思い出05
「まおー」
天使は、あの後すぐに帰った。
天使が帰って数時間後、玄関で音がした。
そのあと私の名を呼ぶ声。
「何?」
階段を降りながら、聞こえるはずもない小さな声で言う。
「私、出かけるから勝手にご飯食べてて」
「はいはい。じゃ、早く行きなよ」
とがった言い方。自分でもそれぐらいはわかる。
「じゃ、食べててよ」
「はいはい」
鬱陶しい。
あの女は、一応母親。
父親はいない。事故で亡くなったと聞かされたが、それが嘘だともう知っている。
墓参りに行かない。写真が1枚もない。
誰がどう考えてもおかしい。
私の父親は誰なのか知らない。きっと、あの女も。
「……卵がある」
オムライスでいいかな。
一昨日も食べたけど。
特別オムライスが好きなわけではない。ただ、簡単で少し得意なだけ。
あの女、今日も別の男とそういうことをしているんだろう。
そんな、そうでもいいことを考えながら台所へ向かう。
「……卵」
冷蔵庫から卵を1つとりだす。
一瞬、それを床に投げつけたくなった。
「……オムライス作るんだった」
卵を割る。投げるではなく、割る。
床ではなく、ボウルに。
簡単にオムライスを作る。一昨日食べたものと同じ。
それを机に1人で座って食べる。
一昨日と同じ味がした。
短い気がするな、とも思いつつ続けても中途半端になると思って今回はこれできります。
母親だけにしよう、とはこの話を思いついた時から決めていたこと。