!」


 お祭りを盛り上げる様な口調で挑戦者を励ます少女。ふわりと着地する彼女の姿は確かに『妖精』のよう見える。


「さーて、お次の挑戦者さんは何をお望みかしら?」


 愛らしく微笑む彼女に次々とプレイヤーが挑戦しては敗れていく。私たちの順番は刻一刻と近づいていた。


 順番待ちの間に試合を見ていて、私は広場の盛り上がりの理由がよくわかった。


 ステージ上で舞う『妖精』、彼女の魅せ方を解っている戦い方は見事としか言いようがない。

 まぁ実際には戦いというよりスポーツの試合のようなものだな。ほとんどの挑戦者に提示された条件は、制限時間内で『妖精』に一撃加えること。

 全力で向かってくる挑戦者の攻撃を、ヒラリ、ヒラリとまるで踊っているような軽やかさでかわしていく。

 その度に艶のある銀色の髪がふわりと揺れ、大きなルビーレッドの瞳はキラキラしていて、楽しいという気持ちが浮かんで見える。

 同性の私でも、思わず見とれてしまう美しさだ。





「お次の方、ルールなどについて話しますのでこちらにどうぞ」


 私たちは、案内のお兄さんに連れられて、ステージ横の待機場所へ移動した。


「前の試合でご理解いただけたかと思いますがーー」


 ルールは、制限時間内で『妖精』に触れること。これが全ての基本で、望んだ報酬によって難易度が変わってくる。


 展示されている報酬にはレア度の高いアイテムや装備品がズラリと並んでいた。けれど、目玉報酬は違うらしい。


「今回は、妖精様の転移魔法が人気のようです」


 転移魔法! 転移陣が使えない今、そりゃあ人気でしょう!

 ただし、難度は最高レベルで、制限時間五分以内にハンデなしの『妖精』に一撃入れることが条件らしい。


 転移魔法でエイレーネ大陸に移動できれば、タクトを連れて行くことができる。けれど、その考えはすぐに却下した。

 私よりもレベルの高そうなお兄さんたちがあれだけ挑戦して、誰一人成功していない。


………………無理だ。



「報酬はいかがなさいますか?」


 難易度を決めるため、先に望む報酬を伝えなければいけない。


「えーっと……」


 展示されてる物じゃなくてもいいんだよね。


「あの、『今すぐに神々へ質問したい』っていうのは可能ですか?」


 案内のお兄さんは困ったような顔で、答えた。


「今は神々の休日ですから…………難しいでしょう。ですが、妖精様へのご相談でしたら比較的低い難易度で承れます」


 じゃあ、とりあえずそれで。と、私たちの報酬を決めて、ステージへとやってきた。




「次はあなた? 女の子の挑戦者は珍しいわ」


 ふふっと微笑んで報酬を確認する『妖精』。


「ホントにこれでいいの? 他にも報酬はあるけれど?」

「それでお願いします!」


 相談することを報酬にするのも珍しい、と楽しそうに笑いながら、彼女は直径三十センチほどの小さな円を足下に描いた。


「三分以内に私に触れること。もしくはこの円から外に私を出すこと。じゃあ、始めよっか!」



 彼女がニコリとすると、カウントダウンの時計が動き始めた。


 私は体当たりの要領で勢いよく『妖精』にぶつかりにいく。けれど、彼女はふわりとジャンプして私をかわす。


 もちろん、かわされるのは承知の上だ。


 すぐに腕を伸ばして着地する『妖精』に触れようとーー。

 したけれど、彼女は空中で再びジャンプして、私の手を退けた。


 えっ!? 空中戦あり? そんなの難しい過ぎない?



 私が動きながら悩んでいると、客席から大きくタクトの声が聞こえた。



「ハルちゃーん! がんばれー!!」


 タクトが叫んだ瞬間、『妖精』に隙ができた。



 はっとした表情で客席を見た『妖精』は、空中でのジャンプを止めて、私に背を向けたまま落ちてきた。


 今しかない!


 ちょうど死角になっている。私は『妖精』に触れようと大きく手を伸ばした。




 ピーッ!!


 制限時間を知らせる音が野太い歓声と共に鳴り響く。私はその場にぺたりと座り込んだ。


「ハルちゃん!」


 すぐにタクトが客席から駆け寄ってきた。


「……ごめん、ダメだった」


 私は一言溢して、タクトから目を反らす。

 落ちてくる『妖精』に向かって上に伸ばした手はむなしく空を切った。完全に死角からの行動だったけれど、予測していたのか見えていたのか、彼女は着地のタイミングをずらして私の動きをキレイにかわしたのだ。

 あんな動きができる相手に挑戦しても勝てるわけないじゃん。



ーートントン。

 そっと肩を叩かれる。タクトが慰めてくれてるんだ……そう思って振り返ると、目と鼻の先に『妖精』がいた。


「今日の試合はあなたで最後だし、もういいわね。じゃあ、行きましょっ」

「へ……っ?」


 行くって、どこに? そう質問する間もなく、ニコリと微笑む『妖精』に手を掴まれ、引っ張られる。


「えっ、ちょっーー!」


 私とタクトは彼女に連れられて、何も分からないまま広場から出て行った。




今回、自分の課した締め切りにギリギリでした。


次回は話し合いです。

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