不幸だった私と分かっていないダンナサマ
ダンナサマにきょとんとした顔をされました。
いやいやいや。
——『幸福な家族の振り』って何だっ!?
そもそも、アナタ幸せじゃないのっ?!
いちおうっ!
いまっ!
結婚式直前ですっ!!!!
……ほんとに何で私だったの……?
あ、目合った。
「……アリアだけは、私を疎まなかったから。上手く共同生活を送れると思った」
何その理由っ?!
——とか言いたかったけど。
お、思わず納得してシマイマシタ。
ダンナサマ、御姉様方に全力で拒否されてたものね……。
まあ、ウチのダンナサマは目の隈おっきいし、陰気だし、おしゃべりでもないし、なんだか近寄りがたいし、(噂だけど)ヤバイ犯罪者の首をフツーにへし折るし、(噂だけど)コワーイ神域の魔物を真っ二つにするから、御姉様方の気持ちも分からなくはない。
でも、ダンナサマは、お金持ちだし、こっちが滅多なことをしない限りは人畜無害な御仁なんだよね。
それに、大事なことは黙っているけど、嘘はつかないし。
嘘をつかないのは、私的に大事な部分だ。
騙されるのは、何度目でも気分が良くない。
……あと、的外れ気味だけど、気遣いしようと努力しているところは、ダンナサマの良いところに入れてもいいのかな……?
うん、アイショウにめんじて認めてあげようカシラ?
御姉様方は全力拒否してたけど、私、よく考えたら別にダンナサマ嫌いじゃないし。
……あれ?
……もしかして、私、男の趣味わるい……?
「……私の血筋は、他人を愛さない方がいいらしい。……近づくものに滅びを撒き散らす、……そう言う、星回りだと聞いた」
なにそれこわい。ケッコンしたら、私どうなるよっ?!
内心ちょっと引いたが、ただ今ダンナサマによる抱っこのため、体は密着中です。
——淡々と語るダンナサマの瞳に浮かんでいるものは、私にはよくわからないものだった。
「……他の者達もそれを薄々感じ取るようだ。だから、私達は他者にとって忌まわしい存在でしかない。……私の血筋が、続いてこられたのは、我が君の血筋があったからだろうな。もとより、『騎士』は『王』に仕えるものだから」
こつんと、ダンナサマの額が、私のおでこに優しくあたる。
「己に仇なす存在を、拒絶するのは当たり前のことだ。
……アリアは、初めから私を恐れて疎んじなかった。
だから、私はアリアには破滅を呼ばないと、分かった」
いや、別にダンナサマは誰も不幸、——にしたかもしれないね先の王妃様を。
たしか、前の王様が死んですぐに、後追い自殺したそうだから……。
——でも、ダンナサマは考えすぎだと思うな~。
いろんな人たちに引かれまくりだけど、ダンナサマは人助けもしてたでしょ。
盗賊やっつけたり、魔物をやっつけたりで。
ダンナサマにとっての一番は陛下だけど、私も、助けてくれたよ。
あの時、別に私を見捨てたって、ダンナサマは大して困らなかったでしょ?
それに、いつも私が食べたがっていたものを買ってきてくれて、怪我したときには手当をしてくれて。
嬉しかったんだ。
あ、ダンナサマ、眉間にちょっとしわが寄ってます。
——分かってないんだなぁ~。絶対。
……一生一番にしてくれないのが悔しいから、ダンナサマに優しく教えてあげる気なんてないけどね。
——仕方ないなぁ。
結婚式前だから、ほっぺにチューで我慢してね、ダンナサマ。
おお、びっくりしてるよ。ダンナサマの目の大きさが、普段の倍になってる。
なんだか、してやったりって感じ。
たった一輪だけだけど、貴方が花をくれるのは私だけだから、それでジョーホしてあげましょう。
「——仲良くしているのは、結構なんだが……」
はい?
あ、陛下のヨレ具合がいつもの五割増しだ!
って、——
「部屋に入れないと泣きつかれる方の身にもなってくれ……」
………………
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!
よく考えたら、いちゃいちゃバカップル状態じゃないですかこの体勢!!!
ああああああ、ダンナサマのほっぺたに、口紅が付いてるぅ!!!!!!
ち、ちがっ、違うのにぃっ!!!!
何この羞恥プレイっ!!!!!
え?この状況から結婚式はじめるの?
っていうか、ダンナサマ、お姫さま抱っこはホントやめてっ!
は、恥ずかしすぎて、これから外に出られなくなるってばっ!!!!