第3話
シリアス展開。
フッ!ハッ!フッ!ハッ!フッ!
呼吸は乱れ、心臓の鼓動ははちきれんばかりだ。
腕も足も重く、背嚢が背負った肩に容赦なく食い込んでくる。
「コウキ、頑張って。早く村を離れなきゃ。」
「姉ちゃん。父ちゃんと母ちゃん大丈夫かなあ?」
「心配しないで?父ちゃんも母ちゃんも強いし、大丈夫だよ。」
そう答えるものの、姉の顔には不安と焦燥感があった。
村に襲い掛かってきた魔物は、猿邪鬼だけで50匹以上。それに巨鬼まで襲撃してきたということは村は壊滅しているだろう。
逃げ出せただけでも奇跡に近い。おそらく両親は…
そう考えたときだった。
「ゲギャギャギャギャ!」
「!?」
猿邪鬼の群れだ。
村を蹂躙しつくしたのか、新たな食い物を求めてか。
先頭の一匹が姉を見てニタリと笑い、奇声を発する。
「ギギャーッ、ギギャーッ!」
それを見た姉は唇を噛みしめると、俺に向かって杖を向けた。
「風の神よ。彼の者に疾く駆ける力を!野を駆ける獣の如き速さを!高速移動呪文!」
「大地の神よ。彼の者を繋ぎ止める力を緩めたまえ!重量軽減呪文!」
姉の魔法によって全身から風が巻き上がり、一気に身体が軽くなった。
「サキ姉ちゃん!?」
姉の顔は蒼白といってもいい。
ここまで走ってきた事による肉体的疲労、そして連続で魔法を行使した結果、MPを一気に消耗したためであろう。
「行ってコウキ!強く…生きるのよ!」
振り返らず姉が、猿邪鬼の群れに対して叫ぶ
「さあ私が相手よ!この低脳猿!父と母の名にかけて、ここは絶対に通さない!」
「火の神よ!魔物を焼き払う力を!灰燼に帰せ!中級火炎呪文!」
「グギャーッ!グギャーッ!」
猿邪鬼が5、6匹炎の海に飲まれ焼け死んでいく。
しかしまだ群れの残りはこちらを見ながら眼を赤く爛々と光らせている。
「姉ちゃん!」
「早く行きなさい!」
姉の声に押されるようにして、走り出した。
もつれる足、何も考えず山間の街道をただひたすら走る。
幸運にも数日前に業者が荷馬車で通った跡が残っていた。これを辿れば街に着けるだろう。
山の中腹まで来た。後ろを振り返ると、村から黒煙が立ち上っていた。
姉が戦っている森から閃光が走る。強大な魔力を使用した結果だ。
一瞬遅れて轟音と地響きが響く。
思わず閉じた目を開くと、そこには何も残っていなかった。森の中心の地面がえぐれ、クレーター状になっている。
「ウッ…ウオオオオオオオォォォ!」
父も、母も、姉も、村も、楽しかった生活も。
全てを失ってしまった。
「畜生!畜生!魔物め!絶対に…絶対に許さない。」
涙はとめどなく溢れ、握り締めた拳から血が滲む。
「決めた。俺、本気で魔王倒すよ。」
奥歯を噛み締め、暗く沈んだ瞳に、憎悪をたぎらせながら誓う。
「いますぐには無理だ。でもいつか、必ず。必ず倒してやるッ。」
-土魔法
土の神に帰属する魔法。石や土を変化させたり、草木を操る事に加え、重力を変化させる事が出来る。高位の魔法使いは空から岩を降らせた事もある。
-風魔法
風の神に帰属する魔法。真空の刃を作り出したり、突風を起こしたり、身体に風を纏わせ高速で動かす事が出来る。高位の魔法使いは竜巻を発現した事もある。