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今日から学校と仕事、始まります。①莞

強打者で投手

作者: 孤独

高校生ドラフト。


エースで四番という、華やかで鼻っ柱が強い冠を被った選手はいた。


甲子園に出場したのは1度きり。それも1回戦敗退の経歴。



地花当麻ちはな とうま


ドラフト6位という下位指名であったが、投手として入団することができた。スカウトの評価はプロに通じる強打と強肩の持ち主。サウスポー(左投左打)も評価対象。

最速148キロのストレートとフォークを武器としたエースであった。

とはいえ、地花の投球は荒れ球と言われるほど制球難が目立ち、打球への反応と連携プレイにも荒いところがあった。


「投手で指名か。プロになるからには2桁投手になってやる!」


投手としての意気込みはあった。

だが、意気込みだけではやっていけないのがプロ野球。自分よりも速いストレートを投げ、消えたかと思わせるフォークもあり、自分よりもはるかにコントロールの良い投手を何人も出会ってしまった。高校生が最初からプロに勝てるわけではない。分かってはいたが、力の差に唖然としてしまった。



「おい!テメェ、暴投したらぶっ飛ばすからな!俺のミットとサイン通りに投げろや!ゴラァ!!」



スタメンのマスクを被る河合さんは超怖ぇし。リードというか、脅しばかりしてくる。自分の暴投もかなり数を出してしまった。

投手としての能力はチーム内で一番下であった。何よりコントロールの悪さが高校時代よりも酷くなってしまった。投手としての道は歩めそうにない。プロの壁は厚い。

それから3年。なんとか首にならず、プロ生活は続いていた……二軍であるが。

最近は野手への転向も考え、外野手の練習に参加している。このチームの外野手はレフトが固定されていない。どこでも良いから結果を出さなければクビにされる。

そー思っていたこの年、転機が訪れたのであった。



「地花!今年は秋から一軍だ」

「え?」


2軍でも泣かず飛ばずの投手が突然、一軍昇格。


「4番目の先発として頑張ってくれ!期待しているぞ!」

「は、はい!」


分からない!何が起こった!?俺が先発?どーゆうことだ?というか、河合さんと組むのは嫌だ!脅しが始まる。

ドキドキしながら一軍に合流した地花。オフの時でしか出会えない、スーパーサブ守備職人の旗野上さんや戻ってきてくれた尾波さん。


「おー!地花くんじゃん。一軍おめでとう。怪我した時は世話になったね」

「新藤さん!怪我が治ったんですね!?それに友田も!」

「だりぃーっ。挨拶めんどー。よろしくっすー、地花さーん」

「あ、相変わらずだな。友田……(友田は一昨年のドラフト1位で去年の新人王)」

「挨拶はしっかりしないか!友田!チョップだ!」


チーム内の主力と挨拶をしてきた地花。一軍はレベルが二軍よりも数段高い。特に友田はスイッチヒッターかつ俊足で強打を持つ外野手。打撃が売りのチームの切り込み隊長(一番打者)。後輩だがライバルと思っている1人だ。その他にも、尾波さん、新藤さん、河合さん、嵐出琉さんと、強打者が並んでいるこのチームはリーグ最強打線である。


「おう地花!」

「か、河合さん!」

「暴投したらテメェの責任だからな。しっかりと投げろよ!」


一軍だと河合さんがマスクなんだよなぁ。凄い怖い。いやいや、受けてくれることを光栄に思わなきゃいけない。なにせ河合さんは打点王で本塁打王だ!……あれ?キャッチャー要素が要らないようなメリットを挙げてしまったような。いやいや、捕手で四番を務める強打者なんてそうは居ない。凄いことじゃないか。



そして、秋キャンプから春キャンプの間。しっかりと走りこみ、ブルペンにも入った。実戦形式の練習にも参加した。

しかし、驚いたことがある。4番目の先発投手として期待すると、監督と投手コーチに言われたわけだが。一番練習したことは……


「ティーバッティング?」

「そうだ!」

「俺、投手ですよ?打撃も好きですが……」

「投手だからこそだ」


意味が分からない。投手だから打撃練習に精を出す者なんて聞いた事も、見た事もない。他のみんなはまだブルペンにいるのにどうして俺だけティーバッティング。


「この後はフリーバッティングも控えている」

「打撃投手っすね!」

「いや、打者だ!だいたい、お前は荒れ球だから打撃投手に向かない」

「だからなんで打撃練習ばっかり!?」

「バント練習もあるぞ。地味に楽しいぞ」



地花がキャンプ中に打撃練習をさせられている理由にはチーム事情にあった。しかし、それを本人に言うとやはり”投手失格”という烙印が押される事になる。

打撃のチームとして注目されているわけだが、それは1~5番までの話。6番~9番は確かに打撃力もあるが、前の5人と比べれば見劣りしてしまうものがあった。より打線を強化するため、チーム内で打撃に魅力がある選手を捜している状態。

また、センターとライト、ファースト、セカンド、キャッチャーの五つのポジションにはすでに河合達がおり、それ以外のポジションで強打者となると他のチームを見ても少ないものだ。その中で目に付けたのは



カーーーーーンッ


「おおっ!地花!柵越えだぞ!お前の強打は凄いな!ウチじゃなきゃ、5番は行ける!」

「な、投げさせてください!あと何球ですか!?っていうか、5番!?」


高校時代、エースでありながら強打も注目された地花であった。ゆくゆくは外野手へと転向させるつもりであるが、投手というポジションにいながら打者として活躍できればチームの打線強化に繫がる。しかも、9番なら友田に繫がり、6番なら嵐出琉の後ろを打てる強打者にもなる。打線を考えれば困らない。


外野手レフトは群雄割拠だからな。地花ほどではないが、総合力のある選手はチームに何人もいる。競争しないとな」

「地花は守備に難がありますしね。肩はいいですけど……」

「友田と尾波の守備は酷いからな。それに加え地花も外野だったら、投手はたまったもんじゃない」

「だから、地花を先発投手にですか」

「今年はな。5回まで投げてくれればいい投手だ。打席も2回は回るだろうし。来年は外野かもな」



完成まで間近。

1~9番、切れ目なく長打もある打線。超攻撃特化のチーム。全員100打点打線を作りたいなんて馬鹿げている監督だ。



カーーーーーンッ


「地花は投手とは思えないパンチ力だな。俊足って話もあるぞ。珍しくお前がバッディングゲージからちゃんと人の打撃を見ているしな」

「うっせっすよ。新藤さん。センターは俺っすから。残りの2つでも争ってればいいっす」



生意気でめんどくさがり屋の友田も、少しは警戒している様子だった。内野手である新藤は新たな打者の誕生に、しっかりと期待をしていた。




今シーズンの地花当麻の成績は、

8勝6敗。防御率4.53。100回2/3、登板数22。


打率、.273。本塁打5本。27打点。出塁率.301。盗塁4。






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― 新着の感想 ―
[一言] 野手の成績が良すぎる
2015/01/22 16:29 退会済み
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