第4話
街道沿いをひたすら進み、日が落ち始める。スラストップ村から南に伸びるこの道は、開拓中の事もあり、余り人通りが多くない。そろそろ野宿の準備をしようか迷っていた頃、ようやく街の灯かりが見えてきた。
夜になると、魔物や魔獣は凶暴さが増す。
魔に属する生物は赤い目をしている。日が落ち、暗くなるとそれが赤く黒く輝きだす。この状態の魔物は筋力、嗅覚、聴覚等全ての能力が向上しており、日中と比べ一段と強くなる。その為、基本的に夜間行動する者は少ない。
野営や野宿をする場合は、見張りを立て、常に魔物に備えていなければならない為、整備された街道沿いには一日おきに宿泊できるよう「宿場街」がある。それぞれの街は高い塀を持つか、崖や岩山など自然の要擁壁に囲まれており、簡単に魔物は進入出来ないようになっている。
いまだに日中のみが、人間の時間なのだ。
「くそっ、街まであと少しなのに!」
悪態をつきながらも歩を進める。コウキは先ほどから後方をついてくる魔物の気配に気づいていた。
遠吠えが聞こえたことから狼系の魔物だろう。群れが集まれば襲い掛かってくるのは間違いない。今ここで戦うべきか迷ったが、まず村が襲われた事を伝えるのが先決だ。一気に走り抜ける事にする。
魔物は追跡を止めなかったが、サキの「重量軽減」と「高速移動」魔法のお陰で無事に宿場街まで着く事が出来た。
頭から血をつけて息も絶えんばかりな子供の姿に驚いたのだろう。門番がかけよってきた。
「お、おい!大丈夫か?」
「スラストップ村が、襲われた。猿邪鬼と巨鬼(オ-ガ)に。」
コウキはゼイゼイと肩で息をしながらもそれだけ伝えると、安堵から崩れ落ちてしまった。
「おい!しっかりしろ!」
衛兵の詰め所で休みながら、詳しい事情を説明する。警備隊の隊員は顔色を変えると、スラストップ村の魔物退治や近隣の村々への伝達を指示していった。
「お疲れ様。大変な一日だったね。私はこの町の警備隊長だ。スラストップ村の近くには魔獣に変わった動物しか生息していなかったはずなんだが…。」
「…俺も今まで村で生活してきましたが、あんな魔物は初めて見ました。」
「君の話通りなら、奴等は街道を南下してこの街まで来るかもしれない。教えてくれて本当にありがとう。」
「いえ、俺は…ただ逃げるだけで精一杯だったんです。」
非力な自分に対する悔しさを噛み締めて言葉を出す。
「それでも、大事な事だよ。…お腹、空いてるだろ?とりあえず出来ることはやった。警備隊のよく使う宿があるから、今日はそこでまずゆっくり休みなさい。」
そういわれて初めて空腹感に気づく。緊張と怒りで感じていなかったが、朝から走りっぱなしだったのだ。当然だろう。
近くにいた警備隊員に宿までの案内を頼むと、彼は仕事に戻っていった。
案内されるがまま、宿に着く。金銭を全て置いてきてしまった為心配したが、警備隊で支払ってくれるという。隊員に感謝を伝えて食事をとり、宿の者が持ってきたタオルで身体を清めると、猛烈な睡魔が襲ってきた。コウキは文字通り泥のように眠った。
目覚めたのは昼も近くだった。昨日の疲れが相当溜まっていたのだろう。そういえば何が入っているかまだ見てないなと思い、昨日床に放り投げたままだった背嚢を見る。中身は大きめの魔石が3個、皮袋の水筒、下着、包帯、裁縫道具、薬、塩、ロープ、ランタン、そして西の黄国の叔父宛ての手紙だ。魔石があった事で少し安心できた。これを売れば少しは路銀になる。荷物をまとめ、警備隊の詰め所に向かった。
詰め所に着くと、警備隊長から説明を受ける。今日の未明から偵察の早馬をスラストップ村に出した結果、街道沿いの魔物は発見出来ず。村は壊滅状態で、魔物の巣窟と化しているという。
「白国軍に掃討要請と、冒険者ギルドに討伐依頼を出した。遅からず、村の魔物は退治されるだろう。君はこれからどうやって生活していくんだい?」
「両親から西の黄国に叔父がいると聞いています。叔父宛ての手紙もありますし、まずは彼を尋ねてみようと思います。」
「…そうか。ここは白国管轄の宿場街だ。まずギルドで身分証明証を作るといい。気をつけてな。頑張れよ。」
子供一人での旅と、これからの苦難を警備隊長は察したのだろう。言葉少なくも励ましの言葉をかけてくれた。
「有難うございます。お世話になりました。」
お礼を言い、詰め所を後にする。
ーギルドとは、当初は生産職の親方衆の寄り合いのようなものだった。しかし、情報交換や徒弟制度と雇用の重要視をした国がバックアップをする形で規模を拡大。商業ギルドは冒険者、農業、工業、商業部門等に分かれていたが、冒険者への依頼、傭兵や騎士見習い、治安維持、魔物退治からアルバイト等多種多様な業務を抱えていた冒険者部門は、商業ギルドから独立する形で冒険者ギルドとして産声を上げた。
冒険者ギルドと、商業ギルドの2つの支部は各街に設置されており、コウキのような田舎で農業ばかりやっていた者には無縁だが、街に住む者はたいていどちらかに属している。
街の風景を眺めながらギルドに向かって歩き出す。警備隊長曰く街の中心部にある大きくて目立つ建物だからすぐわかるそうだ。
まずは身分証明証を作って旅の準備だな…
-魔石
鉱物であり、魔物の核でもある。「ダンジョン」と呼ばれる地域で魔物を倒すことで入手可能。白国・赤国の鉱山でも入手可能だが、魔石が入手出来る鉱山には魔物が通常より多く生息する為、現在廃坑になっており、鉱山も広義で「ダンジョン」と呼ばれている。
魔石には魔法及び魔力を込めたり出したりする事が出来る。放って置くと込められた魔法は使えなくなる。魔石から魔法が使用出来る期間は込められた魔力に比例する。魔石の大きさ=入力可能な魔力の大きさである。倒した魔物が強い魔物であればあるほど、大きい魔石を残す。発動のイメージを魔石に発するか、魔石を大きく砕くと魔石に込められた魔法を発動する事が出来る。欠けた程度だと破片の大きさ分に応じて、込められた魔力が減少するだけである。こなごなになった魔石にも、魔力を込める事は可能であるが、込める事のできる魔力量は当然減少する。