バトル第二戦開始!
やっと続きが出せました。気が付けば年が明けていたという。
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光りの塊は燃えるような赤い色をしている。炎系の魔法だ。
それにしても、いくらこの建物自体に保護呪文がかけられてるからって、選ぶ魔法が可愛くない。室内で炎系の魔法は火事の元だ。
攻撃力の高い魔法でいえば、炎系は文句なしに強いと思う。破壊の規模や周りへの影響は高いし、室内が魔法の影響で壊れてしまう場合も考えられる。
だから、室内で魔法を使う時にはきちんと注意すべきだと思うのよ。
だけど今は、室内で使う魔法のことは一先ずどうでもよくて、とにかく防御魔法を張らないと、爆発と炎に包まれて大惨事だ。
「私は周りをやりますから」
ぼそりと少々早口でベルさんはそう言うと、ベルさんの魔力がいっきに室内へと膨らんでいく。
私は自分を中心に、直径一メートルほどの防御壁を作り、自分とベルさんを囲む。
なんとなくだけど、ベルさんの言う『周り』って、室内全体を指している気がした。本当に、どこまでも桁外れな魔力保有者だと思わずにいられない。
そして、光球のひとつが私の作った防壁に触れた瞬間、少しだけこもったような爆発音が響き、連鎖的に他の光球も次々に大きな音と共に弾けていく。
予想通り激しい炎があたりを埋め尽くし、そこにあるものをすべて燃やしてしまう。
この規模の魔法を森や住宅街で放ったら、大変な被害になると思うとぞっとしてしまう。
爆発音がやっと聞こえなくなり、炎が沈下するころには室内がカラッカラに焼きあがっていた。室内に残っているのは熱気と大量の砂埃だ。
なんとか砂埃がおさまってくれば、室内がやっと見えるようになった。けど、室内は炎にも爆発の影響にもさらされず、入ってきた時と同じ景色がそこにあるだけ。
ベルさんが最初に壊した壁以外、室内には焦げあとひとつ見当たらない。本当に室内丸々守ってしまったのか。と、私はちょっとだけやさぐれたい気分だ。
だってベルさん一人でも絶対に大丈夫そうなんだもん。色々と。
だけど、やさぐれるのは後にしようと思う。なにしろ人の動く気配や殺気はなくなっていないし、魔導師がいることへの警戒を緩めるわけにはいかない。
あたりをざっと確認すれば、やっと私から離れて隣に並んだベルさんも、周辺を見回して両目を細めていた。
「本当に嫌ですね。たった二人を相手にこの規模の人数を集めるなんて」
ベルさんが溜息混じりに、本気で嫌そうに頭を「やれやれ」と言いたそうに振って見せれば、壁沿いに並ぶ柱の影から、一人、また一人と全身黒い服の人が現れ始めた。
「それだけ警戒されてるってことじゃないですか? とくにベルさんが」
「ふむ。『英雄』なんて、なるものじゃないですね」
ベルさんはうんざりしたように言葉を吐き出した。
次々に出てくる黒装束の人たち。数はざっと二十五人以上。それに加えて、黒い衣装を身にまとった魔導師が十人ほど確認できる。
この規模って、軽く二部隊分くらい越えてない?
「どうしましょうか? 即席で魔法剣でも作ってあげましょうか?」
そう言ってクスクスと笑うベルさんに、私はムッと口を引き結ぶ。
「私は剣を握らないって決めてますから要らないですっ」
「それは残念ですね。ゼウセル仕込の剣戯が見れるかと思ったのに」
誰が武器なんて持つか! 楽しそうに笑ってないで、警戒してください!
そもそも『戦闘』はウエイトレスのお仕事ではないんですよ!
私の戦場は、お店のホールです!
と文句でも言ってやろうと思ったのに、それはこちらに迫る二つの殺気によって遮られてしまった。
鋭く光る銀色の軌道が視界に映りこみ、私はとっさに横へと飛び、ベルさんはその場で防御の壁を作って、銀色の何かを防いでいた。
それは黒装束の男達による斬撃で、今この場から『戦い』の火蓋は切って落とされたのだ。
一度戦いが始まってしまえば、後は大混戦だ。二対多数って、けっこうキツイ。
私は前方から迫る敵の斬撃を避けて後ろに下がる。けど、私の後ろからさらに別の敵が剣を突き出してきた。
とは言え、複数の敵に囲まれても慌てることは何一つない。
獲物が少数であれば、狙う側の多さが逆に不利に働いてしまうことだってある。
考えなしで動けば、味方を傷つけることにもなりかねないわけで、複数居ればいいというものでもないでしょ。
私は後ろからの攻撃を、体勢を低くしてかわすと、そのまま相手の足を払って上体を崩し、私は体勢を立て直してすぐに、崩れかけた相手のわき腹に回し蹴りを決めた。
私に蹴られた相手の体が、横向きで『く』の字に曲がり、さらにその横で控えた別の敵まで飛んでいく。
すると、今度は横方向から、また別の敵が剣で切りつけてきて、それも体をずらして避けると、私は相手の突き出してきた剣を持つ手を握り、背中に担ぐようにして投げ飛ばした。
そしてまた別の敵が――体術のみだと決定打にかけるため、どうしたってきりがない!
舌打ちしたい気分で敵との距離をとれば、攻撃的な魔力の膨張を複数感じた。
魔力の源を視覚で確認すれば、小さく弾けるような光が視界に映りこんだ。
敵魔導師の手元で青白く発光するその塊は、いくつもの光りの線が空中を不規則に走り一瞬で消えていく。それは、一言で表すなら『小さな雷』と言えるもので。
その小さな雷は、魔導師たちの手から放れると、大きな『バリバリ』という、空気を裂く音を響かせながら、こちらへと放たれた。
四方から来る雷。その名も『巨人の雷』は、私を狙って不規則な軌道を走る。
巨人さえ一撃で麻痺させる。というところから名前の付けられた雷系の高位魔法だ。当たればひとたまりもない。
だけど、いくら魔法とは言え、雷も自然現象のひとつであることに変わりはないわけだから――。
私は自分のすぐ側に居た黒装束の男に駆け寄ると、男の剣を持つ手首を握り、私を狙ってくる雷に向かって剣先を向けさせた。
つまり、私は黒装束の男を盾に使わせてもらっちゃったわけです。はい。
いや、やっぱり雷系は当たると痛いもの。焼けどもするし、しびれて動けなくなるしで、いい事はまるでないのよね。
そして雷は、金属で出来た剣へと引き寄せられるように当たる。もちろん私は雷が剣に当たる直前に、男の腕をはなして、男の後ろへと迅速に隠れる。
雷というものは、高いところに落ちやすくて、金属に引き寄せられやすいという特徴がある。魔法である程度の操作は出来ても、自然現象を完全に制御することは出来ない。というのが、母の教えだ。
つまり、理論上どんな魔法でも回避することや相殺することは可能ということ。今まさに私が実践したように。まあ、一部の規格外な英雄さんたちは別にするが……。
私の盾役になってくれた黒装束の男は、剣を手放すことも出来ずに、雷が体を通りぬけて激しく痙攣すると、糸の切れた人形のように地面へと倒れこんでしまう。
ちょっとだけ焦げた臭いが私の鼻腔をかすめた。
「チッ! ちょこまかと動き回りやがってっ!」
鼻をかすめた焦げ臭さで顔をしかめる私の耳に、誰だかわからないが男の声が文句を言う。そう言われても、私だってただやられるのはゴメンだよ。痛いのもイヤだし。
そう思って声のしたほうを睨めば。
「人を盾に使うたぁどういう教育受けてんだよっ! ねーちゃんよぅ!」
と、別の男の声が理不尽な正論をぶつけてくる。
どうやら仲間を盾にされたことを怒ってるようだが、そういうのは自分勝手な意見とは思わないのだろうか?
「そもそも最初にケンカを売ってきたのはそっちじゃないのよっ!」
まずは話し合い。という手もあったはずなのに、問答無用で攻撃しかけてきたのはそっちが先じゃない!
「暗殺者が『殺し(おしごと)』してなにが悪いっ!」
さらにそう反論してくる別の男の声に、私は思わず舌打ちしたい気分になった。
言ってることは分かるが、それはそれでおかしいと思うのは私だけなんだろうか?
「交換条件はどこ行ったのよっ!?」
私がここに来たのは、本来サンドラたちと黒の魔道書を引き換えにするとか。なんとか。そういう話でここまできたはずなのに、いきなりバトル開始って、あんまりだと思うのよ!
せめてサンドラたちの姿を見せてほしいというか、そういう、なんかセオリーみたいな流れを期待してしまうじゃないかっ!
芽生えた不満をぶつける私だが、私の言葉に、男達はニヤリと笑ったようだった。
顔まで隠れてるから表情は見えないけど、目が笑ってるというか、雰囲気がね。そんな感じがしたのよっ。
そして、男達は剣を私に向けて構えると――。
「殺して奪うが俺たちの常識だっ!」
そう叫びながら襲い掛かってきた。
「威張るなっ! 残念暗殺集団がっ!!」
腹立たしいことこの上ないっ!




