ピスタチオの後悔
「あぁ・・・燃料切れたよ。何回・・・16413回目だね。」
「良かったな。街の中にいて。」
「うん。早くスタンド探さなきゃ。あとちょっとで非常用燃料が切れるし。」
「それにしてもさぁ、ここって砂っぽいと思わねぇか?」
「ピスタチオも思う?だって体の節々から砂が出てくるんだ。」
僕は節々をガチャガチャと揺らしながらスタンドを探した。周りを歩く人たちは皆、ゴーグルとマスクを付けてゆっくりと歩いている。車は走っていない。代わりに幌馬車とロバが広い道を行き来している。
からんっ
「なんか当たった・・・あーらら。」
地面から人間の背骨が・・・
「乾燥か・・・餓死ってところかな。」
「そだな。」
たまに感情が欲しかったりする。
「あ、やっと見つかったよ。さっさと燃料入れてこの街出よう。」
「思うんだけどな、亜梨沙、16500回燃料切れたら・・・自滅するって決めてるんだろ?いや、その・・・だったらさ、一つの街にずっと居座っとけば良いじゃん?なんかやること見つけて。」
それもそうなんだけど。
「切れたら自滅する」というか、私は、「燃料が16500回切れた時点でまだ彷徨ってたら自滅する」と、ついこの間決めた。
なぜか、とピスタチオに問い詰められた。が、「なぜか」はよく分からない。
なんだろう・・・
「僕がしているのは『放浪』なのだ」と気付いた途端に、「世界がモノクロに見えてしまった」とでも言おうか。
「でもね、ピスタチオ。『本当に僕がしたいこと』を見つけないとさ。退屈なことに全神経を集中させてても意味が無いじゃん。」
「そんな・・・っ」
ピスタチオは一瞬言葉に詰まった。
「け、けど、その『退屈』を『本当にしたいこと』にできると思うんだけど、俺は。」
「いいのいいの。僕がしたいのは『放浪』ってことにしとくって。」
放浪なんてしたくないけど。
『放浪』自体が『退屈』なことである。だから、僕は自滅しようと思う。
16500回も燃料が切れたのに、まだ知らない土地を彷徨い——いや、16500回も燃料が切れていたら、もう知らないことなど無いのではないだろうか?——当ても無く歩き続けるなんて・・・利益が無い。
そう。世界は、利益があってこそ動いている。・・・と、僕は思う。
「いらっしゃい。あー、燃料を入れるのはキミかい?」
店主らしき老人がトンカチを持って店の奥から出てきた。
「そうですけど。あ、あと少しの油を頂ける?」
「すまん、今は手が放せねぇんだ。燃料は自分で入れてくれ。油はこに置いてるの取っていいからよ。俺は仕事に戻る。」
そう言って、また店の奥に姿を消した。仕事・・・トンカチ持ってたけど、一体何をするというのだ?
「はぁ・・・体の砂っぽさが無くなった気がする。」
「燃料入れて砂っぽさはなくなんねぇだろ。」
「うるさい、ピスタチオ。油ささなくていいの?」
僕は少し意地悪く問いかける。
「いや、それは・・・」
ピスタチオは戸惑って、「ごめんごめん」と軽く謝った。
俺は分かっていた。亜梨沙は気付いていないが。
後ろから、アレが追ってきている。俺はナイフだし、正確じゃないが、この街と違った雰囲気を醸し出すモノをさっき感じた。
危ない。
けど・・・。
亜梨沙には、できるだけ怖い思いはさせたくない。亜梨沙が「怖い」という感情をあまり持っていない、としてもだ。亜梨沙が表に出さないだけだけで、俺には分かる。
亜梨沙はいつも、びくびくしている。アレに。
俺はただのサバイバルナイフなのに——
「亜梨沙」
「何?あ、もう終わったし、行こうか。」
「いや、その・・・プラリネ、装着して。」
ピスタチオがいきなり、意味の分からないことを言い出した。プラリネを装着しろ、だって?
「いや、ここ、結構平和だと思うんだけど?」
「いいから!ほら、プラリネも使ってもらわないと怒るしさ。」
なーんかたどたどしいなぁ。
「分かったよ。念のためってことにしとくよ。」
僕はしぶしぶ、背中の後ろに掛けているホルダーを前に持って来た。ずっと使ってないからだろう。ホルダーは煤けている。
「ああ・・・・ああ、あ、あり、さ?」
「プラリネおはよう。寝てた?起こしちゃってごめんけど、今から使うかも。」
「あぅ・・・分かったよぉ・・・ふわぁぁ。」
プラリネは怒らなければかわいいものである。
「亜梨沙、さっさとこの街を出よう。早く!」
「何?さっきと言ってることが違うじゃん。」
僕は笑いながら言ったが、ピスタチオがやけに真剣なのを肌で感じた。
「分かったよ、すぐ出るよ。」
俺は、亜梨沙に居なくなって欲しくない。それは、俺の居場所が無くなるから?
いや、違う。
また違ったものだ・・・。ああ、なんでこんなことになったのだろう。
俺はずっとあのままが良かった。
僕も、やることが無いわけではない。ただ無謀すぎて、やる気が無いだけである。
それは、僕を造った人に会いに行くこと——
どこにいるのか、それが一体どんなヤツなのかというのも分からない。だから、かなり無謀だ。
しかし。僕は見つけてしまったのだ。ヤツに会う方法を。
ざっざっざっざっざっざっピピピピピピピ
「うわ、亜梨沙!あいつらだ!本当にあいつらだったのか・・・」
「ほ、ほんとだ!何、ピスタチオ、知ってたの?!ああ、早く教えてよ!」
あいつらが僕を感知したらしく、こちらに向かって来た。自動車並みのスピードで。
「プラリネ、出番」
「ん、りょーかい。」
僕はプラリネをセットし、ピスタチオを鞘から出して片手に持った。そして、
「プラリネ、ピスタチオ、発射!」
はいはい、こんにちは。
ええ、まぁだらっとした・・・淡々とした・・・文章でございます。
ピスタチオについて書こう、と思いましたら、長くなってしまいました。一旦止めまする。
近々、短編書こうと思ってます。
by ハウス育ちのみかん