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私の日常

 メイン通りに面した可愛いレストラン。


 オレンジの屋根に丸い煙突が愛らしく、白い壁は今日も汚れなくキラキラとしていた。


 広場を一望できるレストランのテラスは、まだ準備前であるためテーブルやイスも無くガランとしているけど、後数時間でこのレストランや目の前のメイン通りに活気が出るだろう。


 レストランに面したメイン通りは、馬車が三台は余裕ですれ違うことの出来る広さで、大きなその通りは東西南北の十字に分かれている。


 そして東側のメイン通りのずっと先には、この国の象徴ともいえるスフィアーク城が、この通りを進む誰の眼にもよく見えるように構えていた。


 北側の通りには『誓いの丘広場』という大きな広場があって、レストランのテラスから見える広場がこれだ。憩いの場として日々多くの人の姿を見ることが出来る。


 西側の通りに行けば、様々な露店が立ち並ぶ城下町の名物市場があり、南側には有名な学校や大学まであって、この城下町には一体どれだけの人が住んでいるのかと思う。


 そんな多くの人が行きかうメイン通りの、東と北の間にあるのがこのレストランだ。


 なんとも良い立地条件だと感心するでしょ?


 私はまだクローズの看板が立て掛けられているレストランの入り口に立ち、白いオシャレな扉を開けていつもどおりに店に入れば、出入り口の扉上部についているベルが、『チリリン』と小気味良い透明な音を鳴り響かせた。


 すでに準備が出来ている店内は、白い壁と明るい天井、色の薄い板張りの床が見事に概観の可愛らしさを裏切らない愛らしさを持って私を出迎えてくれる。


 クリーム色よりやや白に近い丸角の四角いテーブルが綺麗に並び、テーブルとおそろいの丸みを帯びたイスが行儀よく位置についていて、今や遅しと来客を待ちわびているようだった。


 店内に入って左側にはカウンター席があり、カウンターの下にも、足の長いおそろいの丸みのあるイスが整列している。


 もう見慣れたはずの店内だけど、いつ見ても綺麗でいて可愛らしいお店だ。そう満足していた私に、カウンターの奥にある厨房から、見慣れた優しげな男性が顔を覗かせた。


 そして、男性は私の顔を見ると両目を細めて口を開く。


「おはよう、メリル。今日もいい天気だね」


 男性は人のよさそうな顔で笑みを深くすると、上機嫌でそういった。


「おはようございます。雲もあんまりなくて、本当にいい天気ですね」


 私も笑顔で挨拶を返すと、早速持っていたバッグからエプロンを取り出し身につけて、カウンターの内側にバッグをしまい、店内の掃除をはじめる。


 これが、ここ『ほかほかレストラン』の一日の始まりだ。


「メリル。掃除が終わったら今日のおススメメニューを看板に書いておいて」


「はいっ!」


 このレストランのオーナでありシェフのジェナス=オーガストさんは、私の返事を聞くと機嫌よさそうにまた厨房へと引っ込んでいく。朝の仕込みできっと忙しいのだ。


 そして、このレストランが私の職場であり、小さな夢を叶える第一歩を踏み出した場所でもある。


 私は子供のときから女の子らしいことは何一つした記憶はないけど、唯一、女の子らしいこをやったといえば、それは料理だった。


 もともと母が料理上手で料理好きだったのも幸いして、私も小さいときから母に料理を教えてもらっていたのだ。


 それは楽しい瞬間で、料理って魔法の道具も魔術も一切使わないのに、ばらばらの食材がまるで魔法のように美味しい一つの作品に変わってしまうんだもの。


 幼かった私は料理の素晴らしさにとんでもない感動を覚えたものだ。なにしろ、魔女である母が、魔法を使わない数少ない瞬間でもあったのだから。


 そんな私は大きくなるにつれて、料理をすることが楽しくなっていった。母も料理は普通に教えてくれたし、母と一緒にキッチンに立つのも楽しかった。


 もともと剣や魔法の修行はイヤイヤやらされていたようなものだけど、料理に夢中になり始めると、さらに修行が嫌になってきて、もっと料理をたく

さん作れる状況に憧れたのだ。


 それは、私にとっては壮大な夢で、でも誰かから見れば小さな夢かもしれない。けど、いつしか私は、『小さくてもいいから自分で店を持ちたい』と、思うようになった。


 母が料理上手だったことも、大きな影響を及ぼしていることは間違いないと思うけど。


 そして、家出を起に自分の夢を追いかけることにした。つまり今は料理の修行中と言える。


 ジェナスさんから様々な料理を教わったり、経営や接客について学んでいる最中なのだ。


 私の夢が叶う日はまだまだ先だろうけど、今では毎日楽しく過ごしている。


 自分の夢を叶えるためにがんばるって、大変なこともあるけど、本当に楽しいと思う。






 開店準備も整って、店を開けるまであと少しというところで、私とジェナスさんはゆっくり休憩がてら、ジェナスさんオリジナルブレンドのハーブティーを試飲していた。


「ラベンダーをベースにして、ステビアで甘みを足してミントですっきりさ

せれば、女性受けはいいかなぁ。って思うんだけど。どう?」


 そう説明してくれるジェナスさんに、私は笑顔でうなずいてカップに口をつけた。


 ラベンダーの綺麗な紫に爽やかなミントの香りと、ほんのり甘いステビアがなんとも優しい味を醸している。


「ジェナスさんのオリジナルブレンドですもん。絶対に人気でますよっ」


「ありがとう。このお茶と一緒に爽やかなデザートも作りたいね」


 そう言って琥珀色の瞳を細めて笑うジェナスさんは、今年で三十歳とは思えないほどに幼い印象を受ける。それくらい童顔ともいえるけど。


 明るいオレンジ色の髪は飲食店のシェフとして、前髪は目にかからない程度に長めだけど、耳や襟首にかからない清潔感に溢れる短さだ。爪も綺麗に手入れされていて、私も日々見習わないといけないなと思う。


 本当に人のよさが顔ににじみ出ているといってもいいくらいに、穏やかで優しい目元が印象的だ。


 実際に、二年前の話だけど。十六歳になった私は家出同然で王都に来て、はじめて見たこのレストランの概観から、第一印象でこの店で働きたいと思い、店に入って開口一番に「ここで働かせてください!」と言った。


 店に入ってきた小娘が、突然「働かせてくれ」と頭を下げた姿は、ジェナスさんの目にどう映っていたことか。


 ジェナスさんは最初こそ大きく両目を見開いて、驚きに開いた口がふさがらないという感じで私を見つめていたけど。


 しばらくして、ジェナスさんは「うん。いいよ」と笑って見せてくれた。


 その後は、住む家のない私に知り合いの大家さんを紹介してくれたり、女の子らしい服装に憧れてるといえば、私のためにウエイトレス用の服を作ってくれたりと、ジェナスさんにはお世話になりっぱなしだ。


 なので、見た目の印象だけではなく、本当にジェナスさんがいい人だと分かってもらえると思う。


 ちなみに今着てい服が、ジェナスさんが用意してくれたウエイトレスの制服だ。


 膝下丈のワンピースで、スカートがチューリップを逆さまにしたように少しふっくらとしていて、色は私に似合うからと空色。


 そのワンピースに真っ白なエプロンをつければ、なんだか着ているだけで、私の気分はウキウキと上機嫌になってしまう。


 今はまだ少し肌寒いから、ウエイトレスの制服も長袖仕様だけど、もう少し暑くなれば夏仕様で半そでのものと交換になる。


 半そでのほうもとても可愛らしいワンピースで、私は結構気に入っているのだ。


「爽やかなデザートっていうと、ゼリーとかムースとかですか?」


 私がそう聞き返せば、ジェナスさんは少し考えるそぶりで小さくうなると、笑顔で私に顔を戻す。


「そっちもいいけど、今回はズッパイングレーゼでも作ろうかと思ってるんだよね」


 そう言ってジェナスさんは嬉しそうに笑う。


 ちなみに、『ズッパイングレーゼ』というのは、とある地方の有名なデザートで、スープのようにシロップを使うことからこの名前がつけられた。


 縁の深い器にスポンジとカスタードを重ねて、その上に様々なフルーツを盛り付け、シロップをたっぷりかけて出来上がり。


 ズッパイングレーゼは好きなフルーツを乗せたり、スポンジやカスタードの間に挟んだりして様々な工夫が出来るから、透明な器で作れば見た目も涼しげで綺麗だと思う。


「美味しそうですね」


 想像するだけでお腹がなりそうだから困る。


「だよね? 店が終わったら試しに作ってみようか?」


「やったぁっ!」


 もちろん私は笑顔でうなずいた。ジェナスさんの作るものはどれをとっても最高に美味しいから、私が断る理由はどこにないでしょ。


「そうと決まったら、新しいメニューの名前考えないとね~。何がいいかなぁ。爽やかキラキラデザートセット? それとも、ゆるゆる春のデザートセット? さて――」


 ジェナスさんは「どうしようかな」と呟きながら、飲み終わったカップを二つ持って。厨房のほうへと消えて行く。


 そろそろ店を開く時間だ。


「やっぱり名前はそっち系ですか……」


 なんて私の呟きは、誰にも拾われることなく消えていく。


 いつも思うんだけど。ジェナスさんって、優しくてちょっとぽやっとしてるせいなのか、料理の腕は超一流なのに――ネーミングセンスが微妙。


 何ですべてのメニューに擬態語だとかが入ってしまうんだろうか。ほかほかレストラン然り。キラキラとか、ゆるゆるって……。


 料理の腕は最高なのになぁ。


 私はそう心の中だけで思いながら、店先にオープンの看板を出すため、外へと足を向けた。

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