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彼女が見ていない彼らの話 『賢王の終わりと、中継ぎ王の始まり』

*シリアス回。R15の残虐描写があるため、苦手な方は注意!

 それでも、生きろ、と。

 

 ああ、あなたはなんと残酷な。

 

 微笑みながら、一体、何を切り捨てるのですか?

 

  ***

 

 ——すべてが終わった後、雲一つない空の下には、荒涼とした大地が広がっていた。

 

 笑って。

 笑って。

 笑って。

 

 楽しげに。

 哀しげに。

 この上なく、幸福そうに。

 

 笑って。

 笑って。

 泣いて、いた。

 

「——見るな」

 主君の手が、視界を覆う。

 けれど、女の残像は脳裏に焼き付いたままだ。

 

 愛する男の首を持ち。

 幸せそうに、死した者と口付けを交わす。

 頬を濡らして。

 それでも。

 

 これで、じぶんだけのものだと、わらう。

 

 気が付けば、女の——母の笑い声は止んでいた。

 

「——駄目ですよ、マリさん」

 

 直前までの狂笑とのあまりの落差に、思わずぞっとするほど、穏やかな声であった。

 

「昔から、貴方はその子を甘やかしてばかりですね」

 そう言って、くすりとわらう声。

「……ただの、自己満足ですよ」

 溜息交じりの主君の声が、虚ろに響く。

「マリさんの偽善者ぶりは、嫌いではありませんでしたよ。——偽善をばら()く先をしっかり決めているところが、我が君そっくりで」

 穏やかな声は、幸せな夢を見ているかのように、またわらって。

 

 両目を(ふさ)いでいた主君の掌が、ゆっくりと離れていった。

 

 両腕に(かつ)ての王の頭を抱きしめ、女は(たたず)んでいる。

 鮮やかな青空に焼き付いた染みのように、赤銅色の波打つ髪がふわりとなびく。

 血と涙に濡れた唇に、幸せそうな笑みが刻まれていた。

 

「——すみません——」

 

「これが、予定調和だったのでしょう?」

 

 剣の似合わぬ手が、鞘から刃を引き抜く。

 よく切れそうな剣を見ても、女の笑みは揺るがなかった。

 

「——ああ、でも——」

 

 

 

「どうして、貴方ではなかったのかしら。『殺戮(さつりく)覇王(はおう)』よ」

 

 

 

 一閃。

 

 

 

「自分でも、そう思いますよ」

 

 

 

 そして、てんと、母の首は地面に転がる。

 冗談のように遠くに転がった首は、それでも、光を失った瞳で愛した男の残骸を見据えていた。

 

 幸せそうな笑みを、口元に刻んで。

 

  ◆◆◆

 

 さつりくのはおう、さまよって。

 うつろのきし、おっこちた。

 

 さつりくのはおう、さがしてさがして。

 うつろのきし、うつろううつろう。

 

 さつりくのはおう、ころしてころして。

 あとには、したいがころがるばかり。

 

 うつろのきし、きりきざんできりきざんで。

 あとには、なにものこらない。

 

 さつりくのはおう、たどりつき。

 うつろのきし、めぐりあう。

 

 さつりくのはおう、てくてくあるき。

 うつろのきし、あとにつづく。

 

 さつりくのはおう、ころしてころして。

 あとには、したいがころがるばかり。

 

 うつろのきし、きりきざんできりきざんで。

 あとには、なにものこらない。

 

 のこらない。

 のこらない。

 のこらない。



  ——ウェールズ大森林の周辺地域に伝わるわらべ歌


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