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不幸な私

 世間一般的な基準に照らし合わせると、私は不幸な人間に分類されている。


 ——自分で言っていて悲しくなるなっ!


 ……ああ。

 自分を憐れむなんてくだらない。とか。

 自分の不幸に溺れてどうする。とか。

 そんな事を言う方は、力一杯殴らせて下さい。

 もれなく私がスッキリします。

 誰も私を憐れんでくれないから、自分で自分を憐れむしかないのです。

 ワー、ワタシカワイソー。

 ……まったく、一方的な言葉だけで幸せになれたら世話無いですとも、ええ。


 ***


 私の実家は、そこそこ裕福な家だった。

 何しろ、大きな屋敷を持ち、おまけに使用人を雇う余裕があったのだ。

 そこだけは幸運だったと思っている。

 残念だったのは、私はそこで幸運の(ほとん)どを使い果たしてしまったようだということだ。

 私が生まれたのは、三姉妹の二番目。つまりは次女。——長子でも、末っ子でもない、中途半端な位置だった。

 二つ上の姉は生まれつき病弱。手のかかる子の方が可愛いらしく、健康優良児の私は放置。すぐに熱を出す姉と違い、放ったところで特に問題はなかったから。おいおい。

 四つ下の妹はまさに天使。金髪碧眼の上に、それなりに美形な両親の良いとこ取りをした美少女。妹の容姿が特上なら、私の容姿は頑張っても中の上。構うのだったら、凡顔よりも美少女の方が良いらしい。けっ。——一応、私の栗色の髪は母方の祖父譲り、ハシバミ色の瞳は父方の祖母譲りらしかった。


 そして、十五歳で娼館に売り飛ばされました。


 ——はい、いろいろ省きました。

 元々の原因は戦争です。

 何でも、隣の大陸で『聖王』とかいう人が、神の教えの押し売りを始めたことが切欠らしい。私の国ではどんな神様を信じても個人の自由で済むけれど、『聖王』の場合、異教徒は皆殺しの方針だったそうだ。こわっ。

 さらに言えば、私の国は百年くらい前にいた『残虐(ざんぎゃく)(おう)』のせいで、『聖王』側の神様を信じている代表な集団との仲が最悪だったらしい。だから、問答無用の敵認定だったんだって。

 ここら辺は全部娼館の御姉様方やお客様方の受け売りだ。

 娼館に売り飛ばされて初めて、自分が如何(いか)に何も教えられてこなかったか、身に染みてわかったよ!

 ほんっとうに、私って全面的に放置状態だったらしい。よく妹と比較されて馬鹿にされたが、教えられていないことができるなんてどこの超人だっ!

 閑話休題。

 その戦争のせいで、私の実家は困窮(こんきゅう)してしまったようだ。

 服は姉の御下がり、食事は余りものだったせいで、私はいまいち実感できなかったが、娘に身売りさせるなら相当だったろう。私の国は奴隷を認めていないので、そういう相手の需要は高いし、娼婦の地位も法律などで守られている。ただ、公的に認められた職業であっても、一度娼婦になってしまえば、そこから抜け出すのは簡単ではない。何を考えていても他人に害を与えない限り個人の自由で済まされるところが、良くも悪くもこの国の特徴らしい。しかしながら、それでもというか、やはりというか、この国にも差別というのは存在する。そのせいで、色眼鏡で見られやすい娼婦の肩書きというのは、なかなかに厄介なのである。

 ……これも後から知ったことだけど、本当は、娼婦になることを強要するのは犯罪なんだよね……。

 さて、娘を売るしか手がない。

 姉は病弱で、とても娼婦は務まらない。

 妹は可愛く、出来れば手放したくはない。

 で、放置状態の私に白羽の矢が立ったわけだ。

 放置しておいて何様とか、そんなことを考えられたのは、娼館に売り飛ばされてからだいぶ経った頃。

 私が両親に感謝するべきことは、生かしてくれたことぐらいなのだ。


 ちなみに、娼館で心機一転できたかといえば、そういうわけでもなかった。

 まあ、何にもできない役立たずに、世間の目というのはキビシかったのだ。

『聖王』と私の国の王様が死んで、戦争が終わっても、ウチの娼館の面々に心の余裕が戻らなったらしい。

 ……もう、さんっざん怒られたなぁ。

 娼婦に大事なのは、技術の他に顔・(からだ)・知性。

 軒並み全滅だった私に回ってきたのは、所謂(いわゆる)訳アリのお客様方だった。

 話し相手を欲しがっているおじーちゃんが、一番ましでした。

 えんえんえんえんえんえん繰り返されるお話に、頑張って(あい)(づち)()つだけで良かったもの。

 最低だったのは、変態仮面だ。

 いつも仮面で顔を隠した如何にもな、加虐趣味者。相手をする度に生傷が増えるのってどうよ!

 ただでさえ低い私の価値が下がるのだ。すなわち、私のなけなしのお手当も下がることになる。金払いはとてもとてもよかったものの、娼館の客としては下の下の下だと御姉様方も言っていた。

 いつの間にやら困ったチャン押し付け係に任命されていた私だったから、最悪の客に出会う羽目になったかもしれない。


 ——その男を、一言で言い表すと、目の(くま)男。

 割と特徴的な瞳と髪の赤銅色よりも、両目の下にあるでっかい隈が人目を引く人間だ。

 一応王様から信頼されてて、地位のある人物の筈なのに、花街の御姉様方からは振られまくっていた。娼婦にだってお客様を選ぶ自由はあるのだ。私はお客様を選ぶ余裕がなかったけどね。

 この男、今の王様の第一の忠臣って言われている割には、覇気というものが全くなくて、目も死んだ魚の様である。

 昏くて口もあまり開かないからか御姉様方にドン引きされたせいで、私が目の隈男を押し付けられてしまったのである。

 まあ、とにかく陰気な奴だけれど、か、体の相性は、わるく、なかったデスよ。今まで相手をしてきたお客様の中では、一番優しくしてくれたし。

 御姉様方のおっしゃっていた天国の意味が、はじめて分かりマシタ。

 毎日やってくるようになった目の隈男に、ちょっぴり優越感を覚えたのは、ほんの二、三日だけ。

 ——この男、厄介ごとを山ほど抱えていたのだ……。


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