佐藤 翔の最後の言葉
まず始めにこの小説を投稿するまでに至った経緯を私、佐藤 友夏が話させてもらいます。
私の息子──佐藤 翔は流行り病に侵されていました。
それまでは何の問題もなく、元気に高校に通っていた息子ですが、半年程前から病魔に蝕まれ、闘病生活を送るようになりました。
早くまた学校に通いたい、と健気に病気と闘ってきた息子でしたが、ここ数日で状態が悪化し……最後は家族や友人、出来る限りの人達に別れを告げながら──先日。眠るように息を引き取りました。
その時、息子は私にある物を渡しました。
ボロボロになった一枚の紙。
その紙は自分が死んだ時に、して欲しい内容が書いてあるものでした。
他でもない息子の、最後の頼み事。
私は紙に書かれた通りに行動しました。
その内容とはこの小説をこのサイトに投稿する事でした。
ある人物に向けての小説、いえ、告白というべきでしょうか。
息子が最後に書いたものには違いありませんでした。
私はこの告白を見て、これを投稿していいものかと悩みました。
書かれている内容があまりにも衝撃的な内容で、こんなサイトに載せていいものではなかったからです。
ですが、載せました。
多分、この告白はすぐに削除される事でしょう。
けれど、息子がそうしたいと願ったのなら、たとえすぐに削除されようとも、載せるべきだと考えたのです。
読む前に皆さんに言っておきます。
ここに書かれている内容はあまり気分の良いものではありません。
なので出来れば、あまり皆さんには読んで欲しくありません。
ですが、一人。
どうしてもこれを読まなくてはならない人がいます。
私はこれを投稿するなり、その人に閲覧するようにメッセージを送りました。
その人に伝える言葉があります。
これを読む前に言っておかなければならない事。
──真実を、息子の思いを知って下さい。
結局、きみは気づく事はなかったね。
知っていたよ。
分かっていたよ。
理解もしていたよ。
きみが、そういう奴だって事くらい昔から知っていたし、分かっていた。
理解だってしていた。
それを言った上で聞いて欲しい。
これは言わなくてはならない事だから。
生きている時じゃなく、ぼくが──死んだ時に。
きみとぼくは互いに一番長くいた友達だ。
親友、と言ってもいい仲だろう。
ぼくはね。
そんな一番の親友だったきみの事が──本当は大嫌いだったんだ。
嫌いだった。
ずっと、ずっと嫌いだった。
妬んでいたし、憎みさえしていた。
とにかく、きみに心良い感情を抱いてなかったと断言する。
誓ってもいい。
何故って?
それが分からないからぼくはきみを嫌いなんだよ。
本当に──本当に何も分かってなかったきみにぼくの心を教えてあげる。
ぼくがきみと出会った日。
あれは確か小学二年生くらいの時だったね。
あの時は違うクラスにいる、友達の友達くらいにしかぼくはきみを認識していなかった。
きみだってそうだっただろう?
だけど、日を重ねるにつれ、ぼくときみは仲が良くなり始めた。
始めは校庭。次は公園。互いの家で遊ぶようになるまでそう時間はかからなかったね。
この時、ぼくはきみの事を親友だと思い始めていたんだよ?
小学四年生になって、ぼくは前々からやりたかった野球をし始めた。
それに続くようにきみは野球をやり始めたね。
平日だけじゃなく、休日の日まで一緒にいる時間が増えてきたぼくときみは互いに何も言わなくても親友だったね。
でも。
小学五年生くらいの時。
きみは気づいてなかったんだろうけど、きみは野球クラブの同級生から嫌われていたんだ。
あの時、きみはぼくばっかりと遊んでいたからそんな事は気にならなかったんだろうけど、きみがぼくの家に来る事を知って、そのまま友達が帰ってしまうくらいにきみは嫌われていたんだよ?
何で?
うん。その時はぼくも分からなかったよ。
だからぼくはきみを嫌ったり、避けたりは絶対にしなかった。
寧ろ、「そんな事言わずに一緒に遊ぼうよ」って庇ってあげたりしてたくらいだ。
それでも──きみは小学校を卒業するくらいまでは皆の嫌われ者だった。
中学生になってもぼくときみは常に一緒にいたね。
ぼくが部活をテニス部に決めると、君もテニス部に入った。
ぼくは小学校と変わらない日々を過ごす事になるんだって思ってた。
中学生になってからきみの能力の高さは目立ち始めたね。
ぼくはテストできみより点数が高かった覚えがなかった。
部活では部員の中心になって皆を率いていたね。
きみは「部長とか仕事が増えるから嫌なんだけど……」とぼくの前では不満気に漏らしていたけど、本当は内心、喜んでいた事をぼくは知っていたよ。
きみは皆のリーダーになりたかったんだ。
きみはプライドが高く、決して弱味を見せないような人だったね。
親友であるぼくにも弱音は吐かなかった。
ぼくはそんなきみが羨ましかった。
まるで優等生の模範のようなきみになりたかった。
妬ましい、とさえ思ったよ。
でも、それとこれは話が別だ。
だってぼくときみは親友なんだから。
そんな事思っても、嫌ったりなんてしない。
しなかったよ。
中学二年生になって、きみはますます目立ったね。
小学生の頃、きみを嫌っていた人達もきみの周りに寄ってきてたよ。
まるで小学生の頃なんて忘れたように。
きみは完全に浮かれていたね。
きみはそんな事はなかったよ、と否定するだろうけど、あの時、きみは間違いなく自分に酔っていたね。
自分はそういう人間なんだって。
だからきみはぼくに強くあたっていたんだろう?
きみはそうだった。
自分が正しいと思えば、相手の意見を聞かずに自分の意見を押し通して。
必ずと言っていい程、数の多い方に味方して弱った相手を馬鹿にしたり。
人の気持ちも知らずに勝手な事を言い出したりもしたね。
自分がやった事が信じられない?
こんな事はしてないって?
きみがぼくにそれを言う?
一番長く、きみのそばにいたぼくにそれを言う?
残念だけど、事実だよ。
少なくても、ぼくはそう思ってる。
ぼくはそんなきみを変えようとした。
きみをだんだん嫌いになっていく自分が嫌だったんだ。
ぼくは自己満足の為にきみを変えようとした。
出来れば自分で気づいて変わって欲しかった。
ぼくはきみに期待をしていた。
けど、無駄だった。
強く何でも出来るきみに、弱くて嫉妬をするようなぼくの言う事を聞くわけがなかったんだ。
その後、ぼくはきみと何度も衝突して、喧嘩ばかりしたね。
口も聞かなくなる時もあったね。
その時、ぼくはようやく理解したんだ。
どうして小学生の頃、きみが嫌われていたか。
きみは元々そういう奴だったんだね。
ぼくより純粋だった皆は気づいていた。
ぼくは気づいてなかった。
気づくのが遅かったんだ。
きみをぼくはよく知らなかったんだ。
ぼくがきみを嫌いになった一番の理由は中学三年生の頃。
友達が不良の一人に絡まれた時、ぼくときみは隣で見ていたね。
もう少しで友達が殴られそうになった時、ぼくは思わず前に飛び出した。
その時は先生が来て、何とかなったけれどもう少しで確実にぼくか友達が殴られていた。
きみは見ていただけだった。
そうしてぼくときみが友達に駆け寄ると、きみは開口一番に友達に向かって「もし、殴られてたら先生を呼んでいたよ」なんて言っていたね。
よくもそんな台詞がしゃあしゃあと言えたものだね。
きみは逃げるつもりだったんだ。
友達が目の前で殴られていても気にしないって言うんだ。
確かに先生を呼ぶのはいい事だ。
悪い事じゃないし、友達を助ける行動に繋がってる。
だけど、それは友達を見捨てるのと同じ事なんだよ。
ぼくにはそれがどうしても許せなかった。
能力があって強い人なのに、どうして強い相手に立ち向かわないんだ。
どうして弱い人しか相手にしないんだ。
どうしてきみは友達を見捨てる事が出来るんだ。
きみは、優等生だ。
世間で言う、エリートの道を進んで、出世して、勝ち組に入るような素晴らしい人物。
そんなきみを、ぼくは心から嫌悪するし、憎たらしいと思い、大嫌いだと言える。
妬ましいとも思ってる。
ぼくはきみのようになりたいと思ってたから。
ぼくは結局、きみを変える事が出来なかったので、ぼくはぼく自身を変えた。
そうしないと、もうきみと普通に接する事が出来ないと思ったから。
……実は今でも、ぼくはきみに期待している。
こうして、ぼくが死んだ時、きみにはこの事実を知って変わって欲しかったから。
他でもないぼくの親友に。
出来ればぼくが生きている時にこれは伝えるべきだったんだけど……でも、きみはこうでもしないとぼくの言葉を聞いてくれなかっただろう?
ぼくはきみが変わって、自分を見直してくれる時を待っていた。
そうすれば、ぼくときみはようやく対等の関係になれるんじゃないかと思ってる。
きみは明らかにぼくを下に見ていたから……そういう所も変わって欲しかったんだ。
ぼくはもうきみに会う事はない。
変わったきみと会う事もなく、この世からぼくはいなくなるだろう。
さよなら。
今までありがとう。
p.s
お母さん。
この小説を投稿してくれてありがとう。
おかげでぼくは安心して眠れます。