表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

事情説明あらため尋問


 苦笑い気味のデイビットに見送られながら、ベルモットさんに連れられて入った部屋は、他にも二人、騎士団のメンバーがいて、入ってきたドアの前に立っていた。おおかた見張りといった感じだろう。


 逃げる気のない相手には無意味だろうけど。


 室内は少し狭い感じで、窓はあるものの外の光りが入り込まないのか、室内は昼間だというのに、明かりのついたランタンが天井からぶら下がっていた。


 部屋の真ん中に真四角のテーブルが二つ並び、向かい合うようにイスが置かれている。


 ベルモットさんはイスのひとつに腰を下ろすと、私にもうひとつのイスをすすめ、私は促されるようにそのイスに座り、ベルモットさんと向かい合う。


「では、早速昨日の話しだ――」


 そう言って口を開いたベルモットさんの言葉を聞きながら、私はさっきデイビットが言ってた『怪しい女』という単語が引っかかって仕方なかった。


 昨日は突如、怪しい男二人組に店に押し入られ、剣で脅されたんだから、どう見ても被害者はこっちのはずだ。


 店の物は壊されるし、弁償もしてもらえるか怪しい。こっちは損ばかりしてるというのに。


 ひとまずベルモットさんと昨日の話しを一通り話し終わり、用はこれで終わりだろうと思っていた私だったが、ベルモットさんの話はまだ終わらないようで。


「再度聞かせてもらうが、どうして君は逃げなかった? 相手が強盗だと思ったのだろう? 普通は逃げるものだ」


 そう言って難しい顔で私を見下ろすベルモットさんは、やはり威圧的で私はすこぶる気に入らない。


 それに、その話なら昨日もしたはずだ。


「ですから、強盗に盗まれてもいいような物は店に置いてません。私は日ごろお世話になっているオーナーのお役に立てればと思って残ったんです」


 嘘は言ってない。嘘をつく必要もないし。


「ただの棒で鉄剣を防げると思うのか?」


「モップです」


「何でもいい。とにかく木の棒で鉄剣を受け止めることは不可能だ。子供でも分かる」


「それはそうでしょうけど……使ったのは本当にただのモップですから」


 他に説明しようもない。


 まあ、確かに少々魔法は使ったけど。でもそれは、普通に考えれば分かることなわけで。


 だけど、ベルモットさんは私の言葉に納得できないのか、眉間のしわをまた増やした。


「では、これはどうだ」


 ベルモットさんはそう言うと、テーブルの上に短剣を置いてみせる。


「短剣ですけど」


 それは昨日の怪しい男二人組みが使っていた、冒涜的なシンボルの描かれた黒い鉄鞘と、それに収められた普通の短剣。


 昨日見た限りでは、どこにでも売っているような物だと思う。


 鉄の鞘にしたって、変な模様が描かれてるだけの鞘だ。気になることなんて、私には全然これっぽっちもない。


「君はこれを知っているのか?」


 ベルモットさんに不機嫌そうな顔でそう聞かれても。


「だから、ダガーより大きい剣です」


 私も少々不機嫌にそう答えるしかできない。


「この模様のことは何か知っているか?」


「シンボルが悪魔的要素を含んでいることくらなら見て分かりますけど」


 あくまで一般的な知識でみれば、分かってもその程度だと思う。


 私は神様や魔神には詳しくないんだってば。


「では、あの男たちとはどういう関係だ」


「は? 知りませんよ。そのシンボルと関係があるっていうなら、そのシンボルが盗賊団の目印か何かなんじゃないんですか?」


「では、君は男たちとどんな関係なんだ」


「なっ! だからっ! 私にあんな怪しい男たちの知り合いはいませんっ!」


「そうか、ではなぜ狙われた」


「だからっ! 知らないって言ってるじゃないっ!」


 何を藪から棒にっ!


 いくらなんでも乱暴な言い草だと思わない? だってこっちはわけも分からず襲われた側なのよ?


 それなのに、まるで私をあの男たちと関係があるような言い方をするなんてっ!


「そう言っても、君はまるで無傷だ。武器を持ったプロを相手にだぞ? 見た目が愛らしいからと言って、私は簡単に騙されはしない」


 そう言って、私にしかめた顔を見せるベルモットさんに、私は複雑な気分になる。


 愛らしいって言ってもらえたことを喜んでいいものか。


 それとも、弱弱しいと思われたことを心外だと怒るべきなのか。


「だってしょうがないじゃないですか。本当にモップで相手をしたんですから」


「君が無傷である理由にはならない。だいたい君のその細腕で、どうすれば一回り以上も体格差のある男の剣を受け止められると言うんだ? 常識的に考えても不可能だろう」


 確かに体格差はあったけどもね。


 真正面から受け止めれば、当然男性の筋力と女性の筋力には差があるものだけど、仕方ないじゃない。


 私が物心つくころには、自分の数十倍は大きい怪物相手に、剣と魔法だけで自分の身を守らないといけない状況に追いやられてたんだから。


 だからと言ってそれを話してしまうと、私が英雄の子供だってばれちゃうじゃないっ!


 冗談じゃないわよ! 今まで平穏な日常を満喫してたって言うのにっ!


「とにかく、あの人たちが弱すぎたんですっ。私みたいなただのウエイトレスに負けるような、ヨワヨワダメ盗賊さんたちだったんですよっ」


 私が必至にそう訴えかけてみるが、ベルモットさんの眉間のしわは増えるばかりのようだった。


 そのまま眉間に酷いしわが残ってしまえばいいのよっ。


「私からすれば、君が彼らの仲間で、彼らとなんらかしらの計画を企てている。と、言われたほうが、だいぶしっくりくるのだがな」


「だから、仲間じゃないってばっ!」


「堂々巡りだな。では、はじめから話そうか」


「はい?」


 今なんつった? はじめから? はじめからって、怪しい二人組みが押し入ってきたところから?


「冗談でしょ?」


「私が冗談を言っているように見えるのか?」


 そう言ってしかめっ面をするベルモットさんの顔には、冗談の色は少しも見えなかった。


 本気なんだな。と、私の額に青筋が立ちそうになっているのとは逆に、ベルモットさんの眉間から、少しだけしわが少なくなったような気がした。






 それは事情を聞くとか、そういう穏やかな話ではなくて、ただの尋問だった。


 私がいくら知らないと言っても、男たちとの関係や冒涜的なシンボルマークのこと、それに私の行動がどれだけ怪しいかを長々と聞かされ、私には到底分からないことの説明を求められたのだ。


 しかも三時間程度ほど。


 同じ話の繰り返しで、うんざりしてきたのもあったけど、何よりも、まるで人を犯罪者扱いするような尋問に、私はかなり腹立たしい気持ちでいた。


 当たり前だ。こっちは日々穏やかな生活を望んでいるというのに、どうして怪しい男と知り合いだと思われないといけないのよ。


「では、はじめからだ」


「ま、またっ!?」


 これで通算何度目になるんだろうか? 何度同じ話をさせれば気が済むんだろう。


 ベルモットさんが飄々と口を開くことに対して、私の我慢の限界は近い。


 小さなテーブルを力いっぱい両手で叩きつけ、私は勢いよくその場に立ち上がると、ベルモットさんを睨み下ろす。


「いい加減にしてっ! 何度同じ事を聞かれたって、分からないものは分からないし、知らないものは知らないのっ! 私がモップで男二人をぶっ飛ばしたとしても、それはあの人たちが弱すぎたのであって、私には一切関係ない話じゃないっ!」


「だが、私の目から見れば君も十分に怪しすぎる。座りたまえ。はじめからだ」


 そう言って、涼しげな顔で口を開いたベルモットさんに、私は自分の眉尻がピクリと引きつったのを感じた。


 ふつふつと自分の中に湧き上がるマグマのようなどす黒い感情に、この気持ちを抑えることのほうが無意味に思えてくるから不思議よね。


 うん。もうね。騎士団と本気でり合うのもやぶさかじゃないぞ。


 こうなったら、私の秘密がバレるのも覚悟しちゃうからね?


 私が本気になれば、すっごいんだぞっ!


 なんて、だんだん物騒な考えが私の頭の中を駆け巡り始めると、マグマのように沸騰している私の脳内では、ベルモットさんの声は遠く、もうこのままぶち切れてもいいんじゃないか? と、私が脳内で納得しかけたときだ。


「はい。女の子をイジメるのはそこまでにしてくださいね」


 それは、まるで爽やかな風のように私の耳から入り、沸騰した脳内を冷やすには十分すぎる穏やかな声だった。


 その声に導かれるように顔を向ければ、私が入ってきた出入り口が開いており、そこに一人の男性が立って、こちらを穏やかな顔で見つめている姿が目に映る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ