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騎士団の詰め所


 建物の中はそれなりに広く、最初に私の目に付いたのは、騎士団のシンボルマークが大きく織られたタペストリーだった。


 入り口から見て一番奥の正面の壁にかけられているんだから、そりゃ嫌でも目にはいってしまう。


 どうやら中は、部屋の中央が吹き抜けになっているようだった。


 吹き抜けの中心には、長テーブルと長イスが大きな四角いドーナッツでも置いたように円を作って置かれている。


 こんなに目立つ騎士団のタペストリーがあるくらいだから、この建物は騎士団の詰め所か休憩所といったところか。


 天井には豪華とはいえないが、しっかりしたこの石レンガに似合うシャンデリアが吊るされ、壁の両脇には部屋の扉が並んでいるのが見て取れる。


 それにしても、花どころか花瓶のひとつもないとは、なんて飾り気のないところだろうと思って室内を見回していれば、丁度どこかの部屋から出てきた金色に近い茶髪の男性が、こちらに気がつき近づいてくるところで、私の視線も自然とそちらに止まった。


 私がじっと見ていたせいなのか、男性も私のほうを向いていて、私と目が合うと、にっこりと笑みを顔に浮かべてみせる。


「やぁご苦労さん。あとはこっちで引き継ぐから」


 男性はそう言うと爽やかに笑い、髪よりいくぶん濃い茶色の瞳を細めて、あっという間に兵士二人をこの部屋から立ち去らせた。


 私も兵士二人を見送って、さてどうしたものか。と悩んでしまうけど、今しがた現れた男性が引き継ぐと言っていたから、この後のことは彼に聞けばいいのかな? そう思い、私は男性へと顔を向ける。


 が、顔を男性に向けたとたん、私の視界いっぱいに男性の顔あって、私の目を覗き込むようにじっと見つめていることに、私は驚きのあまり仰け反るように後ずさってしまった。


 だって兵士二人が居たときは、確かに一メートル以上は距離があったと思うのに、予想外もはなはだしい距離、たぶん十センチほどしか間がないほどの距離で、他人の顔があるんだもん。普通に驚くでしょ?


 いや本当に。あまりにも驚いて、吐こうとした息を吸い込んでしまったじゃないか。


 驚きで両目を見開いてしまう私に対して。


「ふーん。なるほどねぇ」


 男性はなにやら感心したような声を出し、やはり人のよさそうな顔で笑みを作る。


 歳は私とそんなに変わらない感じで、最近町で流行っているデザインの細身のズボンに、ゆるく前のボタンを胸元まで開けた白いシャツを着ている。


 色っぽいと言えば、男性の持つ色気のようなものもあるとは思うけど。


 彼が動くたび、彼の肩下まである長い髪が揺れて、茶色の目には好奇心と、なにやら期待に満ちた光りが見て取れるせいなのか、彼の男性的魅力うんぬんよりも、失礼すぎる距離に不快感が沸いてしまう。


 だって近すぎるのもそうだけど、じろじろと人を凝視するのも失礼でしょ。


「あの。近い……」


 そう思って、男性の不躾な態度に私は少々訝しげな態度を見せ声をかけてみれば、男性は「ああっ!」とうなづいて、今度は体制を直すように真っ直ぐ立ち、やっと私の顔から離れてくれた。


「ごめんごめんっ。だって、あの堅物が眉間のしわを五割り増しにしながら、怪しい女が~とか言うからさ。どんな妖艶美女かと思ったけど――」


 そう言って笑う男性に、私はちょっとだけカチンときた。


 そういう理由で人の顔十センチの距離で凝視してたのか。


 と言うか、それが失礼な態度のいいわけになるとでも? むしろ悪かったですねぇ。妖艶なお色気美女じゃなくて。自分でも分かってるわよそんなことっ。


 つい二年ほど前まで剣持って怪物退治してたような女ですからねっ!


 だからと言って、会ってはじめての他人に、美女じゃないなんて否定される言われもないわよっ!


 なんかムカつく。こいつ。もう無視だ。こんなやつは無視してやるっ!


 私はそう決めて、男性から勢いよく顔を背けた。


「ってあれ? 怒っちゃった? いや、違うからねっ。想像と違って、君って可愛いなぁ~って、そう思ったんだよっ。マジでっ」


 私が怒ってそっぽを向いたことで、男性にも伝わったのか、慌てたような様子で弁解しているが。


「今さらそんなフォローされても遅いです」


 取ってつけたように『可愛い』なんていわれて、喜ぶ女の子はいないのよっ!


「いや、本当だってっ! すっごい可愛いのに、大の男二人もやっつけちゃったんだろ? だから驚いてるんだって。悩殺美人が色気でノックアウト。なんて冗談話が飛び交うぐらいなんだぜ?」


(それ、フォローしてるつもりなのか?)


 じっとりと目の前の男を胡散臭げに見つめ、なんだかいまいち彼が謝っているようには感じないが、このままでは結局埒が明かない。と、私もひとまず怒るのはやめておいてあげることにした。


 とりあえず、完全に否定的な言葉を吐かれたわけじゃない――のかな?


「まあいいですけど。べつに。それより、私って多分ベルモットさんに呼び出されたと思うんですけど……どうすればいいんでしょうか?」


 とにかく本題はそっちだ。


 呼び出しに応じてここに来たのはいいけど、出迎えてくれたのは目の前の男性で、私を呼び出したであろう張本人のベルモットさんがここに居ないんじゃ、私はどうしたらいいのか分からないじゃない。


 帰っちゃ不味いのだけは分かるけど。


 私はまたクルリと室内を見回してから、やっぱり目的の人物が見当たらず、というかここには私の目の前に居る男性しか居ないし、仕方なく私はまた目の前の男性へと顔を戻した。


「あいつ? ああ、いいよあの堅物のことはどうでも。それよりさ、名前教えてよ」


 私がひとまず機嫌を直したとわかると、男性はすぐさま笑顔でそういった。


「はい?」


「俺は、デイビット=ファリアーニ=ケロン。十九歳。騎士団の期待の星! この若さで第二部隊の隊長なんてしちゃってる。イケメンです!」


 ケロンさんはそう言うと、笑顔でウインクしてみせる。


 けど、私は自分で期待の星とか、イケメンとか言う人をはじめて見て、ちょっとびっくりだわ。


 いや、まあ。ケロンさんは、確かに爽やかな好青年って感じの見た目だし、イケメンといわれれば、大体の人がうなづいてくれるかもしれないけど。


 それ、自分で言っちゃダメなんじゃないだろうか。と、ちょっとだけ冷めた視線を向けている私に。


「あーー。あれ? 結構これウケるんだけど……ダメ?」


 なんてうろたえて見せるケロンさん。そんな彼の態度に私は思わず吹き出してしまった。


「ぷっ! ケロンさんって変な人っ」


「え? 俺は面白い人って言われたんだけどなぁ?」


 そう言ってニコニコと嬉しそうに笑うケロンさんに、私は彼が意外と悪い人じゃないんだな。という印象を受けた。


「十分に面白い要素はあると思いますけどね。ベルモットさんから聞いているかもしれませんが、私はメリルといいます」


 私が笑ったことが嬉しかったのか、ケロンさんもますます嬉しそうに笑顔を浮かべて見せてくれる。確かに、その笑顔はイケメンと言われて納得できるものだと思えた。


 思えたけど、正直、私は髪の長い男性があまり好きではないのだ。


 ケロンさんは似合っているけど、やっぱり男性は短髪がいい。


「メリルちゃんかぁ。可愛い名前だね。俺のことはデイビットって呼んでよ。歳も近そうだし」


 そういう彼に、そう言えば十九歳とか言ってたことを思い出す。私とひとつしか違わないのに騎士団に居るんだから、相当の実力者であることは間違いないんだろうなぁ。


 お調子者っぽいけど。


「デイビットさんでいいんですか?」


 そう言って首を傾げて見せる私に、デイビットさんは明るく笑いながら手の平をパタパタと扇いで見せた。


「呼び捨てでいいってっ。ここだとみんな年上ばっかだから、堅苦しくなるだろ? メリルちゃんとはもっとフレンドリーな感じがいい」


「いいのかな? じゃあ、私のことも好きに呼んでね」


「了解っ」


 などとデイビットと談笑していれば。


「おい。いつまで経っても来ないと思えば、お前のせいかデイビットっ!」


「うおっ!」


 大きな男性の声に、私とデイビットが慌てて顔を向ければ、今日も眉間のしわが増量中らしいベルモットさんが、地響きでも起こしそうな足取りでこちらに近づいてきていた。


 どこに居たのかと思ったら、待ってたんだ。


「女と見ればすぐに口説くその癖をやめろっ!」


「はぁっ!? 人聞きの悪いこと言わないでよっ。そんなナンパ男じゃないっつーのっ!」


「似たよなものだろうが。とにかく、君もこちらに来い。これでは話が出来ないっ」


「は、はいっ」


 ベルモットさんの剣幕に押され、私は慌てて返事をした。


 別に私が悪いわけじゃないんだけど、何で私まで怒られたような感じになってるのか疑問だ。


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